オリオン座の恋人

いっき

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最終章 元の世界へ

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(苦しい……! 私、一体……?)

首をギリギリと締め付けられる痛みと凄まじい息苦しさに目を開けると……金髪の男の邪悪な笑顔が目に入った。

(うそ……どうして? オリオン……オリオン!)

私は心の中で叫ぶ。彼の名を……

「へへっ、簡単に殺してたまるかよ。お楽しみはこれからなんだから……」

歪んだ笑みを浮かべながらそんなことを言う男の頭を、ガシッと誰かが掴んだ。

「えっ……」

「お前。セナに何をしている?」

毛むくじゃらの大きな手は、私から強引にそいつを引き剥がして思い切り後ろへ投げ飛ばした。

「お前……何なんだ?」

私を襲っていた四人の男達は怯んだ様子でこちらを見た。
すると、オリオンはその瞳に、刺すような眼光を煌々と灯しながら彼らを睨んだ。

「俺はオリオン。狩猟の神だ」

「はぁ、何、こいつ? 頭、おかしいんじゃねぇの?」

男達は騒ついたけれど、オリオンはそいつらを真っ直ぐに見据える。

「セナに手出しをする奴は、何人たりとも容赦はせん」

オリオンが荘厳に低く放つその言葉は、心の底まで響くかのようで。男達の顔はみるみる凍りついていった。

「く……くそっ、撤収だ!」

男達はまるで命からがら、逃げ出した。

「おいこら、待て」

オリオンは彼らを追おうとしたけれど……私は思わず、彼の背中を抱き締めた。

「オリオン!」

「セナ……」

「私は大丈夫だから。オリオン……側にいて」

その大きな背中は温かく、強く、逞しくて、私は涙が出そうなほどに安心することができた。

そうなんだ……私、オリオンと一緒に戻って来たんだ。
元の世界の、悪夢のような瞬間に。
だけれどもその瞬間は、オリオンの手によって幸せで堪らない一時に様変わりした。

嬉しい……オリオンの体温にずっと、ずっと身を委ねる私を、夜空に光るオリオン座が煌々と照らしていた。





「やっほー、星奈。今日もパフェ行こ、パフェ」

いつも通りの日常……今日も果代が放課後パフェに誘ってきた。

「うーん、ごめん。パス」

「えー、今日も? 星奈、何だか最近、付き合い悪くない?」

「そうかな?」

「そうだよ。もしかして……彼氏、できたとか?」

果代から言われたその言葉は図星で……でもすっごく気分が良くって、私の顔は自然とはにかんでしまう。

「えっ……マジで!? だって星奈、全然男に興味なかったのに。誰? どんな男!?」

果代は目を丸くしながら、矢継ぎ早に質問をしてきて。私が口を開こうとした、その矢先。
身長が二メートル近くある彼が私達の前に現れた。

伸び放題だった髭は綺麗に剃って、毛皮のふんどし一丁だった格好はちゃんとカジュアル系の服装にして。きちんとした格好をした彼はとってもカッコ良くて惚れ直してしまう。

「すごい……外人さん? めちゃくちゃカッコいい……」

そんなことを呟く果代の目にはハートマークが浮かんでいて、私は思わず吹き出してしまった。

「セナ、遅いじゃないか。ガッコウというの、今まであったのか?」

「ええ……って言うか、遅くはなくない? いつも通りの時間だし」

そんな普通通りの会話をする私達を見て、果代は目をさらにまん丸にした。

「えっ……星奈の彼氏って、もしかして……」

そんな彼女に、私もニッと舌を出して微笑んだ。

「そ! 果代、紹介するわ。私の恋人、オリオンよ」

「え、オリオンて……外人さん!?」

「うーん、ま、そんなトコ!」

まだ目がまん丸のまま、呆気に取られてる果代に軽く手を振って、私達は手を繋いで歩き出した。


オリオンは未だに道を走る車を厳つい目で見つめて、今にも追いそうになる。

「ちょっと、オリオン。あれは獲物じゃないわよ」

私はそんな彼に吹き出した。

「だが……狩りをしなくなって、もう何日が経つんだ? 血が騒いで仕方が……」

「だから! この世界では、普通は狩りなんて物騒なことをしなくても、ご飯を食べられるの!」

私は呆れつつも、オリオンに微笑んだ。

まぁ……これでも、車を追わなくなっただけマシなのかも知れない。
この世界に来て間もない頃なんて、車が通る度に、オリオンはそれを大型の動物と勘違いして追いかけ回して。私は一々、肝を冷やしていた。

それもだけれど……オリオンをこの世界に馴染ませるのには本当に苦労した。
まず、この世界では普通の人は服を着るものだと必死に説得し、服を着せて私の家に上げて……母も、おっかなびっくりだった。

だから今度は、「オリオンは私の彼氏で、命の恩人で、だけれども職と住む所を失って……」なんて作り話で母を必死に説得して、どうにかこうにか、父の部屋だったスペースに彼を住まわせることができた。
そしてオリオンの怪力を利用して、工事現場で働かせて。やっと彼も、仕事を覚えてきたところ……という感じだ。

「ねぇ、オリオン。この世界にも……もう、慣れた?」

見た目だけでいえば、この世界にもだいぶ馴染んできて……だけれどもまだ何処か違和感のある彼に、私は恐る恐る尋ねた。

「慣れるわけがないだろう。今日も、コウジゲンバのオヤカタって奴と取っ組み合いの喧嘩をしたぞ」

「うわぁ……もしや、やめさせられた?」

不安気に尋ねる私に、彼は首を振った。

「いいや。喧嘩の後、オヤカタはカッカッカと思い切り笑い出してな。『お前みたいに骨のある奴は初めてだ。近頃の若い者はみんな、軟弱でな……これからも、現場をよろしく頼むぞ』なんて言っていた」

「そ……そうなんだ」

どうやら、彼は彼なりにこの世界に馴染んでいる部分もある……らしい。



「それにな。この世界に慣れることができなくても……セナ。俺はお前の近くにいれれば幸せなんだ」

「えっ……」

時折、オリオンが口にする真っ直ぐで飾らない気持ち……それは、私の胸をドクンと叩いて、ときめかせる。
だから私も、カァッと火照る顔でにっこりと彼に微笑んだ。

「ええ、私も……これからも、ずっと一緒だよ! オリオン」

ほんのりと頬を桃色に染めたオリオンの手を引いて……その温もりを感じながら。

太陽の沈みかけの冬の夕方。東の空に薄っすらと輝きかけているオリオン座の下、私達は普通の恋人同士のように、静かな街を楽しく歩いていたのだった。
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