かけがえのない温もり

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かけがえのない温もり

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今日はボーナス支給日。
パソコンの給与明細画面を見て心躍らせる。
僕も妻も誕生日は十二月だ。
綺麗な夜景の見えるレストランで、毎年豪華なディナーを楽しむんだ。

皆がボーナスにウキウキしていたその時。

「大変です。県内養鶏場で鳥インフルエンザ陽性が確認されました」

電話を受けた同僚が青ざめて言った。
僕達、県職員は皆、凍りつく。



その養鶏場では10万羽以上の鶏が飼養されている。
その全ての鶏の殺処分が始まった。

その日から、僕達の残業の日々が続いた。
養鶏場での、数えきれないほどの鶏の殺処分。
膨大な量の事務処理。
目が回るほどの忙しさで、休みは一日もない。
帰宅はいつも深夜を回った。

勿論、妻と恒例のディナーなんて行ける筈もない。
でも……妻はいつも僕が帰宅するまで起きて待っていてくれて、

「あなた……大丈夫?」

と気遣ってくれた。

「大丈夫だよ。梨沙は心配なんてしないで、早く寝なさい」

僕はいつもそう言いながらも、殺処分した鶏達の姿が頭から離れず……睡眠薬を服用しなければ眠れない日々が続いた。



年が明けても暫くはそんな日々が続いた。
しかし、一月の給料日の頃にはやっと収束、落ち着いてきた。
給与明細の画面を見て給料を確認した僕は目を見張る。

「すごい……」

そこには、ボーナスの倍を超える額の残業手当が入っていたのだ。



「梨沙! 見てよ。すごい額の残業手当だろ! 誕生日は祝えなかったけど、これで何でも好きなことができるし、好きなものが買えるよ。何が欲しい?」

久しぶりに早めに帰った僕は、意気揚々と妻に言った。

しかし、妻は目にうっすらと涙を浮かべている。

「あなた……本当に、大丈夫? 無理してない?」

「えっ? 何を言ってるんだ。僕なら大丈夫だってずっと言ってただろ」

僕は、強がる。

「でも……あなた、本当はずっと泣いていた。本当は……鶏を殺したくなんかなかった。私には分かるの。だって……あなたの妻だもの。分かってるから。あなたのことは全部、分かってるから。もう、無理しなくてもいいのよ」

妻のその言葉に、僕の今まで抑えていた想いが怒涛のように溢れ出した。

「僕……本当は、あんなに沢山の命を殺したりなんかしたくなかった。ボーナスも……こんなに沢山のお金もいらない。殺したりなんか……したくなかったんだ」

目からとめどなく涙が溢れ出す。
そんな僕を妻の腕がそっと抱きしめた。

ボーナスよりも……多額の残業代よりもずっと大事な、かけがえのない温もりがそこにあった。
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