座敷童子

いっき

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僕と沙知

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 僕がまだ小学生だった頃。病弱で入院がちな妹、沙知がいた。
 僕は沙知のことを『さっちゃん』、沙知は僕のことを『かっちゃん』と呼んでいた。
 沙知は、『大きくなったらかっちゃんのお嫁さんになる』と言っていたし、僕も本当に大人になったら沙知と結婚できると思っていた。
 僕は、できることなら沙知とずっと一緒にいたいと思っていた。僕達は、誰よりも……本当に仲の良い兄妹だった。
 僕の初めての恋の相手は、紛れもなく沙知だったんだ。

 だけど、病弱な沙知は、いつも高い熱を出して真っ赤になって苦しそうに寝込んでいた。
 僕は沙知が寝込む度に凄く怖くなって、数えきれないほど何度も泣いた。
 それはまるで、病気という名の悪魔が沙知を遠くへ連れ去ろうとしているかのようで。不安でたまらなかった。
 沙知が熱を出す度に、『もう、一緒にいることができないのかな』と思って、胸が締め付けられた。
 だから僕は、沙知が遠くへ行ってしまわないように、何度もぎゅっと手を握った。
「かっちゃん……ありがとう。温かい」
 沙知は、そんな僕にいつも純粋な笑顔を向けてくれた。

「お願いします。さっちゃんを遠くに連れて行かないで……」
 僕は沙知が倒れる度に、何回、神様にお願いしたか分からない。
 だけど……それなのに、沙知の病状はどんどん悪くなっていった。
 僕は、神様が……いや、それよりも自分の無力さが、恨めしくてたまらなかった。

 最後に入院した時。
 沙知の病状はとても酷いものだった。
 沙知は日に日に衰弱していって、僕はそんな沙知を見ていられないほどだった。
 なのに……病気が苦しくて、僕よりずっと辛くて堪らなかった筈なのに、沙知はいつも僕を見ると純真無垢な笑顔を浮かべていた。

 そんな沙知が、遠くに行ってしまわないように……早く元気になるように。
 僕は祈る想いで、何回踏まれても天のお日さまに向かって真っ直ぐに生えるツクシを、毎日摘んで沙知の元へ持って行った。
 病床の沙知は、僕がツクシを渡すその度に
「ありがとう。私、絶対に元気になってかっちゃんにお返しするね」
と笑顔で言った。

 でも、そんな僕達の想いも虚しく……沙知は、最期まで僕の手を握り、
「ずっと、かっちゃんのそばにいるからね」
と微笑んでいたんだ。

 僕は、沙知との永遠の別れの後、沙知を忘れるほどに死に物狂いで勉強して、都会の大学に入った。
 自分は、結婚することなんてない、と思っていた。
 沙知を忘れるほどに目まぐるしく、忙しい日々だったが、それでも心の何処かに沙知はいたのだ。
 しかし、偶然に……本当に偶然に、沙知の面影そのままの女性、明日香と出会い、恋に落ちた。沙知が大きくなっていたらこんな女性になっていただろうな、と思うほどの女性と結婚したんだ。

 明日香を初めて実家に連れてきた時、母は
「沙知……」
と呟き、瞳をじんわりと涙で滲ませた。
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