座敷童子

いっき

文字の大きさ
2 / 3

僕と沙知

しおりを挟む
 僕がまだ小学生だった頃。病弱で入院がちな妹、沙知がいた。
 僕は沙知のことを『さっちゃん』、沙知は僕のことを『かっちゃん』と呼んでいた。
 沙知は、『大きくなったらかっちゃんのお嫁さんになる』と言っていたし、僕も本当に大人になったら沙知と結婚できると思っていた。
 僕は、できることなら沙知とずっと一緒にいたいと思っていた。僕達は、誰よりも……本当に仲の良い兄妹だった。
 僕の初めての恋の相手は、紛れもなく沙知だったんだ。

 だけど、病弱な沙知は、いつも高い熱を出して真っ赤になって苦しそうに寝込んでいた。
 僕は沙知が寝込む度に凄く怖くなって、数えきれないほど何度も泣いた。
 それはまるで、病気という名の悪魔が沙知を遠くへ連れ去ろうとしているかのようで。不安でたまらなかった。
 沙知が熱を出す度に、『もう、一緒にいることができないのかな』と思って、胸が締め付けられた。
 だから僕は、沙知が遠くへ行ってしまわないように、何度もぎゅっと手を握った。
「かっちゃん……ありがとう。温かい」
 沙知は、そんな僕にいつも純粋な笑顔を向けてくれた。

「お願いします。さっちゃんを遠くに連れて行かないで……」
 僕は沙知が倒れる度に、何回、神様にお願いしたか分からない。
 だけど……それなのに、沙知の病状はどんどん悪くなっていった。
 僕は、神様が……いや、それよりも自分の無力さが、恨めしくてたまらなかった。

 最後に入院した時。
 沙知の病状はとても酷いものだった。
 沙知は日に日に衰弱していって、僕はそんな沙知を見ていられないほどだった。
 なのに……病気が苦しくて、僕よりずっと辛くて堪らなかった筈なのに、沙知はいつも僕を見ると純真無垢な笑顔を浮かべていた。

 そんな沙知が、遠くに行ってしまわないように……早く元気になるように。
 僕は祈る想いで、何回踏まれても天のお日さまに向かって真っ直ぐに生えるツクシを、毎日摘んで沙知の元へ持って行った。
 病床の沙知は、僕がツクシを渡すその度に
「ありがとう。私、絶対に元気になってかっちゃんにお返しするね」
と笑顔で言った。

 でも、そんな僕達の想いも虚しく……沙知は、最期まで僕の手を握り、
「ずっと、かっちゃんのそばにいるからね」
と微笑んでいたんだ。

 僕は、沙知との永遠の別れの後、沙知を忘れるほどに死に物狂いで勉強して、都会の大学に入った。
 自分は、結婚することなんてない、と思っていた。
 沙知を忘れるほどに目まぐるしく、忙しい日々だったが、それでも心の何処かに沙知はいたのだ。
 しかし、偶然に……本当に偶然に、沙知の面影そのままの女性、明日香と出会い、恋に落ちた。沙知が大きくなっていたらこんな女性になっていただろうな、と思うほどの女性と結婚したんだ。

 明日香を初めて実家に連れてきた時、母は
「沙知……」
と呟き、瞳をじんわりと涙で滲ませた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

処理中です...