座敷童子

いっき

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七年後

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 七年後の春の日。
 僕は明日香と、六歳になる息子の衛(まもる)を連れて実家を訪れた。
「お父さん、見て、見て。ちょうちょ!」
「そうだなぁ、衛。今日は暖かいし、ちょうちょも喜んでるなぁ」
 明日香と母は、いつものように居間で談笑している。
 僕は遊び盛りの衛が、日だまりの中、庭で小さい蝶々を追いかけるのを見守っていた。
 自分の故郷で息子が自由奔放に遊び回っているのは、微笑ましいものだ。
 そんなことを思いながら、僕は縁側でのんびりと寝そべっていた。

 どのくらいの時間が経っただろう。
 顔に射し込むオレンジ色の夕陽が眩しくて目が覚めた。僕はいつの間にか、うたた寝をしていたみたいだ。

(あれ、衛は……)
 そう思って辺りを見回すと、隣の部屋から衛が何やら独り言を話しているのが聞こえた。
「へぇえ、ツクシって、そんなに強いんだね」

(あれ、おかしいな。隣の部屋には、誰もいないはず……)
 不思議に思い、衛のいる部屋へ行った。

「誰と、話していたの?」
 僕が少し首を傾げて聞くと、衛ははじけんばかりの笑顔で言った。
「さっちゃん!」
 僕は、はっとした。
「ほら、そこに……あれ?」
 衛は、指した先を見る。
「さっきまで、いたのに。お母さんによく似た、女の子」
 不思議な顔をして首を傾げた。
 衛の指の先には……あの時、座敷童子の沙知から貰ったツクシが、もうしおれて干からびてしまっているのだが、それでも大事に置かれていた。
 僕は、笑顔で衛に言った。
「そっか、衛にも見えるんだ。さっちゃんと、何を話してたの?」
「うん。ツクシはね、何回踏まれても、負けずに真っ直ぐに生えるんだって」
 衛は目を輝かして話し始めた。
「ツクシは小さいけれど、どんなに辛いことがあっても、どんなに悲しいことがあっても、お日さまに向かって真っ直ぐに生えるんだって。さっちゃんは、前に、この世界で一番大好きで、一番大切な人にそれを教えてもらったんだ。だから……どんなに苦しくて辛くても、さっちゃんは、ずっと笑っていることができたんだって」
 衛を通して僕に語られた、沙知の想い……僕はその言葉を聞いて、瞳の奥がツーンと熱くなるのを感じた。
 衛の前で感涙を堪えるのに……息子の前で涙を流さないのに必死だった。
「でも、さっちゃん、どこに行ったんだろう?」
 キョロキョロと部屋を見回す小さい頭をそっと撫で、僕はしゃがんで真っ直ぐに衛と目を合わせた。必死に堪えているが、やはり瞳には涙が滲むのを禁じえず、鼻声になってしまう。
 それでも僕は、衛に自分の想いをしっかりと伝えた。
「衛。さっちゃんはね、ずっと僕達の幸せを見ててくれる、座敷童子なんだ。ずっと見ててくれて、ずっとそばにいる。だからね、衛もずっとさっちゃんのこと、そして……さっちゃんの教えてくれたことを忘れないでいてね」
 衛は、不思議な顔をしながらも頷いた。

 衛がもう少し大きくなって、僕達の悲しみを全て受け止められるようになったら、さっちゃんが誰なのか、話そうと思う。
 僕達が決して忘れてはいけない人、幸せを見守ってくれる人、そして、ずっとそばにいてくれる人。
 その時まで、きっと衛は今日のことを覚えていてくれている。

 『沙知の部屋』だったその部屋に、穏やかな春の夕陽が柔らかく降り注いだ。
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