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第三章 王都への旅

105.新しい港

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結局、エイシェルはアリスが魔王にされた事がわからず仕舞いであった。
それどころかアリスを怒らせてしまい謝る始末。
アリスが魔王に体を乗っ取られる心配はないと言う事で無理矢理話しが終わってしまったのであった。



翌朝、目覚めたアリスは悩んでいた。


(バカバカバカーー!!わたしのバカー!!なんで怒るのよ!!……たしかにちょっとしつこいって思ったけど!思ったけどーー!!でも、それってエイシェルが本気で心配してくれてたって事じゃない……!それなのに!それなのにー!!……いきなり怒ったら嫌だよね……嫌われちゃったかな……)


そう、アリスはテンパった挙句エイシェルに怒ってしまったことを後悔していたのだ。
この後どんな顔をしてあえば良いのかとアリスはベッドの上でごろごろしながら悩んでいた。


(……ごろごろしててもしょうがないか。よし!謝りに行こう!)


アリスは決意し身支度を整え部屋を後にするのだった。





一方その頃エイシェルは……


(あー、やっちゃったな……。ちょっとしつこく聞きすぎたか。それだけ言い辛いことって事だよなー。それなのに聞こうとするって印象最悪だわ……どんな顔してあえば良いんだ……)


エイシェルはエイシェルで悩んでいた。
昨日も謝ってはいたがアリスに届いている様子はなかった。
それだけ嫌だったのだろうとエイシェルは自己嫌悪になる。


(よし!もう一度ちゃんと謝ろう!そして、アリスのことをちゃんと信じる!……ダメだった時はおれがなんとかしなきゃな!)


エイシェルも決意を固め集合場所へと向かうのだった。




エイシェルが集合場所に着くと既にアリスがいた。
目線を下にして何やらぶつぶつ言っているように見える。


(う、もしかしてまだ怒ってるのかな……でも謝らなきゃ……!)


エイシェルはそう思い近付いてアリスに声をかけた。


「アリス、おはよう」

「わ!?え、エイシェル?お、おはよぅ……」

「……フラムたちは……まだ来てないんだな……」

「……そ、そうね……」

「……」

「……」

((き、気まずい!!))


エイシェルとアリスはお互い謝るタイミングを失っていた。

アリスはエイシェルと会ったらどう謝るかをシミュレートしていたのだが、急に声をかけられた為に考えていたことが全て吹き飛んでしまった。
エイシェルは声をかけたところまでは良かったのだが、声をかける前にアリスがぶつぶつ言っていたのを見て、実はアリスがまだ怒っているのではないかと思い怖気付いてしまっていた。
その為、まずは他愛もない話題から入ることにしたが歯切れが悪く会話も続かず、お互いに気まずい空気を感じているのだ。


(いやいや!黙ってるってことはアリスは怒ってるんだよな!?やっぱりまだ怒ってるんだよな!?はやく謝らなきゃ……!!)


(うぅ……どうしよう……こういう時なんて話せば良いのかわからない……。黙っちゃったってことはもしかして……嫌われた!?やっぱり嫌われた!?あぅ……ちゃんと謝らなきゃ……!!)


2人とも考えることは似たようなことだった。


「「あのっ!!」」

「ぁ……エイシェルからどうぞ……」


2人は見事に出だしが被りお互いにまた止まってしまった。
これはまずいと思ったアリスはまずエイシェルから話してもらおうと話を促すことにしたが、何を言われるのだろうと不安になり少しか細い声になってしまった。


「お、おぅ……。昨日はごめん!」

「ぇ……?」

「話しずらいって言ってたのにしつこく聞いちゃってごめん!アリスのこと信じるから!もし、乗っ取られてもおれがなんとかするから……だからごめん!」


エイシェルからの謝罪を聞いてアリスはキョトンとしてしまった。
嫌われてしまったかもと思っていたのにエイシェルはまだアリスの事を気遣いっていたのだ。
そんなエイシェルの話を聞いたアリスは気が軽くなったの感じ、おかげで頭が回り始めた。


「……それ全然信じれてないわよ?エイシェルになんとかしてもらう状況にはなりませんー」

「あ、いや、そういうつもりじゃ……」

「ふふ……ねぇ、エイシェル?」

「……なんでしょう……?」

「……ごめんなさい!!」

「……へ?」


アリスはやっと本調子に戻ることができ、少しだけエイシェルをからかった後にようやく謝ることができた。
失言したとあたふたするエイシェルは突然の謝罪に気の抜けた声を出してしまう。


「エイシェルが心配してくれたのにわたし……ちょっとテンパっちゃって思わず怒っちゃった……。だからごめんなさい」

「……それじゃあ……もう怒ってない?」

「ないない!……エイシェルはわたしの事嫌いになった……?」

「そ、そんなことない!おれが悪かったんだからそんなことないよ」

「いやいや!エイシェルは……そう!ちょっとしか悪くないよ!わたしが怒ったのかいけないんだから……」

「お、おぅ……?あ、アリスは悪くないよ……」


後半のアリスの発言に少し引っかかるエイシェルだったが謝り合戦が続いていた。
そんな2人を遠くから眺める人影が……


「ねぇ、これってもう行ってもいいかな?」

「時間もあるし、いつまで続くのかもう少し待ってみない?」


実はアリスがぶつぶつ言いながらひとりで待っていたのを目撃したフルームとフラムはいつもと様子の違うアリスを遠くから観察していたのだ。


「ええー。あれはもう仲直りしたでしょ?私お腹すいたー」

「昨日の2人見たでしょ?気づいたらアリスがエイシェルに怒ってて、そのまま2人とも自分の部屋に帰っちゃうんだもの。びっくりしたわ。びっくりさせられた分あの状態でどれだけもつのか見せて貰うわ」

「あの時のエイシェルって浮気がバレて怒られてる旦那さんって感じだったよねー」

「……そうしたら浮気相手はフルーム、あなたね」

「まさかの関係者!?しかも原因じゃん!?」


図らずも真実に近づいたが、そんなことは夢にも思わないフラムとフルームであった。







それから5分ほど経ち、フルームのお腹が限界だった為フラムとフルームは合流して朝食をとることにした。








「ふぅ……美味しかった」

「フルーム……朝からデザート制覇するなんて……アリスもよ?」

「うっ……そこにあるんだから仕方がないことだと思うの……」


昨晩お祭り騒ぎだったこともあり、本来夜に出すはずだったデザート類が朝食にバイキング形式で並んでいたのだ。

それを見たアリスとフルームは用意されていたデザートを全種類食べたのだ。


「でも、あのプリンは美味しかったな。味にこだわって特別な卵を使っているんだろうか?あのカラメルソースも苦味がちょうどよくてプリンの甘さを引き立てて……」


エイシェルまでもがデザートの虜になっていた。
アリスとフルームだけでなく、フラムまでもエイシェルにデザートを与えて再現してもらおうとくる。
そうしているとエイシェルも期待に応えようと進んで甘いものを食べるようになっていたのだ。





4人が食事の話をしていると船内が慌ただしくなってきた。
何事かと思い周りの声を拾い聞くと、どうやら陸が見えたらしい。
その話を聞いた4人は急いで甲板に向かうのだった。

甲板に着くと船の前方に既に陸がみえており、乗組員が荷物をまとめているところだった。


「わぁ!あれが港町!?すごく大きい!!」

「おれたちがいた港町も大きいと思ったが、全然違うな……町並みもきれいだ」

「やっぱりこっち側は大きいねー」

「王都に色々なものが運び込まれるから大きいんだって聞いたことあるわ」


アリスとエイシェルは初めて見る町を見て興奮気味に話し、フルームとフラムはどこか懐かしく感じていた。
この港町を離れてたった1ヶ月と半分くらいのはずがそう感じたのだ。
それは姉妹がエイシェルとアリスの2人と出会い濃厚な日々を過ごしたからにほかならない。


そんな様子で4人は港町の事を話していたが、エイシェルがそういえばと本題に入った。


「そうだ、港町から王都までどのくらいのかかるんだ?」

「港町からなら馬車で朝出発してなんとかその日に着けるかなって距離ね。夜は遅くなっちゃうかもだから出来るだけ早く出発したほうがいいわ」

「そうか、それなら明日以降に王都に出発することになりそうだな」


エイシェルがすぐにでも出発するような話をすると、アリスがこれはまずいと言わんばかりに提案をしてきた。


「ねぇ、せっかくだから少しの間みて回りましょうよ!こんなに大きい町なら珍しいものとかたくさんありそう!」

「……アリス?それは食べ物のことか?」

「失礼ね!……たしかにちょっと気になったけど……服とか雑貨とか気になるの!」

「そういえばフルーム?前に食倒れツアーとか言って色々な店で食べ回ってたわね?」

「あれは修行だった。最後に行った店があんなに大盛りだとは……」

「なにそれ!?行ってみたい!」

「……やっぱり食べ物が一番反応いいな」


いつも通りのやり取りをする4人。
そんないつも通りがとても幸せな時間だった。
奇跡的に全員無事だったが誰が欠けてもおかしくはない状況だったのは間違いない。
その為、4人はこれからの旅はもっと気を引き締めなければと考えていたが、今はしゃぐくらいは許されるだろう。

最初はアリスが何者かに乗っ取られるかもしれないと思ったために急いだ旅だったが、今となっては急がなくて良くなった。
その為、旅を始めてから初めてゆったりとした気持ちになれたエイシェルとアリスは心から笑い合うのだった。


王都に着いてからより大きな事件に巻き込まれるとは誰も想像が出来なかった。
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