ジェミニ 〜魂の契約者達〜

えいりす

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第四章 王都防衛戦

159.暗躍

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 宿でエイシェル達が魔王と話している時、どこか別の場所にある薄暗い部屋の一角に男が佇んでいた。目の前にはこぶし大の玉が置かれている。

(ドラゴンが暴れて人的被害はなしか……いや、正確には甚大な被害が出た。にも関わらず全員が生き返るなんて……報告にあった2人は何者だ)

 その男は部下から事の顛末を聞いていた。いきなり街の北側にワイバーンが現れると南東に向けて暴れ回り破壊の限りを尽くした。東門あたりで居合わせた冒険者によって討伐されそうになった時ドラゴンに変化したという。
 ……ドラゴンが現れたとなれば普通はその強大な力の前になす術なくその地は更地となるだろう。しかし、そうはならなかった。その場に新たに駆けつけた冒険者によってドラゴンが討伐されたというのだ。
 それだけでも驚くべきことだがそこから先の出来事は報告で聞いた時に信じられなかった。被害に遭い命を落としたはずの二千人以上が生き返ったというのだ。それを実行したのがドラゴン討伐に関わった2人の冒険者だという。
 その冒険者は先日クラーケンを討伐したとしてAランクへ昇格したばかりだ。男は急に現れた存在に何か理由があると睨んでいた。
 そんな事を考えていると目の前の玉が怪しく光り出した。それを確認すると男が静かに話し始める。

「……まず報告しよう。昨日、北の森でドラゴンの幼体が二頭暴れる予定だったが、おそらく一頭は北の森ごと消滅。もう一頭は今日街中に現れ成体へと進化したが冒険者に討伐された。さらにはドラゴンが暴れた事による死者が全員生き返っている」

 淡々と報告する男に対して光っている玉から声が聞こえてきた。

『……北の森では何があった?』
「Aランク冒険者4名によって魔物一万が討伐された。その際に北の森であったところはふき飛び更地となっている」
『……街中に現れたドラゴンの成体にトドメをさしたのは何者だ?』
「昨日魔物一万を討伐したAランク冒険者のうちのひとりだ」
『……死者が生き返ったと言っていたがどう言う事だ?』
「そのAランク冒険者のうち2人が奇妙な魔法を使い今回の被害者全員が生き返った。身体を失った者までも身体ごと蘇生したようだ」

 玉からの声が質問し男が淡々と答える。3つ質問に答えた後にしばらく沈黙が生まれる。
 当初の予定ではドラゴンの幼体が二体北の森で暴れ冒険者を屠りることで二体とも成体へ進化させる予定であった。その後に成体となったドラゴン達にはそれぞれ別の場所で暴れてもらう予定だったのだが、急に現れたAランク冒険者パーティによって予定が狂わされ頓挫してしまった。
 そうなれば当然次の質問は決まっている。

『……そのAランク冒険者とは何者だ?』
「女の剣士ふたりに男の弓使い、女の魔法使いの4人だ。先日クラーケンを討伐している」
『……なるほど。どこまでも邪魔をするというのだな……!』

 玉からの声色が変わる。その声には怒りを含んでいた。

「……なにかあったのか?」

 その発言を聞いた男は冷や汗をかいていた。玉の声の主は決して怒らせてはならない相手なのだ。しかし、現に声色から怒っていることが分かる。その怒りの矛先が自身に向けられてはならない。先の質問はその一心で搾り出した言葉であった。
 しかし、その後の言葉で男は絶句する事になる。

『勇者と魔王が揃って現れた。行動を共にしてるようだ』
「…………は?」

 男は何を言われたのかわからず固まってしまったがすぐに復活した。
 
「ば、バカな!魔王と協力関係にあった勇者は千年も前に葬ったはずだろう!話が違う!」
『私とて驚いている。勇者と魔王が手を取り合うなど万年に一度であったからな』

 事実、今まで勇者と魔王が手を取るのはそれくらいのペースである。
 勇者と魔王が現れる時はほとんど敵対しどちらかが死ぬまで争うのが常であった。そして戦いに勝利した側もすぐに死んでしまう。
 中には海を渡ろうとしクラーケンにやられる場合もあった。
 そうして勇者と魔王は幾度となく生まれ、消えていたのだ。

 苦虫を噛み潰した様な顔をする男はしばらく黙っていたが、なにやら思いついたかの様に急にハッとした表情へ変わる。

「まさか…………」
『そのAランク冒険者の弓使い。名前は"エイシェル"ではないか?』
「な、なぜそれを……いや、やはりそうなのか……?」

 男は分かっていながらもそう言うことしかできなかった。そして玉の向こうの声は動揺する男に事実を突きつける。

『あいつは勇者だ。そして、魔法使いの女。あいつが魔王だ』
「!?まて!あの魔法使いはヒト族だったぞ?それに、今魔王となり得るのは先代魔王の娘のアモルじゃなかったのか?」

 公には魔族は絶滅したことになっている。伝記によると勇者が魔王と相打ち、魔王を失った事で弱体化した魔族をヒト族が殲滅したとある。しかし、実際には魔王の娘と一部の魔族は行方知れずとなっており、魔族の特性を考えると今も尚どこかに潜伏している可能性を捨てきれない。先代魔王の娘であるアモルが魔王としてヒト族に復讐を始めてもおかしくは無いのだ。
 しかし、玉の声はキッパリと否定する。

『いや、魔王となるのは魔王となり得る魂の持ち主だけだ。種族は関係ない。故にその娘は魔王にはなれん』
「そ、そうなのか?それでは、あれが……、いやまて」

 驚きのあまり思考が止まっていた男の頭が回り出した。そして生まれる疑問。その疑問は不自然極まりなかった。

「さっき揃って現れたと言わなかったか?その2人なら今ここにいるはずだが」

 当然の疑問だった。現在王都にいるはずの2名が玉の声の主の所にいたと言うのだ。男は声の主がどこに居るのかは知らない。ただ、近くにいるはずがないと考えていた。そしてその考えは間違ってはいない。

『ドラゴンの幼体の転移に巻き込まれた様だ。逃げられたがな』
「…………そうか」

 男は少し考えると一言だけで答えた。下手に触れるべきでは無いと判断したのだ。
 何故逃げられたのか?まず疑問が浮かんだがそれを追求するべきでは無い。もし、追求した場合に声の主の機嫌を損ねる。そう確信している。対等に話しているように見えても気を使っていたのだ。長い付き合いによって身に付いた護身術である。
 それに、逃げた側もドラゴンを討伐できるほどの実力者だ。玉の声の主から逃げることが出来るかもしれない。

 男が一言だけ発した後に玉の声のは意を決したように話し始める。

『……それで、これからだが悠長に構えることは辞める』
「と言うと?」
『依頼など関係なく2人を仕留めに動く』
「……それ程のものなのか?もし討伐を恐れるなら数十年程そのまま隠れていればいいでは無いか?」
『私を討伐?バカなことを言うな。……ただ、アイツらを放っておけばお前も死ぬことになるとだけ言っておこう』
「……なるほど。確かにそれなら悠長にしてられないか。わかった。こちらも2人を排除するように動こう」

 玉の声の話に驚いた男はすぐに気持ちを切り替える。玉の声がそこまで言うのであればそうなのだろう。お互いに信頼はしていないがお互いが持つ情報は信用はしているのだ。共通の目的の為利害が一致することは何より信用に値する。

『ほう、どう動く?』

 男は自分の案を話し始める。エイシェル達の知らないところで危険が迫るのだった。
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