ジェミニ 〜魂の契約者達〜

えいりす

文字の大きさ
178 / 226
第六章 魔王と勇者のえとせとら

178.魔王と勇者のえとせとら2

しおりを挟む
~~~~~~~~~

『皆の者、多種族の住処で問題だけは起こしてくれるなよ。相手から襲ってきた場合、やむを得ず、相手と揉めてしまうこともあるだろう。その場合は仕方がない。……だが、方針としてこちらから争わないことを命ずる……いいな?絶対だぞ?』

~~~~~~~~~

 魔王は自身が威厳のある姿で演説した時のことを思い出していた。

(あの時は部下が原住魔物の集落で小競り合いを起こしたんだっけ…………プルートが居てくれたからどうにか落ち着いたけど、向こうが戦争とか言ってきたら大変なことになってたよ……)

 人知れず気苦労の絶えない魔王である。

(っと、それどころじゃない。……悲しいけど冒険者登録は諦めて別の方法を考えましょうか……といっても、徒歩でプロカルへ向かうのも厳しいし。……そもそも食べ物もないし………………一回帰るか。……あーもー!今帰ったらプルートにバレてるだろうし何か言われそうだなー……)

 魔王は悲しそうな表情をしながらも諦める決意をした。とりあえず門番に言い訳をして去ろう。そう思い口を開く。

「……ちょっと落としたお金と身分証探してくる……」

 魔王は悲しそうな顔でそう言い残し門を立ち去ろうとする。すると、慌てた門番がそれを止めた。

「ま、待った待った!ちくしょう!しょーがねぇなぁ!!今回だけは特別だぞ?!こんなボロボロの町娘1人追い返して魔物にでも襲われたら夢見が悪い。その代わり、身分証が用意できたら見せに来ること。いいな?」
「わ、分かった……」

 案外融通が利くじゃないか。魔王はそう思いながらも身分証の問題が解決していないことを懸念し歯切れの悪い回答になる。しかし、ここまでしてもらってやっぱり帰りますとは言えない為素直に街に入ろうとする。

「あ、身分証の再発行は役所に行けよ?まっすぐ進んで街の中央部に建物があるから。冒険者ギルドの隣だからすぐわかる」
「……冒険者ギルド?」
「ギルドも知らないのか。ほら、あそこに見えるこの街で一番大きい建物だ。冒険者になりたいやつがあそこで冒険者登録して、仕事の依頼を受けて生活している」
「なりたい」
「…………へ?」
「なりたい」
「…………なりたいって……まさか冒険者に?」
「うん」
「……嬢ちゃんが?」
「うん」

 今度は門番が混乱する番であった。どう見ても田舎の町娘のような格好をしており、魔物と戦えるとは思えない。だが、見たところ薄汚れており、無一文のようだ。それなら手に職をつけるためにまずは冒険者として日銭を稼ぐこともあるだろう。確か、薬草の採集依頼は常時出ていたはずだ。あぁ、だからか。門番は勝手に理由をつけて納得するのだった。

「なるほど。分かった。それならギルドに行くといい。一応、冒険者になると貰えるギルドカードも身分証として使えるからそっちで登録するのもありだ。ちゃんとギルドの人の話を聞くんだぞ」
「分かった。……あの」
「ん?まだなんかあるのか?」
「ありがとう」
「…………おぅ!頑張れよ!」

 魔王はお辞儀をして冒険者ギルドへと歩き始める。第一ヒト族との遭遇は思ったよりも心温まるものであった。






 街に入り辺りを見回しながら歩く。街の中の建物が綺麗に並んでおり、街の入り口から中央のギルドまで道がまっすぐ伸びていた。その道には、様々な店が並び、服屋や道具屋、武器屋は当然のこと食事処に家を売っているような店まであった。

(なるほど……家は自分で作るんじゃなくて、専門の人が作ったものを買ってるのか。……確かに家って作る人によって良し悪しがかなり違うからね……魔族でも得意な人にお願いしてる人もいたっけ。あ、あれは……!)

 魔王の目線の先には服屋があった。それも若い女性が好むような店である。魔王が着たことも無いようなフリフリした服が並んでいる。

(か、かわいい!こんな服、魔族領じゃ売ってないし!……そもそもあっちだと可愛い服なんて着て行く場所ないもんな…………いいなぁ~。あ、値札がある。いくらだろ……げっ?!)

 魔王がディスプレイに張り付き服を眺めていると値札が目に入った。……そこには金貨3枚の文字が書いてあった。

(たっっっか!?そんな高いの!?なにそれ!確かに可愛いけど!可愛いけど!!)

 魔王は底知れぬ敗北を感じつつその場を後にする。あまりの値段の高さにしばらくの間その事で頭がいっぱいになるのだった。





「あれ?」

 気付いたら目の前に大きな建物が建っている。どうやら考え事をしながら歩いているうちに目的地へ到着したらしい。途中、人もいたであろうが魔王は無意識にぶつからないように歩いていたようで特に問題もなく目的地へと辿り着くことができたのだった。

(大きいな……)

 その建物の大きさに圧倒されながらも、まずは冒険者として登録するべく目の前の扉に入ることにした。

カランッカランッ

「…………」

 こういう時なんて言うんだっけ?ふと頭が真っ白になる魔王。今まで見知った場所ばかり訪れていた為、いざ初めての場所に入る際に何を言っていいのか分からなくなってしまった。……俗に言うコミュ障のような状態である。

「……おい。そんなところに突っ立ってると邪魔だろう。用があるなら受付はここだ」

 そんな魔王の様子を案じてか、受付にいる男が声をかける。

「あ、はい」

 ただそれだけの言葉を発し魔王は言われるがまま受付へと向かう。……少しだけイラっとした。

「それで、何か用か?」

 受付の男は襟を正し改めて受付っぽく振る舞う。見た目は白髪混じりのガタイの良いおじさんである。受付とは程遠い印象を受ける。……いつまでもおじさんを観察しても仕方がないので用件を伝えることにした。

「冒険者登録をしたい」
「ん?お前さんがか?」
「いかにも」
「…………」
「なにか問題でも?」
「…………」
「問題があるなら言うがいい。その問題とやらに答えてやろう」
「…………」

 なんとも言えない空気が流れた。受付にいるのはガタイの良いおじさんであり、威圧感がある。普通の町娘なら萎縮していただろう。当然、この受付のおじさんもそうなるだろうと思っていた。過去の経験からいつも怖がられるのだ。しかし、実際は物怖じせず、まさかの冒険者希望とのこと。ちょっと予想外の展開に固まってしまっていたところを逆に威圧される始末である。どう扱えばいいのか正直困っていた。

 魔王は魔王で何故か舐められるわけにはいかないと変な対抗心を燃やしてしまい、少しだけいつもの威厳のある風な話し方になってしまっていた。
 肝の据わった町娘と、威圧感抜群のおじさんが対峙するような図となりその場にはなんとも言えない状態となったのだ。

 「……はぁ、問題はない。この用紙に必要事項を記入してくれ」
「わかった」

 勝った。何故か魔王はそんな錯覚を覚えつつ渡された用紙の記入を進めようとする。

「……!!?」

 ……そんな魔王は最初から詰んでいた。

(え、名前?……久しく名乗ってないし……なんだったかな……って、なんだったかなってなんだ!?なんで忘れる!?…………まぁ、魔王になるってそう言う事なのかな……というか、これやっぱりなんか出生管理されてたりする?そうなると詰むよ?……ぁあああ!こんな簡単な制度で間者を引っ掛けられるのか!くそっ!帰ったら絶対導入してやる!)

 魔王がひとり奮闘してる中、名前を書くのに時間をかけている様子を見ていた受付のおじさんは少し困った顔で話し始める。

「あー……文字は読めるよな?一番上は名前だ。その次は職業。それだけでいい。それだけでいいんだが……」

 そう。それだけなのだ。なのにも関わらず時間をかけている魔王におじさんは困惑している。

(分かってる。分かってるよ!それが書けないんだから困ってるんだろ!?どうすればいい……どうすれば……)

「あ、あと、別に名前は本名じゃなくても大丈夫だ。事情があって名乗れないやつもいるからな。その代わり、何か問題を起こしたらすぐに資格を剥奪するから注意しろよ」

 その言葉を聞いてポカーンとした表情を浮かべる魔王。

(そ れ を 早く言えええええええええええ!!!じゃあ名前考えればいいんだな!?そうだよな!!?あぁん!!!?)


 心の声が表情に出ていたのかおじさんの顔が引き攣ってるのが見えた。いかんいかん。心の中でそう思い、怒りを鎮める。
 さて、どうしたものか。そう考えていた時に近くで冒険者の話し声が聞こえた。



『御伽話の勇者みたいに強くなれねぇかなー』
『でも、勇者になったら魔王と戦わなきゃいけないんだろ?……というか魔王ってどんなやつなんだろうな』
『昔からいるって噂は聞くけど所詮噂だよな。実際いるかもわからん』
『だよなー。でも、いたとしたら特に攻め込んでもこないし、案外優しかったりして』
『いや、魔王だろ?いたら悪魔みたいな顔してるんじゃないか?』
『そりゃそうか』
『…………はい。査定結果出ました。合わせて金貨3枚となります……が、この前依頼者宅を魔物から守れなかった為の修繕費分、支給依頼されてた回復薬の費用分を今回から差し引かせてもらって……銀貨3枚です』
『……なぁ、悪魔がここにいる』
『それな……』
『だれが悪魔ですって?』



 買取カウンターでなにやら騒ぎが起きている。受付の女の人が暴れているようだ。

「騒ぐんじゃねぇ!……おまえら後でこっちに来い」

 受付のおじさんがキレた。どうやら役職的に上の方らしい。女の人の血の気が引いてるのが見てわかる。かわいそうに。……ちなみに、おじさんの怒鳴り声にちょっとびびったのは秘密。

(どう考えてもアイツらの自業自得な気がするけど……というか人のこと悪魔とか言わないでほしい。こちとら魔族領管理で手一杯だっての……そうか……悪魔、か)

 ふと魔王の中に考えが浮かんだ。

(敢えて名乗ってみるのも一興。確か……原初の悪魔の名前はディアボロ……とかだっけ?……なんか堅苦しいかな。それなら……ディア?うん。ディアにしよう!)

 そうと決まればあとは容易い。名前にディアと書き、職業を書き進める。魔王の職業といえば当然……

(……はっ!?)

 勢いで"魔"と書いていた。

(やっっっっば!?勢いで魔王って馬鹿正直に書くところだった!?えっ?どうすればいい?魔、魔、魔……魔物?誰が魔物じゃ!!……いっそ、記入欄的にバランス悪いけど悪魔にする……?いやいや、なんだよ職業悪魔って。あとは……魔が差した人?盗人猛々しい!!)

 ひとり混乱している魔王改めディア。簡単な解決方法がある事に冷静でない人は気付けない。
 そんな中ひとしきり騒ぎを起こした連中を睨んでいたおじさんが用紙に目を移した。

「ったく……お、やっと書いたか。へぇ、その身なりで"魔法使い"とはねぇ。魔法を自在に使える存在は貴重だから即戦力になるな」
「!!?」

(そ、それだああああああああああ!)

 ぱぁっとした嬉しそうな表情をするディア。人知れず受付のおじさんに感謝しながら残りを書き終える。晴れて魔法使いディアが誕生するのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

処理中です...