虚ろな光と揺るがぬ輝き

新宮シロ

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1 ~歓喜の教室、一つの影~

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 かつて二つの世界が存在した。女神アーシャの恩恵を受け、火と地の魔力を享受され回る太陽界。神アリュバートの恩恵を受け、水と風の魔力に長ける月光界。定めにより決して交わらぬ二つの世界、二つの神。だが神々は願ってしまった。共に生きたい、結ばれたい、愛し合いたい、と。事の始まりはほんの興味心。運命がそうさせたのか。惹かれあった神々は互いの力を使い一つの魔法石を生み出した。そして黄金に輝くそれに願いを込めた。「百年後、千年後、いや一万年後でもいい。神から人に生まれ変わり、巡り会いたい。神の力の及ばぬ別の新しい世界で…」
 その石は再び輝きを増し、星を創造した。どことなく二つの世界に似ているが太陽界とも月光界とも違う別の世界。あるものが失われた世界。そこで転生し、再会する為、神々は光となって消えた。
「それがこの世界。宇宙も、水星から冥王星、まだ見ぬ星も。全てこの神様達の為に生まれた。というのも有力な説ね。ちなみに私はこの説を推しているわ。だってロマンチックでしょ?」
 教壇の前で少女のように瞳を輝かせ、天を仰ぐ。そのまま体を奇妙にくねらせながら一人悶える。四十を過ぎてもなお抜群のスタイルと煌めくキューティクルをキープし続ける努力には誰もが脱帽するのだが、恋愛観も三十年前から未更新の彼女。
 曰く、白馬に乗った王子様だの、仮面で顔を隠しタキシードを着こなす大学生だの、白スーツを着た怪盗だのが「もうすぐ私の前に現れるのよ」とのこと。この乙女モードに入ったアラフォー女教師の妄想を止めるのは…。
「いや、みむちゃん先生。そんな夢みたいなこと言ってるから婚期逃すんですよ!」ピシリ。
 その一言で、みむちゃん先生こと三村聡子(みむら さとこ)先生は大口を開けてフリーズした。見事なまでの一太刀を浴びせたのは校内のジャンヌダルクこと、岩田梨亜(いわた りあ)。
 柔らかい顔に似合わず、険のあるワードもズバッと言ってのける。小柄だがどっしりした立ち姿で(決して太っている訳ではない)担任の急所を的確に斬りつける。こうなると、ここからの流れは決まっている。
 カタリと立ち上がり傷心の年増にフォローの言葉をかける。寺町卓人(てらまち たくと)の役割だ。丸っこい顔と体型で癒し系に属する彼は、事なかれ主義でよく仲裁役を買って出るタイプなのだが。
「ダメだよ梨亜。夢くらい見させてあげなきゃ」
 これだ。梨亜に注意するその後ろで、夢見る少女(?)の顔がみるみる妖怪に変幻していく。
「ブッサイクなシーサー」一瞬、クラス内の時が止まる。トドメに明確な意思を持ってアタックワードを浴びせるのが、黒い女神と呼ばれる大倉萠華(おおくら もか)。
 背丈は梨亜と同じで愛嬌のあるアイドルフェイス。黙っていればそのまま王道アイドル道を進めるのだが、梨亜といると別だ。梨亜が斬り込み、萠華が首を落とす。その際、強烈なパワーワードを虫ケラを見下すような顔で放つ為、黒い女神の称号を得てしまった。それでも彼女の学内人気は年々上昇しているが。
 撃沈した見た目美人を見て戸惑う卓人。アイコンタクトを取り合い悪戯っぽく笑い合う梨亜と萠華。一連の流れは終わったものの、先生がノックアウトしたままでは授業が進まない。この状態が数秒間続いた後、おっかなびっくり手を挙げて意気消沈の教師に授業再開をか細い声で促す。
「せ、先生。とりあえずここまでは終わらせましょう」終業五分前。現状の最善手を示唆する。唐島一樹(からしま かずき)が三村に最後の助け舟を渡す、というわけだ。
 これがこのクラスの鉄板の流れで、他のクラスメイトも「いいぞ岩田」とか「みむちゃん先生ガンバ」等々、言い合う。
 その日最後のチャイムが鳴り、ホームルームの時間になると。
「最後に明日のトクダネを告知しちゃいます」
 授業中のダメージから回復した三村が高らかに告げる。教室中がざわめき、口々に予想する。
「明日、このクラスに転校生がやってきます!」
この一言で更にヒートアップする教室。そして転校生といえばクラスの男子どもが真っ先に確認することといえば。
「先生、男子ですか?女子ですか?」切迫した思いで放つ男子生徒の言葉に一部の女子がクスリと笑ったのを最後に、一気に緊張が走った。息を飲み、担任を見つめる男子生徒。天に祈る者もいる。彼らの視線を真剣な表情で受け、三村聡子は鼻からゆっくりと息を吸う。ゴクリ。緊張の糸が極限まで張り詰め、三村の口が開く。
「女子です!」力強く言い放った瞬間、男子たちの目が輝きを増した。湧き上がる教室。いつぞやの渋谷スクランブル交差点を彷彿とさせる熱気。感謝を叫ぶ声が何度も響いた後に三村渾身の駄目押し。
「超可愛いです!」
 もはや狂気。女子たちが若干引く中、男子たちは喜びを全身全霊で表現する。一部生徒が上裸になりかけたところで、ピシャリ。三村が大統領然として手を挙げる。ここは大人の余裕。まだ余熱はあるがクラスの伝達事項はまだある。
「新しい机と椅子が必要なので、後で先生と一緒に取りに行きましょう」そしてクラス窓際最後列に座る男子生に向かって言う。
「アマサキくんの隣になるから、よろしくね」この一言でクラス内が異様な空気に包まれた。
 天崎来夢(あまさき らいむ)。クラス内で彼のフルネームを知らない人がいる可能性のある人物。成績も素行も悪い所はないのだが、人との関わりを持たない。授業で当てられなければ声を聞くこともないし、笑った顔など誰も見た事がない。そんなクラスの陰の存在に今、一心に視線が向けられている。
「はい」そんな視線も今までの熱気も何もかも全て無かったかのように返事をした彼の声には感情など存在しなかった。


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