クローネ

peach

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クローネ

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「そろそろ行きましょうよ。クローネ?」

「そうね、クローネ。」 

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俺はある貴族のパーティーに記者として呼ばれたただの平民だ。
会社が用意したいつもよりかなり上等な服を着て、いつもでは想像もつかないような高い酒やら料理やらを頬張る。
いつもこんな仕事なら喜んでするのに。と思わずには居られない。

と言っても、男の体はそんな贅沢について行けなかったようだ。
いつもの半分程の時間で、腹がいっぱいになり、酒も程よく回ってきた。

仕事も、主なものは先に済ませてしまったし、あとはあの新入りに任せても大丈夫だろう。

男はタバコでも吸おうかと、会場をフラッと抜け出
した。
「うぉ。」
タバコの吸える場所を探して廊下を歩いていると。急に、女の子が2人現れた。

どこから現れたのかと驚いて2人を見ると、
さらに驚くことに、クマのぬいぐるみを持って、真っ赤なドレスに身を包んだ2人は、格好だけでなく、背丈や顔までもが全くと言っていいほど、瓜二つであった。

男と真正面から向き合った状態から動こうとしない2人。
男は邪魔くさいと思いつつも、格好的にどこかのお貴族様の子だろうと判断し、笑顔を取り繕って、道を開けようとした。
すると、2人も同じ方向に動き、男の行く先を塞いできた。

じっと自分を見つめてくる2人に、かまって欲しいのか、と考えた男は、
1会話くらいなら、と声を掛けた。

「そのクマ、かわいいね。なんて名前なの?」
男は真っ赤な宝石のついたネックレスをつけたぬいぐるみを指さしながら言う。

「「ペディ」」

2人は同時に答えた。

「2つともペディって名前なのかい?」

男は少し疑問に思ったため、質問を重ねた。
男の問に、2人は顔を見合せ、

「ペディはひとつだよ。」

と、さも当たり前のことを言うかのようにサラッと言った。

「えっ??」

予想外の答えに思わず男の口から声が漏れる。
2人はそんな声は気にせず見つめあったまま言葉を続ける。

「「あなたがクローネで、私もクローネであるようにね。」」

2人は何が面白いのか笑い出す。

「ふふふ」「ふふ」

男はなんだか怖くなって思わず聞いた。

「おい、嬢ちゃんたち、そりゃ一体、どういう意味だい。?」

2人は質問の意味が分からない、というように首を傾げる。

「その。2人ともクローネって名前なのかい?」

「違うよ。クローネはひとりだよ。」

こいつら、一体何を言ってるんだ?

「クローネは、私とこの子。」
1人がそう言い、2人は仲良さげに手を繋いだ。

ますます意味が分からない。
男が沈黙していると、2人は唐突に動き出した。
途端背後に寒気が走ったような気がした。

2人は、手を繋いだまま男の横を通り過ぎていく。
その間、男は息をするのを忘れたかのように固まっていた。

後ろから歌が聞こえてくる。


♪あなたは私で 私はあなた♪
♪逃げられっこないよ あなたは私だもの♪
♪隠れてもダメよ 私はあなただもの♪
♪あなたと私は そう ひとつだから♪

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歌が聞こえなくなって、はっと我に返った男は、気味が悪くなって、足早に会場へと戻った。

会場ではさっきと変わらない賑やかな様子が広がっていた。

男は少しほっとした。

「おい。もうやること終わったし、そろそろ帰らないか?」

こんな気味が悪ぃとこ早く出ちまいたい。

男は新入りを見つけ、そう声をかけた。

「あっ。はい。」
新入りは、持っていたグラスをちょうど通りかかった召使いに渡した。

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男と新入りは、会場を出ると、記事を書くため、直接、会社へ向かった。

「そういえば。ひとつ、面白い話を聞きましたよ。」
パーティー会場で用意されていた馬車に揺られながら、新入りが話し出す。

「なんでも、あのお屋敷に伝わるお話のひとつだそうなんですけどね、」
新入りは、そこで言葉を切った。
そして男の方を向いて、
「夜、西側の長廊下に、女の子が2人、現れるらしいんですよ。」
と言った。

男は、焦った。

たしかあの廊下は、西側ではなかったか。

「お、おい。そりゃどういう類の話だ?悪ぃが、俺は伝説系の話は信じないことにしてんだ。」

「まあまあ、お貴族様たちの冗談だと思って聞いてくださいよ。」
「なかなか出来のいい冗談でしたよ?」
新入りは茶化すようにそう言う。

こいつ、酔ってやがるな。

男は少しため息をつく。
男の酔いはもう既に覚めきっていた。

「で、その女の子達に気に入られたら、」
新入りは、また言葉を切った。
「魂を、奪われるんだそうですよ。全く、  恐ろしい話ですよね。」

気に入られたら、その言葉に男は安堵する。

俺は今、ここにいる。たしかにいる。魂がどんなもんなのか分からないが、特に変わったところもない。

「あ、でもその女の子達、天使のような美しさだそうで、」
「いやぁ、そう言われると、会ってみたいような気もしますね。」
男が真剣な表情をしているのを見ると、
「いやっ、冗談っすよ。魂奪われちゃ嫌ですもんね。」
新入りは慌ててそう付け加えた。

男は心の中でつぶやく。

あいつらは天使なんて柄じゃねぇ。どっちかって言うと、気の狂った悪魔だ。

「わかったから。  そろそろ会社につく。お前、記事にする文章、ちょっとは考えたんだろうな?」
「わっ。もうですかっ?」
「ああ、」

チャリッ

そろそろだなと、荷物をまとめ出した男は、そこでようやく、自分の首に、見事なネックレスがかかっていることに気づいた。

新入りも気づいたようで、
「あれ?そんな上等なもん、どこで手に入れたんですか?」
物珍しい目で男の首元をみる。
 
男はその問いに答えなかった。
いや、答えられなかった。

おいおいおい。こりゃ、いや、そんな、まさかな、

男はそのネックレスに見覚えがあった。


こりゃ、あのぬいぐるみが下げてたやつと同じじゃねぇか。

男はゾッとして、言葉を失った。

次の瞬間、御者の叫び声が聞こえ、突然馬車が止まった。

「うわあっ!?」
新入りも声を上げる。

「ちょっと、こりゃどういうことですかい?ちょっと止まり方、雑じゃないですか??」
不満そうに文句を垂れる。

外からは、また、御者の声が聞こえてきた。

「ちょっと君たち、なんなんだい一体。急に飛び出してきて、困るよ。」

どうやら、誰かが道に飛び出してきたらしい。

「全く、大体、こんな夜中に子供が2人で。 どこの子だい?」

2人。その言葉に、男はドキッとした。

「「私、クローネ」」
外で御者と話しているであろう子供が、そう言った。

男は、自分の顔から血の気が引くのを感じた。

逃げなければ、危険信号が体の奥底から鳴っている。

男はバッと立ち上がり、逃げ場がないことを悟る。

馬車の中だここは。
アイツらがどっちの扉の側に来るのかも分かっちゃいない。もう、終わりだ。

「ちょっと、先輩?  大丈夫ですか??」
新入りの声も、もうなんだか遠くに聞こえる。

外から、歌が聞こえてくる。


♪逃げられっこないよ♪
♪隠れてもダメよ♪だって♪あなたは私♪
♪私はあなたでしょう?♪

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                                             I'll see you again.👑
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