至宝のオメガ

みこと

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「兄上、どうしますか?あんな事信じられますか?」

「おまえはどうなんだ。信じられるのか?」

ルイーズの処遇をどうするか決めなければならない。
本当に精霊使いなんているのだろうか。
アーネストもフレデリックもまだ半信半疑だ。しかしフレデリックは自分の左肩を動かすたびに信じざるを得ない気持ちになる。
そっと左肩に触れた。アーネストもその左肩を見つめる。
ムスカリアはどうしてもルイーズを手に入れたいようだっだ。常にサリエルの動向を伺っている。
そのためニケーアはサリエルを離れる事が出来ない。ここへ来るのも極秘だった。目立たぬよう少人数でサリエルを出たらしいがすぐに追っ手に見つかり襲撃された。
命からがら何とかバートレットまで辿り着いたのだ。

「本当ならルイーズを他国に渡すわけにはいきません。特にムスカリアには絶対だ。ヤツらは必ず我々に報復するはずです。」

「あぁ、このままこの城に居てもらうしかないな。ただの客人として長期に滞在するのはムスカリアやハザーカルディア以外の国々も不審に思うだろう。やはり、ここはおまえの婚約者として迎え入れた事にした方が穏便に話が通りそうだが…。」

自分の婚約者…。
フレデリックの心臓がどくりと音を立てた。ルイーズの黒曜石の瞳を思い出す。
あの者を自分の婚約者に…。
いや、これは形だけの婚約だ。自国を守るための婚約なのだ。

「そうですね。そうするしかないでしょう。」

ルイーズはフレデリックの婚約者として迎え入れられることとなった。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


「ルイーズ様、昨日はありがとうございました。」

ルイーズが形だけの婚約者として迎えられてひと月が経った。
最初は皆、遠巻きに見ていたのだがルイーズの愛らしさと優しさ、そして何より不思議な力に魅了されていた。
城で働くほとんどの者がルイーズを敬愛している。今、ルイーズに礼を言ったメイドのリアナもその一人だ。
ルイーズには不思議な力がある。彼と話をするだけで癒やされるのだ。
リアナはかわいがってもらっていた叔母と従兄弟を事故で亡くし傷心していた。
ルイーズはそんな彼女の話を聞き優しく声をかけて背中をさすった。するとあんなに辛かった気持ちが軽くなったのだ。二人の死以降何もする気にならなかったリアナは元気になり前向きになった。
城の者たちは何か辛い事や悲しい事があるとルイーズに聞いてもらうようになっていった。

リアナと別れたルイーズは庭の花を見に行く予定だったのでそのまま庭に出た。

「ルイーズ。」

聞き慣れた声に振り返る。アーネストが軽く手を上げて立っていた。

「アーネスト殿下。」

側に駆け寄る。
アーネストは優しく穏やかだった。ルイーズが城で暮らしやすいように気を配ってくれる。使用人たちと打ち解けられたのも彼のお陰だ。

「城の生活はどうだ?何か困っていることはないか?」

「いいえ殿下。僕には過ぎるくらいです。」

城に来たばかりの頃は自分のことは『私』と言っていた。だがアーネストが畏まらず過ごせと、サリエルにいた時と同じように振る舞うようルイーズに言ったのだ。

「使用人たちが世話になっているようだな。」

「そんな…。僕はただ話を聞いているだけです。」

「それで充分だ。」

ルイーズの評判は自然と耳に入ってきた。
怪我を治す力があることは口外していない。ルイーズにもそれを禁止している。どこから秘密が漏れるかわからないからだ。
しかしルイーズは傷を癒している。
目に見えない傷を。話を聞き、優しく声を掛けるだけで相手の心の傷が癒えるのだ。

本当に精霊使いなのかもしれない…。

アーネストは日々その思いを強くした。

「ルイーズに頼みがあるんだ。」

「僕にですか?…はい。出来ることなら何なりと。」

アーネストの後について歩き庭の端にある西の塔に着いた。大きな木々の影に隠れたそこは目立たずひっそりと建っている。重厚な扉の鍵を開けて中へ入った。塔の一番上へと続く階段を二人で登る。

「これから見ることは決して口外してはならない。いいね?」

ただならぬ雰囲気に緊張が走る。ルイーズは大きく頷いた。

「私に弟がいることはもちろん知っているね?」  

「フレデリック殿下ですか?」

ここへ来てひと月、アーネストは積極的にコミュニケーションを取ろうとしてくれる。時に冗談を言ったり揶揄ったりして笑わせてくれる。アーネストと話をするのは楽しい。
しかしフレデリックとは未だ打ち解けられない。必要最低限の話ししかしてこない。ルイーズも緊張して声をかけることができない。そしてなぜかフレデリックの名前を口にするだけで心がざわつく。

「あぁ、もう一人いる事は?」

「はい。ジョシュア殿下ですね?今は留学中だとか。」

「表向きはそういう事になっている。」
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