至宝のオメガ

みこと

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怪我を治すだと?そんな事が出来るのか?
医者にはもうこれ以上の回復は無理だと言われた。もう戦えないのだ。
特に馬上での戦闘は不可能だった。右手で剣を持ち左手で手綱を握るからだ。魔法だけの戦いではすぐに魔力を消費してしまう。剣が使えなければ長く戦えない。

「フレデリック殿下、どうか…。」

信じられないような気持ちでルイーズを見る。しかし彼の瞳は真剣だった。とても嘘をついているようには思えない。
フレデリックは半信半疑でシャツのボタンを外した。慎重に左肩の袖を抜く。
その仕草に了承を得たと判断したルイーズが立ち上がり近づいた。

フレデリックの左肩は鎖骨から背中にまで及ぶ大きな傷跡が残っていた。その傷跡は盛り上がり変色している。あまりにも酷い有様だった。

「…っ!殿下、申し訳…ありません。」

その傷跡を見たルイーズが嗚咽する。しかしすぐに袖で顔を拭き、気を取り直して両手で傷跡に触れた。
そっと傷跡を包むように触れた途端、フレデリックは左肩にふわりと温かいものを感じた。何故かその感覚に身に覚えがあった。
傷跡に当てている手を見ると僅かに光っているように見えた。そして温かさが全身に広がったときルイーズが手を離した。

「これは……!」

驚きしかなかった。フレデリックの傷跡は跡形もなく消えていたのだ。ずっと感じていた疼きもない。腕を上げてみると全く違和感なく上がる。言葉が出ない。これが精霊の力なのか?

ぐらりとルイーズの身体が傾いた。咄嗟にフレデリックが手を伸ばし抱き抱えた。身体が熱い。

「ルイーズ様!」

従者が駆け寄る。フレデリックはそのままルイーズを抱き上げた。

「寝ていれば良くなるのか?」

従者が頷いたのを見て寝室に運んだ。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


フレデリックは信じられない気持ちでいっぱいだった。しかし自分の身体が現実だと突き付けてくる。
肩を動かしてみる。やはり痛みも違和感もない。

寝室から従者が出てきた。

「ルイーズは?」

「はい。今は眠っております。精霊様の力をたくさんお借りしましたので回復に時間がかかると思われます。」

もし本当に精霊使いで傷を治したのだとしたらフレデリックの他にも従者や護衛を治癒している。ルイーズのあの様子だと傷を癒すのは相当の負担がかかるのかもしれない。
サリエルは本当にルイーズとフレデリックを結婚させるためにここに送ったのだろうか。
精霊使いなら国に残り国のために働いてもらった方が良いのではないのか。そんな大事な人間をみすみす他国に嫁がせたりするのだろうか。

「おい、おまえ。名は?」

床に平伏している従者に尋ねた。

「私はイアンと申します。」

イアンにソファーに座るよう促した。驚いて顔を上げおずおずと遠慮がちに座った。

「それで?サリエルの本当の目的は何だ。私と結婚させるためにルイーズを送ったのか?」

ソファーの端にちょこんと座るイアンを見る。

「先程申しましたようにルイーズ様はサリエルの至宝です。ルイーズ様のお力はサリエルでも極限られた者しか知りません。大公様やニケーア様が城の中で大事に守ってきたのです。しかし、何故かムスカリア王国がルイーズ様のお力に気付き始めているのです。ここ数年、ルイーズ様を狙って何度も我が国に攻め入って来ています。黒の森の戦いも元はルイーズ様を狙っての事なのです。」

ムスカリアが騒がしいのはルイーズを手に入れるためなのか。そして先程のルイーズの『私のせいで』というのはこの事を言っていたのか。

「我が国にはニケーア様がいらっしゃいます。しかし今年に入ってからはハザーカルディアまでもルイーズ様を狙って攻め入ってくるようになりました。いくらニケーア様でもこの二国を相手にしながらルイーズ様をお守りすることは大変難しいのです。大公様は黒の森の大戦でご尽力くださったあなた方をとても信頼し感謝しております。ですから、その…。あなた方にルイーズ様をお願いしたいのです。」


「なるほど。そういう事か。」

部屋の扉が開いてアーネストが入ってきた。そのままフレデリックの隣に座る。

「ルイーズを守れと?」

「はい。畏れながらアーネスト殿下。」

深々と頭を下げるイアンを見つめた。本来なら図々しい願いだ。しかしサリエル大公は秘密を打ち明けるくらいバートレットを信頼している。実際に精霊使いのルイーズをこの国に預けようとしているのだ。ムスカリアやハザーカルディアがルイーズを手に入れれば間違いなくその力を使って隣国に攻め入るだろう。もちろんその中にはバートレットも含まれている。
大事なルイーズを手放し守ってもらう事でバートレットも守ろうとしているのだ。
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