7 / 26
6
しおりを挟む
「君が生きているなら樹里くんも生きてるよ。『運命の番い』は片方が死んだら生きていけない。君が生きてるなら大丈夫だ。」
「運命の番い?」
「ああ。オメガに変異する前に相手のフェロモンを感じたんだろ?運命だからだよ。俺もそうだった。」
九条さんは隣に座っている名執さんをうっとりと見た。
運命の番いの話はみんな一度は聞いたことがある。
そのロマンチックな設定はドラマや映画にもなっている。
俺と樹里は運命なのか。
愕然とした。でも腑に落ちたような気もした。
確かに何かをこんなに切望したことはない。
そう思うと余計に会いたくてたまらない。
「残念だけど、シェルターを出ないことには行方は分からないよ。」
名執さんの言葉が俺を絶望の淵に突き落とした。
帰る二人に礼を言って見送る。
九条さんは当たり前のように左腕を名執さんの腰に回した。キスするくらいの近い距離だ。時々右手で名執さんの髪を撫でる。
その後ろ姿をぼんやりと眺めていた。
「あの二人は来月結婚するんだよ。今、妊娠二ヶ月なんだ。」
そうか。だから九条さんはしきりに室温を気にしていたのか。
「壬生くん、九条くんが言った通り樹里くんはどこかで生きているはずだ。諦めずに探すんだよ。何か分かったら知らせてくれ。」
「はい。今日はありがとうございました。名執さんたちに会えて良かったです。本当に変異種オメガはいるんですね。俺は必ず樹里を見つけます。」
『君が生きてるなら彼も生きてるよ。』
樹里、本当にすまなかった。俺がバカだった。
性別や固定概念に囚われて大事なことに気付けなかった。
おまえは俺の運命だ。
もう遅いだろうか?許してくれるだろうか?
とにかく待つしかない。出てくるのかも分からない。
シェルターを監視しつつ他も捜索した。
そしてその日は訪れた。
樹里らしきオメガがK県のシェルターから出てきたと報告があった。スマホに送られてきた画像を確認する。
樹里だった。髪が伸びて痩せていたが確かに樹里だ。
どうやら一人暮らしを始めるようだ。アパートを見たり、バイト先を探している。
すぐに会いに行こうとすると探偵に止められた。急に押しかけたらまたシェルターに戻ってしまうかもしれない。外での生活が安定するまで待つように言われた。
探偵が言った通りで、完全に外に出た訳ではないようだ。樹里はしばらくの間シェルターと外とを行き来していた。
しかし樹里の行方が分かりほっとしていた矢先にまた行方不明になってしまった。
シェルターには戻っていないようだった。
数週間かけて外の生活に慣れたところを見計らって急にどこかに引っ越したようだ。
また居なくなってしまった。
あの絶望感を二度も味わうとは…。
でも諦められない。また人を雇って探そうとしていた時だ。
偶然、樹里を見つけた。
それは夕方のニュースを見ていた時だった。ぼんやりと眺める画面には安くて美味い定食屋の特集が流れていた。
市場近くのそこは市場で働く人たちだけでなく県外からも客が押し寄せる。店の中や名物の大盛りメニューが流れる中、インビューを受ける女将の背に映った厨房に樹里を見つけたのだ。斜め後ろ姿だったが確かに樹里だ。山のように積まれた皿を洗っていた。
「樹里…。」
すぐに場所を調べた。ここからそう遠くない。次の日に定食屋の側で張っていると樹里は現れた。
やはりここで働いている。
そのままつけると午後はそのままスーパーで荷下ろしをしていることが分かった。出てくるのを待ったが現れなかった。もう一つの従業員口から出て行ったようだ。
店の人に樹里のことを聞こうかと思ったがやめた。
警戒してまた居なくなられては困る。
かといってもう逃したくない。
次の日に定食屋に行くことにした。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「樹里、久しぶりだな。」
「ど、して。」
樹里は驚いている。当然だ。
俺はおまえを強姦して置き去りにした男だ。
とにかく謝らせて欲しい。
なんで来たのかと言って怯えている。
そんなの決まってるだろ。
おまえに会いに来たんだ。
そして謝りたいんだ。
樹里に許しを乞いに来たんだ。
樹里が出て来るのを待っていたがまた逃げられてしまった。
やはり嫌われているな。仕方ない。
九条さんたちの仲睦まじい姿を思い出してため息がでた。
しかし、こうして落ち込んでいる場合じゃない。
すぐにスーパーに向かった。
「運命の番い?」
「ああ。オメガに変異する前に相手のフェロモンを感じたんだろ?運命だからだよ。俺もそうだった。」
九条さんは隣に座っている名執さんをうっとりと見た。
運命の番いの話はみんな一度は聞いたことがある。
そのロマンチックな設定はドラマや映画にもなっている。
俺と樹里は運命なのか。
愕然とした。でも腑に落ちたような気もした。
確かに何かをこんなに切望したことはない。
そう思うと余計に会いたくてたまらない。
「残念だけど、シェルターを出ないことには行方は分からないよ。」
名執さんの言葉が俺を絶望の淵に突き落とした。
帰る二人に礼を言って見送る。
九条さんは当たり前のように左腕を名執さんの腰に回した。キスするくらいの近い距離だ。時々右手で名執さんの髪を撫でる。
その後ろ姿をぼんやりと眺めていた。
「あの二人は来月結婚するんだよ。今、妊娠二ヶ月なんだ。」
そうか。だから九条さんはしきりに室温を気にしていたのか。
「壬生くん、九条くんが言った通り樹里くんはどこかで生きているはずだ。諦めずに探すんだよ。何か分かったら知らせてくれ。」
「はい。今日はありがとうございました。名執さんたちに会えて良かったです。本当に変異種オメガはいるんですね。俺は必ず樹里を見つけます。」
『君が生きてるなら彼も生きてるよ。』
樹里、本当にすまなかった。俺がバカだった。
性別や固定概念に囚われて大事なことに気付けなかった。
おまえは俺の運命だ。
もう遅いだろうか?許してくれるだろうか?
とにかく待つしかない。出てくるのかも分からない。
シェルターを監視しつつ他も捜索した。
そしてその日は訪れた。
樹里らしきオメガがK県のシェルターから出てきたと報告があった。スマホに送られてきた画像を確認する。
樹里だった。髪が伸びて痩せていたが確かに樹里だ。
どうやら一人暮らしを始めるようだ。アパートを見たり、バイト先を探している。
すぐに会いに行こうとすると探偵に止められた。急に押しかけたらまたシェルターに戻ってしまうかもしれない。外での生活が安定するまで待つように言われた。
探偵が言った通りで、完全に外に出た訳ではないようだ。樹里はしばらくの間シェルターと外とを行き来していた。
しかし樹里の行方が分かりほっとしていた矢先にまた行方不明になってしまった。
シェルターには戻っていないようだった。
数週間かけて外の生活に慣れたところを見計らって急にどこかに引っ越したようだ。
また居なくなってしまった。
あの絶望感を二度も味わうとは…。
でも諦められない。また人を雇って探そうとしていた時だ。
偶然、樹里を見つけた。
それは夕方のニュースを見ていた時だった。ぼんやりと眺める画面には安くて美味い定食屋の特集が流れていた。
市場近くのそこは市場で働く人たちだけでなく県外からも客が押し寄せる。店の中や名物の大盛りメニューが流れる中、インビューを受ける女将の背に映った厨房に樹里を見つけたのだ。斜め後ろ姿だったが確かに樹里だ。山のように積まれた皿を洗っていた。
「樹里…。」
すぐに場所を調べた。ここからそう遠くない。次の日に定食屋の側で張っていると樹里は現れた。
やはりここで働いている。
そのままつけると午後はそのままスーパーで荷下ろしをしていることが分かった。出てくるのを待ったが現れなかった。もう一つの従業員口から出て行ったようだ。
店の人に樹里のことを聞こうかと思ったがやめた。
警戒してまた居なくなられては困る。
かといってもう逃したくない。
次の日に定食屋に行くことにした。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「樹里、久しぶりだな。」
「ど、して。」
樹里は驚いている。当然だ。
俺はおまえを強姦して置き去りにした男だ。
とにかく謝らせて欲しい。
なんで来たのかと言って怯えている。
そんなの決まってるだろ。
おまえに会いに来たんだ。
そして謝りたいんだ。
樹里に許しを乞いに来たんだ。
樹里が出て来るのを待っていたがまた逃げられてしまった。
やはり嫌われているな。仕方ない。
九条さんたちの仲睦まじい姿を思い出してため息がでた。
しかし、こうして落ち込んでいる場合じゃない。
すぐにスーパーに向かった。
42
あなたにおすすめの小説
さかなのみるゆめ
ruki
BL
発情期時の事故で子供を産むことが出来なくなったオメガの佐奈はその時のアルファの相手、智明と一緒に暮らすことになった。常に優しくて穏やかな智明のことを好きになってしまった佐奈は、その時初めて智明が自分を好きではないことに気づく。佐奈の身体を傷つけてしまった責任を取るために一緒にいる智明の優しさに佐奈はいつしか苦しみを覚えていく。
「出来損ない」オメガと幼馴染の王弟アルファの、発情初夜
鳥羽ミワ
BL
ウィリアムは王族の傍系に当たる貴族の長男で、オメガ。発情期が二十歳を過ぎても来ないことから、家族からは「欠陥品」の烙印を押されている。
そんなウィリアムは、政略結婚の駒として国内の有力貴族へ嫁ぐことが決まっていた。しかしその予定が一転し、幼馴染で王弟であるセドリックとの結婚が決まる。
あれよあれよと結婚式当日になり、戸惑いながらも結婚を誓うウィリアムに、セドリックは優しいキスをして……。
そして迎えた初夜。わけもわからず悲しくなって泣くウィリアムを、セドリックはたくましい力で抱きしめる。
「お前がずっと、好きだ」
甘い言葉に、これまで熱を知らなかったウィリアムの身体が潤み、火照りはじめる。
※ムーンライトノベルズ、アルファポリス、pixivへ掲載しています
当たり前の幸せ
ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。
初投稿なので色々矛盾などご容赦を。
ゆっくり更新します。
すみません名前変えました。
昨日まで塩対応だった侯爵令息様が泣きながら求婚してくる
遠間千早
BL
憧れていたけど塩対応だった侯爵令息様が、ある日突然屋敷の玄関を破壊して押し入ってきた。
「愛してる。許してくれ」と言われて呆気にとられるものの、話を聞くと彼は最悪な未来から時を巻き戻ってきたと言う。
未来で受を失ってしまった侯爵令息様(アルファ)×ずっと塩対応されていたのに突然求婚されてぽかんとする貧乏子爵の令息(オメガ)
自分のメンタルを救済するために書いた、短い話です。
ムーンライトで突発的に出した話ですが、こちらまだだったので上げておきます。
少し長いので、分割して更新します。受け視点→攻め視点になります。
βな俺は王太子に愛されてΩとなる
ふき
BL
王太子ユリウスの“運命”として幼い時から共にいるルカ。
けれど彼は、Ωではなくβだった。
それを知るのは、ユリウスただ一人。
真実を知りながら二人は、穏やかで、誰にも触れられない日々を過ごす。
だが、王太子としての責務が二人の運命を軋ませていく。
偽りとも言える関係の中で、それでも手を離さなかったのは――
愛か、執着か。
※性描写あり
※独自オメガバース設定あり
※ビッチングあり
僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた
いちみやりょう
BL
▲ オメガバース の設定をお借りしている & おそらく勝手に付け足したかもしれない設定もあるかも 設定書くの難しすぎたのでオメガバース知ってる方は1話目は流し読み推奨です▲
捨てられたΩの末路は悲惨だ。
Ωはαに捨てられないように必死に生きなきゃいけない。
僕が結婚する相手には好きな人がいる。僕のことが気に食わない彼を、それでも僕は愛してる。
いつか捨てられるその日が来るまでは、そばに居てもいいですか。
俺はつがいに憎まれている
Q矢(Q.➽)
BL
最愛のベータの恋人がいながら矢崎 衛というアルファと体の関係を持ってしまったオメガ・三村圭(みむら けい)。
それは、出会った瞬間に互いが運命の相手だと本能で嗅ぎ分け、強烈に惹かれ合ってしまったゆえの事だった。
圭は犯してしまった"一夜の過ち"と恋人への罪悪感に悩むが、彼を傷つける事を恐れ、全てを自分の胸の奥に封印する事にし、二度と矢崎とは会わないと決めた。
しかし、一度出会ってしまった運命の番同士を、天は見逃してはくれなかった。
心ならずも逢瀬を繰り返す内、圭はとうとう運命に陥落してしまう。
しかし、その後に待っていたのは最愛の恋人との別れと、番になった矢崎の
『君と出会いさえしなければ…』
という心無い言葉。
実は矢崎も、圭と出会ってしまった事で、最愛の妻との番を解除せざるを得なかったという傷を抱えていた。
※この作品は、『運命だとか、番とか、俺には関係ないけれど』という作品の冒頭に登場する、主人公斗真の元恋人・三村 圭sideのショートストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる