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閑話:弥生と正親
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弥生と正親は中学高校の同級生だった。
正親は初めて弥生を見た時に何とも言えない感覚がした。懐かしいような、愛おしいようなずっと探していたパズルのピースを見つけたような。
しかし、アルファとベータだ。そして正親は今までヘテロセクシャルだった。
しかし友人として何年か一緒にいるうちに友達以上の気持を持っていると確信した。十六歳の夏、弥生に気持ちを伝えようとした矢先に弥生は居なくなってしまった。
探したけど見つからない。その後、何年も探すこととなった。
一方、弥生は十六歳の夏、急にオメガに変異していた。
オメガに変異した弥生は驚き悲しんだ。しかしそんな感傷に浸る間もなくオメガの弥生に次々と危険が訪れた。
身体を狙うものや珍しい変異種として人体実験をしようとする者まで現れた。弥生は元々ベータとして生きてきたので身を守る術を知らない。
身を案じた両親が本人と相談してシェルターに避難したのだ。
そこでバースについて一から学び、自分の置かれている立場を理解した。自分自身がオメガとして生きることを納得できた時、シェルターから外の世界に出たのだ。
実家に戻った弥生は母親から大量の手紙を渡された。
全て正親からのものだった。
懐かしい右上がりの文字。弥生に会いたいと切望する内容。オメガになってしまったことは言っていない。もちろん両親からもだ。病気療養ということになっていた。
オメガの僕でも会ってくれるのだろうか。
手紙からは正親の匂いがした。その匂いに胸が締め付けられるような気がした。
ネックガードをつけて、防犯スプレーをポケットに忍ばせ正親の家に向かった。これらはシェルターのスタッフに一人で出かけるときは必ずすることとして教わった。
シェルターを出てから初めて一人で電車に乗る。
同じようにネックガードを付けた人が何人かいる。
僕と同じオメガか。でも変異種オメガは僕だけだろう。
電車を降りて九条家に向かう。何度か来たことがある正親の家はまるで老舗和風旅館のような立派な建物だ。
インターホンを押すと家政婦が出た。
名を名乗って正親さんをと、お願いする。
電話してから来れば良かったかもしれない。
会ってもらえる保証なんてないのに。手紙についた匂いを嗅いだら居ても立っても居られなくなったのだ。
走ってくる足音とともにガラガラ、バンっと大きな音を立てて門が開いた。
二年ぶりの友人は僕を見て驚き、そして泣き崩れた。
「ちょっと、正親。」
「弥生、どこに行ってたんだ。どこに…。どれだけ探したと…。」
あとは涙でよく分からなかった。
とにかく正親は弥生を探していたようだった。あの手紙からもどれだけ心配されていたか分かる。
「ごめん、ごめんな。僕、オメガになっちゃったんだ。」
努めて明るく言った。
正親は驚きで涙が引っ込んだようだった。
「え?今何て?」
「オメガになったんだ。変異種オメガって言うんだって。」
正親には弥生が何を言っているのかよく分からなかった。
変異種オメガ。初めて聞いた。
バースが変化するのか?
言いたいことや聞きたいことは山ほどある。
ひとまず正親は弥生を部屋に招き入れた。
「どういうことだ?」
「変異種オメガ。僕、それだったんだ。」
「オメガなのか?」
「うん。」
「どこにいたんだ?」
「オメガのシェルターだよ。オメガになってから襲われそうになったり、誘拐されそうになったりして大変だったんだ。僕も両親もどうしていいか分からなくてシェルターに避難したんだよ。」
「え?襲われたのか?誰に?」
「たぶんアルファだよ。未遂だったけど…怖かった。」
弥生の声が震えた。思い出したんだろう。
正親は思わず抱きしめていた。
「え?ちょっ、正親?」
「本当にオメガになったんだな?」
「うん。」
「そうか。」
しばらく弥生を抱きしめていた正親は急に身体を離して弥生を見た。
「じゃあ俺たち結婚できるな。」
「へ?結婚?」
それからの正親はすごかった。毎日猛アタックをしてきた。
正親のことは好きだけどいきなり結婚と言われても…。
何か吹っ切れたような正親は弥生が逃げられないように周りを固めて朝も夜もなく愛を囁く。
「正親、いきなり結婚はちょっと…。」
「何で?俺のこと嫌いなのか?」
「そうじゃないけど…。」
「じゃあ結婚しよう。弥生、愛してる。早く子どもも欲しい。」
「えぇーーっ!」
少し強引だが正親は優しくて男らしかった。
いつも弥生を優先してくれて守ってくれる。
いつの間にか自分の両親も弥生の両親も説得して結婚することになっていた。
「正親は強引なんだよ。」
「だって、また弥生が居なくなったら…。」
文句を言うとそうやって泣き出してしまう。
「だから、それはごめんて。」
「この三年間の俺の気持ちが分かるか?一言言ってくれれば。」
「ごめん。だって、僕だって急にオメガになってどうしていいか分からなかったんだよ。」
「弥生、弥生~。結婚してくれ~。もう離れたくない。」
泣きながら懇願する。
毎日こんな調子でとうとう弥生が折れたのだ。
正親は初めて弥生を見た時に何とも言えない感覚がした。懐かしいような、愛おしいようなずっと探していたパズルのピースを見つけたような。
しかし、アルファとベータだ。そして正親は今までヘテロセクシャルだった。
しかし友人として何年か一緒にいるうちに友達以上の気持を持っていると確信した。十六歳の夏、弥生に気持ちを伝えようとした矢先に弥生は居なくなってしまった。
探したけど見つからない。その後、何年も探すこととなった。
一方、弥生は十六歳の夏、急にオメガに変異していた。
オメガに変異した弥生は驚き悲しんだ。しかしそんな感傷に浸る間もなくオメガの弥生に次々と危険が訪れた。
身体を狙うものや珍しい変異種として人体実験をしようとする者まで現れた。弥生は元々ベータとして生きてきたので身を守る術を知らない。
身を案じた両親が本人と相談してシェルターに避難したのだ。
そこでバースについて一から学び、自分の置かれている立場を理解した。自分自身がオメガとして生きることを納得できた時、シェルターから外の世界に出たのだ。
実家に戻った弥生は母親から大量の手紙を渡された。
全て正親からのものだった。
懐かしい右上がりの文字。弥生に会いたいと切望する内容。オメガになってしまったことは言っていない。もちろん両親からもだ。病気療養ということになっていた。
オメガの僕でも会ってくれるのだろうか。
手紙からは正親の匂いがした。その匂いに胸が締め付けられるような気がした。
ネックガードをつけて、防犯スプレーをポケットに忍ばせ正親の家に向かった。これらはシェルターのスタッフに一人で出かけるときは必ずすることとして教わった。
シェルターを出てから初めて一人で電車に乗る。
同じようにネックガードを付けた人が何人かいる。
僕と同じオメガか。でも変異種オメガは僕だけだろう。
電車を降りて九条家に向かう。何度か来たことがある正親の家はまるで老舗和風旅館のような立派な建物だ。
インターホンを押すと家政婦が出た。
名を名乗って正親さんをと、お願いする。
電話してから来れば良かったかもしれない。
会ってもらえる保証なんてないのに。手紙についた匂いを嗅いだら居ても立っても居られなくなったのだ。
走ってくる足音とともにガラガラ、バンっと大きな音を立てて門が開いた。
二年ぶりの友人は僕を見て驚き、そして泣き崩れた。
「ちょっと、正親。」
「弥生、どこに行ってたんだ。どこに…。どれだけ探したと…。」
あとは涙でよく分からなかった。
とにかく正親は弥生を探していたようだった。あの手紙からもどれだけ心配されていたか分かる。
「ごめん、ごめんな。僕、オメガになっちゃったんだ。」
努めて明るく言った。
正親は驚きで涙が引っ込んだようだった。
「え?今何て?」
「オメガになったんだ。変異種オメガって言うんだって。」
正親には弥生が何を言っているのかよく分からなかった。
変異種オメガ。初めて聞いた。
バースが変化するのか?
言いたいことや聞きたいことは山ほどある。
ひとまず正親は弥生を部屋に招き入れた。
「どういうことだ?」
「変異種オメガ。僕、それだったんだ。」
「オメガなのか?」
「うん。」
「どこにいたんだ?」
「オメガのシェルターだよ。オメガになってから襲われそうになったり、誘拐されそうになったりして大変だったんだ。僕も両親もどうしていいか分からなくてシェルターに避難したんだよ。」
「え?襲われたのか?誰に?」
「たぶんアルファだよ。未遂だったけど…怖かった。」
弥生の声が震えた。思い出したんだろう。
正親は思わず抱きしめていた。
「え?ちょっ、正親?」
「本当にオメガになったんだな?」
「うん。」
「そうか。」
しばらく弥生を抱きしめていた正親は急に身体を離して弥生を見た。
「じゃあ俺たち結婚できるな。」
「へ?結婚?」
それからの正親はすごかった。毎日猛アタックをしてきた。
正親のことは好きだけどいきなり結婚と言われても…。
何か吹っ切れたような正親は弥生が逃げられないように周りを固めて朝も夜もなく愛を囁く。
「正親、いきなり結婚はちょっと…。」
「何で?俺のこと嫌いなのか?」
「そうじゃないけど…。」
「じゃあ結婚しよう。弥生、愛してる。早く子どもも欲しい。」
「えぇーーっ!」
少し強引だが正親は優しくて男らしかった。
いつも弥生を優先してくれて守ってくれる。
いつの間にか自分の両親も弥生の両親も説得して結婚することになっていた。
「正親は強引なんだよ。」
「だって、また弥生が居なくなったら…。」
文句を言うとそうやって泣き出してしまう。
「だから、それはごめんて。」
「この三年間の俺の気持ちが分かるか?一言言ってくれれば。」
「ごめん。だって、僕だって急にオメガになってどうしていいか分からなかったんだよ。」
「弥生、弥生~。結婚してくれ~。もう離れたくない。」
泣きながら懇願する。
毎日こんな調子でとうとう弥生が折れたのだ。
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