オメガの秘薬

みこと

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「マジで怖かった~。岩澤が登場した時はどうなることかと思ったよ。乱闘騒ぎにでもなるのかと思った。」

夏樹がベッドに転がっている。
ファミレスを出た俺たちは夏樹の家に来ていた。

「俺も。マジでビビった。」

「あんまりよく聞こえなかったんだけど結局どうなったの?」

京介さんは浮気写真を見て速攻で美涼と別れたこと、未練たらたらの航へのカモフラージュのために俺たちは付き合うフリをしたことを報告した。

「マジで?速攻で?」

「後は弁護士にって言ってた。美涼は前々から怪しかったんだって。」

「そっかー。アルファぐせの悪いオメガか…。岩澤もとんだやつに引っかかったな。」

引っかけるやつも悪いけど引っかかるやつも悪いんだ。別に無理やりされた訳じゃないんだろ。
気持ちよさそうに喘ぎながら腰を振っていた航を思い出した。
吐き気がする。

「で?付き合うフリって?」

「え?」

「何すんの?」

うーん、考えてなかった。

「分かんない。特に何もしないんじゃない?」

ピコンとスマホが鳴った。京介さんからだ。

『ちゃんと家に着いた?』
『いえ、友達の家にいます』
『あのオメガのこ?』
『はい』

京介さんはポンポンメッセージを返してくれる。そのまま明日の予定を組まれてしまった。
あれは航への当てつけじゃなかったのか。

「明日、京介さんと出かける事になった。」

「おー!マジか?良いね!やっぱり新しい恋だよ。」

「いや、歳が違いすぎるだろ?」

「へ?いくつ?」 

「聞いてない…」

そういえば名前しか知らない。名刺はもらったけど。明日、大丈夫かな?

「美涼のSNSに書いてあるんじゃない?」  

「かもな。」
 
美涼のSNS何て見たくもない。

「明日、聞いてみるよ。」

「デートだもんな。捨てる神あれば拾う神ありだな。」

「うるせー。」

俺たちはまたひとしきり笑った。
大丈夫だ。



家に帰ってスマホを見ると京介さんからメッセージが入っていた。
マメな人なんだな。
メッセージを返すとすぐに既読になる。二、三メッセージを送り合って寝た。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


「比呂君はどこか行きたいところはある?」

「いえ、特に。」

「じゃあ、ランチを食べて、新しくできたショッピングモールにいってみない?」

「はい。」

「緊張してる?」

「…はい。」

車のハンドルを握りあはは、と楽しそうに笑う京介さんを見た。カッコいい横顔だ。余計に緊張してきた。
まず、格好に失敗した。夏樹と出かける訳じゃないのに、Tシャツとジーンズにスニーカーだ。おまけにリュックまで背負ってきてしまった。
かたや京介さんは薄いグレーのシャツにベージュのパンツ。その上からネイビーのサマージャケットを羽織っている。靴はピカピカの革靴だ。
じゃあ俺は家に帰って着替えてきたら変わるかというとそんなことはない。
Tシャツの色が変わるくらいだ。
要するに釣り合うような服は持っていないのだ。
肝心の京介は全く気にしている様子はない。

しかも京介は話し上手だし聞き上手だ。少しずつ緊張も解けて楽しく会話ができている。

「京介さんは歳はいくつなんですか?」

「二十三歳だよ。今年社会人一年目。」

「えっ?もっと年上かと…。あ、すいません。」  

「酷いな~、どんだけおじさんだと思ってたの?」

「いや、その、貫禄というか…」

「敬語いらないよ。余計に歳を実感しちゃう。」

「はい…、うん。」

去年、天下のT大を卒業して父親の会社で働いている。趣味はクライミング、空手。一人暮らし、家族構成は父、母、兄、弟の五人。などなど嫌がらずに教えてくれた。

「比呂君のことも知りたい。」

「俺?俺は特に。前も言ったけどN校二年、剣道部。趣味はうーんパソコン。アプリ作ったりしてる。」

「剣道部?」

「弱小ね。練習は週三回だけのゆるゆるな部活。」

「ふーん。アプリってどんなの作ったの?」

「ゲームが多いかな。」

他愛もない話をしながら目的地に着いた。
蔦の絡まる外観のオシャレな一軒家のレストランだった。
もう、まさに場違いだ。ドレスコードはあるのだろうか?

「ここ?」

「そう。」

「この格好で入れる?」

「大丈夫。個室を予約してあるから。」

一番人気はランチにしか出さないハンバーグだ。めちゃくちゃ美味かった。
それに期間限定のいちごパフェも食べて大満足。ファミレスの何倍もするお会計だったが、京介さんが払ってくれた。
そのまま車で三十分ほど走って新しくできたショッピングモールに言った。
二人とも特に欲しいものはないのでぶらぶら見て回った。
優しくて楽しい京介さんとのデートは俺の傷だらけになってしまった心を癒やしてくれた。

「これからもこうして二人で会いたい。」

「うん。だって恋人のフリでしょ?」

「フリじゃなくて真剣に考えて欲しい。」

断る理由なんてなかった。
俺は頷いてそれを受け入れた。
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