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ふわりと頭を撫でられた。優しくて温かい手だった。
「辛かったね。」
また涙が出る。相良さんはずっと頭を撫でていてくれた。
しばらく泣いて落ち着くと、急に恥ずかしくなった。初対面で大泣きするなんて。顔が赤くなるのがわかる。
「ちょっと電話しても良い?」
笑顔で俺にスマホを見せた。俺が泣き止むのを待っていてくれたのだろうか。相良さんは目の前ですぐにどこかに電話し始めた。
仕事かな。
「あ、俺。美涼、別れよう。浮気してるんだろ?証拠はある。は?いや、いい。あとは弁護士を通すから。美涼の親には俺から言う。じゃあな。」
「へ?何ですか、今の。」
「ん?あぁ、美涼と別れた。」
別れた?こんな簡単に?だって婚約してたんだろ。テーブルに置かれたスマホには何度も着信が表示される。相良さんは電源を切ってしまった。
「そんな簡単に?だって婚約者じゃ…。」
「あぁ。俺たちもまだ番ってないからな。君だって別れたんだろ?」
何故か楽しそうだ?まさか相良さん、サイコパスとか…?楽しそうに微笑む彼をじっと見つめていた。
「ヒロ!」
急に俺の名前を呼ぶ声にビクッとなる。驚いて顔を上げるとすぐ横に航が立っていた。全く気が付かなかった。
「航…おまえ、何してんだよ。」
「外からヒロが見えて。その人誰?」
は?何でおまえがそんな事聞くんだよ。誰って…
「あぁ、君か…」
俺の前に座っていた相良さんが立ち上がり俺のソファー席に移動した。さっきまでの優しい雰囲気はなく、ぞわぞわするくらい冷たかった。
「俺は、そうだな、美涼の元婚約者だ。」
「えっ?」
途端に顔が青褪める。婚約者がいることを知っていたのだろうか?
「突っ立ってないで座ったら?」
航を顎で座るように促す。周りを見て航は大人しく座った。
「あ、ごめん。比呂くん。何も頼んでないね。何か食べる?飲み物は?」
俺にメニューを差し出す相良さんのさっきの優しい笑顔だった。そして何故か野村君から比呂君に進化している。
「あ、じゃあドリンクバーで。」
「何も食べないの?甘いものは苦手?」
「い、いえ。好きです。」
「美味しいいちごパフェの店を知ってるんだ。今度一緒に行こう。」
え?何で?俺と相良さんが?驚いて顔を見ると満面の笑顔だ。
「ヒ、ヒロ…。」
航が動揺して俺たちを見ている。
あ、そうか。相良さんは目の前の男に婚約者を寝取られたんだもんな。当てつけか。なるほど。
「はい。行きたいです。」
「本当?何時にする?明日は?」
「大丈夫です。」
笑顔で答えた。
「ふふ、可愛いな。」
蕩けるように笑って相良さんが俺の頭を撫でる。なかなかの役者っぷりだ。
その後ドリンクバーだけ注文して相良さんと二人でドリンクバーを取りに行った。
「何かすいません。気を使わせてしまって。」
「ん?何が?」
相変わらず優しい笑顔だ。
「で?どうするの?元カレ未練たらたらだね。しつこくよりを戻したがるかもしれない。」
「あ、そうですね。どうしよう。」
「うーん。そうだ、俺たち付き合う事にしたってどう?」
「俺と相良さんがですか?」
「うん。いいね。そうしよう。一目惚れって事で。ね?」
俺はしばらく考えた。
それでいいのかもしれない。俺の気持ちは変わらない。航とはもうダメだ。
「相良さんは良いんですか?別に相良さんは何も悪くないのに。」
「もちろんだよ。それに美涼のこと全く気が付かなかった訳じゃないんだ。分かってて放っておいた俺にも責任がある。家の都合でなかなか踏ん切りが付かなかったけど、比呂君のおかげだよ。
あと、付き合うんだから相良さんじゃなくて下の名前で呼んでよ。」
えっと、相良、何だっけ?
「くくっ、酷いな。覚えてないの?」
「すいません。頭に血が昇ってて。」
「京介だよ。」
「京介さん…。」
「うん。ほら、席に戻ろう。比呂君の元カレが睨んでる。」
態と耳元で囁いた。
さっきから相良さんは楽しそうだ。
俺と仲良くすることで航に復讐しているんだな。
席に戻る時も俺の背中に手を添えてくる。
席に戻った俺は俺の口から直接言ってやった。
「航、俺、京介さんと付き合うから。」
「京介さん…て?」
「俺だよ。お互いに一目惚れだ。」
な?と言って俺の頭を抱き寄せキスして来た。
びっくりしたけどこれは演技だ。
動揺を隠し笑顔で航を見た。青褪めて震えている。『そんな』とか『何で』とかぶつぶつ呟いているが知ったこっちゃない。京介さんは嬉しそうにキスをして時々匂いを嗅いでいる。
恥ずかしい…。臭くないよね?昨日風呂に入ったし。朝もシャワーぐらい浴びてくれば良かった。
「話も終わったし、そろそろ行こうか?」
俺たちは航を残して外へ出た。
「すいません。ごちそうさまでした。」
「全然。家どこ?車で来てるんだ。送るよ?」
うーん、さすがに車は…。
そんな俺の態度を見て京介さんが名刺をくれた。
代表取締役専務か、何かすごそうだな。
でも、送ってもらうのは悪いしな。それに何か忘れてる。
あ、そうだ夏樹!夏樹がいたんだ。忘れてた。すまん!
「あ、でも俺…。」
「あぁ、チラチラ見てた後ろの席のお友達?」
バレてる。おまえは探偵にはなれないな。
「はい。すいません。会うのはやっぱり怖くて…。」
すぐに外で待ってると夏樹にメッセージを送った。
三分もしないうちに出てきて、俺と京介さんを見てギョッとしていた。
「もうとっくにバレてる。」
夏樹は、はははと気まずそうに笑って頭を下げた。
連絡先を交換して俺たちと京介さんは解散した。
「辛かったね。」
また涙が出る。相良さんはずっと頭を撫でていてくれた。
しばらく泣いて落ち着くと、急に恥ずかしくなった。初対面で大泣きするなんて。顔が赤くなるのがわかる。
「ちょっと電話しても良い?」
笑顔で俺にスマホを見せた。俺が泣き止むのを待っていてくれたのだろうか。相良さんは目の前ですぐにどこかに電話し始めた。
仕事かな。
「あ、俺。美涼、別れよう。浮気してるんだろ?証拠はある。は?いや、いい。あとは弁護士を通すから。美涼の親には俺から言う。じゃあな。」
「へ?何ですか、今の。」
「ん?あぁ、美涼と別れた。」
別れた?こんな簡単に?だって婚約してたんだろ。テーブルに置かれたスマホには何度も着信が表示される。相良さんは電源を切ってしまった。
「そんな簡単に?だって婚約者じゃ…。」
「あぁ。俺たちもまだ番ってないからな。君だって別れたんだろ?」
何故か楽しそうだ?まさか相良さん、サイコパスとか…?楽しそうに微笑む彼をじっと見つめていた。
「ヒロ!」
急に俺の名前を呼ぶ声にビクッとなる。驚いて顔を上げるとすぐ横に航が立っていた。全く気が付かなかった。
「航…おまえ、何してんだよ。」
「外からヒロが見えて。その人誰?」
は?何でおまえがそんな事聞くんだよ。誰って…
「あぁ、君か…」
俺の前に座っていた相良さんが立ち上がり俺のソファー席に移動した。さっきまでの優しい雰囲気はなく、ぞわぞわするくらい冷たかった。
「俺は、そうだな、美涼の元婚約者だ。」
「えっ?」
途端に顔が青褪める。婚約者がいることを知っていたのだろうか?
「突っ立ってないで座ったら?」
航を顎で座るように促す。周りを見て航は大人しく座った。
「あ、ごめん。比呂くん。何も頼んでないね。何か食べる?飲み物は?」
俺にメニューを差し出す相良さんのさっきの優しい笑顔だった。そして何故か野村君から比呂君に進化している。
「あ、じゃあドリンクバーで。」
「何も食べないの?甘いものは苦手?」
「い、いえ。好きです。」
「美味しいいちごパフェの店を知ってるんだ。今度一緒に行こう。」
え?何で?俺と相良さんが?驚いて顔を見ると満面の笑顔だ。
「ヒ、ヒロ…。」
航が動揺して俺たちを見ている。
あ、そうか。相良さんは目の前の男に婚約者を寝取られたんだもんな。当てつけか。なるほど。
「はい。行きたいです。」
「本当?何時にする?明日は?」
「大丈夫です。」
笑顔で答えた。
「ふふ、可愛いな。」
蕩けるように笑って相良さんが俺の頭を撫でる。なかなかの役者っぷりだ。
その後ドリンクバーだけ注文して相良さんと二人でドリンクバーを取りに行った。
「何かすいません。気を使わせてしまって。」
「ん?何が?」
相変わらず優しい笑顔だ。
「で?どうするの?元カレ未練たらたらだね。しつこくよりを戻したがるかもしれない。」
「あ、そうですね。どうしよう。」
「うーん。そうだ、俺たち付き合う事にしたってどう?」
「俺と相良さんがですか?」
「うん。いいね。そうしよう。一目惚れって事で。ね?」
俺はしばらく考えた。
それでいいのかもしれない。俺の気持ちは変わらない。航とはもうダメだ。
「相良さんは良いんですか?別に相良さんは何も悪くないのに。」
「もちろんだよ。それに美涼のこと全く気が付かなかった訳じゃないんだ。分かってて放っておいた俺にも責任がある。家の都合でなかなか踏ん切りが付かなかったけど、比呂君のおかげだよ。
あと、付き合うんだから相良さんじゃなくて下の名前で呼んでよ。」
えっと、相良、何だっけ?
「くくっ、酷いな。覚えてないの?」
「すいません。頭に血が昇ってて。」
「京介だよ。」
「京介さん…。」
「うん。ほら、席に戻ろう。比呂君の元カレが睨んでる。」
態と耳元で囁いた。
さっきから相良さんは楽しそうだ。
俺と仲良くすることで航に復讐しているんだな。
席に戻る時も俺の背中に手を添えてくる。
席に戻った俺は俺の口から直接言ってやった。
「航、俺、京介さんと付き合うから。」
「京介さん…て?」
「俺だよ。お互いに一目惚れだ。」
な?と言って俺の頭を抱き寄せキスして来た。
びっくりしたけどこれは演技だ。
動揺を隠し笑顔で航を見た。青褪めて震えている。『そんな』とか『何で』とかぶつぶつ呟いているが知ったこっちゃない。京介さんは嬉しそうにキスをして時々匂いを嗅いでいる。
恥ずかしい…。臭くないよね?昨日風呂に入ったし。朝もシャワーぐらい浴びてくれば良かった。
「話も終わったし、そろそろ行こうか?」
俺たちは航を残して外へ出た。
「すいません。ごちそうさまでした。」
「全然。家どこ?車で来てるんだ。送るよ?」
うーん、さすがに車は…。
そんな俺の態度を見て京介さんが名刺をくれた。
代表取締役専務か、何かすごそうだな。
でも、送ってもらうのは悪いしな。それに何か忘れてる。
あ、そうだ夏樹!夏樹がいたんだ。忘れてた。すまん!
「あ、でも俺…。」
「あぁ、チラチラ見てた後ろの席のお友達?」
バレてる。おまえは探偵にはなれないな。
「はい。すいません。会うのはやっぱり怖くて…。」
すぐに外で待ってると夏樹にメッセージを送った。
三分もしないうちに出てきて、俺と京介さんを見てギョッとしていた。
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夏樹は、はははと気まずそうに笑って頭を下げた。
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