オメガの秘薬

みこと

文字の大きさ
5 / 20

5

しおりを挟む
ふわりと頭を撫でられた。優しくて温かい手だった。

「辛かったね。」

また涙が出る。相良さんはずっと頭を撫でていてくれた。
しばらく泣いて落ち着くと、急に恥ずかしくなった。初対面で大泣きするなんて。顔が赤くなるのがわかる。

「ちょっと電話しても良い?」

笑顔で俺にスマホを見せた。俺が泣き止むのを待っていてくれたのだろうか。相良さんは目の前ですぐにどこかに電話し始めた。
仕事かな。

「あ、俺。美涼、別れよう。浮気してるんだろ?証拠はある。は?いや、いい。あとは弁護士を通すから。美涼の親には俺から言う。じゃあな。」

「へ?何ですか、今の。」

「ん?あぁ、美涼と別れた。」

別れた?こんな簡単に?だって婚約してたんだろ。テーブルに置かれたスマホには何度も着信が表示される。相良さんは電源を切ってしまった。

「そんな簡単に?だって婚約者じゃ…。」

「あぁ。俺たちもまだ番ってないからな。君だって別れたんだろ?」

何故か楽しそうだ?まさか相良さん、サイコパスとか…?楽しそうに微笑む彼をじっと見つめていた。



「ヒロ!」

急に俺の名前を呼ぶ声にビクッとなる。驚いて顔を上げるとすぐ横に航が立っていた。全く気が付かなかった。

「航…おまえ、何してんだよ。」

「外からヒロが見えて。その人誰?」

は?何でおまえがそんな事聞くんだよ。誰って…

「あぁ、君か…」

俺の前に座っていた相良さんが立ち上がり俺のソファー席に移動した。さっきまでの優しい雰囲気はなく、ぞわぞわするくらい冷たかった。

「俺は、そうだな、美涼の元婚約者だ。」

「えっ?」

途端に顔が青褪める。婚約者がいることを知っていたのだろうか?

「突っ立ってないで座ったら?」

航を顎で座るように促す。周りを見て航は大人しく座った。

「あ、ごめん。比呂くん。何も頼んでないね。何か食べる?飲み物は?」

俺にメニューを差し出す相良さんのさっきの優しい笑顔だった。そして何故か野村君から比呂君に進化している。

「あ、じゃあドリンクバーで。」

「何も食べないの?甘いものは苦手?」

「い、いえ。好きです。」

「美味しいいちごパフェの店を知ってるんだ。今度一緒に行こう。」

え?何で?俺と相良さんが?驚いて顔を見ると満面の笑顔だ。

「ヒ、ヒロ…。」

航が動揺して俺たちを見ている。
あ、そうか。相良さんは目の前の男に婚約者を寝取られたんだもんな。当てつけか。なるほど。

「はい。行きたいです。」

「本当?何時にする?明日は?」

「大丈夫です。」

笑顔で答えた。

「ふふ、可愛いな。」

蕩けるように笑って相良さんが俺の頭を撫でる。なかなかの役者っぷりだ。

その後ドリンクバーだけ注文して相良さんと二人でドリンクバーを取りに行った。

「何かすいません。気を使わせてしまって。」

「ん?何が?」

相変わらず優しい笑顔だ。

「で?どうするの?元カレ未練たらたらだね。しつこくよりを戻したがるかもしれない。」

「あ、そうですね。どうしよう。」

「うーん。そうだ、俺たち付き合う事にしたってどう?」

「俺と相良さんがですか?」

「うん。いいね。そうしよう。一目惚れって事で。ね?」

俺はしばらく考えた。
それでいいのかもしれない。俺の気持ちは変わらない。航とはもうダメだ。

「相良さんは良いんですか?別に相良さんは何も悪くないのに。」

「もちろんだよ。それに美涼のこと全く気が付かなかった訳じゃないんだ。分かってて放っておいた俺にも責任がある。家の都合でなかなか踏ん切りが付かなかったけど、比呂君のおかげだよ。
あと、付き合うんだから相良さんじゃなくて下の名前で呼んでよ。」

えっと、相良、何だっけ?

「くくっ、酷いな。覚えてないの?」

「すいません。頭に血が昇ってて。」

「京介だよ。」

「京介さん…。」

「うん。ほら、席に戻ろう。比呂君の元カレが睨んでる。」

態と耳元で囁いた。
さっきから相良さんは楽しそうだ。
俺と仲良くすることで航に復讐しているんだな。
席に戻る時も俺の背中に手を添えてくる。

席に戻った俺は俺の口から直接言ってやった。

「航、俺、京介さんと付き合うから。」

「京介さん…て?」

「俺だよ。お互いに一目惚れだ。」

な?と言って俺の頭を抱き寄せキスして来た。
びっくりしたけどこれは演技だ。
動揺を隠し笑顔で航を見た。青褪めて震えている。『そんな』とか『何で』とかぶつぶつ呟いているが知ったこっちゃない。京介さんは嬉しそうにキスをして時々匂いを嗅いでいる。
恥ずかしい…。臭くないよね?昨日風呂に入ったし。朝もシャワーぐらい浴びてくれば良かった。

「話も終わったし、そろそろ行こうか?」

俺たちは航を残して外へ出た。

「すいません。ごちそうさまでした。」

「全然。家どこ?車で来てるんだ。送るよ?」

うーん、さすがに車は…。
そんな俺の態度を見て京介さんが名刺をくれた。
代表取締役専務か、何かすごそうだな。
でも、送ってもらうのは悪いしな。それに何か忘れてる。
あ、そうだ夏樹!夏樹がいたんだ。忘れてた。すまん!

「あ、でも俺…。」

「あぁ、チラチラ見てた後ろの席のお友達?」

バレてる。おまえは探偵にはなれないな。

「はい。すいません。会うのはやっぱり怖くて…。」

すぐに外で待ってると夏樹にメッセージを送った。
三分もしないうちに出てきて、俺と京介さんを見てギョッとしていた。

「もうとっくにバレてる。」

夏樹は、はははと気まずそうに笑って頭を下げた。
連絡先を交換して俺たちと京介さんは解散した。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

運命よりも先に、愛してしまった

AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。 しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、 2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。 その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

当たり前の幸せ

ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。 初投稿なので色々矛盾などご容赦を。 ゆっくり更新します。 すみません名前変えました。

花いちもんめ

月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。 ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。 大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。 涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。 「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...