オメガの秘薬

みこと

文字の大きさ
14 / 20

13 最終話

しおりを挟む
「そっか。岩澤が一番の被害者なのかもな。アルファにとって自分の大事なオメガと引き裂かれるほど辛い事はないよ。」

夏樹に航のことを話した。夏樹は引くことなくしんみりと言った。

「うん。京介さんだってそう。最後は泣いてた。」

「比呂だってぶっ倒れるくらい悩んだんだろ?」

「まあな。でも今でも何が正解なのかわかんない。」

「過去は変えられないからな。もう未来を見るしかねーよ。」

「そうだな。」

過去は変えられない。失った時間も戻らない。
美涼が何であんなことをしたのかはこれからの裁判で明らかになるはず。
この罪はどのくらいの重さになるのだろう。

俺たちが失ったものは大きい。でもこれから先そればかりに囚われていたら前に進めない。
これを糧に幸せにならなければ。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


「そう言えば夏樹も美涼のこと殺してやりてーって言ってた。」

ヒレカツを食べながら航に言った。いつものファミレスだ。

「あはは。でもナイフ持って裁判所には行かないよね。」

航は笑いながらハンバーグを切ったナイフを俺に見せる。

「まあな。」

俺と航は時々こうやって会うようになった。
美涼の事も話をするようにしている。
言いたい事を言わずに溜め込んでも良い事はない。我慢すれば必ず歪みが生まれる。
航とのことは京介さんにもメールで伝えた。『そうか』とだけ返信があった。

たまにこうして会って、電話したりメッセージを送り合ったりしている。
航からは好きだとか、よりを戻したいとか何も言われていない。俺からも何も言わない。半年くらいこうしている。
オメガの秘薬で俺たちが受けた傷はあまりにも大きすぎた。
今、少しづつ傷を癒している。
最初はぎこちなかったけど昔みたいに話が出来るようになった。


「うー寒い。今年は雪が多いって。」

食べ終わって二人でファミレスの外に出た。
もう十二月だ。雪が降りそうな空だな。

「ヒロ、クリスマス一緒に過ごしたい。」

突然、航が言った。
きっと、ずっと考えていたんだ。何だかそわそわして様子がおかしかったもんな。いつ言おうか考えてだんだ。

「うん。航。友達からでお願いします。」

高校一年の五月、俺は航にこう言ったのだ。

『友達からでお願いします』

航は一瞬驚いた顔をしたけど破顔して頷いた。


~fin.~


最後までお読みいただきありがとうございました。
まさかこんなに暗い話になるとは…。
ラブコメのハピエンが好きなのに(>_<)と思いながら書いておりました。
番外編がありますのでもう少しお付き合いください。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

上手に啼いて

紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。 ■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。

花いちもんめ

月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。 ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。 大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。 涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。 「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。

巣作りΩと優しいα

伊達きよ
BL
αとΩの結婚が国によって推奨されている時代。Ωの進は自分の夢を叶えるために、流行りの「愛なしお見合い結婚」をする事にした。相手は、穏やかで優しい杵崎というαの男。好きになるつもりなんてなかったのに、気が付けば杵崎に惹かれていた進。しかし「愛なし結婚」ゆえにその気持ちを伝えられない。 そんなある日、Ωの本能行為である「巣作り」を杵崎に見られてしまい……

やっぱり、すき。

朏猫(ミカヅキネコ)
BL
ぼくとゆうちゃんは幼馴染みで、小さいときから両思いだった。そんなゆうちゃんは、やっぱりαだった。βのぼくがそばいいていい相手じゃない。だからぼくは逃げることにしたんだ――ゆうちゃんの未来のために、これ以上ぼく自身が傷つかないために。

巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】

晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。 発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。 そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。 第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。

処理中です...