オメガの秘薬

みこと

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番外編:航

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「ケーキとチキンがあれはいいだろ。」

「うん。あとヒロ。」

「何それ。」

「一番大事だよ。あ、親父が行きつけの店の寿司をテイクアウトしてくれるって。」

俺はスマホのメッセージを見ながらヒロに言った。嬉しそうに笑って俺を見てくれる。

ヒロと別れて三年。またこんな日が来るなんて思わなかった。高校二年のあの日、俺は全てを失った。あんなに好きだったヒロを裏切った自分が許せないし、何であんなことになってしまったのか分からなかった。
美涼の誘惑に負けたバカな俺。
ずっとそう思って生きてきた。
ヒロに新しい恋人ができたことも知っていたけどどうすることもできなかった。

高三の夏の終わりに警察が来た。
その時にオメガの秘薬のことを初めて知った。
愕然とした。
ヒロを好きなのに何故拒めなかったのかが分かった。
すぐにヒロに伝えないと。ヒロの家の前まで来た時ヒロとあの男が楽しそうに出かけるのを見た。
言ってどうする?オメガの秘薬のせいだと知ったらヒロはどう思う?
ヒロはそれで幸せになれるのか?
俺がヒロとよりを戻したいだけだ。ヒロを混乱させ悲しませるだけかもしれない。
俺は何も言わずに家に帰った。

あとは遠くからヒロを見る日々だった。
あの男と上手く行っているようだ。学校に迎えに来ているところをよく見かける。
もう失った時間は戻らない。
俺とヒロはもう戻れないんだ。

ヒロは大学に合格した。
良かった。
俺も合格した。大学は別々だ。
これでもうヒロを見ることもできない。

未練がましくヒロの大学の近くのマンションに引っ越した。
親父が投資で買ったものだ。
前のマンションより狭いがそこに住みたいと頼んだ。
たまに駅のホームで見かける。
本当にたまにだ。
でもそれでもいい。それで充分だ。

美涼が捕まったと兄貴から聞いた。
家族は俺に起こったことを知っている。
デカいニュースになると興奮していた。兄貴の言った通りニュースはその話題で持ちきりだ。
俺は画面に映る美涼を眺めていた。
面白かったか?子どもだから手玉に取るのなんて簡単だったたろ?初めて殺意というものを知った。

あの駅のホームでヒロに声をかけられた。
数年ぶりに聞く『航』。それだけで身体が痺れた。
隣にいた従兄弟を見て驚いた顔をして逃げてしまった。
思わず走って追いかける。
ヒロにちゃんと謝れた。
良かった。声をかけてくれてありがとう。
その後もヒロから連絡はなかった。
でもいい。
『航』
俺の名前を呼ぶヒロの声を思い出す。
もう手に入らない柔らかなヒロの声。

美涼の裁判が始まる。
刑期は対して重くもないだろう。懲役三から五年てところか。
そんなもんか。俺の人生を壊しておいて。
その時しかない。出廷した美涼を…。
俺の人生を奪った美涼を殺してやりたい。

裁判所前はすごい人の数だった。
俺は被害者として傍聴席が確保されている。
マスコミや傍聴希望の人たちの間をすり抜けて行く。
その時ふわりとあの匂いがした。
ヒロの匂いだ。
周りを探すとヒロの後ろ姿が見えた。 
ヒロも見に来たのか。
思わず駆け寄って腕を掴んだ。
ヒロだ…。ヒロ。
ヒロの匂いを嗅いで目が覚めたような気がした。
ヒロと一緒に帰ることにした。
その時ヒロにナイフを見せた。美涼を殺そうとしたことも言った。ヒロは引いたりしなかった。
許して欲しいと、俺に許して欲しいと言った。

それから俺たちは少しずつ連絡を取り合っている。食事をしたりすることもある。
ヒロはあの男と別れたようだ。何があったかは聞かない。酷く辛そうな顔をするからだ。

ヒロが好きだ。ヒロ以外考えられない。
またいつか受け入れて欲しい。焦らす距離を縮めて行こう。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


ヒロとクリスマスを過ごせることになった。
嬉しくてそれ以外のことに集中できなかった。

「航、これ。」

「ん?何?」

「一応、クリスマスだからな。」

ヒロが赤と緑の紙袋をくれた。
え?プレゼント?めちゃくちゃ嬉しい。

「開けていい?」

「うん。大したものじゃないけど。」

俺が好きなスポーツブランドのジャージだった。

「ありがとう。すごく嬉しい。もったいなくて着れないよ…。」

ジャージに顔を埋めている。じゃないと泣きそうだ。

「ちゃんと使ってよ。」

「うん。これ、俺からもプレゼント。」

ありきたりだけど財布をあげた。毎日持つものが良かったから。
ヒロはすごく喜んでくれてほっとした。

プレゼント交換も済んで食事も食べ終えた。
ドキドキしながらヒロに聞いた。

「今日、どうする?」

「……。」

帰るのかな。
少し残念だけど送っていこう。ヒロに無理させたくない。

「送るよ。」

「うん。あのさ、…泊まっても良い?」

一瞬何を言ったのか分からなかった。
ヒロは小さい声で俯いていた。

「…うん。もちろんだよ。えっとそうだ!パジャマ、俺ので良い?あと、歯ブラシと、えっと、えっと…。」

何を言ったのか理解してかなり動揺している。
ヤバい。落ち着け、俺。
俯いているヒロの表情は分からない。うやむやな関係にしたくないし、なし崩しも嫌だ。
俺はひろをぎゅっと抱きしめた。

「ヒロ、大好きだ。」

何て言えば良いんだろう。上手い言葉が見つからない。
大好き…。ヒロ、大好きだよ。

「うん…。俺も。」

「大好き。ヒロ、ヒロ…。」

さらにキツく抱きしめた。
『俺も』
ダメだ涙が勝手に出てくる。

「泣くなよ。」

「うんうん。ごめん。」


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


緊張する…。
何処で待っていれば良いんだろ。寝室?リビング?

先に俺がシャワー浴びた。ヒロが出てくるのを待ってるんだけど、落ち着かない。部屋の中をうろうろしている。

「航、パジャマありがと。デカいけど。」

結局リビングで待っていた。俺のパジャマを着たヒロがシャワーから出てきた。
ぶかぶかのパジャマ…。可愛い。
前に座ってもらいヒロの髪の毛をドライヤーで乾かす。
柔らかくて滑らかな髪だ。

「ありがとう。」

「どういたしまして。」

「……。」

「……。」

緊張する。何か話さないと。

「もう寝る?」

俺の前に座っているヒロが振り向きながら言った。

「うん。」

手を繋いで寝室まで行きベッドに入って抱きしめた。
はぁ…。暖かくて柔らかくて良い匂いだ。俺の大好きな匂い。

「…ヒロ。」

「うん?」

ちゅっ
こっちを向いたヒロにキスをした。

「ヒロ、大好き。」

「ん、俺も。航、良い匂い。」

ヒロの上に覆い被さった。何度も何度もキスをする。

「泣くなよ、航。」

「え?本当だ。」

また勝手に涙が流れていた。
ヒロがぎゅっと抱きついてくる。俺も抱きしめ返した。

ヒロの身体中にキスをする。ヒロは可愛く身を捩った。

「あ、あぁ、ん、航…。」

「ヒロ、可愛い…。」

後ろも舌と指で丁寧に解す。ヒロは何回かイったようだ。

「ヒロ、良い?」

「うん…。」

少しずつゆっくりヒロの中に埋めていく。

「あ、あ、あ、あぁ、航っ!航っ!好きっ!」

「ん、ヒロ、好き。はぁ、気持ちいい…。」

とろんと溶けたヒロの顔を見て激しく中を突いた。

「航、航、あっ、航ーーっ!」

「ヒロ、好き、イくっ!うぅ!」

俺にぎゅっとしがみついてヒロが達した。
その締め付けに俺もヒロの中でイった。




寝息を立てるヒロを見つめる。汗で前髪が額に張り付いている。そっとタオルで汗を拭いてやった。
嬉しくて興奮して続けて三回もしてしまった。
ヒロは気を失うように寝た。

「ヒロ。大好き。ずっと一緒だよ。」

眠るヒロにキスをした。
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