みにくいオメガの子

みこと

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真紘

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「結局フラれたんですね?」

祐一さんが悲壮感を漂わせて座っている。
トシくんのマンションに急にやって来た。由紀とのデートのあとらしい。

「考えたいって。はぁー。ダメってこと?」

「良いかもしれないだろ?」

トシくんが励ましている。

「そんな顔してなかった。」

「まぁ、仕方ないんじゃないですか?」

落ち込んでいる祐一さんに追い打ちをかけるように冷たく言った。
由紀は傷ついているんだ。アルファも少し反省した方が良い。

「真紘、そんな言い方したら祐一がかわいそうだろ?」

「え?だってそうでしょ。はっきり言ってトシくんもだからね。」

何かムカつくな。アルファだから自分たちは選べる立場だと思っているんだろう。

「俺も?」

「そうだよ。僕はあれだけ由紀はいいやつだって言ってたよね?それなのにトシくんの態度だって誉められたものじゃないよ。それについて由紀は一言も文句を言わなかった。フェロモンが変わっただけで可愛いとか言って誉めたりして。結局見た目だけだろ?」

トシくんがびっくりしている。こんなに怒ったことは今までないからな。でもこの際だから言わせてもらおう。

「いや、それは…。」

「僕も少し考えさせて。」

「え?何を?」

「トシくんと番いになることだよ。」

「え、そんな…。真紘。ごめん、ごめんなさい。」

オメガは一度番ってしまえば取り消すことは出来ない。僕ももっと真剣に考えよう。きちんとした人を選ぶんだ。

「由紀は大事な友達だ。僕は由紀を選ぶよ。友達を傷付けるやつとは付き合えない。」

そう、由紀は大事な友達なんだ。
僕は番い候補が見つかって浮かれていた。

高校一年の頃、いじめに合っていた僕に手を差し伸べてくれたのは由紀だ。いじめの理由はなんて事ない。すごく人気のあった隣の学校のアルファが僕を気に入ってアプローチしてきたからだ。みんなに無視されてすごく辛かった。でも由紀だけは違った。普段と変わらず話しかけてくれた。

「由紀は他のオメガより思慮深いんだ。普通のオメガなら祐一さんに迫られれば尻尾振って喜ぶよ。でも由紀は違う。相手がお金持ちだとか有名人だとかそんなの関係ない。ちゃんと自分自身を見てくれるアルファを探しているんだ。祐一さんは由紀が尻尾振って喜ぶと思ってたんでしょ?」

「それは…。」

祐一さんが沈んでいる。

「由紀はいつだって公平な人間だよ。相手でコロコロ態度を変えたりしない。」

祐一さんはさらに沈んで目が潤んでいる。
隣でトシくんは真っ青な顔をして震えている。
選ぶのは君たちじゃない。オメガがアルファを選ぶんだ。

「真紘…俺と番いにならないってこと?」

「考えるって言ってるんだ。祐一さん、由紀が良いんならそれなりの誠意を見せてよ。トシくんも。僕が迷いなく番いになりたいと思わせて。」

大きな身体の二人は小さくなって項垂れていた。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


「えーっ?そんなこと言ったの?」

「うん。いい気味だよ。自分たちが一番偉いと思ってるんだから。」

月曜日、学校の昼休みに由紀に祐一さんとトシくんに啖呵を切った事を報告した。
すごい驚いている。

「ト、トシくんは?」

「祐一さんが帰ったあと、すごく謝ってきた。泣いて土下座してたよ。番いになって下さいって。」

そう。トシくんは大泣きしていた。
でも由紀が受けたショックに比べたら。
これでダメになるならそれでも良い。またいちからお見合いでもすれば良いんだ。

「仲直りしなよ。二人はお似合いだよ。」

「トシくん次第かな。今まで嫌な思いさせてごめんな。由紀は?どうするの?祐一さんの事。」

「どうしよう。悪い人じゃないんだ。」

「日曜日のお見合いは?」

「うん。すごかった。ぐいぐい来た。」

「はぁー、やっぱりね。ヒートさえ何とかなれば番いになんてならないかも。」

とにかくヒートが辛いのだ。年を重ねるごとにヒートは重くなる。この間初めてヒートをトシくんと迎えた。もちろんネックガードは付けていたけど。すごく楽だった。三日で終わった。普段は一週間ぐらい続くのに。トシくんはいろいろ世話を焼いてくれて僕の気が済むまでセックスしてくれた。

「それなんだけど、何か良い薬が認可されたって。欧米ではとっくに使われている薬なんだって。オメガのヒートがほとんどなくなる薬。」

ヒートがなくなる?そんな夢見たいな薬があるの?
由紀がスマホでバース医療センターからのメールを見せてくれる。新薬の紹介の中にその薬の説明があった。

「でも、副作用は?」

「欧米では五年前から使われているけど問題ないって。僕が使ってた薬がダメだっただろ?だから急きょ認可されるみたい。」

そんな薬が認可されたらアルファとオメガのパワーバランスは崩れるな。でもそれで良いのかもしれない。
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