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「由紀くん!」
家を出ると待っていた祐一さんにすぐに声をかけられた。
今日は映画を観に行く。真紘から嫌ならいつでも断れるから、とにかく何回か会ってみたらどうかと言われた。
これで五回目のデートだ。普通のアルファとオメガならとっくに身体の関係になっている。五回も会ってプラトニックなカップルは居ないだろう。
アルファは性欲と独占欲が強いからだ。好きなオメガにはマーキングしたくて堪らなくなるらしい。
「何飲む?俺が買ってくるから席に座ってて。」
「じゃあオレンジジュースで。」
売店は長蛇の列だ。祐一さんはここに並んでくれるのか。
「食べ物は?」
「いえ、大丈夫です。よろしくお願いします。」
ペコリと頭を下げるとスッと頭に手が伸びて来た。撫でられるのかな、と身構えると手は空を切って引っ込んだ。
「どういたしまして。」
にこりと微笑む祐一さんを残して三番シアターと書かれた部屋に入った。
「えっと、席は…。」
チケットの番号を見ながら席を探す。まだそんなにお客さんは入っていない。キョロキョロしていると声をかけられた。
「席を探してるの?一人?」
背の高いアルファだ。祐一さんが居ないから声をかけて来たんだ。
「いえ、あの…。」
「あれ?君、この間本屋にいた子だよね?」
え?と思い顔を見る。うーん、思い出せない。あの時はびっくりしたし、すぐに逃げたからな。
「やっぱりそうだ。こんな所で会えるなんて嬉しいな。」
にこにこしながら距離を詰めてくる。
「一人じゃないです。」
「ふーん。でもアルファの匂いはしない。」
匂い…。やっぱりアルファは同士なら分かる匂いがあるんだ。
「この後食事でもどう?美味しい焼き肉食べに行かない?」
その人は僕の肩を抱いて来た。怖くて身体が固まる。顔を覗き込んできた。え?キスされる!
「おい、俺の連れに何の用だ。」
グイッと腕を引かれて祐一さんの腕の中にすっぽり包まれた。
「ふぅーー。」
やっと息が出来る。
「大丈夫?ごめんね、一人にして。」
優しく僕に声をかけてギロっと相手を睨むと僕を隠すようにしてその男から離れた。男は何か言っていたが良く聞き取れなかった。
僕の席は柔らかいソファーのカップルシートだった。そこに僕を座らせて背中を撫でてくれる。
「本当に大丈夫?」
「はい。ちょっとびっくりしただけです。」
「そうか。さっきの男は知り合い?」
たぶん、退院したあと本屋で声をかけて来た人だろう。でも四人いたし。あ、トイレで声をかけて来た人とは違うな。あの人は金髪に近い髪の色だった。
その事を祐一さんに話すと何故か顔が青ざめていった。
「え?四人も?」
「はい。」
ふっと会場が暗くなった。上映時間だ。
ソファーに座り直してスクリーンを見た。初めてカップルシートに座ったけどすごく座りやすい。ゆったりとした気持ちで映画が観られる。
映画の内容もなかなか面白く、あっという間の三時間だった。
夕食は祐一さんが店をを予約してくれていた。小さな個室の料理屋だ。L字型のソファーになっていてカップル専用といった感じた。映画のカップルシートといい、この個室といい、祐一さんのアプローチがすごい。
席に座って適当に注文する。僕はもちろんノンアルコールだ。祐一さんも車なので二人でノンアルコールを注文した。
「良くナンパされるの?」
グレープフルーツとキウイフルーツを混ぜたノンアルコールドリンクを飲んでいると祐一さんが神妙な面持ちで聞いて来た。
あ、さっきのか。
「薬が抜けてからは良く声をかけられます。母親にはぼーっとしてるからだって言われました。」
「いや、可愛いからだよ。ところでネックガードは付けないの?」
「今までつけた事なかったし、急に付けたら自意識過剰だと思われるかも。」
それよりも家にネックガードがなかったのだ。ひとつあったはずのそれは古くて母に捨てられていた。なんでも、金具のところが錆びていたらしい。
「えっ?そんな事ないよ。ていうか付けた方が良い。何かあってからじゃ遅いよ。」
僕はスマホを取り出してネックガードを検索した。買おうとは思っていていくつか候補があるのだ。でもよく分からないのでそのまま保留にしていた。
「どれがいいと思います?」
祐一さんに画面を見せながら聞いてみた。
一瞬驚いていたみたいだけどすぐに画面に目を向けた。
「ネックガード持ってないの?」
「ひとつあったんですけど、古くて母に捨てられてました。」
「一個もないの?それは困るよ。」
何故か祐一さんがすごく焦っている。
「母に相談して決めます。」
スマホをしまうと祐一さんはブツブツ何かを言っていた。
家を出ると待っていた祐一さんにすぐに声をかけられた。
今日は映画を観に行く。真紘から嫌ならいつでも断れるから、とにかく何回か会ってみたらどうかと言われた。
これで五回目のデートだ。普通のアルファとオメガならとっくに身体の関係になっている。五回も会ってプラトニックなカップルは居ないだろう。
アルファは性欲と独占欲が強いからだ。好きなオメガにはマーキングしたくて堪らなくなるらしい。
「何飲む?俺が買ってくるから席に座ってて。」
「じゃあオレンジジュースで。」
売店は長蛇の列だ。祐一さんはここに並んでくれるのか。
「食べ物は?」
「いえ、大丈夫です。よろしくお願いします。」
ペコリと頭を下げるとスッと頭に手が伸びて来た。撫でられるのかな、と身構えると手は空を切って引っ込んだ。
「どういたしまして。」
にこりと微笑む祐一さんを残して三番シアターと書かれた部屋に入った。
「えっと、席は…。」
チケットの番号を見ながら席を探す。まだそんなにお客さんは入っていない。キョロキョロしていると声をかけられた。
「席を探してるの?一人?」
背の高いアルファだ。祐一さんが居ないから声をかけて来たんだ。
「いえ、あの…。」
「あれ?君、この間本屋にいた子だよね?」
え?と思い顔を見る。うーん、思い出せない。あの時はびっくりしたし、すぐに逃げたからな。
「やっぱりそうだ。こんな所で会えるなんて嬉しいな。」
にこにこしながら距離を詰めてくる。
「一人じゃないです。」
「ふーん。でもアルファの匂いはしない。」
匂い…。やっぱりアルファは同士なら分かる匂いがあるんだ。
「この後食事でもどう?美味しい焼き肉食べに行かない?」
その人は僕の肩を抱いて来た。怖くて身体が固まる。顔を覗き込んできた。え?キスされる!
「おい、俺の連れに何の用だ。」
グイッと腕を引かれて祐一さんの腕の中にすっぽり包まれた。
「ふぅーー。」
やっと息が出来る。
「大丈夫?ごめんね、一人にして。」
優しく僕に声をかけてギロっと相手を睨むと僕を隠すようにしてその男から離れた。男は何か言っていたが良く聞き取れなかった。
僕の席は柔らかいソファーのカップルシートだった。そこに僕を座らせて背中を撫でてくれる。
「本当に大丈夫?」
「はい。ちょっとびっくりしただけです。」
「そうか。さっきの男は知り合い?」
たぶん、退院したあと本屋で声をかけて来た人だろう。でも四人いたし。あ、トイレで声をかけて来た人とは違うな。あの人は金髪に近い髪の色だった。
その事を祐一さんに話すと何故か顔が青ざめていった。
「え?四人も?」
「はい。」
ふっと会場が暗くなった。上映時間だ。
ソファーに座り直してスクリーンを見た。初めてカップルシートに座ったけどすごく座りやすい。ゆったりとした気持ちで映画が観られる。
映画の内容もなかなか面白く、あっという間の三時間だった。
夕食は祐一さんが店をを予約してくれていた。小さな個室の料理屋だ。L字型のソファーになっていてカップル専用といった感じた。映画のカップルシートといい、この個室といい、祐一さんのアプローチがすごい。
席に座って適当に注文する。僕はもちろんノンアルコールだ。祐一さんも車なので二人でノンアルコールを注文した。
「良くナンパされるの?」
グレープフルーツとキウイフルーツを混ぜたノンアルコールドリンクを飲んでいると祐一さんが神妙な面持ちで聞いて来た。
あ、さっきのか。
「薬が抜けてからは良く声をかけられます。母親にはぼーっとしてるからだって言われました。」
「いや、可愛いからだよ。ところでネックガードは付けないの?」
「今までつけた事なかったし、急に付けたら自意識過剰だと思われるかも。」
それよりも家にネックガードがなかったのだ。ひとつあったはずのそれは古くて母に捨てられていた。なんでも、金具のところが錆びていたらしい。
「えっ?そんな事ないよ。ていうか付けた方が良い。何かあってからじゃ遅いよ。」
僕はスマホを取り出してネックガードを検索した。買おうとは思っていていくつか候補があるのだ。でもよく分からないのでそのまま保留にしていた。
「どれがいいと思います?」
祐一さんに画面を見せながら聞いてみた。
一瞬驚いていたみたいだけどすぐに画面に目を向けた。
「ネックガード持ってないの?」
「ひとつあったんですけど、古くて母に捨てられてました。」
「一個もないの?それは困るよ。」
何故か祐一さんがすごく焦っている。
「母に相談して決めます。」
スマホをしまうと祐一さんはブツブツ何かを言っていた。
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