みにくいオメガの子

みこと

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「由紀、大丈夫?」

「うん…。なんとか。」

頭がぼーっとして授業が身に入らなかった。
真紘が言うには千聖さんがフェロモンを使ったらしい。頭がぼーっとして身体が熱い。でもだいぶ元に戻ってきた。

「トシくんに頼んで祐一さん呼んだから。」

「え?」

真紘の顔を見るとかなり怒っているのが分かる。

「由紀!」

祐一さんとトシくんが走ってきた。

「祐一さん…。僕…」

「うん。大丈夫だよ。送ってくから帰ろう。」

祐一さんは僕を抱えるようにして歩き出した。

「由紀、また明日ね。祐一さん、よろしくお願いします。」

「あぁ。連絡ありがとう。」

『よろしくお願いします』って。お母さんみたいだ。
そのまま歩いて近くのパーキングに停めてある祐一さんの車に乗せられた。

「由紀、大丈夫?何か飲む?」

小さく首を振った。
祐一さんは心配そうに僕の顔を覗き込んでいる。

「真紘がフェロモンて…。」

「そうみたいだね。クソッ!あ、ごめん。」

「ごめんなさい。」

「いや、由紀は悪くないよ。腹を立ててるのは相手のアルファにだよ。ごめん。」

千聖さんはオメガを誘惑するフェロモンを使ったみたいだ。そんなに強くフェロモンは出してないみたいだけど、他人相手に使うフェロモンじゃない。
僕は鈍感でよく分からなかった。真紘が来てくれて良かった。

「山城千聖か…。法学部の四年。知ってるかもしれない。」

「同じ大学。」

「うん。でも由紀が無事で良かった。山城っていうヤツには無茶苦茶腹が立つけど。」

祐一さんからはふわっと優しい匂いがする。怒ってるはずなのに…。
その匂いに吸い寄せられるように祐一さんの肩に額を乗せた。

「由紀…。本当に大丈夫?」

「うん。まだ少しぼーっとするけど、祐一さん良い匂い。」

抱きしめて頭を撫でてくれる。さらに匂いが濃くなって身体が暖かくなった。

「クソッ!俺の大事な由紀に。」

「祐一さん、もう大丈夫だよ。」

「本当?」

「うん。」

祐一に家まで送ってもらった。真紘も心配して電話をくれた。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


「由紀は処女のオメガだからね。簡単にアルファのフェロモンにはやられちゃうんだよ。僕はトシくんのフェロモンにガードされてるから。あの人は気を付けた方がいいよ。」

処女のオメガ…。まぁ、そうだけど。

「真紘、声が大きいよ…」

いつものファミレスので勉強している。明日提出の課題だ。一ヶ月前よりは問題が解けるようになってきた。
一息ついていると真紘がこの間の事を掘り返してきた。

「由紀くん。」

「え?」

聞いたことがある声に顔を上げると千聖さんが立っていた。真紘はあんぐりと口を開けている。
何でこんな所に…。

「この間はごめん。由紀くんが可愛くてつい…。」

この間…。あのフェロモンのことか。

「い、いえ。あのどうしてここに?」

「たまたまだよ。前を通ったら顔が見えてね。勉強?教えようか?」

「間に合ってます!」

真紘が大きな声で言った。千聖さんが真紘を見る。

「今から僕たち恋人と待ち合わせなんです。」

「…そう。分かった。じゃあね由紀くん。また。」

そう言ってファミレスを出て行った。

「これで何度目?本当に偶然?」

真紘が小声で僕に言った。

「どういうこと?」

「着けられるとか…。とにかく祐一さんに連絡しなよ。」

「う、うん。」

慌ててスマホでメッセージを送った。すぐに返事があって三十分くらいでここに来てくれる。




「由紀!大丈夫?」

祐一さんが血相を変えてファミレスに入ってきた。

「うん。何もされてないよ。」

「でも、おかしいよ。こんなに何度も会う?あれからまだ四日しか経ってないんだよ?」

真紘が興奮している。そして千聖さんをあのフェロモンの件以来信用していない。

「そうだな。由紀、何か変わったことはある?」

僕の隣祐一さんが座った。

「特には…。」

「もう、祐一さん、早く由紀にマーキングしてよ。怖くて見てられないよ。」

え?マーキング?
思わず祐一さんと顔を見合わせてしまった。
あ、そうか。僕は、その、処女オメガだから…。

「いや、それは、その、ちゃんと由紀が心を決めてからだから…。」

祐一さんは顔を赤くしてしどろもどろになった。
きっと僕の顔も赤いはずだ。

「あ、そうだ!これ。」

何かを思い出した祐一さんが鞄の中から小さな袋を出してきた。
中を見るとぬこニャンの小さいぬいぐるみが入っている。

「うわっ!コラボのぬこニャン。祐一さんありがとう。」 

スポーツメーカーとコラボのぬこニャンだ。
可愛い!

「うん。昨日見つけたんだ。」

「由紀、まだぬこニャン集めてるの?」

「うーん、集めてるって程でもないけど。祐一さんがくれるんだ。」

「見るとつい由紀を思い出して買っちゃうんだよ。でもなかなか売ってない。」

手の上にぬこニャンを乗せる。大きいぬいぐるみの隣に置こう。真紘に手の上のぬこニャンを見せた。

「この間ももらっちゃって。ナイトライトとぬいぐるみ。ぬいぐるみはナース服来てて可愛いんだ。」

「え?」

祐一さんが驚いたような顔で僕を見た。
え?何か変なこと言った?

「由紀、俺はライトしか送ってない…。」
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