優しすぎるオメガと嘘

みこと

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「あ、そうだ!子猫!」

「大丈夫だよ。ルエのおかげで助かった。母猫の元に返したよ。」

「良かった…。」

心の底から安堵したような顔だ。何よりも子猫の心配をするルエにリチャードは胸が締め付けられた。

それからリチャードは付きっきりでルエを看病した。






「あの、自分で食べられますから…。」

「ダメだ。二階の高さから落ちたんだから。まだ何か起こるかもしれない。」

パン粥を掬ってルエの口に持っていく。目が覚めてもう三日も経っているのにリチャードは超過保護だ。

「はい。」

ルエの側から離れず、何かにつけて世話を焼こうするのだ。
トイレや風呂に行くときはリチャードが必ず抱き上げて連れていってくれるので、まだほとんど歩いていない。

「あの、僕、もう歩けると思います。」

「危ないからもう少し様子を見よう。」

「でも…。」

このままでは本当に歩けなくなってしまいそうだ。
しょんぼり項垂れているルエを見たリチャードは慌てて提案してきた。

「じゃ、じゃあ少し部屋の中を歩こう。私が手を引くからゆっくりなら。」

「はい。お願いします。」

ベッドからそっと降りて立つ。まだ力が入りづらいがリチャードがしっかり支えてくれる。
そのまま手を引いて部屋の中を歩いてみた。
ふわふわした感じがするが大丈夫そうだ。

「大丈夫みたいです。一人で歩けます。」

「いや、まだダメだ。しばらくは一緒に歩こう。転んだりしたら大変だからな。」

手を引いてルエをベッドに戻し座らせた。

「体力がなくなってしまいそうで怖いです。これじゃあ働けない…あっ!」

ルエは慌てて口を噤んだがリチャードは苦しそうな顔で見ている。

「ルエ、その事なんだが…その、あの日、話があるっていっただろう?」

「は、はい。」

リチャードはとても言いにくそうだ。ルエがこんなことになってしまったからだろう。
ルエは気を使わせてしまって申し訳ないと思った。

「大丈夫です。リチャード様、気にしないで下さい。離婚は受け入れますから。」

ルエは努めて明るく言った。でも上手く笑顔が作れたか分からない。

「え?あ、ル、ルエ。その、離婚は待ってもらえないだろうか。」

「…。」

「勝手な事を言っているのは分かってるんだ。でも、その、ここにいて欲しい。離婚はまだ…したくないんだ。」

「リチャード様…。」

まだしたくない。
いつかはするのだろう。きっとルエの身体を心配してくれているのだ。

「あ、ありがとうございます。他に行くところもありませんし、リチャード様が良かったら、もうしばらくよろしくお願いします。」

「そ、そうか!良かった…。ありがとう、ルエ。」

なぜがリチャードはほっとして喜んでいるように見えた。
それからもリチャードはルエの世話をしてくれる。
勝手に木に登って落ちたのはルエなのに。何故こんなに良くしてくれるのだろうか。
ずっと疑問に思っていた事をルエは聞いてみることにした。もしリチャードが木から落ちたことを気にしているのらなら大丈夫だと伝えたかった。


「リチャード様はなぜ僕にこんなに良くしてくれるのですか?」

「それは…。ルエ、私を見て何か気づかないか?」

え?
リチャード様を見て?
ルエはリチャードを見つめたが何も分からない。
リチャードは優しくて良い匂いだ。何だか懐かしい感じもする。でもきっとそんな事ではないはずだ。

「えっと、分かりません。」

「そうか。そうだよな。」

リチャードは胸ポケットからハンカチを取り出して顔の半分を隠した。そして後ろに緩く流した髪の毛を左手でかき回して前に持ってくる。

「これでどうかな?髪は染めてないけど…。」

「あっ!」

その容貌に見覚えがあった。それは一日だけ屋敷を抜け出したあの日、一緒に居たディックだった。

「分かるか?」

「まさか、ディック…。」

「そうだよ。」

驚いてそれ以上の言葉が出なかった。リチャードがディックだったのだ。
ルエの感じた懐かしい匂いは間違ってなかった。
ディックの顔を見てルエはポロポロ泣き出した。

「ごめん、ごめんなさい…。僕、うぅ、」

「ル、ルエ!どうした?どこか痛むのか⁉︎」

急に泣き出したルエを見てリチャードは慌てて顔を覗き込む。

「違います。僕、ずっとディックが気になっていて…。怪我をしたのに、財布を無くしたのに置いてきてしまった。…ごめんなさい。」

「ルエ、いいんだ。むしろ私が謝らないといけない。関係ないルエを巻き込んでしまった。ずっとルエを探していた。でも見つからなくて…。」

「ごめんなさい…。僕、嘘をついて…。ベータでルイって、ごめんなさい。」

「ルエ、謝らないで。私だってベータでディックって。ルエ、泣かないで。」

そっとルエの涙を拭ってくれる。
まさかディックがリチャードだったなんて。
ずっと謝りたかった。許してくれなくても会って謝りたかった。そう言ってルエはまた涙を流した。

「ルイに、ルエにずっと会いたかったんだ。」

リチャードがルエの手にあのブローチを握らせた。祖母の肩身のブローチだ。

「これ、売らなかったんですか?」

「売れるわけない。次に会った時に必ず返そうと思っていたんだ。」

「リチャード様…、ありがとうございます。」

ルエは大事そうにそのブローチに頬擦りをした。
そんな大切な物を見ず知らずの人間に…。
リチャードはそんなルエを心から愛おしいと思った。
ちゃんと言おう。今までの非礼を謝って出来る事なら許してもらいたい。
そして一からやり直したい。ダメでもこの屋敷に居てもらいたい。そのためにはどんな事でもする。
それをルエに伝えようと思った時だ。
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