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ルエはリチャードを起こさないようにそっとベッドから降りた。床に落ちているガウンを拾って羽織り部屋を出る。
ここはリチャードの部屋なので南の棟のはず。
中央の塔を越えてまっすく行けばルエの部屋がある北の棟だ。
もうここには居られない。
いつか離婚されるのだ。事故のせいで日が伸びただけだ。
リチャード様に嫌われるくらいならすぐにここを出よう。
見慣れた北の棟が見えた。部屋に駆け込み荷物もまとめる。ボストンバッグ一つなら持って歩ける。
元々私物はほとんどないから大丈夫だ。涙が溢れてくるが何で泣いているかよく分からない。
とにかく詰めるだけ詰めて裏口から屋敷の外に出た。外はまだ暗い。
ルエはニーナに聞いた辻馬車の話を思い出した。
街から出ていると聞いた。夜明け前に着けば間に合うはずだ。それに乗って出来るだけ遠くへ行こう。少ないあり金を集めて歩いて街に向かった。
「う、ん…。」
リチャードは今朝もルエの匂いで目が覚める。それがこんなに幸せだなんて…。
ルエを抱き寄せようと、目を閉じたまま手を伸ばした。もぞもぞと探るが何も触れない。
「え?ルエ?」
パッと目を開けて隣を見た。ルエが居ない。匂いはルエの残り香だった。
トイレにでも行ったのだろうか?
裸のままベッドから降りて部屋の洗面室を見に行く。
トイレやバスルームにも居ない。
「ルエ?」
床に落ちているガウンを拾って羽織り部屋の外に出た。廊下に置いてある大きな振り子時計はすでに十時を指していた。
「旦那様、おはようございます。そんな格好で…。」
ノーマンがすぐに気付いて近づいてきた。
「ああ、おはよう。ルエを知らないか?」
「え?ルエ様ですか?旦那様とご一緒ではなかったんですか?」
ノーマンはルエに発情期が来て一緒に過ごしていることを知っている。
ただし、発情期のルエを誰にも見せたくなくて会わせてはいない。
「今起きたんだが、居ないんだ。」
「私は見ておりません。」
「私もです。」
近くにいたニーナも答えた。
皆でルエを探すが見つからない。
リチャードは呆然と立ち尽くしていた。
「リチャード!おはよう。何だまだ寝てたのか。珍しいな。」
玄関が開いたため見に行くとギルバートだった。ガウン姿のリチャードを見て驚いている。
「旦那様やはり居りません。」
「北の棟は?」
「今から探します。」
ノーマンと一緒に北の棟へ向かった。何かを察したギルバートがその後ろをついてくる。
ルエの部屋は誰も居なかった。
ノーマンが衣装部屋を開けて入って行ったのでリチャードも後に続く。
衣装部屋はがらんとしていた。ほとんど何もない。
「何もないな。…まさかルエは荷物を全て持って出て行ったのか?」
「旦那様、ルエ様は元々私物をあまりお持ちではありませんでした。」
ノーマンの言葉にハッとする。
準備する期間もなくここへ嫁いで来たのだ。それにルエの実家は裕福ではないと聞いていた。
「ボストンバッグが一つありません。ルエ様はボストンバッグ二つでここに嫁いで来ました。」
残された小さなボストンバッグを見て愕然とする。そしてリチャードは自分の馬鹿さ加減に嫌気がした。
発情期のフェロモンに酔って幸せだと思っていた自分の馬鹿さ加減にだ。
何が『幸せ』だ。ルエはちっとも幸せではなかった。
こんな部屋に閉じ込めて何もしてやらなかった。発情期を一緒に過ごす前にすることはたくさんあったはずだ。
「ルエ、すまない。ルエ…。」
悲しくて情けなくて涙が出てきた。
「おい、リチャード。これを見ろ。」
ギルバートが衣装部屋の隅を指差している。フラフラとそこに行き、指差された場所を見る。
「これは?」
「これは…旦那様のシャツです。馬具に引っ掛けて破れて捨てたシャツです。これは旦那様の壊れた万年筆。私が捨てた物です。これは旦那様のメモ用紙の紙屑…。」
それ以外も全てリチャードが捨てたゴミだった。小さくまとめて置いてある。その中に小さな古いうさぎのぬいぐるみがあった。ゴミの中で寂しそうに横たわる姿はまるでルエのようだった。
「巣作りだ。ルエはここに巣作りしてたんだ。リチャード、おまえ恋しさにおまえの捨てた物を集めて巣作りしてたんだ。かわいそうにな。」
「巣作り…。」
小さなゴミの山はルエが作った巣だった。
「そういえば前回の発情期の時にルエ様は衣装部屋にこもっておりました。」
「ルエ、ルエ…あ、うぁーっ、」
リチャードは膝から崩れ落ち子どものように声を上げて泣いた。自分がルエにどれだけ酷いことをしたのか目の当たりにしたからだ。
可愛いくて優しくて真面目なルエに…。
きっとルエは発情期が明けて目が覚めたのだろう。もうリチャードに嫌気がさしたのだ
「リチャード、泣いている場合じゃない。ルエを探すぞ。」
「そうです。旦那様。ルエ様はオメガです。何かあってからでは…。」
「何かって…。」
「ルエはオメガだ。他のアルファの番いになったり、娼館に売られたりするかもしれない。」
「そんな…。」
「とにかく探しましょう。」
ノーマンはバタバタと部屋を出てルエを探す手配に向かった。
リチャードも着替えて街まで行きルエを探す。ディックとルイとして出会い、過ごした場所を中心に探すが見つからなかった。
「ノーマン、金はいくらかかっても良い。大勢人を雇って探させろ。」
ギルバートも協力してくれたが、結局その日はルエを見つけることは出来なかった。
ここはリチャードの部屋なので南の棟のはず。
中央の塔を越えてまっすく行けばルエの部屋がある北の棟だ。
もうここには居られない。
いつか離婚されるのだ。事故のせいで日が伸びただけだ。
リチャード様に嫌われるくらいならすぐにここを出よう。
見慣れた北の棟が見えた。部屋に駆け込み荷物もまとめる。ボストンバッグ一つなら持って歩ける。
元々私物はほとんどないから大丈夫だ。涙が溢れてくるが何で泣いているかよく分からない。
とにかく詰めるだけ詰めて裏口から屋敷の外に出た。外はまだ暗い。
ルエはニーナに聞いた辻馬車の話を思い出した。
街から出ていると聞いた。夜明け前に着けば間に合うはずだ。それに乗って出来るだけ遠くへ行こう。少ないあり金を集めて歩いて街に向かった。
「う、ん…。」
リチャードは今朝もルエの匂いで目が覚める。それがこんなに幸せだなんて…。
ルエを抱き寄せようと、目を閉じたまま手を伸ばした。もぞもぞと探るが何も触れない。
「え?ルエ?」
パッと目を開けて隣を見た。ルエが居ない。匂いはルエの残り香だった。
トイレにでも行ったのだろうか?
裸のままベッドから降りて部屋の洗面室を見に行く。
トイレやバスルームにも居ない。
「ルエ?」
床に落ちているガウンを拾って羽織り部屋の外に出た。廊下に置いてある大きな振り子時計はすでに十時を指していた。
「旦那様、おはようございます。そんな格好で…。」
ノーマンがすぐに気付いて近づいてきた。
「ああ、おはよう。ルエを知らないか?」
「え?ルエ様ですか?旦那様とご一緒ではなかったんですか?」
ノーマンはルエに発情期が来て一緒に過ごしていることを知っている。
ただし、発情期のルエを誰にも見せたくなくて会わせてはいない。
「今起きたんだが、居ないんだ。」
「私は見ておりません。」
「私もです。」
近くにいたニーナも答えた。
皆でルエを探すが見つからない。
リチャードは呆然と立ち尽くしていた。
「リチャード!おはよう。何だまだ寝てたのか。珍しいな。」
玄関が開いたため見に行くとギルバートだった。ガウン姿のリチャードを見て驚いている。
「旦那様やはり居りません。」
「北の棟は?」
「今から探します。」
ノーマンと一緒に北の棟へ向かった。何かを察したギルバートがその後ろをついてくる。
ルエの部屋は誰も居なかった。
ノーマンが衣装部屋を開けて入って行ったのでリチャードも後に続く。
衣装部屋はがらんとしていた。ほとんど何もない。
「何もないな。…まさかルエは荷物を全て持って出て行ったのか?」
「旦那様、ルエ様は元々私物をあまりお持ちではありませんでした。」
ノーマンの言葉にハッとする。
準備する期間もなくここへ嫁いで来たのだ。それにルエの実家は裕福ではないと聞いていた。
「ボストンバッグが一つありません。ルエ様はボストンバッグ二つでここに嫁いで来ました。」
残された小さなボストンバッグを見て愕然とする。そしてリチャードは自分の馬鹿さ加減に嫌気がした。
発情期のフェロモンに酔って幸せだと思っていた自分の馬鹿さ加減にだ。
何が『幸せ』だ。ルエはちっとも幸せではなかった。
こんな部屋に閉じ込めて何もしてやらなかった。発情期を一緒に過ごす前にすることはたくさんあったはずだ。
「ルエ、すまない。ルエ…。」
悲しくて情けなくて涙が出てきた。
「おい、リチャード。これを見ろ。」
ギルバートが衣装部屋の隅を指差している。フラフラとそこに行き、指差された場所を見る。
「これは?」
「これは…旦那様のシャツです。馬具に引っ掛けて破れて捨てたシャツです。これは旦那様の壊れた万年筆。私が捨てた物です。これは旦那様のメモ用紙の紙屑…。」
それ以外も全てリチャードが捨てたゴミだった。小さくまとめて置いてある。その中に小さな古いうさぎのぬいぐるみがあった。ゴミの中で寂しそうに横たわる姿はまるでルエのようだった。
「巣作りだ。ルエはここに巣作りしてたんだ。リチャード、おまえ恋しさにおまえの捨てた物を集めて巣作りしてたんだ。かわいそうにな。」
「巣作り…。」
小さなゴミの山はルエが作った巣だった。
「そういえば前回の発情期の時にルエ様は衣装部屋にこもっておりました。」
「ルエ、ルエ…あ、うぁーっ、」
リチャードは膝から崩れ落ち子どものように声を上げて泣いた。自分がルエにどれだけ酷いことをしたのか目の当たりにしたからだ。
可愛いくて優しくて真面目なルエに…。
きっとルエは発情期が明けて目が覚めたのだろう。もうリチャードに嫌気がさしたのだ
「リチャード、泣いている場合じゃない。ルエを探すぞ。」
「そうです。旦那様。ルエ様はオメガです。何かあってからでは…。」
「何かって…。」
「ルエはオメガだ。他のアルファの番いになったり、娼館に売られたりするかもしれない。」
「そんな…。」
「とにかく探しましょう。」
ノーマンはバタバタと部屋を出てルエを探す手配に向かった。
リチャードも着替えて街まで行きルエを探す。ディックとルイとして出会い、過ごした場所を中心に探すが見つからなかった。
「ノーマン、金はいくらかかっても良い。大勢人を雇って探させろ。」
ギルバートも協力してくれたが、結局その日はルエを見つけることは出来なかった。
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