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「由利恵様が動きました。海洋自動車の重役と打ち合わせを兼ねた食事会を開くようです。」
「そうか。」
親父の秘書の茂山から電話があった。
海洋自動車は拓実の父親が働いている会社だ。
うちの事業とはあまり接点はない。
「親父は?」
「はい。初鹿グループの社長と連絡を取っています。」
「初鹿?」
塔子のところの親父さんか。何故?
「初鹿グループの社長の義理の弟様が今の海洋自動車の社長です。あの方はバース差別を嫌っております。社長はその方と親しくなって拓実様のお父上に手出しできないようにして頂くおつもりです。」
「また何か分かったら連絡をくれ。」
親父がしっかり動いてくれているようで安心した。
海洋自動車の重役か…。少し調べてみるか。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「で?またウチに?」
玄関のドアを開けた満が立っている。
「悪いな。」
「ごめんね。満。」
「拓実は良いよ。ちゃんと眠れてるか?」
「うん。」
「どういう意味だよ。」
イチャイチャしまくっているけどちゃんと寝ている。何回かベッドから落ちているけど下にクッションを敷き詰めて痛くないようにしている。
まあ、ベッドから落ちたくらいじゃ拓実は起きないけどな。
「平林、おまえに聞きたいことがあってきたんだ。」
キッチンに立ってコーヒー淹れている平林を呼んだ。今日はエプロンまで着けている。
「何だ?」
トレイにアイスコーヒーを乗せてこっちに来た。
氷がカランと涼しげな音を立てる。
「海洋自動車、知ってるだろ?」
「ああ。拓実のお父さんが働いてるところだろ?」
「そうだ。おまえ、誰か知り合いとかいないか?」
平林の母方の実家は別の自動車会社だ。
眉根を寄せて考えている平林を尻目に、俺の前に置かれたアイスコーヒーを一口飲んだ。
…美味い。予想以上に美味い。
「美味しいだろ?」
満が自慢げに言う。
「ああ。」
「美味しい。」
拓実もアイスコーヒーを飲んで笑顔になった。
「啓が淹れたんだよ。焙煎してドリップしたんだ。」
エプロン姿といい、コーヒーといい喫茶店のマスターにでもなる気だろうか。
「あ、いる。『カンパニュラ』のマスター。」
「マスター?」
「スーパー朝日の通り沿いの喫茶店のマスターだよ。昔、海洋自動車の本社で働いてたって。マスターは辞めたけど同期とかいるんじゃないか?」
『カンパニュラ』のマスターか。
親父に全部任せてのほほんとしてる訳にはいかない。
「『カンパニュラ』ね。行ってみるか。」
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「いらっしゃい。お、平林くん。今日は団体さんだね。」
俺たちは四人で『カンパニュラ』に来ている。
レトロな雰囲気の喫茶店だ。コーヒーのいい香りが漂っている。
カウンターの中にいる男がマスターか。四十代くらいだろうか、酷く痩せた男だ。
店は一人でやっているのみたいだな。
カウンターに客が二人いて一人は競馬新聞を読んでいる。もう一人はタブレットをいじっていた。
「マスターこの間教えてもらった豆、すごい良かったです。」
そう言って平林は頭を下げた。本当に喫茶店でも開く気か?
「そうだろ?アイスにしても美味しいからね。今の時期にぴったりだ。」
俺と平林はアイスコーヒーを、拓実と満はアイスカフェ・オ・レを注文した。
「お待たせしました。」
マスターがそれぞれに注文の品を置いた。
「俺に聞きたいことって?」
マスターは近くのテーブルの椅子を引っ張って来て座った。
「単刀直入に聞きます。マスターは海洋自動車にお勤めだったとか。」
「ああ。」
人懐っこかったマスターの顔が僅かに曇った。
「そこの重役のことを聞かせてもらいたいんです。どんな小さなことでも構いません。もちろん、答えられる範囲で結構です。」
「重役…。何で、そんな。」
明らかに動揺している。
「何でも良いんです。今の重役は…。」
「お、覚えてない。何も知らないよ。もう、昔のことだ。」
マスターは椅子を片付けてカウンターの中に戻ってしまった。
何故だ?海洋自動車に嫌な思い出でもあるのだろうか。
その後マスターは一度も目を合わせてくれなかった。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「マスター、動揺してたね。」
「海洋自動車に良い思い出がないんだろう。」
俺たちは四人で満のアパートに戻った。
拓実と満で夕飯を作っている。この間失敗したハンバーグに再挑戦していた。
ハンバーグは美味しくて、拓実は一生懸命に焼き方のコツを教わっていた。
遅くなる前に帰ろう、と言って満の家を出た。
そのまま歩いてスーパー朝日に寄って買い物して帰ろうということになった。
「卵と牛乳と食パン。あと野菜スープのレシピを教えてもらったんだ。」
拓実がスマホを見ながら一生懸命野菜を選んでいる。
俺の番いは本当に可愛いな。
真剣な横顔を見て笑顔になる。
野菜を選び終わったあともカートを押して店内を回った。
「あ、あの。」
お菓子コーナーを見ていると後ろから急に話しかけられた。
「あ、『カンパニュラ』の…。」
『カンパニュラ』のマスターだ。
近所だし、買い物に来てたんだ。さっきは目も合わせてくれなくなったのに。どうしたんだろう。
「こんばんは。」
一応挨拶をした。
「何で海洋自動車のことを聞いたんですか?」
「え?いや、特に深い意味は。俺の母とそこの重役が懇意にしているみたいで。」
「…そうですか。この子は君のオメガ?」
そう言って拓実は見た。
「ええ。」
「目を離してはダメだよ。君が守って…。」
マスターはそう言って足速にその場を去っていった。
どういうことだ?言われなくても拓実は俺が守るのに。
マスターの不審な言動に俺たちは顔を見合わせた。
「そうか。」
親父の秘書の茂山から電話があった。
海洋自動車は拓実の父親が働いている会社だ。
うちの事業とはあまり接点はない。
「親父は?」
「はい。初鹿グループの社長と連絡を取っています。」
「初鹿?」
塔子のところの親父さんか。何故?
「初鹿グループの社長の義理の弟様が今の海洋自動車の社長です。あの方はバース差別を嫌っております。社長はその方と親しくなって拓実様のお父上に手出しできないようにして頂くおつもりです。」
「また何か分かったら連絡をくれ。」
親父がしっかり動いてくれているようで安心した。
海洋自動車の重役か…。少し調べてみるか。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「で?またウチに?」
玄関のドアを開けた満が立っている。
「悪いな。」
「ごめんね。満。」
「拓実は良いよ。ちゃんと眠れてるか?」
「うん。」
「どういう意味だよ。」
イチャイチャしまくっているけどちゃんと寝ている。何回かベッドから落ちているけど下にクッションを敷き詰めて痛くないようにしている。
まあ、ベッドから落ちたくらいじゃ拓実は起きないけどな。
「平林、おまえに聞きたいことがあってきたんだ。」
キッチンに立ってコーヒー淹れている平林を呼んだ。今日はエプロンまで着けている。
「何だ?」
トレイにアイスコーヒーを乗せてこっちに来た。
氷がカランと涼しげな音を立てる。
「海洋自動車、知ってるだろ?」
「ああ。拓実のお父さんが働いてるところだろ?」
「そうだ。おまえ、誰か知り合いとかいないか?」
平林の母方の実家は別の自動車会社だ。
眉根を寄せて考えている平林を尻目に、俺の前に置かれたアイスコーヒーを一口飲んだ。
…美味い。予想以上に美味い。
「美味しいだろ?」
満が自慢げに言う。
「ああ。」
「美味しい。」
拓実もアイスコーヒーを飲んで笑顔になった。
「啓が淹れたんだよ。焙煎してドリップしたんだ。」
エプロン姿といい、コーヒーといい喫茶店のマスターにでもなる気だろうか。
「あ、いる。『カンパニュラ』のマスター。」
「マスター?」
「スーパー朝日の通り沿いの喫茶店のマスターだよ。昔、海洋自動車の本社で働いてたって。マスターは辞めたけど同期とかいるんじゃないか?」
『カンパニュラ』のマスターか。
親父に全部任せてのほほんとしてる訳にはいかない。
「『カンパニュラ』ね。行ってみるか。」
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「いらっしゃい。お、平林くん。今日は団体さんだね。」
俺たちは四人で『カンパニュラ』に来ている。
レトロな雰囲気の喫茶店だ。コーヒーのいい香りが漂っている。
カウンターの中にいる男がマスターか。四十代くらいだろうか、酷く痩せた男だ。
店は一人でやっているのみたいだな。
カウンターに客が二人いて一人は競馬新聞を読んでいる。もう一人はタブレットをいじっていた。
「マスターこの間教えてもらった豆、すごい良かったです。」
そう言って平林は頭を下げた。本当に喫茶店でも開く気か?
「そうだろ?アイスにしても美味しいからね。今の時期にぴったりだ。」
俺と平林はアイスコーヒーを、拓実と満はアイスカフェ・オ・レを注文した。
「お待たせしました。」
マスターがそれぞれに注文の品を置いた。
「俺に聞きたいことって?」
マスターは近くのテーブルの椅子を引っ張って来て座った。
「単刀直入に聞きます。マスターは海洋自動車にお勤めだったとか。」
「ああ。」
人懐っこかったマスターの顔が僅かに曇った。
「そこの重役のことを聞かせてもらいたいんです。どんな小さなことでも構いません。もちろん、答えられる範囲で結構です。」
「重役…。何で、そんな。」
明らかに動揺している。
「何でも良いんです。今の重役は…。」
「お、覚えてない。何も知らないよ。もう、昔のことだ。」
マスターは椅子を片付けてカウンターの中に戻ってしまった。
何故だ?海洋自動車に嫌な思い出でもあるのだろうか。
その後マスターは一度も目を合わせてくれなかった。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「マスター、動揺してたね。」
「海洋自動車に良い思い出がないんだろう。」
俺たちは四人で満のアパートに戻った。
拓実と満で夕飯を作っている。この間失敗したハンバーグに再挑戦していた。
ハンバーグは美味しくて、拓実は一生懸命に焼き方のコツを教わっていた。
遅くなる前に帰ろう、と言って満の家を出た。
そのまま歩いてスーパー朝日に寄って買い物して帰ろうということになった。
「卵と牛乳と食パン。あと野菜スープのレシピを教えてもらったんだ。」
拓実がスマホを見ながら一生懸命野菜を選んでいる。
俺の番いは本当に可愛いな。
真剣な横顔を見て笑顔になる。
野菜を選び終わったあともカートを押して店内を回った。
「あ、あの。」
お菓子コーナーを見ていると後ろから急に話しかけられた。
「あ、『カンパニュラ』の…。」
『カンパニュラ』のマスターだ。
近所だし、買い物に来てたんだ。さっきは目も合わせてくれなくなったのに。どうしたんだろう。
「こんばんは。」
一応挨拶をした。
「何で海洋自動車のことを聞いたんですか?」
「え?いや、特に深い意味は。俺の母とそこの重役が懇意にしているみたいで。」
「…そうですか。この子は君のオメガ?」
そう言って拓実は見た。
「ええ。」
「目を離してはダメだよ。君が守って…。」
マスターはそう言って足速にその場を去っていった。
どういうことだ?言われなくても拓実は俺が守るのに。
マスターの不審な言動に俺たちは顔を見合わせた。
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