運命はいつもその手の中に

みこと

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「オメガ狩りと呼んでいました。」

closedのプレートをかけたままの店内で俺とマスターはテーブル席に向かい合って座った。

「オメガ狩り…。」

「はい…。」

マスターは項垂れたままポツリポツリと語った。時々声を詰まらせている。

税所常務、その当時本部長だった彼はオメガを捕まえ薬で発情させてアルファたちにレイプさせていたのだ。しかもそれは会員制の秘密クラブのショーとして行っていた。
会員は常時二十人ほど。皆、身元は明かしていないがアルファで大企業に勤めているやつばかりだった。

「あんたは?あんたはベータだろ?」

「私は…良さそうなオメガを見つけてそのショーへ連れて行く役目でした…。」

「何でそんな…。犯罪だぞ!」

税所に気に入られたくて出世のために手を染めた。税所に嫌われるとベータの自分は出世どころが首を切られると言って泣き出した。
一度手を染めてしまうとそれを盾に税所にゆすられる。またオメガを連れて行く…。気が付いたら蟻地獄のように抜け出せなくなっていた。

「そのオメガは?誰か一人くらい訴えるオメガもいるだろ?」

「……いません。」

いない?一人も?みんな泣き寝入りなのか?
この男のようにゆすられるのか?

「何でだ?一人も居ないのか?ゆすられるのか?」

「……です。」

え?今なんて言った?

「そこで適当に頸を噛まれるからです。」

「何だって!!!」

誰かもわからないやつに頸を噛まれて番いにされるのか?番ってしまえばオメガはその相手としかセックスできない。自分を無理矢理犯した相手と番いにさせられる。
オメガはそいつを頼るしかなくなる…。
自分を犯した相手を…。

「おまえっ!自分が何したのか分かってるのかっ!」

「すいません、すいません、うぅ、本当に…ごめんなさい…。」

怒りと胸糞の悪さで吐き気がする。
ちょっと待て、俺の母もそれに関わっている?
茂山の調べでは母親は何度も税所と会食をしている。

「その会のメンバーは?」

「私には分かりません。ただオメガを見繕って連れて行くだけでしたから。」

マスターは良心の呵責により心の病気を患って仕事を辞めた。三年ほど精神科に入院し、退院後は自宅療養をしていた。この店はマスターの叔父がやっていたものを譲り受けたと言った。
今でも泣き叫ぶオメガの声が聞こえてくると言って泣いている。同情なんてとても出来ない。
公開レイプされて口封じのために番いにさせられるなんてあり得ない。

「おまえは一生苦しんで生きろ。」

そう言い捨てて店を出た。



「やはりそうでしたか。強姦だけだと思っていましたがまさか番いにさせられるとは…。」

「ああ、最悪だ。胸糞悪過ぎる。何か証拠があるはずだ。後であの男から聞き出してくれ。」

「はい。了解致しました。」

あのクソババアもその税所っていうやつもみんな地獄に落としてやる。

「亮平様、拓実様から目を離さないように充分にお気をつけ下さい。」

「ああ。」

あの男にも言われたな。吐き気がする。

「発情期の有無は関係ないようです。おそらく非合法の薬かと。」

「…。」

クソっ!腹が立って仕方ない。薬まで使って…。

「亮平様、冷静に聞いて頂きたい。おそらく拓実様は格好の餌食です。」

「どういうことだ?」

「番いのいないオメガで見目麗しいものを狙っています。どうやら拓実様のようなオメガがいろいろな意味で好まれるようです。最近はオメガも法律で守られたり、自由に恋愛をして番いを持ったりしますのでなかなかそのオメガ狩りに連れて行くオメガが居ないようです。昔はオメガと分かると家を出される者もいましたし、身寄りのないオメガも多かったのですが…。現にここ数年はその秘密クラブのショーは開催されていないようです。だから証拠が見つけらませんでした。」

拓実も危ないのか。来週からは夏休みだ。ずっと側にいてやれる。

「分かった。気を付ける。」

「そのショーに出たオメガを調べましたがほとんどが自殺しているか精神を病んでいるようです。あとは行方が分かりません。だから尚のこと証拠が出ない。」

そう言って茂山は悔しそうに唇を噛んだ。茂山の子どもはオメガだったな。しかも珍しい変異種オメガ。ベータから変異したオメガだ。
オメガの迫害を許せないのだろう。

「おまえの所の息子も気を付けろよ。何かあったら親父に相談しろ。」

「うちの息子は大丈夫です。」

そう言ってスマホの待ち受けを見せてくれた。
そこにはマッチョの逞しい男が笑っていた。

「オメガの息子です。本人はジークンドーの師範で番いも居ます。」

「そ、そうか。」

いろんなオメガがいるんだな。
とにかく拓実を守らないと。アトリエの鍵は茂山にお願いした。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


「オメガ狩り…。」

平林は顔を歪めた。

「ああ。胸糞悪い話だ。満も気を付けろよ。あのアパートじゃあ不用心だろ。」

「そうだね。やっぱり引っ越すか。でも満が嫌がるんだよ。あそこが気に入ってるみたいで。」

確かにあそこは落ち着くな。小綺麗に整頓されていて使いやすいようになっている。

「でも何があったら困るだろ?」

「うん。満がレイプされて俺以外と番ったら発狂するよ。」

「俺もだ。」

「マスターはそんなものに関わってたんだね。とても満には話せないよ。」

「だからオメガを見ると昔犯した罪に苛まれるんだろ。」

苛まれたところで被害に遭ったオメガは元には戻らない。
そのオメガには俺たちのように番う相手がいたのかもしれない。
もし拓実だったら…。反吐が出そうだ。

「弘海さんや拓実みたいに番う相手の家が名家でも危ないのかなぁ。」

「むしろその方が喜ばれるらしいぞ。」

オメガ狩りのメンバーは皆アルファだが、上位アルファではない。上位アルファに劣等感を持ったヤツらが集まっているらしい。上位アルファの意中のオメガなんて最高の獲物だ。
茂山が俺に細心の注意を促した理由はそれだ。 

「最悪だね。悪趣味にもほどがあるよ。被害に遭ったオメガのアルファに知れたら命はないのにね。」

平林は苦虫を噛み潰したような顔をした。

「本当にな。絶対バレない自信があるんだろ。現に今までバレなかった。うちの茂山は優秀だからな。地下組織の人脈も広い。おまえ、気を付けろよ。満だって危ないぞ。」

「俺は出来損ないのアルファだよ。」

「おまえの家はそうじゃないだろ。」

そうか、と言って平林はため息をつく。
予鈴が鳴ったので弁当箱を片付けて教室に戻った。
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