善夜家のオメガ

みこと

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奈緒

4

十二月に入り雪也たちはほとんど学校に行かなくなった。単位は全て取得している。
三年生のほとんどが、受験する者、付属の大学に進学する者などとそれぞれの進路に合わせて登校していた。
雪也たちは皆頭脳明晰なアルファだ。ほとんど勉強しなくてもあらかたのことは理解できる。これもアルファの特性だろう。雪也、哲郎、昭彦の三人は揃って T大への進学を希望していた。もちろん常にA判定。家で少し復習するだけの勉強方法で十分だった。
奈緒もT大の進学を希望していた。秋口までは雪也がよく勉強を見てやっていた。
地頭が良い奈緒は教えたことはすぐに理解する。おそらくT大へは行けるだろう。
春からまた四人でT大へ通う生活が始まるのだ。
雪也はそう思っていた。




「はぁ、行くか…。」

今日は紹介してもらったオメガとデートの約束だ。
初めて会った時はかわいいな、と思っていたが毎日メッセージをやり取りするうちに面倒になってきた。
確かに顔はかわいいし、雪也のタイプだ。
だが性格が合わない。今日は映画に行く予定だが、彼の観たいと言って指定してきた映画は雪也が全く興味がないものだった。
奈緒ならきっと雪也と観たい映画は一緒なはずだ。
そう思うと無性に奈緒に会いたくなった。何度か誘ったが忙しいと断られている。
雪也はため息をつくと重い腰を上げて待ち合わせ場所に向かった。


やはりデートは散々たるものだった。
オメガの彼はかなりわがままな男だ。見た目のかわいさを武器に生きてきたのだろう。アルファが合わせるのが当たり前だと思っているようだ。

「疲れた…。」

やはり彼も違う。運命ではない。
かわいいと思ったのは初対面の時だけだ。血が騒ぐ感じもない。今日もむしろ早く帰りたかった。
奈緒は何をしているのだろうか。
ソファーに寝転がって奈緒を思い出しハッとする。
時計に目をやると真夜中の十二時をとっくに回っている。日付けが変わって今日は十二月十三日。奈緒の誕生日だ。
しまった…。
焦ってスマホを手に取る。一番にメッセージを送ろうと決めていたのに。
メッセージを打ち込みながら少し冷静なって考える。
たかが友人の誕生日だ。哲郎や昭彦にだってこんなことはしない。そう思い直しスマホを置いた。



「あ、雪也くん、おはよう。」

「…おはようございます。」

遅く起きた雪也がリビングに降りると次男の鷹也のオメガ、穂積がいた。スラリとした男のオメガで鷹也とは同じ職場で知り合ったと言っていた。

「コーヒー飲む?」

「はい。」

穂積以外誰もいない。ソファーに座るとコーヒーの良い香りが漂ってくる。それを穂積が雪也の前に置いた。

「どうも。」

「いいえ。」

兄の好みはこんなタイプだったのか…。
穂積はどちらかというと男っぽい。オメガなのでベータやアルファの男に比べたら華奢で柔らかい印象だが、背も高くキリッとした顔をしている。

「今回のオメガの子、どうだった?デートしてるんだよね?」

悪戯っぽく笑って雪也を見る。
そういう表情をするとやはりかわいらしい。このギャップが良いのだろう。兄がベタ惚れなのが分かる気がする。

「いや、何というか…。やっぱり違いました。」

「えー、そんなに早く決めちゃうだ。何度か会ってみたら?」

「疲れるだけなんです。それにこう、何というか、血が騒ぐ感じもないし。運命じゃないと思う。」

それを聞いた穂積は目を丸くして驚いている。

「血が騒ぐ?」

「はい。そう言いますよね?運命に会うと。引き寄せられて血が騒ぐ。どうしようもなく惹きつけられるって。」

「え?何?雪也君て、あはははは。ごめん、あはは。」

なぜか穂積は大笑いしている。何かおかしなことでも言ったのだろうか。雪也は困惑して穂積を見た。

「雪也君てロマンチストなんだ。以外~。」

「だってそうでしょ?穂積さんと兄貴だって…。」

「え?僕たち?」

「一目見て強烈に惹かれあったって兄貴が…。」

鷹也が言っていた。二人は同じ会社で働いていたがずっと面識はなかった。大きな企業なので一生顔を合わせない人もたくさんいる。
穂積たちもお互いの存在を知らなかったが、部署移動で初めて顔を合わせた。
その時に電気が走ったように恋に落ちて…。
そう鷹也から聞いていた。

「それ、鷹也が盛ってるよ。もちろんあの見た目だろ?カッコいい男だな、とは思ったよ?でもその電気が走ったとかは盛りすぎ。だって僕たち最初は意見が合わなくてしょっちゅうぶつかってたから。」

「え?」

「同じプロジェクトでチームを組んで…。最初は意見が合わなかったけど、話していくうちに、あれ?って。言い方や表現の仕方は違うけど、なんていうか…考え方がすごく似てるなって思った。」

初耳だ。
鷹也から聞いていたのと全く違う。

「向こうも初対面は綺麗系のオメガだな、くらいにしか思ってなかったみたいよ?一緒にいるうちに、あ、俺が探していた人だって思ったって。」

「でも運命って…。」

「うん。一緒にいるうちに僕も鷹也が運命なんだって確信した。こんなに合う人は居ない。鷹也もそう思ってる。確かにビビビッていうのはなかったけどそれが全てじゃないと思うよ。それにもし仮にそういう相手に出会ったとしてもお互いに相手を思い、慈しんで大事にしないと続かないんじゃないかなぁ。運命って自分で切り開いて掴み取るものだからね。」

雪也は唖然として穂積を見た。
『全く、鷹也は盛っちゃって。恥ずかしいよ。』と笑っている。

「私たちもそうよ。」

いつから居たのか、母親が笑顔で会話に入ってくる。

「本当はね、第一印象は最悪だったの。」

母は珍しい女オメガだ。父とは見合いで知り合った。父も兄と同様一目で恋に落ちたと言っていたはずた。

「違うわよ。すっごい嫌な男だったんだから。」

そう言って笑い合う母と穂積を呆然と見つめていた。
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