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奈緒
13
「ナオ、日本に戻るって本当?」
「うん。先輩が誘ってくれたんだ。日本でバースの研究をやらないかって。レイ・フィラー・オオハラ、知ってるだろ?」
「もちろん。日本のR大学だっけ?」
「そう。」
奈緒は大学院を卒業した後もボストンに残りバースの研究を続けた。
しかしそれは奈緒の思うような仕事ではなかった。
特にオメガを食いものにするような製品を開発を積極的にする職場に嫌気が差していた。バースの平等を謳っていた企業だったのに。蓋を開けてみたらアルファに媚び、オメガを虐げるような職場にうんざりしていたのだ。
ちょうどその頃、大学時代の先輩が日本の大学でバースの研究を始めたので、メンバーを募集していると誘われたのだ。
日本に戻る。
躊躇ったのは嘘じゃない。
でもその誘いはとても魅力的だった。
それにもう似鳥奈緒は居ない。
奈緒は母の恋人であるリュカ・フジシロの養子となり藤代奈緒になっていた。
アメリカでは養子は珍しいことじゃない。本当は母とリュカが結婚すれば話は早いのだが、母がためらっている。
父とのことは母の心の傷となっているのだ。
リュカは起業家でひと財産を築いている。自分に何があったら奈緒の母と奈緒に全てを残したいと言ってくれた。
自分たちにそんな権利はないと断ったが、時間をかけて説得され、とりあえず奈緒だけが彼の養子に入ることになったのだ。
なので今は藤代奈緒と名乗り生活している。
こちらの人たちはあまりそういったことを気にしないのですんなりと受け入れられた。
日本でもう一度やってみよう。
新しい自分、藤代奈緒として。
日本に戻ると母に伝えると彼女はとても心配し、長い間疎遠だった母の実家に連絡を取ってくれた。そこから善夜の家にも連絡が入り、いつでも頼るようにと言ってくれ、さらにはアパートまで用意してくれた。
幼い頃によく遊んだことがある従兄弟たちからも歓迎のメールが届いていた。
「奈緒、着いたら連絡するのよ。」
「ナオ、元気で。遊びに行くから泊めてね。」
「身体に気をつけて。」
奈緒が発つ日、母やリュカ、ノア、ハオランとその恋人たち、シモンまで来てくれた。
日本を発ったときとは大違いだ。
それぞれとハグし、握手する。奈緒は笑顔で出国ゲートを潜った。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「藤代さん、このデータなんですけど…。」
「ああ、それね。僕がまとめとくから置いといて。」
R大学のバース研究所はバースに関するいろいろな研究を行っている。
日本のバース研究では最先端だ。
室長は伊能正尚というアルファだ。オメガの番いがいる。
奈緒はここに来てすでに三年目、一番若いチームリーダーとなった。奈緒の研究内容は運命についてだ。パートナーの三木梓とともに何故惹かれ合うのかを研究している。
それ以外にもフェロモンやバースの発生などいくつかのグループがある。
奈緒を誘ってくれた大原は途中で変化するバース、所謂、後天性のバースについて研究を行っていた。
「そんな、いいですよ。私がやります。藤代さんは働き過ぎです。」
「あはは。そうだね。じゃあお願いしていい?」
気がきく穏やかなメンバーにも恵まれて忙しいが充実した日々を送っていた。
そして去年、バース研究所のグループの一つが大きな発見をしたのだ。バースの発生について研究をしていた横溝のチームだ。大きな賞を受賞し、R大学バース研究所も一躍有名となった。
そのおかげでバース研究所はメジャーとなり、潤沢な予算が設けられ、さらに働きやすい環境が整えられた。
「あ、そうだ!三木さん。僕、とうとう凄いものを手に入れられるんだ。」
「え?凄いものって何ですか?」
奈緒は周りを見渡し三木に近づく。
「善夜直系長男のDNAだよ。」
「えぇ!あっ…本当ですか?」
思わず大きな声が出てしまった三木はチラリと周囲を見てから奈緒と同じように声を顰めた。
「うん。しかも運命の番いとセットで。」
「うわぁ、すごい!この間の直系の詩月さんとその番いのもすごかったけど、長男ですか…。ぜひ見てみたいです。」
三木が興奮している。
彼女はベータだが、アルファとオメガの運命に大変興味を持っている。そういう女性を腐女子と言うらしい。
難関を突破し、この研究所に入職した。去年から奈緒のチームに入り、助手として働いてくれている。
『好きなことを仕事に出来て嬉しい!』と言って何でもやってくれる頼もしい助手だ。
「今日、来るんだ。あの部屋、用意しておいてくれる?」
「は、はい!もちろんです!ひゃ~、楽しみ!」
この研究所の奥には宿直室、急なヒートのための保護室、そして採精室がある。
今日は佑月と涼が来て精液の提供をしてくれることになっているのだ。
約束してから少し期間が経ってしまったが、何とか引き受けてくれた。弟の詩月とその番いの健人が世話になったからと言って承諾してくれたのだ。
詩月と健人の精液もかなり興味深い結果だった。善夜直系長男の佑月はさぞや凄い結果が出るだろう。
善夜の直系長男は特別だ。善夜のオメガは皆詩月や奈緒のような見た目が多い。詩月の双子の兄も双子だけあって似ている。従兄弟も血を濃く受け継ぐ者は皆奈緒のような見た目になる。
陶器のような白い肌、黒髪に黒い瞳、かわいいというよりは美しいと言われる見た目だ。
しかし長男だけは違う。真珠色の肌、ヘーゼルの髪と瞳。特にその瞳は普通のヘーゼルと違う。透き通ったブラウンとグリーンが混じり宝石のような瞳なのだ。
そしてその愛らしさは見ただけで心を奪われる。実際に番いの涼もメロメロだ。いつもとろんとして佑月のフェロモンに酔っているようだった。
善夜のオメガのフェロモンも特殊だ。
自分が決めた相手に大事にされ、愛されないと開花しないフェロモン。
最近開花した佑月のフェロモンは強烈だった。
運命の番いと出会っていないアルファならイチコロだ。
涼と番っても尚、甘く優しく香っている。
「あー、楽しみ!私、掃除しておきますね!」
スキップするような足取りで出て行く三木を穏やかな眼差しで見送った。
「うん。先輩が誘ってくれたんだ。日本でバースの研究をやらないかって。レイ・フィラー・オオハラ、知ってるだろ?」
「もちろん。日本のR大学だっけ?」
「そう。」
奈緒は大学院を卒業した後もボストンに残りバースの研究を続けた。
しかしそれは奈緒の思うような仕事ではなかった。
特にオメガを食いものにするような製品を開発を積極的にする職場に嫌気が差していた。バースの平等を謳っていた企業だったのに。蓋を開けてみたらアルファに媚び、オメガを虐げるような職場にうんざりしていたのだ。
ちょうどその頃、大学時代の先輩が日本の大学でバースの研究を始めたので、メンバーを募集していると誘われたのだ。
日本に戻る。
躊躇ったのは嘘じゃない。
でもその誘いはとても魅力的だった。
それにもう似鳥奈緒は居ない。
奈緒は母の恋人であるリュカ・フジシロの養子となり藤代奈緒になっていた。
アメリカでは養子は珍しいことじゃない。本当は母とリュカが結婚すれば話は早いのだが、母がためらっている。
父とのことは母の心の傷となっているのだ。
リュカは起業家でひと財産を築いている。自分に何があったら奈緒の母と奈緒に全てを残したいと言ってくれた。
自分たちにそんな権利はないと断ったが、時間をかけて説得され、とりあえず奈緒だけが彼の養子に入ることになったのだ。
なので今は藤代奈緒と名乗り生活している。
こちらの人たちはあまりそういったことを気にしないのですんなりと受け入れられた。
日本でもう一度やってみよう。
新しい自分、藤代奈緒として。
日本に戻ると母に伝えると彼女はとても心配し、長い間疎遠だった母の実家に連絡を取ってくれた。そこから善夜の家にも連絡が入り、いつでも頼るようにと言ってくれ、さらにはアパートまで用意してくれた。
幼い頃によく遊んだことがある従兄弟たちからも歓迎のメールが届いていた。
「奈緒、着いたら連絡するのよ。」
「ナオ、元気で。遊びに行くから泊めてね。」
「身体に気をつけて。」
奈緒が発つ日、母やリュカ、ノア、ハオランとその恋人たち、シモンまで来てくれた。
日本を発ったときとは大違いだ。
それぞれとハグし、握手する。奈緒は笑顔で出国ゲートを潜った。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「藤代さん、このデータなんですけど…。」
「ああ、それね。僕がまとめとくから置いといて。」
R大学のバース研究所はバースに関するいろいろな研究を行っている。
日本のバース研究では最先端だ。
室長は伊能正尚というアルファだ。オメガの番いがいる。
奈緒はここに来てすでに三年目、一番若いチームリーダーとなった。奈緒の研究内容は運命についてだ。パートナーの三木梓とともに何故惹かれ合うのかを研究している。
それ以外にもフェロモンやバースの発生などいくつかのグループがある。
奈緒を誘ってくれた大原は途中で変化するバース、所謂、後天性のバースについて研究を行っていた。
「そんな、いいですよ。私がやります。藤代さんは働き過ぎです。」
「あはは。そうだね。じゃあお願いしていい?」
気がきく穏やかなメンバーにも恵まれて忙しいが充実した日々を送っていた。
そして去年、バース研究所のグループの一つが大きな発見をしたのだ。バースの発生について研究をしていた横溝のチームだ。大きな賞を受賞し、R大学バース研究所も一躍有名となった。
そのおかげでバース研究所はメジャーとなり、潤沢な予算が設けられ、さらに働きやすい環境が整えられた。
「あ、そうだ!三木さん。僕、とうとう凄いものを手に入れられるんだ。」
「え?凄いものって何ですか?」
奈緒は周りを見渡し三木に近づく。
「善夜直系長男のDNAだよ。」
「えぇ!あっ…本当ですか?」
思わず大きな声が出てしまった三木はチラリと周囲を見てから奈緒と同じように声を顰めた。
「うん。しかも運命の番いとセットで。」
「うわぁ、すごい!この間の直系の詩月さんとその番いのもすごかったけど、長男ですか…。ぜひ見てみたいです。」
三木が興奮している。
彼女はベータだが、アルファとオメガの運命に大変興味を持っている。そういう女性を腐女子と言うらしい。
難関を突破し、この研究所に入職した。去年から奈緒のチームに入り、助手として働いてくれている。
『好きなことを仕事に出来て嬉しい!』と言って何でもやってくれる頼もしい助手だ。
「今日、来るんだ。あの部屋、用意しておいてくれる?」
「は、はい!もちろんです!ひゃ~、楽しみ!」
この研究所の奥には宿直室、急なヒートのための保護室、そして採精室がある。
今日は佑月と涼が来て精液の提供をしてくれることになっているのだ。
約束してから少し期間が経ってしまったが、何とか引き受けてくれた。弟の詩月とその番いの健人が世話になったからと言って承諾してくれたのだ。
詩月と健人の精液もかなり興味深い結果だった。善夜直系長男の佑月はさぞや凄い結果が出るだろう。
善夜の直系長男は特別だ。善夜のオメガは皆詩月や奈緒のような見た目が多い。詩月の双子の兄も双子だけあって似ている。従兄弟も血を濃く受け継ぐ者は皆奈緒のような見た目になる。
陶器のような白い肌、黒髪に黒い瞳、かわいいというよりは美しいと言われる見た目だ。
しかし長男だけは違う。真珠色の肌、ヘーゼルの髪と瞳。特にその瞳は普通のヘーゼルと違う。透き通ったブラウンとグリーンが混じり宝石のような瞳なのだ。
そしてその愛らしさは見ただけで心を奪われる。実際に番いの涼もメロメロだ。いつもとろんとして佑月のフェロモンに酔っているようだった。
善夜のオメガのフェロモンも特殊だ。
自分が決めた相手に大事にされ、愛されないと開花しないフェロモン。
最近開花した佑月のフェロモンは強烈だった。
運命の番いと出会っていないアルファならイチコロだ。
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