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葉月
32
「サイード!久しぶりだな。」
数ヶ月ぶりに見るファールークは想像していたよりもずっと元気そうだった。療養のため帰国を何度も延期していたのでサイードは彼の容態をとても心配していた。しかしその心配は杞憂だった。目の前のファールークは今まで以上に元気そうで溌剌としていた。そしてとても若返ったように見える。
元々もアルファらしく、男前で歳よりはずっと若く見えていた。
早くに結婚し、子を成した彼は今四十代前半。
しかし今の彼は以前よりもずっと若々しく精悍だ。
ファールークは嬉しそうにサイードにハグをしソファーに座らせる。
「体調はいかがですか?」
「調子はすこぶる良い。帰国が延びてしまいすまなかった。おまえはとても良くやっていると聞いた。クタイバのことも…。本当にご苦労だった。」
「そう言って頂いて光栄です。父上も元気そうで、本当に良かったです。」
サイードはファールークが不在時に起きたことや今手掛けている事業のことなどを事細かに報告した。
彼はサイードの話を真剣に聞き、的確な質問やアドバイスをしてくる。
二人は長い時間話をしていた。
話をしながらサイードは目の前にいる父に何か違和感を感じていた。
父のようで父でない。悪い意味ではなく違う人のようなのだ。
ファールークは上位アルファで頭も切れるが少々荒っぽい性格だ。しかし今の彼は尖ったところが削ぎ落とされ柔らかく感じる。
病気のせいだろうか。
そんな違和感を感じながらサイードはいよいよ本題に入ることにした。
「父上にお話があります。」
「…。」
サイードの真剣な面持ちにファールークも笑顔を引っ込めた。
「大事なお話しです。お願いというか、事後報告と思ってもらっても結構です。」
「…何だ。言ってみろ。」
「私には愛する人がいます。その人と一緒になりたい。いいえ、なります。反対は受け入れません。もし、父上が反対されるのなら王位継承権は剥奪して頂いても結構です。私はその人と…」
「待て、ちょっと待て…。」
勢いよく話すサイードをファールークが停めようとする。しかしサイードもそれを制し話続けた。
「いいえ。聞いて下さい。父上がいない間、私がやってこられたのも彼のおかげです。彼のいない人生は考えられない。父上が反対しようとも…。」
「待て、サイード、落ち着いてくれ。私の話もきくんだ。」
「反対は承知です。彼はオメガなのですから。しかし私は…。」
サイードの恋人はオメガ。それをサイードの口から聞いたファールークは徐に立ち上がり奥の部屋へと消えた。
「父上っ!」
話の途中で退席してしまったファールークに声をかけるが返事がない。
やはりダメだったか。
しかしこうなることは分かっていた。説得してもダメならアグニアを出るまでだ。
どうなろうと結果は変わらない。葉月と生きていくのだ。
だが、やはり父には認めてもらいたかった。一抹の期待を持って話をしたが、無理だったようだ。
サイードは大きくため息をついて立ち上がる。
葉月を連れてここを出なければならない。葉月に何かされたら父であっても許すことは出来ない。
そう思い、部屋を出ようとすると奥の部屋のドアが開いた。
「父上…?」
サイードはファールークの方を見て固まる。彼は一人の男を連れていたのだ。
一目見て分かった。その男はオメガだ。歳は二十代後半くらいだろうか。いや、オメガは皆とても若く見える。そのオメガの年齢も見た目だけで判断できない。
それよりもなぜファールークがオメガを連れているのか分からない。サイードは言葉を失い困惑してファールークを見つめていた。
「父上、その人は?」
「この人は、私のオメガだ。」
「え?」
ファールークの言葉が上手く飲み込めない。
今、彼はそのオメガを『私のオメガ』と言ったのか?
「サイードが驚くのも無理はない。」
ファールークは困惑するサイードを座るよう促した。そして驚くべきことを口にしたのだ。
そのオメガはらルアンといい、入院していた病院で出会った。若く見えるが三十二歳で、彼はフェロモンの異常で入院していた。
ファールークはルアンを一目見て彼が自分のオメガだと分かった。ルアンも同じ気持ちで二人はあっという間に恋に落ちた。ファールークが退院してからは、まだ入院していたルアンに付き添うため、帰国を遅らせていたのだ。
ルアンもファールークに出会ってから、あれだけ悩まされていたフェロモンの異常が改善し、ルアンが退院してからもファールークの滞在していたホテルで二人で過ごしていたのだ。
「ルアンのことがあって帰国が遅くなったのだ。おまえには迷惑をかけた。だが、私にはルアンを一人置いて帰ることが出来なかったのだ。」
申し訳なさそうに頭を下げるファールークをただ唖然と見つめる。隣のルアンも申し訳なさそうに頭を下げていた。
「そ、それで…?」
「ルアンがアグニアに来る手続きをしたり、途中で発情期が来たりして帰国が大幅に遅れてしまった。ルアンは妃になるつもりはないそうだ。私もそれが良いと思う。相続や後継者問題にルアンを巻き込みたくない。しかし、フェロモンが安定したら番いになるつもりだ。」
ファールークが隣に座るルアンの手を取り優しく微笑みかける。ルアンも恥ずかしそうに微笑み返していた。
初めて見るファールークの姿にサイードは只々驚くばかりだ。なかなか現実が飲み込めないが、どうやらファールークが運命を見つけたといことのようだ。
「私たちのオメガに対する考え方は間違えていた。今ならはっきり分かる。おまえにも運命が現れたということだな?」
いつの間にか話題がすり替わってしまったが、サイードが伝えたかったのは葉月のことだ。
はっと思い直すと、サイードはファールークを見据えた。
「はい。私も運命を見つけました。彼以外は考えられない。私のオメガも今この城にいます。」
サイードの言葉にファールークが大きく頷く。そして葉月を連れてくるよう、サイードにうながした。
数ヶ月ぶりに見るファールークは想像していたよりもずっと元気そうだった。療養のため帰国を何度も延期していたのでサイードは彼の容態をとても心配していた。しかしその心配は杞憂だった。目の前のファールークは今まで以上に元気そうで溌剌としていた。そしてとても若返ったように見える。
元々もアルファらしく、男前で歳よりはずっと若く見えていた。
早くに結婚し、子を成した彼は今四十代前半。
しかし今の彼は以前よりもずっと若々しく精悍だ。
ファールークは嬉しそうにサイードにハグをしソファーに座らせる。
「体調はいかがですか?」
「調子はすこぶる良い。帰国が延びてしまいすまなかった。おまえはとても良くやっていると聞いた。クタイバのことも…。本当にご苦労だった。」
「そう言って頂いて光栄です。父上も元気そうで、本当に良かったです。」
サイードはファールークが不在時に起きたことや今手掛けている事業のことなどを事細かに報告した。
彼はサイードの話を真剣に聞き、的確な質問やアドバイスをしてくる。
二人は長い時間話をしていた。
話をしながらサイードは目の前にいる父に何か違和感を感じていた。
父のようで父でない。悪い意味ではなく違う人のようなのだ。
ファールークは上位アルファで頭も切れるが少々荒っぽい性格だ。しかし今の彼は尖ったところが削ぎ落とされ柔らかく感じる。
病気のせいだろうか。
そんな違和感を感じながらサイードはいよいよ本題に入ることにした。
「父上にお話があります。」
「…。」
サイードの真剣な面持ちにファールークも笑顔を引っ込めた。
「大事なお話しです。お願いというか、事後報告と思ってもらっても結構です。」
「…何だ。言ってみろ。」
「私には愛する人がいます。その人と一緒になりたい。いいえ、なります。反対は受け入れません。もし、父上が反対されるのなら王位継承権は剥奪して頂いても結構です。私はその人と…」
「待て、ちょっと待て…。」
勢いよく話すサイードをファールークが停めようとする。しかしサイードもそれを制し話続けた。
「いいえ。聞いて下さい。父上がいない間、私がやってこられたのも彼のおかげです。彼のいない人生は考えられない。父上が反対しようとも…。」
「待て、サイード、落ち着いてくれ。私の話もきくんだ。」
「反対は承知です。彼はオメガなのですから。しかし私は…。」
サイードの恋人はオメガ。それをサイードの口から聞いたファールークは徐に立ち上がり奥の部屋へと消えた。
「父上っ!」
話の途中で退席してしまったファールークに声をかけるが返事がない。
やはりダメだったか。
しかしこうなることは分かっていた。説得してもダメならアグニアを出るまでだ。
どうなろうと結果は変わらない。葉月と生きていくのだ。
だが、やはり父には認めてもらいたかった。一抹の期待を持って話をしたが、無理だったようだ。
サイードは大きくため息をついて立ち上がる。
葉月を連れてここを出なければならない。葉月に何かされたら父であっても許すことは出来ない。
そう思い、部屋を出ようとすると奥の部屋のドアが開いた。
「父上…?」
サイードはファールークの方を見て固まる。彼は一人の男を連れていたのだ。
一目見て分かった。その男はオメガだ。歳は二十代後半くらいだろうか。いや、オメガは皆とても若く見える。そのオメガの年齢も見た目だけで判断できない。
それよりもなぜファールークがオメガを連れているのか分からない。サイードは言葉を失い困惑してファールークを見つめていた。
「父上、その人は?」
「この人は、私のオメガだ。」
「え?」
ファールークの言葉が上手く飲み込めない。
今、彼はそのオメガを『私のオメガ』と言ったのか?
「サイードが驚くのも無理はない。」
ファールークは困惑するサイードを座るよう促した。そして驚くべきことを口にしたのだ。
そのオメガはらルアンといい、入院していた病院で出会った。若く見えるが三十二歳で、彼はフェロモンの異常で入院していた。
ファールークはルアンを一目見て彼が自分のオメガだと分かった。ルアンも同じ気持ちで二人はあっという間に恋に落ちた。ファールークが退院してからは、まだ入院していたルアンに付き添うため、帰国を遅らせていたのだ。
ルアンもファールークに出会ってから、あれだけ悩まされていたフェロモンの異常が改善し、ルアンが退院してからもファールークの滞在していたホテルで二人で過ごしていたのだ。
「ルアンのことがあって帰国が遅くなったのだ。おまえには迷惑をかけた。だが、私にはルアンを一人置いて帰ることが出来なかったのだ。」
申し訳なさそうに頭を下げるファールークをただ唖然と見つめる。隣のルアンも申し訳なさそうに頭を下げていた。
「そ、それで…?」
「ルアンがアグニアに来る手続きをしたり、途中で発情期が来たりして帰国が大幅に遅れてしまった。ルアンは妃になるつもりはないそうだ。私もそれが良いと思う。相続や後継者問題にルアンを巻き込みたくない。しかし、フェロモンが安定したら番いになるつもりだ。」
ファールークが隣に座るルアンの手を取り優しく微笑みかける。ルアンも恥ずかしそうに微笑み返していた。
初めて見るファールークの姿にサイードは只々驚くばかりだ。なかなか現実が飲み込めないが、どうやらファールークが運命を見つけたといことのようだ。
「私たちのオメガに対する考え方は間違えていた。今ならはっきり分かる。おまえにも運命が現れたということだな?」
いつの間にか話題がすり替わってしまったが、サイードが伝えたかったのは葉月のことだ。
はっと思い直すと、サイードはファールークを見据えた。
「はい。私も運命を見つけました。彼以外は考えられない。私のオメガも今この城にいます。」
サイードの言葉にファールークが大きく頷く。そして葉月を連れてくるよう、サイードにうながした。
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