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「矢嶋、マッチング解除は覆せるのか?」
和成が矢嶋の顔を見る。
「分かりません。今までそういった事例はないようです。オメガ学園は所謂『ただの箱』でオメガを管理しているのは政府です。働きかけるなら政府のバースを担当している部署でしょう。」
「何とかならないのか!これじゃあ潤が…。」
「そうよ!潤は真面目に待ってたのよ!おかしな裏技を使って会う方が悪いんじゃない。」
智恵美も泣きながら矢嶋に訴える。これではあまりにも息子がかわいそうだ。
「矢嶋!白石は?三年前、オメガ学園に入れる手引きをしてくれただろう?」
「はい。そちらの線も調べて見ましたが、白石さんは仲介のみで、実際に動いてくれた国府さんと言う方は去年病気で亡くなっています。」
「そんな…。潤⁉︎潤どうしたの?あなた!潤が…。」
「潤!おい、誰か来てくれ!澤田っ!」
潤はあまりのショックで倒れてしまう。智恵美と和成が慌てて人を呼ぶ声が遠くに聞こえた。
「潤、大丈夫だ。父さんたちに任せなさい。」
「…うん。」
潤と両親、矢嶋とさらに二人の男が政府のバースを管轄する庁舎に出向いた。二人の男は弁護士で主にバースに関する事件や事故を専門に扱っている。矢嶋の伝手で依頼することができた弁護士たちだ。
松尾と石田という弁護士は専門というだけあって、何とかバースを管轄する部署のトップと話をする機会を設けることに成功したのだ。
五人は庁舎の応接室に通されてそのトップである人物を待っている。
潤はあの日以降、魂が抜けたようになり満足に食事も摂れなくなってしまった。まだ会ったことはないとはいえ、マッチング率100%の運命を失うかもしれないという恐怖と不安で衰弱していた。
智恵美はそんな息子を連れて毎日医者に通って点滴をしてもらい看病する。真面目で勤勉な潤が何も手につかず弱っていく様子に智恵美自身まで倒れそうになっていた。
ガチャリと音がして一人の男が入って来た。
中肉中背のどこにでも居そうなベータの男といかにもアルファといった威厳のある男。
ベータの男が潤の父と弁護士に名刺を差し出す。
『バース庁 バース整合課 課長 佐々木洋司』
と書かれている。
アルファの方は頭を下げただけで名も名乗らない。おそらくあまり公に出来ない組織の人間だろう。
二人がソファーに座ると早速松尾が口火を切った。
「電話でもお話したように潤さんのマッチング解除の件は違法であり、無効です。すぐに解除の取り消しをお願いしたい。」
「その件ですが…。」
佐々木がもごもごと口ごもると隣のアルファが口を挟んできた。
「その件は佐々木に伺っております。こちらとしてはオメガの同意がある以上、マッチング解除は致し方ないと。それに解除の取り消しの前例はありません。今、そのオメガは他のアルファとマッチングもしております。」
「え?」
潤が驚いて顔を上げる。すでに楓は再マッチングをしてしまった。楓はもう他のアルファのもの。そう考えるだけで震えが止まらない。
そんな潤の肩を智恵美が抱きしめて目の前のアルファを睨む。智恵美もアルファだ。普段はおっとりして穏やかな性格だが、息子の幸せがかかっているとなるとそうもいかない。アルファの怒りのフェロモンがじわりと溢れ出る。
「お母様、そのようなことをされてもこの事実は覆りません。何せ前例がない。」
「前例、前例って…」
和成が喰ってかかりそうになるのを石田が止めた。
そして持っていた封筒からあるものを取り出す。
それはこの間見たQRコードから飛んだページを印刷したものだ。
「この内容はご存知ですよね?」
「え、ええ、まぁ…。」
「非公開ということですが、マッチングしたアルファは知っている。皆さん口コミでこのQRコードを読み取りこちらのサイトにいくという情報を得ています。潤さんはそれを知らなかった、彼の周りにはマッチングしたアルファが居ないからです。それは彼のせいではないでしょう?」
「ま、まあ、そうですが…。しかしマッチングの通知書にこのQRコードが印字されていたということはこれを読み込むのは当然でして…。」
「当然?そうですか?こんな裏側にに小さく印字され、用紙の柄に紛れて分かりづらくされているのに?書類にはQRコードについて何も書かれて居ないですよね?暗黙の了解で読み込む。それはあまりにも不親切です。あなた方がこのページを公にしたくないのは分かりますよ。金を払わせてオメガに会わす。世間の人たちが知ったらどう思いますかね。」
「いや、それは…。学校運営には莫大な資金が必要で…。」
アルファはこの部屋に入って来た時の勢いは消え、狼狽えている。
「もちろんそれは理解できます。このシステムを否定したり公表したいわけではありません。現にマッチングしたアルファたちは喜んで金を払って会いに行ってますからね。そしてオメガ学園は必要な学園です。あの場所があるからアルファにとって大事なオメガが守られている。自分のオメガを守るために喜んで金を払っているんです。私たちはそれに関して否定はしません。寧ろ肯定派ですよ。そして莫大な金が動きその恩恵を受けている者たちもいる。まあ、誰とは言いませんが。」
石田はにこりと笑って二人を見た。二人は何も言えないようだ。莫大な資金はオメガだけに使われているわけではない。それに群がる者もいる。もちろんこのバース庁にも。
佐々木とその隣のアルファはぐうの音も出ないといった様子だ。
「えー、話は逸れましたが、私たちが言いたいのは潤さんのマッチング解除は不当だと言うことです。それで良いですね?」
和成が矢嶋の顔を見る。
「分かりません。今までそういった事例はないようです。オメガ学園は所謂『ただの箱』でオメガを管理しているのは政府です。働きかけるなら政府のバースを担当している部署でしょう。」
「何とかならないのか!これじゃあ潤が…。」
「そうよ!潤は真面目に待ってたのよ!おかしな裏技を使って会う方が悪いんじゃない。」
智恵美も泣きながら矢嶋に訴える。これではあまりにも息子がかわいそうだ。
「矢嶋!白石は?三年前、オメガ学園に入れる手引きをしてくれただろう?」
「はい。そちらの線も調べて見ましたが、白石さんは仲介のみで、実際に動いてくれた国府さんと言う方は去年病気で亡くなっています。」
「そんな…。潤⁉︎潤どうしたの?あなた!潤が…。」
「潤!おい、誰か来てくれ!澤田っ!」
潤はあまりのショックで倒れてしまう。智恵美と和成が慌てて人を呼ぶ声が遠くに聞こえた。
「潤、大丈夫だ。父さんたちに任せなさい。」
「…うん。」
潤と両親、矢嶋とさらに二人の男が政府のバースを管轄する庁舎に出向いた。二人の男は弁護士で主にバースに関する事件や事故を専門に扱っている。矢嶋の伝手で依頼することができた弁護士たちだ。
松尾と石田という弁護士は専門というだけあって、何とかバースを管轄する部署のトップと話をする機会を設けることに成功したのだ。
五人は庁舎の応接室に通されてそのトップである人物を待っている。
潤はあの日以降、魂が抜けたようになり満足に食事も摂れなくなってしまった。まだ会ったことはないとはいえ、マッチング率100%の運命を失うかもしれないという恐怖と不安で衰弱していた。
智恵美はそんな息子を連れて毎日医者に通って点滴をしてもらい看病する。真面目で勤勉な潤が何も手につかず弱っていく様子に智恵美自身まで倒れそうになっていた。
ガチャリと音がして一人の男が入って来た。
中肉中背のどこにでも居そうなベータの男といかにもアルファといった威厳のある男。
ベータの男が潤の父と弁護士に名刺を差し出す。
『バース庁 バース整合課 課長 佐々木洋司』
と書かれている。
アルファの方は頭を下げただけで名も名乗らない。おそらくあまり公に出来ない組織の人間だろう。
二人がソファーに座ると早速松尾が口火を切った。
「電話でもお話したように潤さんのマッチング解除の件は違法であり、無効です。すぐに解除の取り消しをお願いしたい。」
「その件ですが…。」
佐々木がもごもごと口ごもると隣のアルファが口を挟んできた。
「その件は佐々木に伺っております。こちらとしてはオメガの同意がある以上、マッチング解除は致し方ないと。それに解除の取り消しの前例はありません。今、そのオメガは他のアルファとマッチングもしております。」
「え?」
潤が驚いて顔を上げる。すでに楓は再マッチングをしてしまった。楓はもう他のアルファのもの。そう考えるだけで震えが止まらない。
そんな潤の肩を智恵美が抱きしめて目の前のアルファを睨む。智恵美もアルファだ。普段はおっとりして穏やかな性格だが、息子の幸せがかかっているとなるとそうもいかない。アルファの怒りのフェロモンがじわりと溢れ出る。
「お母様、そのようなことをされてもこの事実は覆りません。何せ前例がない。」
「前例、前例って…」
和成が喰ってかかりそうになるのを石田が止めた。
そして持っていた封筒からあるものを取り出す。
それはこの間見たQRコードから飛んだページを印刷したものだ。
「この内容はご存知ですよね?」
「え、ええ、まぁ…。」
「非公開ということですが、マッチングしたアルファは知っている。皆さん口コミでこのQRコードを読み取りこちらのサイトにいくという情報を得ています。潤さんはそれを知らなかった、彼の周りにはマッチングしたアルファが居ないからです。それは彼のせいではないでしょう?」
「ま、まあ、そうですが…。しかしマッチングの通知書にこのQRコードが印字されていたということはこれを読み込むのは当然でして…。」
「当然?そうですか?こんな裏側にに小さく印字され、用紙の柄に紛れて分かりづらくされているのに?書類にはQRコードについて何も書かれて居ないですよね?暗黙の了解で読み込む。それはあまりにも不親切です。あなた方がこのページを公にしたくないのは分かりますよ。金を払わせてオメガに会わす。世間の人たちが知ったらどう思いますかね。」
「いや、それは…。学校運営には莫大な資金が必要で…。」
アルファはこの部屋に入って来た時の勢いは消え、狼狽えている。
「もちろんそれは理解できます。このシステムを否定したり公表したいわけではありません。現にマッチングしたアルファたちは喜んで金を払って会いに行ってますからね。そしてオメガ学園は必要な学園です。あの場所があるからアルファにとって大事なオメガが守られている。自分のオメガを守るために喜んで金を払っているんです。私たちはそれに関して否定はしません。寧ろ肯定派ですよ。そして莫大な金が動きその恩恵を受けている者たちもいる。まあ、誰とは言いませんが。」
石田はにこりと笑って二人を見た。二人は何も言えないようだ。莫大な資金はオメガだけに使われているわけではない。それに群がる者もいる。もちろんこのバース庁にも。
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