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しおりを挟むそれから数日で僕はレオナルド様に歓迎されていない事を理解した。屋敷では滅多に顔を合わせない。食事も別で食べている。
幸いな事にロイもハンナも良い人で僕に優しく接してくれる。他の使用人たちもみんな良い人たちだ。だから僕はレオナルド様に冷たくされてもなんとかやってこられた。
レオナルド様は僕との結婚を望んでいない。僕はこの屋敷に来て直ぐにその理由を知ってしまった。
レオナルド様には好きな人がいるのだ。
その方はロジェ様といって僕と同じ男のオメガだ。ただし見た目は全く違う。ロジェ様はプラチナブロンドの髪とアメジスト色の瞳を持つ美しいオメガだ。何度か王都でお見かけした事がある。それに比べて僕は茶色の髪、黒い瞳のパッとしないオメガだ。
なぜ僕を望まれたのかは今なら分かる。僕は発情期を迎えていないからだ。
オメガは14・5歳で発情期を迎え子どもが出来る身体になる。
おそらくレオナルド様は結婚を急かされたり見合いをしたりするのが面倒なのだろう。ロジェ様以外とは番うつもりもないし、子を作すつもりもない。令嬢や発情期のきたオメガと結婚してしまうと万が一のことがあれば子を授かってしまう。
僕みたいな18歳過ぎても発情期が来ない出来損ないのオメガがちょうど良いのだ。
そんなロジェ様は2年前、その美しさを見染められて隣国の王太子様とご結婚された。お二人の国でそれぞれ盛大な結婚パーティーが開かれ僕も祝賀パレードを観に行った。大小色とりどりの宝石を身につけたロジェ様はキラキラと輝いていた。
ロジェ様がご結婚されても尚、レオナルド様は忘れる事が出来ないのだ。
この屋敷の一番奥にロジェ様の肖像画が置いてある部屋がある。レオナルド様は時々肖像画を観にその部屋に行っている。
僕はこの屋敷に来たばかりの時、迷子になってその部屋に入りロジェ様の肖像画を見つけてしまった。
肖像画のロジェ様は輝くばかりに美しかった。レオナルド様の気持ちが分かる気がする。でもそれを思い出す度、僕の胸はチクリと痛んだ。
その事をなんとなく執事のロイに尋ねてみた。とても言いにくそうだが教えてくれた。あの肖像画はレオナルド様が絵師に描かせたものだそうだ。ロジェ様との噂は有名なので、そのうち僕の耳にも入ると思ったのだろう。
僕の前に5人、オメガを婚約者として迎え入れたが5人とも婚約破棄をして帰ってしまった。
実際僕も実家に帰る事を考えたが、嬉しそうな両親の顔や母のお手製の刺繍入りのハンカチを見ると悲しませたくない気持ちが強く、我慢してここに居ようと決めた。
誰かに意地悪される訳でもないし…。居心地はとても良い。
最近は庭で薬草を育てている。王都にいた時も小さな庭で家庭菜園をしていた。
ここの地域は寒いので家庭菜園には向いていない。薬草類なら丈夫なので育ってくれている。庭師のヘンリーとも仲良しだ。ヘンリーは偏屈なお爺さんでみんなに怖がられているが、草木が好きな僕とは話が合う。今では一緒に庭の手入れをしたり、薬草を育てるのを手伝ってもらっている。
「もう少し魔力を使って大きくしてみようかな。」
「いや、それはやめた方が良い。魔力で育った薬草は効力が弱まるからな。」
庭の端で僕とヘンリーは新しく植えた薬草の芽を見ていた。ピョコンと可愛く発芽している。
僕も貴族の端くれなので少々の魔力を持っている。まあレオナルド様に比べたら微々たるものだ。
貴族は産まれるとすぐに教会で魔法が使えるように洗礼を受ける。魔力量や使える魔法は人によって様々だ。
僕は魔力量も少なく使える魔法は植物を元気にする、といった貴族にはあまり役に立たないものだった。
庭の手入れをしていると馬車が屋敷の前に停まったのが分かった。
レオナルド様が帰ってきたのだ。
僕は急いで玄関まで行きお迎えの挨拶をした。
「おかえりなさいませ。」
「何だ、その薄汚れた格好は。」
ハッとして靴とズボンを見るとさっきまで庭いじりをしていたので土で汚れていた。謝ろうと再度頭を下げたがレオナルド様はそのまま自室に行かれてしまった。
またやってしまった…。ここへ来てからレオナルド様を怒らせてばかりだ。最もあまり顔を合わせないので怒った所しか見たことない。
「ルーファス様、お着替えをしてお茶にしましょう。」
しょんぼりする僕にハンナが優しく声をかけてくれた。
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