34歳独身女が異界で愛妾で宰相で

アマクサ

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第三章 仲間

34歳の行動と明かされる皇帝の心

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 翌日からナオとフィリップは皇都内外の貴族の館に赴いていた。
すでに一週間が過ぎた。説得の甲斐があり、順調に協力者を集めることができていた。
 二日後には帝議会が開かれる。それまでにできる限り協力者を増やしたい。

「今日は最後の大物、南のマルケス・カセレス伯爵だな。
こやつさえ懐柔してしまえば後は全て決まったというものよ。
あと一押しだな。」

 賢老フィリップは自慢げにナオに言う。
事実、これだけ簡単に味方を増やせているのはフィリップの人脈に依ることろが大きい。
そして、気づかれにくいがフィリップの本当に凄い所は仕事のスピードだ。
 アッという間に諸侯に文を書き、謁見の約束をし、スケジューリングする。
好みも調べ尽くしていて各諸侯の合う手土産をそれぞれに用意する。
 手土産を用意することに関しては息子のクリストフが迅速に手配する。さすが盗賊。
 謁見の順番も精査されていて、あの貴族を味方につければあの貴族も芋づる式にという具合だ。
全く時間の無駄がなく、短期間で最大の成果を上げたといっても過言ではない。

「フィリップ殿。ありがとうございます。
ここまでうまく事を運べるのは全てあなたのおかげです。」

 マルケス・カセレス伯爵の館に向かう馬車の中でナオは改めて礼をいう。

「なあに、大した事ではない。ナオ殿の熱意があればこそだぞ。」

 最近慣れてきてしまった叱咤で返してくるのかと思いきや、フィリップはナオを褒めた。

「ははは。フィリップ殿に褒められるとなんだかむず痒いですね。」

 ナオは少し照れて微笑む。

「しかし、なぜこれほどまでに辣腕をお持ちなのに宰相をお辞めになったのです?」

「ふはははは。それを直接ワシに聞くか!
相変わらず素直な小娘よのう。」

「よい。少し昔話をしてやろう。ナオ殿はこの国の事をあまり知らないのであったな。」

「はい。お願いします。」

「ワシは三十年程前に先代の皇帝に認められて若くして宰相になった。
当時の帝国の版図は今の半分ほどでな。野心に燃える皇帝は侵略戦争を行いたかったのだ。」

「ワシは宰相になる前から情報収集に長けていてな。
宰相になった時にはすでにワシが出資して武器商会をいくつも持っていた。」

「宰相になってからはありとあらゆる権力を使い、国力を増大させ、侵略戦争を勝たせ続けた。
 今思うと、その時はだいぶ目が曇っていたのだろう。
 ある時、国境近くに視察に出た際に見たものは眼下に広がる見るも無残な光景だった。
 焼け焦げた家屋、荒れた田畑、凌辱される人々・・・。」

「戦争には勝ち続けていたから万事うまくいっていると思っていたが、しわ寄せはやはり弱き者に行ってしまうのだな。」

「その光景を見た後、国内を見返してみると、うまく行っていたと思っていたものがすべてハリボテだったことに気が付いたのだ。このままでは国も滅びかねないともな。」

「それからワシは戦争反対の穏健派に鞍替えした。
 しかし尽力した時はすでに遅く、皇帝も帝議会も戦争容認派でまとまってしまっていて、ワシは背任で皇都を追われたのだ。」

 ナオは懺悔にも似たフィリップの言葉に胸が熱くなる。

「なんということ・・・。それでは盗賊をやっていた事も私を補佐してくださることも全て贖罪の気持ちからなのですね・・・。」

「ふん。そんなに恰好のいいものではないわ。
だが、ついでだがもう一つ。」

「それからしばらくして追放されたワシの元に来たのはなんと今のジョルジュ・ヴォギュエ皇帝よ。
 先代の皇帝が急逝してな。当時まだ十代のジョルジュ殿下が後を継いだのだ。」

「その陛下がワシの下に来て、戦争を終わらせるための方策を教えてほしいと言ったのだ。」

「もちろんワシは快諾した。しかし状況は非常に悪かった。
 先代皇帝の逝去の混乱に乗じて、貴族や豪族、豪商が幅を利かせていた。
 さらには国境付近は皇帝の逝去を聞き、勢いづいた他国の侵略で泥沼な戦いを強いられていた。」

「ワシはこれを収めるにはもうこのまま戦争をしてすべて制圧するしか手段はないと考えた。
 もちろんワシは先代皇帝から追放された身。皇城は入ることはかなわなかったが、逆に機動力を生かして半年の内に全ての戦火を終わらせた。」

「外交交渉もうまく行き、領土は現在の帝国版図で他国から承認された。
 ここからは国内の復興が問題だったが、やはりここでもやはり帝議会が問題になる。」

「ワシの後任の宰相は、ほれ、ナオ殿がクビを切ったラリュー・デュモンだ。
わかるであろう。私利私欲でしか動かず、狡猾で保守的。そして運があった。」

「ワシは影で動いていたため、あやつが戦争を勝利に導いた宰相として脚光を浴び、そのまま権力を欲しいままにしたのだよ。」

「陛下も最初は政治の腐敗をなんとかしようとしたのだが、いかんせんまだ若かった。
 しかもワシは皇城には入れん。ああ、ちなみに今は入れるぞ。背任罪の刑期十年は終ったからの。」

「結局、宰相の暴挙を見逃す他なかった。
 そうやって月日は経ち、陛下も宰相のやり方に染まってしまったのか、それとも諦めてしまったのか、暴君とも噂されるようになってしまった。」

「だからこそ、なのであろうな。
夜会で見せたナオ殿の真っすぐな言葉が、目が、陛下のお心を貫いたのであろう。」

「そうでなければあの場で宰相を解任などと暴挙には出なかったはずだ。」

「先日、陛下に呼ばれたワシとナオ殿が宮殿で会ったであろう?
あの時に実はな、陛下からナオ殿を補佐してやってくれと頼まれたのだよ。」

「なっ!―――――」

 あまりの衝撃的な事実にナオは言葉を失った。



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