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間章
34歳の冬、それぞれの頁
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コラシオ島から久々に皇都に戻ったナオに待っていたのはものすごい数の書類の山。
しばらく執務に追われ、引きこもりをやっていた。
オルネア帝国はというと、ナオの改革がうまく回り始めて次第に活況を呈するようになってきていた。
その間に、海賊の娘レルミタに辞令を出し公式施設部隊の一員として加えた。盗賊と海賊、やりやすいだろうとクリストフ直属の部下にする。
「やだあ、かわいい」
メイド服姿のレルミタを見て、うっとりするようにナオが言う。
レルミタは軍服は窮屈で着たくないというので皇城勤めの際はロレンツェたちと同じ、メイド服を着させた。
バンダナの代わりにホワイトブリムというレース付きのカチューシャを頭につけている。
少し空いた肩からはタトゥーが見え隠れしていてなんとも制服というよりコスプレにしか見えない。
タリス島の仲間が見たら、お腹を抱えて大笑いするだろう。
それを思ってか、レルミタは少し赤くなっていた。
「読書好きの海賊の娘がメイド服姿!!属性ありすぎ!萌える!!」
お披露目を見に来たクリストフ・パスカルはついに鼻血を吹き上げた。
クリストフはレルミタをかなり気に入って、手を出そうと迫っていたがやはりというか暴力的に返り討ちに合っている。それはそれで嬉しそうなのだが。
レルミタはというと暇さえあれば帝国図書館に入り浸り、本の虫になっている。
読んでいる本のタイトルは様々なジャンルだが”執着”とつくのもが多い。わからないながらも素直に学ぼうとしている。
ナオが皇都を空けている間に侍女のクリスティーヌに事件があった。
なんと、嫌がっていた賢老フィリップ・パスカルに手籠めにされてしまった。
「ワシはすでに妻とは死に別れた。妾などと思っているわけではない。
お前が若い男を見つけるまでワシの傍にいろ。」
という感じで逃げ道を塞がれ、クリスティーヌは陥落した。
初めは嫌がっていたクリスティーヌも態度が急変していた。
「父上・・・通じやがったな・・・」
一人悔しさをかみしめるクリストフだった。そのせいもあってクリストフにさらに生傷が増えていく・・・。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
以前、船の上でロレンツェに完膚なきまでに負けた、ブラハ、ラヴェルは演習場で偽剣を交えていた。
見事な剣戟で、周りにいる騎士たちも思わず感嘆の声を上げる。
二人ともよい腕を持っている。流派は違うが、二人とも正統派な剣術を用いる。基本は騎士対騎士を想定とした剣術である。
しかし、邪道というか、戦場で磨かれたロレンツェの予測不能な剣にはまったくついていけない。
この新しい気づきは二人にとって非常に大きい原動力となっていた。
もちろん、ロレンツェのお株を奪ってナオにいいところを見せようとのやましさもある。
「しかし!相変わらず我々はいい出番がありませんね!」
激しく打ち合いながら、ラヴェルがブラハに言う。
「確かに!なにかよい手はないものか!ハアッ!」
「ああ!いい手を思いつきました!せいっ!」
ついにラヴェルがブラハの剣を弾き飛ばす。
「武術大会を開きましょう!オルネア帝国騎士の力を示すにも丁度よいです!」
「なるほど、それはいいアイデアですね!国内外問わず広く参加を呼びかけましょう!」
やましさを含む単純な思いつきから稟議を通過することとなり、半年後に第一回オルネア帝国武術大会が開かれることとなる。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ひと月ほど過ぎた頃季節は冬を迎え、12月も終盤となっていた。
皇都には雪が降り積もっていた。今年は例年より少ない。
ナオは時間があるときは皇都へ視察に出るようにしていた。
すでにナオの顔と執政は平民に広く受け入れられ、行く先々で笑顔で迎えられる。
まだまだ大変ではあるが街が笑顔で包まれていくのはナオにとって喜ばしいことだった。
「去年は凍死者が百人は超えたといいます。今年はナオ様が建てられた家のない方のための施設のおかげでなんと凍死者はいまだいないそうです。」
「本当?それはよかったわ。さて、あそこにいくわよ。」
ナオ、ロレンツェ、そしてクリスティーヌの三人で外れの孤児院に向かっていた。
孤児院はナオの寄付のおかげで建物を増築もしていた。子供の数も増えている。
「あ!ナオ姉ちゃんだあ!」
外で雪遊びをしていた小さい男の子がナオに気づき、飛びかかってくる。
ナオはよろめきながら受け止める。さらに数人の子供も飛びかかってくる。
「みんないっぺんには反則!重たいよ。ハハハ。
ガイ君たち元気にしてた?三人で遊びにきたよ。何してあそぼっか?」
「今雪人形作ってたんだ!丁度ナオ姉ちゃん作ってたんだ!」
男の子が一生懸命に積み上げられた雪の塊を指さす。
どこからどう見てもただの雪だるまだ。
「おいガイ君!私はあんなに不細工じゃないぞう!ひどいな!」
「えー!?にてるよー!アハハハハ!」
ナオが怒った仕草をすると、男の子たちは今度はナオから離れて逃げ惑う。
「こらー!まてー!」
雪庭の中、ナオを拳を振り上げて子供たちを追いかけていく。
「ナオ様そっくりー!」
クリスティーヌも乗っかって逃げ惑う。当然、ナオは追わない・・・。
「楽しそうで何よりです。ここに来ると普段は年齢以上に見えるナオ様が子供みたい・・あいた!」
ロレンツェが間の抜けた声を放つ。頭に雪団子がさく裂していた。
遠くでナオがケラケラ笑っている。
「ナオ様!やりましたね!」
ロレンツェも興奮して近くにあった大きな雪の塊を両手で持ち上げて投げつけた。
「あっそれ私・・・。」
子供たちが一生懸命作った雪のナオ像は首がなくなった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
すっかり夜の帳も降り、遊び過ぎた孤児院からの帰り道、街の繁華街を通る。
数か月前に比べ、明かりが増え陽気な笑い声が響く。
「まだ数か月なのにあの悲壮感漂う街が嘘のよう。」
「ええ。ナオ様のお陰です。」
「この灯りを絶やさないようにしなくちゃね。」
ナオの言葉にロレンツェは目を閉じて無言でうなずく。
「おお?宰相様よお!」
酒場の外のテーブルで飲んでいたゴロツキ風な男が声を掛ける。
「宰相様よお!あんたすげえじゃねえか!来いよ!一緒に飲もうぜ!」
「ナオ様に失礼であろう!言葉に気をつけよ!」
いきり立ってロレンツェが男に声を張った。
「まあまあ、ロレンツェ!のども乾いたし、皆さんとの交流もとても大事よ!
ご一緒させてもらいましょう!」
「ええー!本当ですか?!・・・ってナオ様の目がお酒になってる!呑みたいだけではないですかっ!」
「ハハハハハ!!宰相様はノリがいいねえ!今日は俺様がおごってやるぜ!」
次の瞬間、口端でナオの歯がキラリと光った。
「今のお言葉確かに言質をとりましたわ!遠慮なくごちそうになります!」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「だからさー、これからは皇都はこうしたほうがいいわけ!そうした方がおもしれえだろ?」
「なるほど!面白い事考えますね!しかしあなたの今の顔の方が面白い!」
「なんだよお。変顔してるわけじゃねえぞお、変顔はこうやるんだ!」
「アハハハハハ!変わってません!むしろ良くなってる!ねえみなさん!」
「宰相殿がいうんだ、まちがいねえ!」
「っておいおい、どっちの味方だよ!ガハハハハ!」
宰相様が酒場で平民と一緒に飲んでいるらしいぞ?
そこまで破天荒な宰相なのか?おもしろい!
と、一時間後酒場の外には一テーブルしかなかったのが五テーブルほど出されて近隣の酒場の客も加わって大宴会になっていた。
すでに通れないくらいほど道にも人が溢れ帰っている。
「何ごとだ?」
人だかりで通れなくなった道で馬を止めたのはラヴェルと騎士十名だった。郊外での演習の帰りだ。ラヴェルは道端の一人に尋ねた。
「いやあ、すげえ姉ちゃんがいて、盛り上がってしまってるんですよ。」
「すげえ、姉ちゃん?」
ラヴェルは中心にいる三人の女性を見て仰天する。
「ナオ様あーーー!!!」
「あら、ラヴェル殿?呑みに来たの?」
「呑みにきたのではありません!どうしてこんなことになっているんですか!?」
「そこの紳士がごちそうしてくれると言って下さったので・・・」
「ごちそうしたらついて来てくれるんですか!?それでは私もぜひ今度!!」
「おいおい、騎士の兄ちゃん。そこはついて行っちゃだめというのが騎士なんじゃねえの?ブアハハハハ!!」
「ハハハハ。ではラヴェル殿?今度と言わず、今ご一緒しましょう?公式施設部隊の皆さんもね?」
「ありがとうございます。それでは遠慮なくご馳走になる。紳士殿よ。」
さも当然とばかりにラヴェルは軽く頭を下げる。やはりというかラヴェルはどこか抜けているらしい。というかバカ・・・だがとても誠実な男であるというフォローだけしておく。
「おいおい!男におごる趣味はねえ!」
「あきらめろ!もう後には引けねえよ!素寒貧になったら貸してやっから!」
聞き届けてもらえない紳士とはやし立てるその仲間であった。
「そうだわ!この感じいいわね!お祭りしたいわね!オルネア皇都ではお祭りとかないの?」
盛り上がっている雰囲気を見てナオが閃いた。
「宰相さんよお。政治ばっかりで何もこの街の事、知らねえんだなあ。
祭りなんてもんはとっくの昔に衰退しちまってるよ。」
「そうなんです。唯一残っているのが、新年になった一月一日にオルネア大神殿にお参りに行く事でしょうか。」
「そうなの?それじゃあ何も楽しいことがないじゃない。・・・」
「・・・よし、決めた!いいタイミングだし、十日後にお祭りを開催しましょう!」
「「「えええ!!!」」」
「私がもともといた国では12月24日はお祝いの日。オルネアもお祭りの日にしましょう!」
「・・・そうね、再びともり始めたこの灯り。人々の幸せの象徴であるこの灯りが長く続いて行きますように、と祈りを込めたお祭りにしましょう!宰相命令よ!!」
「・・・すげえ!すげえよ、宰相殿!!」
一瞬静まりかえったが、次の瞬間に割れんばかりに賞賛が声が上がる。
「ええ!ありがとう!24日は街をライトアップしてみんなで歌って踊りましょう!!
街の広場に帝国のオーケストラを連れてきちゃうわ!
それと私の国では子供たちにプレゼントをあげるの。それもやりましょう!
ああ、とてもワクワクしてきたわ!!
もっと呑みましょう!!」
そしてさらに大宴会は続いた。
「あら?もう終わり?みんなだらしないのね。」
気づけばナオ、ロレンツェ以外の客は酔い潰れていた。もちろんラヴェルと騎士も。
ジュースしか飲んでないのに寝てるクリスティーヌを起こして連れて帰る。先に帰られたラヴェルの明日の顔が楽しみだ。
庶民では過去見たことのない金額になっているお酒の代金をナオのお金でロレンツェがちゃんと払っておく。
しばらく執務に追われ、引きこもりをやっていた。
オルネア帝国はというと、ナオの改革がうまく回り始めて次第に活況を呈するようになってきていた。
その間に、海賊の娘レルミタに辞令を出し公式施設部隊の一員として加えた。盗賊と海賊、やりやすいだろうとクリストフ直属の部下にする。
「やだあ、かわいい」
メイド服姿のレルミタを見て、うっとりするようにナオが言う。
レルミタは軍服は窮屈で着たくないというので皇城勤めの際はロレンツェたちと同じ、メイド服を着させた。
バンダナの代わりにホワイトブリムというレース付きのカチューシャを頭につけている。
少し空いた肩からはタトゥーが見え隠れしていてなんとも制服というよりコスプレにしか見えない。
タリス島の仲間が見たら、お腹を抱えて大笑いするだろう。
それを思ってか、レルミタは少し赤くなっていた。
「読書好きの海賊の娘がメイド服姿!!属性ありすぎ!萌える!!」
お披露目を見に来たクリストフ・パスカルはついに鼻血を吹き上げた。
クリストフはレルミタをかなり気に入って、手を出そうと迫っていたがやはりというか暴力的に返り討ちに合っている。それはそれで嬉しそうなのだが。
レルミタはというと暇さえあれば帝国図書館に入り浸り、本の虫になっている。
読んでいる本のタイトルは様々なジャンルだが”執着”とつくのもが多い。わからないながらも素直に学ぼうとしている。
ナオが皇都を空けている間に侍女のクリスティーヌに事件があった。
なんと、嫌がっていた賢老フィリップ・パスカルに手籠めにされてしまった。
「ワシはすでに妻とは死に別れた。妾などと思っているわけではない。
お前が若い男を見つけるまでワシの傍にいろ。」
という感じで逃げ道を塞がれ、クリスティーヌは陥落した。
初めは嫌がっていたクリスティーヌも態度が急変していた。
「父上・・・通じやがったな・・・」
一人悔しさをかみしめるクリストフだった。そのせいもあってクリストフにさらに生傷が増えていく・・・。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
以前、船の上でロレンツェに完膚なきまでに負けた、ブラハ、ラヴェルは演習場で偽剣を交えていた。
見事な剣戟で、周りにいる騎士たちも思わず感嘆の声を上げる。
二人ともよい腕を持っている。流派は違うが、二人とも正統派な剣術を用いる。基本は騎士対騎士を想定とした剣術である。
しかし、邪道というか、戦場で磨かれたロレンツェの予測不能な剣にはまったくついていけない。
この新しい気づきは二人にとって非常に大きい原動力となっていた。
もちろん、ロレンツェのお株を奪ってナオにいいところを見せようとのやましさもある。
「しかし!相変わらず我々はいい出番がありませんね!」
激しく打ち合いながら、ラヴェルがブラハに言う。
「確かに!なにかよい手はないものか!ハアッ!」
「ああ!いい手を思いつきました!せいっ!」
ついにラヴェルがブラハの剣を弾き飛ばす。
「武術大会を開きましょう!オルネア帝国騎士の力を示すにも丁度よいです!」
「なるほど、それはいいアイデアですね!国内外問わず広く参加を呼びかけましょう!」
やましさを含む単純な思いつきから稟議を通過することとなり、半年後に第一回オルネア帝国武術大会が開かれることとなる。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ひと月ほど過ぎた頃季節は冬を迎え、12月も終盤となっていた。
皇都には雪が降り積もっていた。今年は例年より少ない。
ナオは時間があるときは皇都へ視察に出るようにしていた。
すでにナオの顔と執政は平民に広く受け入れられ、行く先々で笑顔で迎えられる。
まだまだ大変ではあるが街が笑顔で包まれていくのはナオにとって喜ばしいことだった。
「去年は凍死者が百人は超えたといいます。今年はナオ様が建てられた家のない方のための施設のおかげでなんと凍死者はいまだいないそうです。」
「本当?それはよかったわ。さて、あそこにいくわよ。」
ナオ、ロレンツェ、そしてクリスティーヌの三人で外れの孤児院に向かっていた。
孤児院はナオの寄付のおかげで建物を増築もしていた。子供の数も増えている。
「あ!ナオ姉ちゃんだあ!」
外で雪遊びをしていた小さい男の子がナオに気づき、飛びかかってくる。
ナオはよろめきながら受け止める。さらに数人の子供も飛びかかってくる。
「みんないっぺんには反則!重たいよ。ハハハ。
ガイ君たち元気にしてた?三人で遊びにきたよ。何してあそぼっか?」
「今雪人形作ってたんだ!丁度ナオ姉ちゃん作ってたんだ!」
男の子が一生懸命に積み上げられた雪の塊を指さす。
どこからどう見てもただの雪だるまだ。
「おいガイ君!私はあんなに不細工じゃないぞう!ひどいな!」
「えー!?にてるよー!アハハハハ!」
ナオが怒った仕草をすると、男の子たちは今度はナオから離れて逃げ惑う。
「こらー!まてー!」
雪庭の中、ナオを拳を振り上げて子供たちを追いかけていく。
「ナオ様そっくりー!」
クリスティーヌも乗っかって逃げ惑う。当然、ナオは追わない・・・。
「楽しそうで何よりです。ここに来ると普段は年齢以上に見えるナオ様が子供みたい・・あいた!」
ロレンツェが間の抜けた声を放つ。頭に雪団子がさく裂していた。
遠くでナオがケラケラ笑っている。
「ナオ様!やりましたね!」
ロレンツェも興奮して近くにあった大きな雪の塊を両手で持ち上げて投げつけた。
「あっそれ私・・・。」
子供たちが一生懸命作った雪のナオ像は首がなくなった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
すっかり夜の帳も降り、遊び過ぎた孤児院からの帰り道、街の繁華街を通る。
数か月前に比べ、明かりが増え陽気な笑い声が響く。
「まだ数か月なのにあの悲壮感漂う街が嘘のよう。」
「ええ。ナオ様のお陰です。」
「この灯りを絶やさないようにしなくちゃね。」
ナオの言葉にロレンツェは目を閉じて無言でうなずく。
「おお?宰相様よお!」
酒場の外のテーブルで飲んでいたゴロツキ風な男が声を掛ける。
「宰相様よお!あんたすげえじゃねえか!来いよ!一緒に飲もうぜ!」
「ナオ様に失礼であろう!言葉に気をつけよ!」
いきり立ってロレンツェが男に声を張った。
「まあまあ、ロレンツェ!のども乾いたし、皆さんとの交流もとても大事よ!
ご一緒させてもらいましょう!」
「ええー!本当ですか?!・・・ってナオ様の目がお酒になってる!呑みたいだけではないですかっ!」
「ハハハハハ!!宰相様はノリがいいねえ!今日は俺様がおごってやるぜ!」
次の瞬間、口端でナオの歯がキラリと光った。
「今のお言葉確かに言質をとりましたわ!遠慮なくごちそうになります!」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「だからさー、これからは皇都はこうしたほうがいいわけ!そうした方がおもしれえだろ?」
「なるほど!面白い事考えますね!しかしあなたの今の顔の方が面白い!」
「なんだよお。変顔してるわけじゃねえぞお、変顔はこうやるんだ!」
「アハハハハハ!変わってません!むしろ良くなってる!ねえみなさん!」
「宰相殿がいうんだ、まちがいねえ!」
「っておいおい、どっちの味方だよ!ガハハハハ!」
宰相様が酒場で平民と一緒に飲んでいるらしいぞ?
そこまで破天荒な宰相なのか?おもしろい!
と、一時間後酒場の外には一テーブルしかなかったのが五テーブルほど出されて近隣の酒場の客も加わって大宴会になっていた。
すでに通れないくらいほど道にも人が溢れ帰っている。
「何ごとだ?」
人だかりで通れなくなった道で馬を止めたのはラヴェルと騎士十名だった。郊外での演習の帰りだ。ラヴェルは道端の一人に尋ねた。
「いやあ、すげえ姉ちゃんがいて、盛り上がってしまってるんですよ。」
「すげえ、姉ちゃん?」
ラヴェルは中心にいる三人の女性を見て仰天する。
「ナオ様あーーー!!!」
「あら、ラヴェル殿?呑みに来たの?」
「呑みにきたのではありません!どうしてこんなことになっているんですか!?」
「そこの紳士がごちそうしてくれると言って下さったので・・・」
「ごちそうしたらついて来てくれるんですか!?それでは私もぜひ今度!!」
「おいおい、騎士の兄ちゃん。そこはついて行っちゃだめというのが騎士なんじゃねえの?ブアハハハハ!!」
「ハハハハ。ではラヴェル殿?今度と言わず、今ご一緒しましょう?公式施設部隊の皆さんもね?」
「ありがとうございます。それでは遠慮なくご馳走になる。紳士殿よ。」
さも当然とばかりにラヴェルは軽く頭を下げる。やはりというかラヴェルはどこか抜けているらしい。というかバカ・・・だがとても誠実な男であるというフォローだけしておく。
「おいおい!男におごる趣味はねえ!」
「あきらめろ!もう後には引けねえよ!素寒貧になったら貸してやっから!」
聞き届けてもらえない紳士とはやし立てるその仲間であった。
「そうだわ!この感じいいわね!お祭りしたいわね!オルネア皇都ではお祭りとかないの?」
盛り上がっている雰囲気を見てナオが閃いた。
「宰相さんよお。政治ばっかりで何もこの街の事、知らねえんだなあ。
祭りなんてもんはとっくの昔に衰退しちまってるよ。」
「そうなんです。唯一残っているのが、新年になった一月一日にオルネア大神殿にお参りに行く事でしょうか。」
「そうなの?それじゃあ何も楽しいことがないじゃない。・・・」
「・・・よし、決めた!いいタイミングだし、十日後にお祭りを開催しましょう!」
「「「えええ!!!」」」
「私がもともといた国では12月24日はお祝いの日。オルネアもお祭りの日にしましょう!」
「・・・そうね、再びともり始めたこの灯り。人々の幸せの象徴であるこの灯りが長く続いて行きますように、と祈りを込めたお祭りにしましょう!宰相命令よ!!」
「・・・すげえ!すげえよ、宰相殿!!」
一瞬静まりかえったが、次の瞬間に割れんばかりに賞賛が声が上がる。
「ええ!ありがとう!24日は街をライトアップしてみんなで歌って踊りましょう!!
街の広場に帝国のオーケストラを連れてきちゃうわ!
それと私の国では子供たちにプレゼントをあげるの。それもやりましょう!
ああ、とてもワクワクしてきたわ!!
もっと呑みましょう!!」
そしてさらに大宴会は続いた。
「あら?もう終わり?みんなだらしないのね。」
気づけばナオ、ロレンツェ以外の客は酔い潰れていた。もちろんラヴェルと騎士も。
ジュースしか飲んでないのに寝てるクリスティーヌを起こして連れて帰る。先に帰られたラヴェルの明日の顔が楽しみだ。
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