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終章 選択
《皇帝・ルート》34歳と皇帝の最終話
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皇城を出発した皇帝は翌日にスタインベルグ王国の王都ナーエに到着し、布陣した。
事前に使者をブラハに送っていて、協力を承諾していた。
皇帝は敗戦の色が強いブラハの陣を訪れた。
「これは手ひどくやられたものだな。」
「返す言葉もありません・・・。」
群議場で皇帝を迎えたブラハが苦虫をかみ殺したような顔で返す。
「スタインベルグ国王は無事なのか?」
「まだわかりません。ただ、王城からは戦いの音が止んでいます。すでに全て制圧されていると思います。
奇襲という策を取ったイスタリカ王国が国王を生かしておくとは思えません・・・。」
冷静に客観的事実を述べようとするブラハに皇帝は気を落とすな、とだけ声を掛けた。
オルネア帝国軍が来たため、現在はスタインベルグ王国軍とイスタリカ王国軍の戦いは一時止まっている。
イスタリカ王国軍は王都ナーエを制圧し、その中心に位置する王城も制圧し、駐屯していた。
「して、どう攻める?」
「はい。私が言うのもなんですが、王都ナーエは城壁にと有利な自然に囲まれて、守るが易く、攻めるが堅いのです。」
「そうなのか?
ならなぜ陥落したのだ?
よほどの軍勢だったのか?」
「いえ、確かに数は多いのですが、それほどまでとは思えません。
そんなに多くの軍勢であれば、攻められる前に気付けていたでしょうから。
しかし、ならばなぜというのはわかりません。
考えられるのは内通者か敵が事前に侵入していて城門を開けられたとしか・・・。」
「今回はその手は使えないのか?」
「難しいです。
確かに王都ナーエの住民はイスタリカ王国に協力的ではないでしょうが、連絡を取る手段がありません。」
「ではやれる手立てはひとつか。」
「はい。
正攻法で城攻めです。
時間は掛かってしまうが仕方ないでしょう。」
皇帝とブラハは部隊編成をして、翌日から王都を攻める事に合意した。
ここから先ひと月、王都陥落に時間を要する事となる。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「ナオ様!
スタインベルグ王国よりの伝令が来ております!」
ロレンツェが宰相の執務室に駆け込んで来た。
ナオはすぐさま、使者を部屋に入れる。
「報告致します!
オルネア帝国軍とスタインベルグ王国軍は昨日王都ナーエを陥落させました!
皇帝陛下は都市の安全確保が終わり次第帰還するとの事です!」
「そうですか!無事で何よりです!
あなたも早馬ご苦労様でした。下がって休んで下さい。」
ナオはロレンツェを見て安堵の表情を浮かべる。ロレンツェもそれに笑顔で返す。
すでに出兵してからひと月が経っていた。スタインベルグへの派兵は当初の予想よりもずっと長くかかっていたのだ。
日に日に不安が募っていた事は間違いなかった。
『早く会いたい・・・。』
皇帝に会えない日々はナオをとても素直にしていた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「終わってみれば時間こそかかったものの、楽な戦いであったな。」
スタインベルグ王国からの帰路、皇帝は馬に揺られていた。
オルネア帝国軍はそれほどの死傷者を出すことなく、王都ナーエを陥落させた。
正攻法で時間はかかったが、屈強な騎士たちはじわりじわりとイスタリカ王国軍を追い詰めた。
ブラハのスタインベルグ王国軍の奮闘もあり、オルネア帝国軍は王都の人々の救済や治安維持に回ることが多かった。
「陛下。海を越える渡し船の用意が整いました。」
スタインベルグ王国とオルネア帝国は大陸が分かれている。オルネア帝国本土には大した距離ではないが、船に乗り換えなければならない。
皇帝は馬を配下の者に任せ、桟橋を渡る。
その日は稀にみる大雨に振られていた。風もかなり強い。
雨に打たれながらの乗り込み作業で皆せわしなく動いていた。
「皇帝め・・・!」
近衛騎士の目を盗み、ドロドロとした恨み声を発して突如桟橋の下から男が飛び出てきた。
難民のようなボロボロの黒い外套を頭からかぶり、手にはナイフを持っている。
足元に気を取られて気づくのが遅れた皇帝に男の凶刃が光る。
「陛下!」
近衛騎士が声を上げたが既に遅く、その男の手のナイフは皇帝の胸に突き刺さっていた。
「ぐっ貴様・・・・!」
皇帝はよろけながら、その男の頭のフードを外した。
中から見覚えのある顔が晒されるのを見た。
「貴様は・・・宰相だったラリュー・デュモン・・・。
そうか・・・。貴様がイスタリカ王国を手引きしたのだな・・・・。」
ブラハがオルネア皇都に侵攻したタイミングを見計らった、早すぎるイスタリカ王国軍の侵攻。
全てはこの男が手引きした。この男が全ての元凶なのだと一瞬のうちに悟る。
『この男の闇にもっと早く気づいていたら・・・。』
その男は次の瞬間には近衛騎士によってあっけなく切り伏せられた。
狂ったような断末魔の声を上げて息絶えた。
「陛下!お怪我は!?」
近衛騎士が近づいて来ようとしたとき、意識を放した皇帝は倒れこむ。
運悪く、そこは桟橋の上だった。
皇帝は倒れこんだ勢いでそのまま海に落下してしまう。
強い雨風。そして十メートル以上もの高さから皇帝は海に沈んだ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
到着予定時間の報を受けていたナオは今か今かとそわそわしながら皇帝の到着を待っていた。
まだ皇都についたとの報告はない。
「ふふふ。なんだかナオ様かわいいですね。」
「落ち着きがないって言うんでしょ。うるさいなあ。仕方ないじゃない!」
紅茶に口をつけては報告書に目を通す。頭に入らないからまた紅茶に口を付ける。そして報告書にを見る。そんなことを繰り返して数刻が過ぎる。
「この執務室を出られた方がいいのでは?
いっそのこと、皇城の正門まで迎えに行かれたらいかがでしょうか。」
「だめよ。そんなことしたら、私が会いたくてたまらなかったみたいに見えるじゃない。」
「違うのですか?」
「・・・・はい、そうです。」
まっすぐに返してきたロレンツェに、ナオは赤面して顔を伏せた。
「でも、迎えに出るのは皇都まで着いた報告があってからにしましょう。」
「はは。かしこまりました。」
冷静を取り戻そうとするナオに、ロレンツェは少しおかしくなって笑みをもらした。
とても穏やかで、心温まる一つの場面にロレンツェは少し感慨深い気持ちになった。
時は経ち、ナオに届いていた到着予定時間の報告より既にかなりの時間が過ぎていた。
間も無く日も暮れる。
それでも何の音沙汰もない。
ナオ達の心配をよそに、その日は過ぎていき、そして明くる日も過ぎた。
「おかしい!何かあったのでは?」
大規模な行軍では遅れはつきもの。
大人しく待っていたナオだが、さすがに居ても立ってもいられなくなってきた。
待ちわびていたナオの下に伝令が来たのはさらに翌日だった。
「報告いたします。」
非常に慌てて来た伝令の様子にただ事ではない雰囲気をナオは感じ取る。
「どうしたのですか?」
「はっ。それが・・・大変申し上げにくいのですが・・・。」
「なんです?はっきり言って下さい。」
「皇帝陛下が帰還の途にあったところ、刺客に襲われ負傷、そして行方不明となったとのことです。」
「負傷?行方不明?・・・」
伝令の伝える言葉に、ナオは理解が出来なかった。
だがナオの身体が先に理解した様で、ナオの身体から血の気が引いていく。
そして、突然吐き気が襲ってくる。
「ナオ様!」
口を押さえてその場に座り込むナオにロレンツェが駆け寄る。
ナオは本当に具合が悪くなって吐いたわけではなかった。
「これは・・・つわり?」
駆け寄ったロレンツェが呟いた。
そして、ロレンツェは手が触れているナオの体温が冷たくなっていくのを感じた。
告げられた衝撃的な事実と、初めてのつわり。
貧血も同時に重なったナオはその場で意識を失うこととなった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
翌日、ナオは寝台の上で目を覚ました。
確認すると新たに用意されたナオの私室に違いない。
よく眠っていたためか、すぐに意識がはっきりとする。
「夢ではないのか・・・。」
皇帝の悲報といってもいいくらいの報告を思い出す。
ナオの頬から雫が静かに伝わっていく。
悲しみに暮れながら、もう一つ大事なことに思い出す。
『私の身体に・・・陛下の子・・・?』
身体を重ねてから、まだひと月と少し。早い段階から来たつわり。
『陛下を失って、代わりに陛下の子を授かる・・・。
これが運命なのかな・・・。』
ナオは自己解決の結論を出す。
だが、そんなことは理性では割り切れない。流れ落ちる雫がさらに幅を広げる。
『こんなの運命なんて・・・残酷すぎる・・・。』
頭が悲愴に染まり、真っ暗になった。
どれだけ時間が経ったか、ナオは時間を忘れて悲しみに捕らわれた。
そのさなか、ふと黒衣の騎士マルク・ダシュトゥールが切実に訴える顔が浮かんだ。
『残酷な運命をなんとかしたくて、マルゴ王女は命を賭した。
マルゴ王女と同じことはできない。
マルゴ王女の真意も全うできない。
でも、私なりにこんな運命に立ち向かわなければ、マルゴ王女に泥を塗ることになる。
今、ここで覚悟を決めて!立ち上がらなければならない!』
感情に力を込めて、ナオはベッドの上で心を決めた。
皇帝の報が届いた翌日の朝。
誰しもがオルネア帝国を揺るがす危機だと思っていた。
ナオはそんなオルネア帝国を強引なまでにけん引する。
その手腕により、オルネア帝国は空前の発展を遂げることとなる。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
瞬く間に、それから一年が経った。
結局、皇帝の行方はわからないままだった。
一年も経つので死んでしまったというのが普通の見解だった。
たくさんの愛妾を抱えた皇帝だが、子は居らず、正妻はいなかった。
皇族は他に皇帝の親戚がいたが、現段階では皇位継承権を主張しなかった。
オルネア帝国はこの一年、皇帝空位でナオ主導で帝議会が国を司っていた。
皇帝の行方不明を知ったブラハは、時を経てもナオとは会わなかった。
傷心に付け入る真似などしたくなかったのだろう。
そしてナオはというと、アルマニャック領の辺境にある海沿いの祠に来ていた。
ここはマルゴ王女の最期の地。
マルゴ王女に最期まで付き従った従者マルク・ダシュトゥールに場所を聞いて、転生の秘術を行ったこの祠に来たのだ。
海が見える高台の上にあって、石造りの祠。人気はなく、至る所に風化していく跡が見える。
一緒にいたロレンツェが重厚な木材で出来た祠の扉を開く。
金具が錆び付いて動きにくい扉をロレンツェはギギィーッと重苦しい音とともになんとか開けていく。
「ありがとう、ロレンツェ。
ここからは私たちだけで行かせて?」
無言で頷くロレンツェは祠から踵を返す。
ナオが私たちと言ったのは、ナオの手の中に、生まれて間もない小さな小さな赤ちゃんがいたからだ。
燃える様な真っ赤な髪の赤ちゃんはオルネア帝国の皇位継承権第一位を持っている。ナオと皇帝の子供だった。
ナオは恐る恐る祠に入る。
なぜナオはここに来たのか、それは本人にもわからない。
ただここに来なければいけない様な気がしたからとしか言いようがない。
祠の中は手前に数段のベンチが置いてあり、奥に祭壇があるだけのこじんまりとした空間だった。
ナオは祭壇まで進む。
祭壇の前には人の身長くらいの長方形の石台が置かれている。
その装飾された石台の中央には大量の血の跡と思われるものが染みついて固まっていた。
「この台の上で秘術が行われたのかな・・・。」
そう呟いたナオはその石台に触れた。
その瞬間に、
人智を超えた何かがあるかなと不安と期待を持っていたが、特に何も起こらなかった。
「起こるわけないか・・・。」
すこし拍子抜けな気もしたが、ナオは祭壇に向き合った。
『もし、魔術師がいなかったら。
もし、マルゴ王女がその身を捧げなかったら。
きっと私はトラックに轢かれたときに死んでしまっていた。
あなたの望む生き方はできていないかもしれないけれど、
私は今、この生を得れてよかったと思える。
マルゴ王女・・・。ありがとう。』
ナオは目を閉じて赤ちゃんを抱いたまま膝をつき、祈りを捧げた。
心が穏やかなためか、霊験あらたかな場所なためか、ナオは何か温かいものに包まれている気がする。
「ナオ・・・。」
突如聞こえた声にナオは、ビクリと震えて大きく目を見開いた。
「誰・・・?」
目の前の祭壇には見た目に何の変化もない。声も後ろから聞こえたような気がする。
ナオは緊張の面持ちで立ち上がり、振り返る。
まさかの言葉がしっくりくる、その人が立っていた。
ナオの目にずっと待ちわびていた人の姿が映る。
「陛下・・・・。よくご無事で・・・・。」
皇帝の姿を映したナオの目はあっという間に涙で滲んで何も見えなくなった。
コツコツコツという足音だけが皇帝が近づいてくることを教えてくれる。
「ずいぶん待たせたな。この通り、帰還したぞ。」
皇帝はその腕にナオを優しく抱いた。もちろん、ナオの手の中の赤ちゃんも一緒に。
「うくっ。この一年・・・どうされていたのですか・・・?」
嗚咽が交じった声のまま、ナオは皇帝に聞く。
「スタインベルグ王国からの帰還の際に、胸を刺されてな。
かすり傷で済んだんだが、海に落ちて助け出された後もしばらく意識不明だった。」
「かすり傷?」
「そうだ。これのおかげだ。」
皇帝は首元からネックレスを取り出して見せた。
ネックレスのトップに十字架に留まる不死鳥ミュジニーの形の彫刻。
白銀のそれは以前ナオが皇帝に贈ったものだった。
「身に着けて下さってたのですか・・・。」
「そうだ。ちょうどこれにナイフが当たってな。命拾いした。
まさに不死鳥ミュジニーは厄災から守ってくれたのだ。」
「よかった・・・。」
贈ったものを身に着けてくれていたこと、そしてそれが皇帝の命を救ったことにナオは胸がとても熱くなる。
だが、もう一つの疑問が残っている。
「今までどうされていたのですか・・・?」
かすり傷なら、一年もの間、養生しているはずなどない。
ナオは少しだけ訝し気な気持ちで聞いた。
「連絡できずにすまなかった。
実は余が行方不明と広まっていることを知って、潜伏のチャンスと思ってな。秘密裏にイスタリカ王国に潜入したのだ。」
皇帝は事件の後、イスタリカ王国に渡り、穏健派の王族に協力してクーデターを起こさせたのだ。
スタインベルグ王国での手痛い敗戦もあり、イスタリカ王国の政権は穏健派にとって代わった。
「なぜ、そのようなことを?」
ナオは皇帝の行動の真意がわからなかった。危険を冒してまで、イスタリカ王国をどうにかする必要などないと思っていた。
ナオのその疑問に対して、皇帝はまるで当たり前かのようにすんなりと答える。
「イスタリカ王国はこれで余と、オルネア帝国と友好条約を結んだことになる。
この事で少なくとも余が死ぬまでは戦争は起きん。
以前に言ったであろう?
貴様の求めていた世界を余が作ると。
これはその世界への第一歩だ。」
以前、皇帝に言ったナオの言葉。全ての人々が笑顔で前を向いていける世界を作るまで、皇帝を赦さないと。
皇帝はその言葉を全身全霊で真摯に受け止め、結果を体現して見せた。
「そ・・・そんなことのために・・・・、
陛下が・・・・陛下が生きているのを黙っているなんて・・・。
ひどすぎます・・・・。
この一年、どんなに悲しみに暮れたことか・・・、
どんなにあなたを思って泣いたことか・・・・!
この一年。私は、私は悲しみで前を向けませんでした!
だから・・・絶対ずっとずっと赦しません!」
頭ではわかっている。だが、ナオの心が納得できない。
ただひたすら、だだをこねる子供の様にナオは皇帝に感情をぶつけた。
「ははは。そう怒るな。
すまなかった。
だが、どうしてもこのチャンスを逃してはならないと思ったのだ。
それに・・・。
赦さなくていい。
まだまだ、足りていないのだから。」
「陛下・・・・。」
皇帝は非も喜びも全てを受け入れる心持ちでナオと接する。
むき出しだったナオの感情は皇帝という居場所を見つけて、落ち着きを取り戻していく。
「この一年、人というものを見てきた。
人とはこんなにも感情であふれている生き物なのだな。そんなことさえも知らなかった。
全ては貴様と出会ってきっかけをもらったおかげだ。
その小さな小さなきっかけが波紋のように広がり、喜び、怒り、悲しみ。
感情の輪郭をはっきりとかたどっていく。
人は喜びの感情に満たされたとき、これほどまでの幸福感を得ることができるのだな・・・。
今となってやっと、貴様が作りたい世界の意義がはっきりとわかる。
だから余を導いてくれた貴様に一言だけいわせてくれ。
ありがとう。」
言葉と共に少し照れたようにはにかんで、皇帝は屈託のない笑顔をする。
いつの間にか、これほどまでに感情を表現する皇帝に、ナオは驚きを覚えつつ、さらに強く愛情を感じる。
そして、そのお互いの温かい感情は絡み合い、溶けてゆき、二人を渾然一体の感情で包んでいく。
自分でも気づかないうちにナオの涙は止まっていて笑顔に溢れていた。
きょとんとしていた赤髪の赤ちゃんも二人の顔の真似をしてにこやかに笑う。
これが幸せという感情なのか。
五感が全て喜びの声を上げる中、少しだけ冷静さを持っている心の一部分がナオに教えてくれた。
「では、行こうか。」
自分の子供だとわかった皇帝は赤ちゃんを抱き、ナオに促す。
三人は祠の重い扉を開け、外に出た。
薄暗い祠から出た三人の前に鮮やかな晴天が広がる。
穏やかだけど眩しい太陽の光が祝福し、降り注ぐ。
「ん、眩しい。」
ナオは陽を手のひらで遮る。
その刹那、一陣の迅風がゴオーッという大きな音と共にナオたちを吹き抜けた。
その短く続いた大きな音の中に確かに、はっきりとナオは聞いた。
初めてこの世界に来る時に聞いた、あの時と同じ声で。
望む形ではない。でも、納得できる結末です―――
現在の地球とは全く違う異世界、グラン・シエクルという世界があった。
その大陸の大部分を国土とするオルネア帝国に1人の女性が迷い込んだ。
現代の地球の日本の女性であって、34歳の寂しい独身女だった。
現代では本人の良さを生かすことはできなかったが、この世界に来た女性はあっという間にオルネア帝国の皇帝の愛妾にされて、さらには宰相になった。
そして誠実に生きた結果、現代では見つけることができなかった伴侶と結ばれることができた。
34歳独身女が愛妾にされて宰相となって、最後には王妃となる。
これはそんな女性のシンデレラストーリー。
まっすぐに生きた女性の物語。
事前に使者をブラハに送っていて、協力を承諾していた。
皇帝は敗戦の色が強いブラハの陣を訪れた。
「これは手ひどくやられたものだな。」
「返す言葉もありません・・・。」
群議場で皇帝を迎えたブラハが苦虫をかみ殺したような顔で返す。
「スタインベルグ国王は無事なのか?」
「まだわかりません。ただ、王城からは戦いの音が止んでいます。すでに全て制圧されていると思います。
奇襲という策を取ったイスタリカ王国が国王を生かしておくとは思えません・・・。」
冷静に客観的事実を述べようとするブラハに皇帝は気を落とすな、とだけ声を掛けた。
オルネア帝国軍が来たため、現在はスタインベルグ王国軍とイスタリカ王国軍の戦いは一時止まっている。
イスタリカ王国軍は王都ナーエを制圧し、その中心に位置する王城も制圧し、駐屯していた。
「して、どう攻める?」
「はい。私が言うのもなんですが、王都ナーエは城壁にと有利な自然に囲まれて、守るが易く、攻めるが堅いのです。」
「そうなのか?
ならなぜ陥落したのだ?
よほどの軍勢だったのか?」
「いえ、確かに数は多いのですが、それほどまでとは思えません。
そんなに多くの軍勢であれば、攻められる前に気付けていたでしょうから。
しかし、ならばなぜというのはわかりません。
考えられるのは内通者か敵が事前に侵入していて城門を開けられたとしか・・・。」
「今回はその手は使えないのか?」
「難しいです。
確かに王都ナーエの住民はイスタリカ王国に協力的ではないでしょうが、連絡を取る手段がありません。」
「ではやれる手立てはひとつか。」
「はい。
正攻法で城攻めです。
時間は掛かってしまうが仕方ないでしょう。」
皇帝とブラハは部隊編成をして、翌日から王都を攻める事に合意した。
ここから先ひと月、王都陥落に時間を要する事となる。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「ナオ様!
スタインベルグ王国よりの伝令が来ております!」
ロレンツェが宰相の執務室に駆け込んで来た。
ナオはすぐさま、使者を部屋に入れる。
「報告致します!
オルネア帝国軍とスタインベルグ王国軍は昨日王都ナーエを陥落させました!
皇帝陛下は都市の安全確保が終わり次第帰還するとの事です!」
「そうですか!無事で何よりです!
あなたも早馬ご苦労様でした。下がって休んで下さい。」
ナオはロレンツェを見て安堵の表情を浮かべる。ロレンツェもそれに笑顔で返す。
すでに出兵してからひと月が経っていた。スタインベルグへの派兵は当初の予想よりもずっと長くかかっていたのだ。
日に日に不安が募っていた事は間違いなかった。
『早く会いたい・・・。』
皇帝に会えない日々はナオをとても素直にしていた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「終わってみれば時間こそかかったものの、楽な戦いであったな。」
スタインベルグ王国からの帰路、皇帝は馬に揺られていた。
オルネア帝国軍はそれほどの死傷者を出すことなく、王都ナーエを陥落させた。
正攻法で時間はかかったが、屈強な騎士たちはじわりじわりとイスタリカ王国軍を追い詰めた。
ブラハのスタインベルグ王国軍の奮闘もあり、オルネア帝国軍は王都の人々の救済や治安維持に回ることが多かった。
「陛下。海を越える渡し船の用意が整いました。」
スタインベルグ王国とオルネア帝国は大陸が分かれている。オルネア帝国本土には大した距離ではないが、船に乗り換えなければならない。
皇帝は馬を配下の者に任せ、桟橋を渡る。
その日は稀にみる大雨に振られていた。風もかなり強い。
雨に打たれながらの乗り込み作業で皆せわしなく動いていた。
「皇帝め・・・!」
近衛騎士の目を盗み、ドロドロとした恨み声を発して突如桟橋の下から男が飛び出てきた。
難民のようなボロボロの黒い外套を頭からかぶり、手にはナイフを持っている。
足元に気を取られて気づくのが遅れた皇帝に男の凶刃が光る。
「陛下!」
近衛騎士が声を上げたが既に遅く、その男の手のナイフは皇帝の胸に突き刺さっていた。
「ぐっ貴様・・・・!」
皇帝はよろけながら、その男の頭のフードを外した。
中から見覚えのある顔が晒されるのを見た。
「貴様は・・・宰相だったラリュー・デュモン・・・。
そうか・・・。貴様がイスタリカ王国を手引きしたのだな・・・・。」
ブラハがオルネア皇都に侵攻したタイミングを見計らった、早すぎるイスタリカ王国軍の侵攻。
全てはこの男が手引きした。この男が全ての元凶なのだと一瞬のうちに悟る。
『この男の闇にもっと早く気づいていたら・・・。』
その男は次の瞬間には近衛騎士によってあっけなく切り伏せられた。
狂ったような断末魔の声を上げて息絶えた。
「陛下!お怪我は!?」
近衛騎士が近づいて来ようとしたとき、意識を放した皇帝は倒れこむ。
運悪く、そこは桟橋の上だった。
皇帝は倒れこんだ勢いでそのまま海に落下してしまう。
強い雨風。そして十メートル以上もの高さから皇帝は海に沈んだ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
到着予定時間の報を受けていたナオは今か今かとそわそわしながら皇帝の到着を待っていた。
まだ皇都についたとの報告はない。
「ふふふ。なんだかナオ様かわいいですね。」
「落ち着きがないって言うんでしょ。うるさいなあ。仕方ないじゃない!」
紅茶に口をつけては報告書に目を通す。頭に入らないからまた紅茶に口を付ける。そして報告書にを見る。そんなことを繰り返して数刻が過ぎる。
「この執務室を出られた方がいいのでは?
いっそのこと、皇城の正門まで迎えに行かれたらいかがでしょうか。」
「だめよ。そんなことしたら、私が会いたくてたまらなかったみたいに見えるじゃない。」
「違うのですか?」
「・・・・はい、そうです。」
まっすぐに返してきたロレンツェに、ナオは赤面して顔を伏せた。
「でも、迎えに出るのは皇都まで着いた報告があってからにしましょう。」
「はは。かしこまりました。」
冷静を取り戻そうとするナオに、ロレンツェは少しおかしくなって笑みをもらした。
とても穏やかで、心温まる一つの場面にロレンツェは少し感慨深い気持ちになった。
時は経ち、ナオに届いていた到着予定時間の報告より既にかなりの時間が過ぎていた。
間も無く日も暮れる。
それでも何の音沙汰もない。
ナオ達の心配をよそに、その日は過ぎていき、そして明くる日も過ぎた。
「おかしい!何かあったのでは?」
大規模な行軍では遅れはつきもの。
大人しく待っていたナオだが、さすがに居ても立ってもいられなくなってきた。
待ちわびていたナオの下に伝令が来たのはさらに翌日だった。
「報告いたします。」
非常に慌てて来た伝令の様子にただ事ではない雰囲気をナオは感じ取る。
「どうしたのですか?」
「はっ。それが・・・大変申し上げにくいのですが・・・。」
「なんです?はっきり言って下さい。」
「皇帝陛下が帰還の途にあったところ、刺客に襲われ負傷、そして行方不明となったとのことです。」
「負傷?行方不明?・・・」
伝令の伝える言葉に、ナオは理解が出来なかった。
だがナオの身体が先に理解した様で、ナオの身体から血の気が引いていく。
そして、突然吐き気が襲ってくる。
「ナオ様!」
口を押さえてその場に座り込むナオにロレンツェが駆け寄る。
ナオは本当に具合が悪くなって吐いたわけではなかった。
「これは・・・つわり?」
駆け寄ったロレンツェが呟いた。
そして、ロレンツェは手が触れているナオの体温が冷たくなっていくのを感じた。
告げられた衝撃的な事実と、初めてのつわり。
貧血も同時に重なったナオはその場で意識を失うこととなった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
翌日、ナオは寝台の上で目を覚ました。
確認すると新たに用意されたナオの私室に違いない。
よく眠っていたためか、すぐに意識がはっきりとする。
「夢ではないのか・・・。」
皇帝の悲報といってもいいくらいの報告を思い出す。
ナオの頬から雫が静かに伝わっていく。
悲しみに暮れながら、もう一つ大事なことに思い出す。
『私の身体に・・・陛下の子・・・?』
身体を重ねてから、まだひと月と少し。早い段階から来たつわり。
『陛下を失って、代わりに陛下の子を授かる・・・。
これが運命なのかな・・・。』
ナオは自己解決の結論を出す。
だが、そんなことは理性では割り切れない。流れ落ちる雫がさらに幅を広げる。
『こんなの運命なんて・・・残酷すぎる・・・。』
頭が悲愴に染まり、真っ暗になった。
どれだけ時間が経ったか、ナオは時間を忘れて悲しみに捕らわれた。
そのさなか、ふと黒衣の騎士マルク・ダシュトゥールが切実に訴える顔が浮かんだ。
『残酷な運命をなんとかしたくて、マルゴ王女は命を賭した。
マルゴ王女と同じことはできない。
マルゴ王女の真意も全うできない。
でも、私なりにこんな運命に立ち向かわなければ、マルゴ王女に泥を塗ることになる。
今、ここで覚悟を決めて!立ち上がらなければならない!』
感情に力を込めて、ナオはベッドの上で心を決めた。
皇帝の報が届いた翌日の朝。
誰しもがオルネア帝国を揺るがす危機だと思っていた。
ナオはそんなオルネア帝国を強引なまでにけん引する。
その手腕により、オルネア帝国は空前の発展を遂げることとなる。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
瞬く間に、それから一年が経った。
結局、皇帝の行方はわからないままだった。
一年も経つので死んでしまったというのが普通の見解だった。
たくさんの愛妾を抱えた皇帝だが、子は居らず、正妻はいなかった。
皇族は他に皇帝の親戚がいたが、現段階では皇位継承権を主張しなかった。
オルネア帝国はこの一年、皇帝空位でナオ主導で帝議会が国を司っていた。
皇帝の行方不明を知ったブラハは、時を経てもナオとは会わなかった。
傷心に付け入る真似などしたくなかったのだろう。
そしてナオはというと、アルマニャック領の辺境にある海沿いの祠に来ていた。
ここはマルゴ王女の最期の地。
マルゴ王女に最期まで付き従った従者マルク・ダシュトゥールに場所を聞いて、転生の秘術を行ったこの祠に来たのだ。
海が見える高台の上にあって、石造りの祠。人気はなく、至る所に風化していく跡が見える。
一緒にいたロレンツェが重厚な木材で出来た祠の扉を開く。
金具が錆び付いて動きにくい扉をロレンツェはギギィーッと重苦しい音とともになんとか開けていく。
「ありがとう、ロレンツェ。
ここからは私たちだけで行かせて?」
無言で頷くロレンツェは祠から踵を返す。
ナオが私たちと言ったのは、ナオの手の中に、生まれて間もない小さな小さな赤ちゃんがいたからだ。
燃える様な真っ赤な髪の赤ちゃんはオルネア帝国の皇位継承権第一位を持っている。ナオと皇帝の子供だった。
ナオは恐る恐る祠に入る。
なぜナオはここに来たのか、それは本人にもわからない。
ただここに来なければいけない様な気がしたからとしか言いようがない。
祠の中は手前に数段のベンチが置いてあり、奥に祭壇があるだけのこじんまりとした空間だった。
ナオは祭壇まで進む。
祭壇の前には人の身長くらいの長方形の石台が置かれている。
その装飾された石台の中央には大量の血の跡と思われるものが染みついて固まっていた。
「この台の上で秘術が行われたのかな・・・。」
そう呟いたナオはその石台に触れた。
その瞬間に、
人智を超えた何かがあるかなと不安と期待を持っていたが、特に何も起こらなかった。
「起こるわけないか・・・。」
すこし拍子抜けな気もしたが、ナオは祭壇に向き合った。
『もし、魔術師がいなかったら。
もし、マルゴ王女がその身を捧げなかったら。
きっと私はトラックに轢かれたときに死んでしまっていた。
あなたの望む生き方はできていないかもしれないけれど、
私は今、この生を得れてよかったと思える。
マルゴ王女・・・。ありがとう。』
ナオは目を閉じて赤ちゃんを抱いたまま膝をつき、祈りを捧げた。
心が穏やかなためか、霊験あらたかな場所なためか、ナオは何か温かいものに包まれている気がする。
「ナオ・・・。」
突如聞こえた声にナオは、ビクリと震えて大きく目を見開いた。
「誰・・・?」
目の前の祭壇には見た目に何の変化もない。声も後ろから聞こえたような気がする。
ナオは緊張の面持ちで立ち上がり、振り返る。
まさかの言葉がしっくりくる、その人が立っていた。
ナオの目にずっと待ちわびていた人の姿が映る。
「陛下・・・・。よくご無事で・・・・。」
皇帝の姿を映したナオの目はあっという間に涙で滲んで何も見えなくなった。
コツコツコツという足音だけが皇帝が近づいてくることを教えてくれる。
「ずいぶん待たせたな。この通り、帰還したぞ。」
皇帝はその腕にナオを優しく抱いた。もちろん、ナオの手の中の赤ちゃんも一緒に。
「うくっ。この一年・・・どうされていたのですか・・・?」
嗚咽が交じった声のまま、ナオは皇帝に聞く。
「スタインベルグ王国からの帰還の際に、胸を刺されてな。
かすり傷で済んだんだが、海に落ちて助け出された後もしばらく意識不明だった。」
「かすり傷?」
「そうだ。これのおかげだ。」
皇帝は首元からネックレスを取り出して見せた。
ネックレスのトップに十字架に留まる不死鳥ミュジニーの形の彫刻。
白銀のそれは以前ナオが皇帝に贈ったものだった。
「身に着けて下さってたのですか・・・。」
「そうだ。ちょうどこれにナイフが当たってな。命拾いした。
まさに不死鳥ミュジニーは厄災から守ってくれたのだ。」
「よかった・・・。」
贈ったものを身に着けてくれていたこと、そしてそれが皇帝の命を救ったことにナオは胸がとても熱くなる。
だが、もう一つの疑問が残っている。
「今までどうされていたのですか・・・?」
かすり傷なら、一年もの間、養生しているはずなどない。
ナオは少しだけ訝し気な気持ちで聞いた。
「連絡できずにすまなかった。
実は余が行方不明と広まっていることを知って、潜伏のチャンスと思ってな。秘密裏にイスタリカ王国に潜入したのだ。」
皇帝は事件の後、イスタリカ王国に渡り、穏健派の王族に協力してクーデターを起こさせたのだ。
スタインベルグ王国での手痛い敗戦もあり、イスタリカ王国の政権は穏健派にとって代わった。
「なぜ、そのようなことを?」
ナオは皇帝の行動の真意がわからなかった。危険を冒してまで、イスタリカ王国をどうにかする必要などないと思っていた。
ナオのその疑問に対して、皇帝はまるで当たり前かのようにすんなりと答える。
「イスタリカ王国はこれで余と、オルネア帝国と友好条約を結んだことになる。
この事で少なくとも余が死ぬまでは戦争は起きん。
以前に言ったであろう?
貴様の求めていた世界を余が作ると。
これはその世界への第一歩だ。」
以前、皇帝に言ったナオの言葉。全ての人々が笑顔で前を向いていける世界を作るまで、皇帝を赦さないと。
皇帝はその言葉を全身全霊で真摯に受け止め、結果を体現して見せた。
「そ・・・そんなことのために・・・・、
陛下が・・・・陛下が生きているのを黙っているなんて・・・。
ひどすぎます・・・・。
この一年、どんなに悲しみに暮れたことか・・・、
どんなにあなたを思って泣いたことか・・・・!
この一年。私は、私は悲しみで前を向けませんでした!
だから・・・絶対ずっとずっと赦しません!」
頭ではわかっている。だが、ナオの心が納得できない。
ただひたすら、だだをこねる子供の様にナオは皇帝に感情をぶつけた。
「ははは。そう怒るな。
すまなかった。
だが、どうしてもこのチャンスを逃してはならないと思ったのだ。
それに・・・。
赦さなくていい。
まだまだ、足りていないのだから。」
「陛下・・・・。」
皇帝は非も喜びも全てを受け入れる心持ちでナオと接する。
むき出しだったナオの感情は皇帝という居場所を見つけて、落ち着きを取り戻していく。
「この一年、人というものを見てきた。
人とはこんなにも感情であふれている生き物なのだな。そんなことさえも知らなかった。
全ては貴様と出会ってきっかけをもらったおかげだ。
その小さな小さなきっかけが波紋のように広がり、喜び、怒り、悲しみ。
感情の輪郭をはっきりとかたどっていく。
人は喜びの感情に満たされたとき、これほどまでの幸福感を得ることができるのだな・・・。
今となってやっと、貴様が作りたい世界の意義がはっきりとわかる。
だから余を導いてくれた貴様に一言だけいわせてくれ。
ありがとう。」
言葉と共に少し照れたようにはにかんで、皇帝は屈託のない笑顔をする。
いつの間にか、これほどまでに感情を表現する皇帝に、ナオは驚きを覚えつつ、さらに強く愛情を感じる。
そして、そのお互いの温かい感情は絡み合い、溶けてゆき、二人を渾然一体の感情で包んでいく。
自分でも気づかないうちにナオの涙は止まっていて笑顔に溢れていた。
きょとんとしていた赤髪の赤ちゃんも二人の顔の真似をしてにこやかに笑う。
これが幸せという感情なのか。
五感が全て喜びの声を上げる中、少しだけ冷静さを持っている心の一部分がナオに教えてくれた。
「では、行こうか。」
自分の子供だとわかった皇帝は赤ちゃんを抱き、ナオに促す。
三人は祠の重い扉を開け、外に出た。
薄暗い祠から出た三人の前に鮮やかな晴天が広がる。
穏やかだけど眩しい太陽の光が祝福し、降り注ぐ。
「ん、眩しい。」
ナオは陽を手のひらで遮る。
その刹那、一陣の迅風がゴオーッという大きな音と共にナオたちを吹き抜けた。
その短く続いた大きな音の中に確かに、はっきりとナオは聞いた。
初めてこの世界に来る時に聞いた、あの時と同じ声で。
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ありがとうございました!
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そして最後まで読んでいただき、感想もいただけて、本当に本当にありがとうございました。
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またぜひお読みいただければ幸いです。
ありがとうございました!