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おにぃちゃん、でてる
しおりを挟む市役所に行く前に、大衆向けファションセンターに寄ることにする。
零のファションがなかなか面白いことになっているからだ。
「零、先に服を買ってから行こうか」
「分かったっ」
「好きなものを選ぶといいよ~」
店内に入るとレディース服があるブースへと連れて行く。
零が興味津々に選び始めたのはいいが、少々、いや、かなり居心地はよろしくない。
下着コーナーに来てからは、女性からの視線が痛い……。
「ねぇねぇ、おにぃちゃん。どっちが良いかなぁ?」
「ブフォッ」
零の両手には、下着が上下一組になったものが二種類握られていた。
片方はフリルがついた可愛らしい感じで、白くて清純なイメージが浮かぶ。
もう一方は機能性を重視した胸に優しい感じのブラとショーツだ。
正直、どちらも良いセンスをしている。
しかし、この場合でも女の子に〝どっちも似合う〟という言葉は禁句だと聞いたことがある。
二択を迫られた時、どちらかを選べという意味合いが含まれているそうだ。
なれば、俺はこうしよう。
「どっちも似合うと思うし、零はこれから必要だろうから二つとも買おうか」
これぞ、神対応。みたか、そこのカップルのイケメン!
「ありがとうっ。おにぃちゃん!」
(零は可愛いなぁ……)
男の俺にはサイズが分からないので、急遽店員さんを呼びつける。
「あっ、あの、この子のサイズに合うものを選んでもらえますか?」
「ふふふ、可愛い妹さんですね」
色々と恥ずかしい思いをしたが、無事に買い物を終えた。
あの後、店員さんに零の服をアドバイスしてもらい、普段着とパジャマを買った。あと靴も。
予想以上に荷物が多くなってしまったので、一旦家に戻ることにしよう。
殆ど家からの距離も離れておらず、200メートルくらい歩けば着く。
「零、一度荷物を家に置いてこようか~」
「んっ。……おにぃちゃん、れいお腹がムズムズするぅ」
「おしっこか? 漏れそう?」
「分かんない。 漏れるかも」
「家まですぐそこだから急ごうっ」
「おにぃちゃん……なにか、でそう」
「ちょっとまてぇええ! 零っ走れるか?」
「でそう…」
「俺の背中に乗れ!」
急いで背中に担ぎ、家まで走った後アパートの階段を駆け上がる。
「はぁっ、はぁっ。れいっ、行ってこい!」
「おにぃちゃん……どこに行ったらいいの?」
「トイレェエエエッ!!」
「?? れい、もう限界……でちゃ、う」
oh…。
玄関に突っ立ったまま、零はズボンを膝元くらいまで下ろし、そして……。
シャアーーーーーーー
小気味よい音が辺りに響く。
そして、零の視線と俺の視線が絡み合う。
無言で見つめ合う俺達。
「おにぃちゃん‥‥でてる」
「って、うぉおおおおおおおおおい! なんで下ろしたぁあああ!」
「気持ち悪かったから?」
こてん、と首をかしげる仕草は可愛いが、只今絶賛放〇中である。
「んっ、でた」
「よかったな!」
衝撃の瞬間を目の当たりにした俺は、暫く思考停止して現場を見つめる。
なるほど、俺の妹は天然か。
正直、だれが予想できただろうか。
「零、おしっこに行きたくなったら、次からはおにぃちゃんに言うんだぞっ。あと、おしっこはトイレでするんだぞっ」
「んっ、分かった!」
元気に返事する零は、無邪気な子供そのままだった。
これが、子育てか。俺、おにぃちゃんらしいけどな!
零を買ったばかりの服に着替えさせる間に、現場の処理を行う。
「ふぅ、これでよかろう」
そして、また俺達は家を後にした。
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