えのぐの青くん

仁科佐和子

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えのぐの青くん

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 ここは『あおぞらどう』。ふるいふるーいぶんぼうぐやだ。
いつもばあさんが一人でみせばんをしている。

 オレはたなの1ばん上からいつもこのみせを見まもっている。

 だってオレは『青いえのぐ』だから!
オレは『あおぞらどう』のかんばんをしょってるんだ!

 ちょっとだけ、だれかにかわれていっしょにえをかきたいなって思わないこともない。

 でもみんな、はこに入ったセットえのぐばかりかっていく。

 ひとりぼっちのオレはえん足に行くみたいにみんなそろってかわれて行くセットえのぐたちを、なんどもこのたなから見おくった。


 ある日、ちっこい男の子がやってきた。
キョロキョロとみせの中を見まわしている。

「いらっしゃい」

 ばあさんはでんちのきれかけたロボットみたいに、ゆっくりゆっくりしゃべる。

「きょうは、なにかおさがし?」

 はなすのがゆっくりなばあさんは、うごくのもゆっくりだ。
そぉっとそおっとカウンターから出てくる。

 男の子は、ばあさんに合わせてゆっくりとしゃべる。
きこえないといけないからって、やけに大きなこえを出している。

「青いえのぐがほしいんだ。ぼくは青がだいすきだから、青だけなくなっちゃったんだ」

それをきいて、オレはうれしくなった。

 ばあさんはにっこりわらって、なんどもうなずいている。

「そうかいそうかい。そんなに青がすきなのかい。そりゃあ青もよろこぶねぇ」

 ばあさんは「どっこいしょ」とふみだいをのぼって、大きなたなからオレをつれだした。

「ほれ、青や。この子は青が大すきなんじゃと」

 ホホホとわらうばあさんにつられてオレもわらう。

「オレのことが大すきだって? そりゃあセンスがあるな!」

 オレがへんじをしたのを見て、男の子は目を丸くしている。

 オレはばあさんの手からとびだすと、男の子のかたにとびのった。

「オレは青だ! よろしくな」

「ぼ、ぼくは空だよ。よ、よろしく」

「空か! いい名まえだな。名まえが空だからオレのこと好きなのか?」

「うーん、それもあるけど、青ってかっこいいだろ?」

「だよな! オレはかっこいいんだ!」

 こいつはいいやつだ! オレはうれしくて、ごきげんでしゃべりつづけた。

 いえにかえると、空はさっそくがようしをひろげた。

「なにをかくんだ?」

オレはワクワクしながらきいてみる。

「すんでいるまちをかいてみよう」っていう、なつ休みのしゅくだいなんだ。

 空がひろげたがようしには、えんぴつで下がきがしてあった。

「いいじゃないか! すごくうまくかけている」

 オレは思ったままほめた。
空はいっしゅんうれしそうにわらったくせに、すぐこまったかおをした。

「下がきは、とくいなんだ。
でも、いろをぬるときにしっぱいしちゃう。ぼく、いろをぬるのがへたなんだ」

「なんだ、そんなことか!」
オレはむねをはって空に言った。

「色ぬりなら、オレにまかせとけ!」

「おしえてくれるの?」

「おしえるもなにも、絵なんてものはすきなようにかけばいいのさ。
 空はオレがすきなんだろう? だったらなにもかんがえずにオレをつかってぬればいい!」

 空は「そうなのかな?」とくびをかしげながらオレをパレットに出した。

 青いえのぐが白いパレットの上でツヤツヤひかっている。

「やっぱり青はきれいだな」

 空がほめてくれると、なんだかくすぐったい。
オレはますますうれしくなってはりきった。

「そうだろ、そうだろ! 空はよくわかってんなぁ! よし、見てろよ、いっきにしあげてやるぜ」

 オレは太ふでの上にのった。

 ツーッとなめらかにまっすぐすべったかと思うと、クルクルかいてんしたりジャンプをきめたりしながら、あっというまにがようしを青くぬっていく。

「うわぁ! すごい!」
オレのダンスに空はえがおで手をたたいた。

「でも……」

できあがったえを見て、空はつぶやいた。

「これじゃ、先生におこられないかな? ちゃんとよく見てかきなさいって……」

「そんなことはわかってる。オレの力をあまく見るなよ。さぁ、ちょっとさんぽにいこうぜ!」
オレは空のかたにとびのった。

空はふしぎそうなかおをしながら外に出た。

 外は青、青、青のせかい!

「なにこれすごい! ぜんぶ青になってる!」
空は大こうふんだ。

 青いポスト、青いでんしんばしら、青いがっこう!

 こうえんの木も青、あるいている人のふくやカバンも青、となりの犬も青かった。

「この町のもんはぜんぶ青くしてやったぜ!
これで空のかいたえのとおりになっただろう?」

 そう言って、オレはとくいげにむねをそらす。

 いえにかえると、青いふくに青いエプロンをした空のかあちゃんが青いフライパンでりょうりをしていた。

「もうすぐおひるごはんよ。手をあらっていらっしゃい」

オレは空のむねポケットにすべりこんだ。

 イスにすわった空はかたまっている。

「なにこれ?」

「なにって、オムライスよ」

「だってこれ、青いよ?」

「そんなのあたりまえじゃない」

 きいろいたまごもあかいケチャップも、ぜんぶ青かった。

「あじはおなじなんだろうけど、なんでだろう、おいしくない……」

 空のざんねんそうなこえをきいて、オレのむねはチリッといたんだ。

 ゆうがたになって空がテレビをつけた。

「ぼくの大すきなスーパーヒーローが出てるんだ!」

そう言って空はチャンネルを合わせると目を丸くしてさけんだ。

「ああっ!」

テレビの中のヒーローは、5人とも青になっていた。

「これじゃ、だれがだれだかわからないよ」

 空はおこってチャンネルをかえた。
ニュースのばんぐみでは、アナウンサーがまじめなかおをしてしゃべっている。

「しんごうがすべて青になってるため、あちこちでじこがおこっています」

「たいへんだ!」

空ははあわてて立ち上がった。

「どうしよう!? ぼくのかいたえのせいで、じこがいっぱいおこってるんだ!」

「ど、どうしようって言われても……」

オレもこえがふるえてくる。こんなはずじゃなかったのに……


「とにかくあのえをなんとかしなくちゃ!」

 あわててへやにとびこんだ空は、つまずいてつくえの上にあったふであらいのバケツをひっくりかえした。

「ああっ!」

オレのかいた絵がビショビショになった。

「どうしたの?」

 大きな音をきいた空のかあちゃんがろうかをパタパタとはしってきて、へやをのぞきこんだ。

「まぁ! なにやってるの? おわったらかたづけなさいっていつも言ってるでしょう!」

 空のかあちゃんがかみなりをとした!

 それとどうじに、外でもゴロゴロとかみなりの音がきこえてきた。

「やだ、夕立ゆうだち!」

 空のかあちゃんはあわててせんたくものをとりこみにいった。

 ピカッと目のまえがまっ白にひかると、みるみるあたりはくらくなり、バケツをひっくりかえしたような雨がふってきた

 でんしんばしらも、がっこうも、となりの犬も、みるみるもとのいろにもどっていく。

「よかったぁ!」

 空がホッとしたように言うのをきいて、オレのむねはまたチリチリといたんだ。

 空は水のこぼれたつくえをぞうきんでふいている。

 空がよろこぶと思ってやったことで、みんなにめいわくをかけちまった。これじゃもう空は、オレをキライになっただろう。

 オレはかなしいきもちになった。
大きかったオレの体はシュンシュンとちぢんで、ふつうの大きさになっていく。
 
 そうじがおわると、小さくなったオレをえのぐセットの中にかたづけながら、空はやさしくはなしかけてきた。

「ねぇ青くん。またいっしょにえをかこうよ。こんどはちゃんとぼくが色ぬりするからさ。ぼくは青くんが大すきなんだ」

 オレはうれしくなって「そうだな!」とわらった。
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