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生徒総会が終わると、生徒会の面々は揃って生徒会室へと戻った。
生徒会室は学園内でも特別に整えられた空間で、広い室内にそれぞれ専用のデスクが並び、外の喧騒が嘘のように静かで落ち着いている。
重厚な机と椅子、壁際には資料棚が並び、仕事をするには申し分ない場所だ。
それぞれが持ち場につき、書類に目を通したり、報告書をまとめたりと作業に入る。
俺も自分のデスクに腰を下ろし、ポイントの収支報告を確認しながら、ようやく一息ついた。
……と、その空気をぶち壊すように、唐突に声が落とされた。
「おい、カイン」
レイン会長の低い声に、室内の空気が一瞬で張り詰める。
顔を上げると、金色の瞳が真っ直ぐ俺を捉えていた。
「昨日の夜、どこ行ってた?」
爆弾だった。
思考が一瞬、真っ白になる。
消灯後、寮内を出歩くことは禁止されている。
だが昨夜、俺は確かに貴族の屋敷へ侵入する任務に出ていた。
能力を使って部屋を出た以上、誰にも気づかれるはずがない。俺の能力は存在感も魔力の気配も消し去る。
目に見えないだけでなく、魔法探知にも引っかからない。理論上、完璧だ。
だから、軽薄な笑みを貼り付けて、いつもの調子で返す。
「やだな~、かいちょ~。どこかに行くわけないじゃないですか~」
冗談めかして言った、はずだった。
だがレインは眉一つ動かさず、冷ややかな視線を向けてくる。
「俺に、冗談が通じるとでも?」
すべてを見透かすような目。
背中に、じわりと嫌な汗が滲む。
(……なんでだ?)
誰にも気づかれないはずなのに。
どこで、どうやって。
「夜中に出歩くのは感心しませんねぇ」
追い打ちをかけるように、ローレンスが柔らかな笑顔のまま口を挟む。
声色は穏やかなのに、逃げ道を塞ぐような響きだった。
「兄上……どこに行ってたんですか?」
イオまで、不安そうな、それでいて疑うような目を向けてくる。
完全に包囲されていた。
言い逃れは、正直きつい。
だが任務は極秘で、能力の存在も一般には知られてはいけない。ここで本当のことを言うわけにはいかない。
(……多分、会長が消灯後に俺の部屋に来たんだ)
不在だったから、気づかれた。
それしか考えられない。
「えーっと……トイレ行ってただけだって~」
苦し紛れにそう言うが、誰一人として納得した様子はなかった。
沈黙が痛い。
その沈黙を破ったのは、イオだった。
「それなら……兄上が外出していないか、僕が夜、部屋に行って監視しておきます」
……それはまずい。
本気でまずい。
部屋に居座られたら、任務どころじゃない。
焦りが顔に出ないよう、必死で笑顔を保つ。
「でしたら、私が見ておきますよ。皆さんお忙しいでしょうし」
ローレンスまで参戦してきた。
冗談じゃない。腹黒副会長に夜の行動を見張られるなんて、死刑宣告に等しい。
そして、最後のとどめ。
「いや、俺がやる」
レイン会長が、椅子から立ち上がり、きっぱりと言い切った。
「生徒会長として監視する。文句はないな」
有無を言わせない口調。
逃げることは許さないという、無言の圧力が室内を満たす。
俺は忠犬だ。
会長命令には逆らえない。
「……はい」
そう答えるしかなかった。
内心では、これからどうやって夜の任務を続けるか、必死で考え始めていた。
(……詰んだかもしれない)
静かな生徒会室で、俺だけが、そんなことを思っていた。
生徒会室は学園内でも特別に整えられた空間で、広い室内にそれぞれ専用のデスクが並び、外の喧騒が嘘のように静かで落ち着いている。
重厚な机と椅子、壁際には資料棚が並び、仕事をするには申し分ない場所だ。
それぞれが持ち場につき、書類に目を通したり、報告書をまとめたりと作業に入る。
俺も自分のデスクに腰を下ろし、ポイントの収支報告を確認しながら、ようやく一息ついた。
……と、その空気をぶち壊すように、唐突に声が落とされた。
「おい、カイン」
レイン会長の低い声に、室内の空気が一瞬で張り詰める。
顔を上げると、金色の瞳が真っ直ぐ俺を捉えていた。
「昨日の夜、どこ行ってた?」
爆弾だった。
思考が一瞬、真っ白になる。
消灯後、寮内を出歩くことは禁止されている。
だが昨夜、俺は確かに貴族の屋敷へ侵入する任務に出ていた。
能力を使って部屋を出た以上、誰にも気づかれるはずがない。俺の能力は存在感も魔力の気配も消し去る。
目に見えないだけでなく、魔法探知にも引っかからない。理論上、完璧だ。
だから、軽薄な笑みを貼り付けて、いつもの調子で返す。
「やだな~、かいちょ~。どこかに行くわけないじゃないですか~」
冗談めかして言った、はずだった。
だがレインは眉一つ動かさず、冷ややかな視線を向けてくる。
「俺に、冗談が通じるとでも?」
すべてを見透かすような目。
背中に、じわりと嫌な汗が滲む。
(……なんでだ?)
誰にも気づかれないはずなのに。
どこで、どうやって。
「夜中に出歩くのは感心しませんねぇ」
追い打ちをかけるように、ローレンスが柔らかな笑顔のまま口を挟む。
声色は穏やかなのに、逃げ道を塞ぐような響きだった。
「兄上……どこに行ってたんですか?」
イオまで、不安そうな、それでいて疑うような目を向けてくる。
完全に包囲されていた。
言い逃れは、正直きつい。
だが任務は極秘で、能力の存在も一般には知られてはいけない。ここで本当のことを言うわけにはいかない。
(……多分、会長が消灯後に俺の部屋に来たんだ)
不在だったから、気づかれた。
それしか考えられない。
「えーっと……トイレ行ってただけだって~」
苦し紛れにそう言うが、誰一人として納得した様子はなかった。
沈黙が痛い。
その沈黙を破ったのは、イオだった。
「それなら……兄上が外出していないか、僕が夜、部屋に行って監視しておきます」
……それはまずい。
本気でまずい。
部屋に居座られたら、任務どころじゃない。
焦りが顔に出ないよう、必死で笑顔を保つ。
「でしたら、私が見ておきますよ。皆さんお忙しいでしょうし」
ローレンスまで参戦してきた。
冗談じゃない。腹黒副会長に夜の行動を見張られるなんて、死刑宣告に等しい。
そして、最後のとどめ。
「いや、俺がやる」
レイン会長が、椅子から立ち上がり、きっぱりと言い切った。
「生徒会長として監視する。文句はないな」
有無を言わせない口調。
逃げることは許さないという、無言の圧力が室内を満たす。
俺は忠犬だ。
会長命令には逆らえない。
「……はい」
そう答えるしかなかった。
内心では、これからどうやって夜の任務を続けるか、必死で考え始めていた。
(……詰んだかもしれない)
静かな生徒会室で、俺だけが、そんなことを思っていた。
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