10 / 37
第1部
9 夜の監視
今夜は任務がない。
だから本当に、部屋にいるつもりだった。むしろ、堂々と部屋にいて、怪しいことなんて一切していないと証明し、さっさと会長には帰ってもらわなければならない。
……というか。
役職持ちの寮部屋は一般生徒より広く作られているとはいえ、ベッドは一つしかない。
どう考えてもおかしい。監視なら魔法でもいいだろうに、なぜ「同室」になる。
どう切り抜けるか考えているうちに、無情にも消灯の時間がやってきた。
ほぼ同時刻、律儀にも扉がノックされる。
「……入るぞ」
有無を言わせない声。
レイン会長だ。
忠犬として接している以上、ここで嫌そうな顔はできない。
俺は無理やり笑顔を作る。
「かいちょ~、心配してくれてありがと~! でも本当に何もしてないよ?」
軽い調子で言ったが、返ってきたのは冷たい視線だけだった。
返事すらない。
(……無理。絶対無理だ、この人と同じ部屋で一夜とか)
心の中で絶望する。
なんで王子様と一緒に寝る流れになってるんだ。なりゆきで「はい」なんて言った今日の自分を本気で殴りたい。
それでも身の潔白を証明しなければならない。
俺は精一杯の善意を装って言った。
「俺、ソファーで寝るからさ、かいちょ~はベッド使っていいよ?」
これなら問題ない。完璧だ。
……と思ったのに。
「早くこっちへ来い」
次の瞬間、手首を掴まれ、問答無用で引っ張られる。
「一緒に寝るぞ」
「え~、かいちょ~積極的~!」
わざとらしく声を上げてみせるが、レインは形のいい眉を不機嫌そうに寄せる。
「寝る時くらい静かにしろ」
完全な命令口調。
俺は反射的に口を閉じた。
役職持ちの貴族用に広く作られているとはいえ、男二人で一つのベッドはさすがに狭い。
俺はできるだけ端に寄ろうとしたが、それを許されなかった。
ぐい、と腕を引かれ、抱き寄せられる。
「っ……」
俺は鍛えていない細身の体だが、会長は騎士になれるほど訓練している。
がっしりしすぎてはいないが、ほどよく筋肉がついた体格で、背も俺より高い。
結果、完全に包み込まれる形になった。
その状態で、俺の首元に、会長の吐息がふっとかかる。
ぞわり、と背筋が粟立った。
「おい、お前……離れろ」
思わず、素の口調が飛び出した。
低い声色で言った瞬間、はっとする。
(やば……)
さっきまで、嬉しそうにしていた忠犬のセリフじゃない。
慌てて取り繕う。
「い、今のは冗談で……ははっ」
乾いた笑いでごまかすが、背中に向けられる視線が、やけに重い。
逃げ場がない。
「……」
沈黙のあと、レインが低く言った。
「お前、俺の前ではその気色悪い喋り方じゃなく、素でしゃべれ」
命令だった。
その瞬間、さっきの吐息が、わざとだったことに気づく。
(……こいつ、試したな)
素を引き出すために、わざと距離を詰めた。
してやられた、と思う。
それでも、素直に頷く気にはなれなかった。
「……覚えてろよ、お前」
小さく悪態をつくと、会長は何も言わず、腕の力だけを緩めなかった。
こうして、会長と同じベッドで眠る夜が始まる。
明日から、どんな面倒な日々が待っているのか。
それを想像しただけで憂鬱で、今夜はとても眠れそうになかった。
だから本当に、部屋にいるつもりだった。むしろ、堂々と部屋にいて、怪しいことなんて一切していないと証明し、さっさと会長には帰ってもらわなければならない。
……というか。
役職持ちの寮部屋は一般生徒より広く作られているとはいえ、ベッドは一つしかない。
どう考えてもおかしい。監視なら魔法でもいいだろうに、なぜ「同室」になる。
どう切り抜けるか考えているうちに、無情にも消灯の時間がやってきた。
ほぼ同時刻、律儀にも扉がノックされる。
「……入るぞ」
有無を言わせない声。
レイン会長だ。
忠犬として接している以上、ここで嫌そうな顔はできない。
俺は無理やり笑顔を作る。
「かいちょ~、心配してくれてありがと~! でも本当に何もしてないよ?」
軽い調子で言ったが、返ってきたのは冷たい視線だけだった。
返事すらない。
(……無理。絶対無理だ、この人と同じ部屋で一夜とか)
心の中で絶望する。
なんで王子様と一緒に寝る流れになってるんだ。なりゆきで「はい」なんて言った今日の自分を本気で殴りたい。
それでも身の潔白を証明しなければならない。
俺は精一杯の善意を装って言った。
「俺、ソファーで寝るからさ、かいちょ~はベッド使っていいよ?」
これなら問題ない。完璧だ。
……と思ったのに。
「早くこっちへ来い」
次の瞬間、手首を掴まれ、問答無用で引っ張られる。
「一緒に寝るぞ」
「え~、かいちょ~積極的~!」
わざとらしく声を上げてみせるが、レインは形のいい眉を不機嫌そうに寄せる。
「寝る時くらい静かにしろ」
完全な命令口調。
俺は反射的に口を閉じた。
役職持ちの貴族用に広く作られているとはいえ、男二人で一つのベッドはさすがに狭い。
俺はできるだけ端に寄ろうとしたが、それを許されなかった。
ぐい、と腕を引かれ、抱き寄せられる。
「っ……」
俺は鍛えていない細身の体だが、会長は騎士になれるほど訓練している。
がっしりしすぎてはいないが、ほどよく筋肉がついた体格で、背も俺より高い。
結果、完全に包み込まれる形になった。
その状態で、俺の首元に、会長の吐息がふっとかかる。
ぞわり、と背筋が粟立った。
「おい、お前……離れろ」
思わず、素の口調が飛び出した。
低い声色で言った瞬間、はっとする。
(やば……)
さっきまで、嬉しそうにしていた忠犬のセリフじゃない。
慌てて取り繕う。
「い、今のは冗談で……ははっ」
乾いた笑いでごまかすが、背中に向けられる視線が、やけに重い。
逃げ場がない。
「……」
沈黙のあと、レインが低く言った。
「お前、俺の前ではその気色悪い喋り方じゃなく、素でしゃべれ」
命令だった。
その瞬間、さっきの吐息が、わざとだったことに気づく。
(……こいつ、試したな)
素を引き出すために、わざと距離を詰めた。
してやられた、と思う。
それでも、素直に頷く気にはなれなかった。
「……覚えてろよ、お前」
小さく悪態をつくと、会長は何も言わず、腕の力だけを緩めなかった。
こうして、会長と同じベッドで眠る夜が始まる。
明日から、どんな面倒な日々が待っているのか。
それを想像しただけで憂鬱で、今夜はとても眠れそうになかった。
あなたにおすすめの小説
生まれ変わりは嫌われ者
青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。
「ケイラ…っ!!」
王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。
「グレン……。愛してる。」
「あぁ。俺も愛してるケイラ。」
壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。
━━━━━━━━━━━━━━━
あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。
なのにー、
運命というのは時に残酷なものだ。
俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。
一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。
★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!
悪役令息の兄って需要ありますか?
焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。
その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。
これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。
処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる
猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。
しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。
当然そんな未来は回避したい。
原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。
さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……?
平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。
ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)
チートなしの無能令息ですが、5人の攻略対象に逃してもらえません!
村瀬四季
BL
異世界に転移したと思ったら、俺だけまさかのチートなし!?
前途多難ですが自由気ままに生きていこうと思います!
って思ったのに周りの人達が俺を離してくれない!?
※たまに更新が遅れると思います。
※変更する可能性もあります
※blです ざまぁもあると思う…!
※文章力は大目に見てください
【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?
キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。
知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。
今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど——
「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」
幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。
しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。
これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。
全8話。
死ぬだけの悪役令息に転生したら、待っていたのは攻略対象達からの溺愛でした。
きうい
BL
病でで死んでしまった優は、気が付いたら読んでいた小説の悪役令息として転生していた。
それもどのルートでも十五歳という歳になると、死ぬ運命にある悪役———フィオレン・オーレリウス。
前世で家族に恵まれず、家族愛とは程遠い世界で生きてきた優は、愛されたいという願望を捨て、ひとりで生きることを決意する。
しかし、家族に対して表情と感情を隠し、言葉も発さず、一人で生きて行く術を身につけようと家族から距離をとるフィオレンとは裏腹に、家族や攻略対象達は異常なほどの愛を注ぐ。
フィオレンの知らない所で、小説のシナリオとは正反対の道を辿ることになるも、愛に無頓着で無自覚なフィオレンは溺愛されていき………?
攻略キャラを虐げる悪役モブに転生したようですが…
キサラビ
BL
気づけばスイランと言う神官超絶美人になっていた!?どうやらBLゲームの世界に転生していて攻略キャラにきつくあたっていた…
でも、このゲーム知らない
勇者×ヒーラー
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。