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第1部
23 友達
目が覚めた瞬間、最初に視界に飛び込んできたのは、まつ毛がやけに長い美少年の寝顔だった。
夜明け前の淡い光がテントの布越しに滲み、薄青く揺れている。その微かな光が、リアムの白い頬をやわらかく撫でていた。吐息が、近い。互いの呼吸が絡まり合い、温度が混じり合う距離だ。
ああ、そうだ。
昨日、熱に浮かされていたリアムを見守っていた。額に濡れ布を替え、何度も体温を確かめ、ようやく穏やかな寝息に変わったのを確認して――そのまま、俺も眠ってしまったのだろう。
それにしても、状況がおかしい。
身体がぴたりとくっついている。腕は絡め取られ、逃げ場がない。さらに、リアムの両足が俺の片脚を挟み込み、柔らかい布越しに、はっきりとした熱と硬さが太ももに当たっていた。
……現実逃避し、一瞬、これは夢だと思い込もうとする。だが、太ももに伝わる確かな主張が、それを許さず、鮮明に情報を伝えてくる。
「……ねぇ」
小さく呻き、力を込めて身を引こうとする。だが、眠っているはずのリアムの腕は、驚くほど強い。細い指が服を握り込み、胸元に顔を埋めてくる。
「リアム、起きて」
肩を揺さぶり、軽く叩く。だが、まぶたは閉じたまま。長い睫毛が震えるだけだ。寝息は規則正しい。
――俺は無駄なことに力を使いたくはない。
諦めて天井を仰ぐ。テントの布越しに、森のざわめきがかすかに聞こえる。鳥の囀り、朝露の落ちる音。外の世界は、清々しい朝を迎えているというのに。
すると、するりと。
リアムの手が、服の裾から忍び込んできた。冷えた指先が腹を撫で、ゆっくりと、確かめるように這い上がる。
「……お前」
こいつ、起きているな?
怒りが湧く。だが同時に、妙な熱が腹の底に灯る。
俺は身を少し屈め、彼の耳元へ顔を寄せた。朝の匂いと、昨夜の森の匂いが混ざって、甘い体温を感じる。
いたずらに、動揺させるように。
「ねぇ、好きだよ、ずっと、俺のことだけ見てて」
わざと軽薄な口調で囁く。いつもの、からかう声色で。
吐息が耳朶を撫でる。
案の定。
ぱちり、と、ガラスのような瞳が開いた。
まっすぐに、俺を射抜く視線。寝起きの霞がかったそれが、瞬時に焦点を結ぶ。俺の顔を、逃がすまいとするかのように凝視する。
顎を掴み、ぐっと持ち上げる。
「おい、ずっと起きてただろ。早く退けろ」
だがリアムは動かない。
ただ、じっと見ている。
――さっきの言葉を、咀嚼するように。
その瞳の奥が、静かに熱を帯びるのを見て、俺は心の中で舌打ちした。しまった、少しやり過ぎたか。
隙をついて身体を抜け出す。絡んでいた脚をほどき、距離を取る。冷たい空気が肌を撫で、ようやく呼吸が整う。
だが、リアムは起き上がらず、俺を見上げたままだ。
俺はため息をつき、額を近づける。こつん、と額同士が触れ合う。
まだ熱があるなら、今日は休ませるつもりだったが。
「……もう下がってるな」
安堵が胸に広がる。
「体調はどう?」
問いかけると、リアムは小さく笑った。朝日が瞳に映り、きらりと光る。
「もう大丈夫だよ。……もしかして、たくさん心配してくれたの?」
からかうような声音。
俺は無視して背を向ける。荷物をまとめながら、素っ気なく答える。
「今日は、魔物討伐行くんだろ。動けるならさっさと支度しろ」
背中に、視線が刺さる。
その後ろ姿に、ぽそりと呟かれる。
「……迷惑かけて、ごめん。ありがとう」
いつもの軽さはない。掠れた、真っ直ぐな声。
指先が一瞬、止まる。
「感謝は討伐で返してくれたらいいよ。足手まといにはなるなよ」
わざと冷たい声で言い放ち、テントの入口を押し上げる。
外に出ると、朝の森が広がっていた。薄霧が立ち込め、木々の間を金色の光が射し込んでいる。湿った土の匂い。清々しい空気。
けれど、背後から近づく足音に、俺の心臓は妙に速く打つ。
「ねぇ」
肩に触れる指。
「さっきの、なに?」
振り返ると、リアムは真剣な顔でこちらを見ていた。さっきまでの無邪気さは消えている。
「俺だけ見てて、って」
その瞳の奥に、薄暗い影が揺れる。
冗談だと笑えば済むはずだ。
だが、喉がうまく動かない。
それでも。
「友達記念、かな。友達はいつも一緒にいるのが普通でしょ?」
「へぇ、そっか。友達……ね。じゃあ、これから友達が、どんな楽しいことをしてくれるのか期待だね」
俺を見つめるリアムの視線が、よほど鋭くて、逃げ場がない。
せっかく悪の組織とは関係なしに、純粋な友達になれたというのに、今後のことを思うと、胃の奥がきりきりと締めつけられる。
森のざわめきがやけに遠く感じられる。
背中に刺さるリアムの気配を感じながら、朝日が差し込む森の奥へと、地面を踏みしめた。
夜明け前の淡い光がテントの布越しに滲み、薄青く揺れている。その微かな光が、リアムの白い頬をやわらかく撫でていた。吐息が、近い。互いの呼吸が絡まり合い、温度が混じり合う距離だ。
ああ、そうだ。
昨日、熱に浮かされていたリアムを見守っていた。額に濡れ布を替え、何度も体温を確かめ、ようやく穏やかな寝息に変わったのを確認して――そのまま、俺も眠ってしまったのだろう。
それにしても、状況がおかしい。
身体がぴたりとくっついている。腕は絡め取られ、逃げ場がない。さらに、リアムの両足が俺の片脚を挟み込み、柔らかい布越しに、はっきりとした熱と硬さが太ももに当たっていた。
……現実逃避し、一瞬、これは夢だと思い込もうとする。だが、太ももに伝わる確かな主張が、それを許さず、鮮明に情報を伝えてくる。
「……ねぇ」
小さく呻き、力を込めて身を引こうとする。だが、眠っているはずのリアムの腕は、驚くほど強い。細い指が服を握り込み、胸元に顔を埋めてくる。
「リアム、起きて」
肩を揺さぶり、軽く叩く。だが、まぶたは閉じたまま。長い睫毛が震えるだけだ。寝息は規則正しい。
――俺は無駄なことに力を使いたくはない。
諦めて天井を仰ぐ。テントの布越しに、森のざわめきがかすかに聞こえる。鳥の囀り、朝露の落ちる音。外の世界は、清々しい朝を迎えているというのに。
すると、するりと。
リアムの手が、服の裾から忍び込んできた。冷えた指先が腹を撫で、ゆっくりと、確かめるように這い上がる。
「……お前」
こいつ、起きているな?
怒りが湧く。だが同時に、妙な熱が腹の底に灯る。
俺は身を少し屈め、彼の耳元へ顔を寄せた。朝の匂いと、昨夜の森の匂いが混ざって、甘い体温を感じる。
いたずらに、動揺させるように。
「ねぇ、好きだよ、ずっと、俺のことだけ見てて」
わざと軽薄な口調で囁く。いつもの、からかう声色で。
吐息が耳朶を撫でる。
案の定。
ぱちり、と、ガラスのような瞳が開いた。
まっすぐに、俺を射抜く視線。寝起きの霞がかったそれが、瞬時に焦点を結ぶ。俺の顔を、逃がすまいとするかのように凝視する。
顎を掴み、ぐっと持ち上げる。
「おい、ずっと起きてただろ。早く退けろ」
だがリアムは動かない。
ただ、じっと見ている。
――さっきの言葉を、咀嚼するように。
その瞳の奥が、静かに熱を帯びるのを見て、俺は心の中で舌打ちした。しまった、少しやり過ぎたか。
隙をついて身体を抜け出す。絡んでいた脚をほどき、距離を取る。冷たい空気が肌を撫で、ようやく呼吸が整う。
だが、リアムは起き上がらず、俺を見上げたままだ。
俺はため息をつき、額を近づける。こつん、と額同士が触れ合う。
まだ熱があるなら、今日は休ませるつもりだったが。
「……もう下がってるな」
安堵が胸に広がる。
「体調はどう?」
問いかけると、リアムは小さく笑った。朝日が瞳に映り、きらりと光る。
「もう大丈夫だよ。……もしかして、たくさん心配してくれたの?」
からかうような声音。
俺は無視して背を向ける。荷物をまとめながら、素っ気なく答える。
「今日は、魔物討伐行くんだろ。動けるならさっさと支度しろ」
背中に、視線が刺さる。
その後ろ姿に、ぽそりと呟かれる。
「……迷惑かけて、ごめん。ありがとう」
いつもの軽さはない。掠れた、真っ直ぐな声。
指先が一瞬、止まる。
「感謝は討伐で返してくれたらいいよ。足手まといにはなるなよ」
わざと冷たい声で言い放ち、テントの入口を押し上げる。
外に出ると、朝の森が広がっていた。薄霧が立ち込め、木々の間を金色の光が射し込んでいる。湿った土の匂い。清々しい空気。
けれど、背後から近づく足音に、俺の心臓は妙に速く打つ。
「ねぇ」
肩に触れる指。
「さっきの、なに?」
振り返ると、リアムは真剣な顔でこちらを見ていた。さっきまでの無邪気さは消えている。
「俺だけ見てて、って」
その瞳の奥に、薄暗い影が揺れる。
冗談だと笑えば済むはずだ。
だが、喉がうまく動かない。
それでも。
「友達記念、かな。友達はいつも一緒にいるのが普通でしょ?」
「へぇ、そっか。友達……ね。じゃあ、これから友達が、どんな楽しいことをしてくれるのか期待だね」
俺を見つめるリアムの視線が、よほど鋭くて、逃げ場がない。
せっかく悪の組織とは関係なしに、純粋な友達になれたというのに、今後のことを思うと、胃の奥がきりきりと締めつけられる。
森のざわめきがやけに遠く感じられる。
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