悪役会計様に転生した俺は、生徒会長に媚び売って生き残る

桜城 寧

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第1部

24 危機の予感

魔物討伐演習、二日目。

夜露を吸った森は、朝だというのに薄暗かった。高く伸びた木々が空を覆い、光は細く裂かれて地面へ落ちている。湿った土の匂いと、どこか鉄のような匂いが鼻を刺した。

「昨日出来なかった分、取り返しにいくぞ」

小さく呟くと、隣を歩くリアムがにやりと笑う。

「僕のために、張り切ってくれるんだ?可愛い~」

性格が可愛くないリアムは無視をして、今日は危険エリアへ足を踏み入れることに決めた。

学園内でも限られた者しか入れない区域――ここは生徒会役員のような、魔力も武力も規格外の人間だけが許されるエリアだ。もちろん例外もいるが、それはほんのひと握り。

境界線を越えた瞬間、空気が変わった。

肌を刺すような圧迫感。耳鳴りにも似た、魔力のうねり。
思わず足を止める。

「……なんか空気、重くない?」

リアムが珍しく声を落とす。

「ああ。何かがおかしい。」

木々は静まり返り、鳥の鳴き声すら消えていた。

この森にいる魔物はA級までのはずだ。ここはあくまで学区内にある森で適切に管理されているため、S級は結界を突破できない。理屈ではそうなっている。

なのに――背筋を撫でる、圧倒的な“何か”。

次の瞬間、地面を抉る轟音。

視界いっぱいに巨大な影が振り下ろされた。

「っ!」

反射的に横へ跳ぶ。地面が爆ぜ、土と石が舞い上がる。

「リアム!」

振り返ると、彼はすでに剣を抜き、楽しそうに笑っていた。

「余裕だよ。むしろ、こういうのって、ゾクゾクする」

何言ってるんだとあきれて軽口を叩いていたが、煙の向こうから現れたそれを見て、言葉を失う。

魔龍。
森の木々よりもなお大きい体躯。
鱗は黒く、熱を帯びたように赤い筋が走っている。

全貌は見えないが、それでも異常だと分かる。

迷う暇はなかった。

吐き出された炎を一直線に薙ぎ払う。
熱風が頬を焼き、髪が焦げる匂いがした。

「どうする? やる?」
リアムの目は完全に戦闘狂のそれだ。

「無理だ。二人じゃ倒せない。撤退す――」

言い終わる前に、咆哮が森を震わせた。
炎が迫る。

「っ、やば」

地面を蹴る。熱風が頬を焼く。

魔龍は角が弱点だ。怯ませて、角を破壊する。それが定石。
だが、怯む気配すらない。

「一旦引く! 学園に連絡を――」

「ちっ、わかったよ!」

渋々頷いたリアムと視線を交わし、後退を始める。
そのときだった。

魔龍が、こちらを見た。
真っ赤な瞳が、真っ直ぐ俺を捉える。

嫌な予感が走る。口腔が赤く光る。

「……っ、まずい」

炎が一直線に迫る。
間に合わない。

死を覚悟し、目を閉じた。

――が。

強い腕に抱き込まれ、身体が宙を舞う。

轟音。
熱がすぐ横を通り過ぎる。

すると、ふわりと、よく知る匂いが鼻をかすめた。

「……っ」

薄く目を開けると、至近距離に見慣れた顔。

「無茶しすぎ」

「……ウィラン?」

柔らかい声音。けれど目は笑っていない。

「どうしてここに……?」
ウィランは二年だ。一年の演習場所にいるはずがない。

「それは後で。今は下がってて」

安全な場所へそっと降ろされる。

「待っ――」

言い終わる前に、彼は魔龍へ向かっていく。

背中が遠ざかる。胸がざわつく。
ウィランに何かあったら、耐えられない。

「リアム、行くぞ」

「やっとその気になった? そうだよね、そう来なくっちゃ」

だが、戦況は明らかに不利だった。ウィランは強い。それでも、この規格外の魔龍相手では押されている。

――仕方ない。

誰にも告げず、能力を発動する。

無色化。魔力も、存在も、匂いさえも消す。
視界が澄み、動きの軌道が手に取るように分かる。

(ばれたら怒られるだろうな……ウィランだけじゃなく、会長にも)

それでも。今は倒す、それだけだ。

魔龍の意識がウィランへ向いた瞬間、一気に背を駆け上がり、巨大な身体を蹴って跳躍する。
角を掴み、剣を突き立てる。

「――っ、これで!」

硬い感触。だが手応えは浅い。

「くっ……!倒したか――?」

そう思って、能力を解除した瞬間。
魔龍の体が大きく揺れた。

「っ!」

振り落とされる。

終わった、と思った。油断して、倒し損ねた。
だが、目の端に金色の閃光が走る。
もう一人の影が角へ跳び、深々と刃を刺し貫いて、角を破壊した。

「……会長?」

どうして、ここに。
思考が追いつかないまま、身体はそのまま落下していく。

地面に叩きつけられる――

そのとき、下から伸びた腕が、しっかりと受け止めた。
衝撃が吸収される。強い胸板に顔が埋まる。

「本当に、目を離すとこれだ」
低く、叱るような声。

見上げると、見慣れた整った顔がすぐそこにあった。

「……ウィラン、ごめん」

安堵が込み上げ、力が抜ける。
2度も危ない所を助けてもらった。その絶対的な安心感に、無意識に彼の服を掴み、さらにぎゅっと抱きついた。

「……俺がいなくて怖かった?」
耳元で幼子をあやすように、囁かれる。

「別に」

「嘘、いつもより顔に血の気がないよ」

「……うん、少しだけ、怖かった」

ウィランの腕が、強く抱き返す。

「俺がいる。カイルのこと、いつでも助けに行くから」

その一言で、胸の奥が熱くなる。いつもの軽薄な感じとは異なる、真剣で安心感なある声色。

遠くで魔龍が崩れ落ちる音がした。

でも今は、それよりも。
彼の鼓動のほうが、ずっと近くで響いていた。



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