悪役会計様に転生した俺は、生徒会長に媚び売って生き残る

桜城 寧

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第1部

27 放課後

窓の外は夕焼けで、校舎の影が長く伸びてる。教室のざわめきもだんだん遠くなっていく。

放課後の鐘が鳴り終わる頃、俺はとある場所へと向かっていた。

そう、今日は珍しく、レイン会長に呼び出されている。

――放課後、商業区入口。遅れるな。
それだけの短いメッセージ。

レイン会長は生徒会長で、王子様。誰よりも人の上に立つのが似合っていて、誰よりも孤高。

だが、他人を信用してないのか、近づけさせないのか……寄ってくる連中は山ほどいるけど、会長が自分から誰かを誘うなんて、まずない。

だから、何か粗相をしてしまったのではないかと、ずっと落ち着かない気持ちだった。

待ち合わせ場所に行くと、もうそこに立っていた。夕陽を背負って立ってる姿は、絵みたいに綺麗だった。

「遅い」

低く澄んだ声。

「え~?ちゃんと時間通りに来たよ!もしかして、ずっと待っててくれてたの~?」

「……いいから着いてこい」

「はいは~い!」

さっさと歩き出す背中を、慌てて追いかける。

学園の敷地内にある商業区は、放課後の生徒たちで賑わっていた。甘い香りの漂うカフェ、制服姿のまま笑い合う学生たち。

けれど会長はそこに一切目もくれず、商業区の中でも一際格式高そうなレストランへ入っていく。

案内されたのは個室だった。
厚いカーテンで外界と切り離された、落ち着いた空間。

ドアが閉まると同時に、緊張がじわりと胸に広がる。

「で?今日はなんの用事で呼んだの~?」

いつもの軽い調子で言った瞬間、会長の目が細くなる。

「……わざわざ個室にしたんだ。その口調はやめろ」

静かだが、有無を言わせぬ圧。

「……分かった。それで、用件は?」

俺の声は、思っていたより低かった。

すると、会長は小さく息を吐き、タブレットを操作して、こちらに画面を向けた。

「お前が報告した貴族連中についてだ」

心臓が一瞬止まる。
並んでるのは、俺が怪しいと報告した貴族の名前。

数週間前、能力がバレて会長の管理下に置かれたとき。

――俺が全部、片付けてやる。
この言葉で、会長を頼ることに決めた。

ただ、ゲームのことも、悪の組織「クロセトラ」のことも、なんで知っているのかと説明することになるから、言えない。

そのため、実家である侯爵家の指示で、悪事を働いていそうな怪しい貴族を能力で調査してる、ということにして伝えた。

会長は俺が能力を使わないで問題を解決できるよう、手を回してくれたらしいが。

「王族直属の影の部隊を動かした」

「……は?」

画面には、俺が名を挙げた貴族たちの調査結果が並んでいた。

違法取引。人身売買。裏の資金洗浄。

「お前が言っていた貴族は全て黒だった。爵位剥奪に財産没収。既に処理は済んでいる」

淡々と告げられる言葉。

一瞬、言葉の意味が理解できなかった。

「……全部?」

「ああ」

画面には処分完了の文字。

自分一人で抱えなきゃいけないと思っていた。
能力を使って、裏から削るしかないと。

それが、こんなにもあっさりと、短期間でやってのけた。

胸に溜まっていた重石が、すっと消える。

と同時に――

(巻き込んだ……?)

俺の情報がなければ、会長は動かなかった。
ゲームとは関係ない世界で、危険に踏み込ませたかもしれない。

「ただし、貴族だけが全てとは思えない」

会長の指が画面をスクロールする。

「背後に協力者がいる可能性が高い。そこはまだ調査中だ」

「……そっか」

ほっとしたのか、罪悪感なのか分からない感情が混ざる。

「一人で背負うな」

不意に、低い声が落ちた。

「お前は俺の管理下だ」

管理。
その言葉に、背筋がひやりとする。

「……次だ」

会長の目が鋭くなる。

「演習中、極めて危険な魔物と遭遇した件。なぜ連絡しなかった?」

喉が詰まる。

「それと、無断で能力を使ったな」

図星すぎて、何も言葉が出ない。
追及されることの予想はついていたが、まさかこの場で問われるとは思わなかった。

「……言い訳は?」

視線が逃げ場を塞ぐ。

分かってる。
俺が悪い。

拳を握りしめる。

「……ないよ。俺が悪い」

視線を落とす。指先が冷たい。

「自覚はあるんだな」

怒られる。そう思った瞬間。

机越しに、椅子がきしむ音がする。

「会長?」

その音に顔を上げたら、会長が机に身を乗り出していて――

「っ……!」

唇に、柔らかい感触。

(……え)

時間が止まった。

いつもの、唇の端を噛んで正気を戻す、管理じゃない。

目を合わせたまま、そっと触れるだけの――優しい、熱。

息ができない。
鼓動がうるさい。

柔らかく、長く触れて、最後にぺろりと舌先が唇をなぞって離れた。

頭が真っ白になる。

「……これが、罰?」

声がかすれる。頭が追いつかない。

「ああ。足りなかったか?」

意地悪く口角を上げる。
顔が一気に熱を持つ。

「ち、違っ……足りるとか足りないとかじゃなくて……」

今のは。

今のは――

甘くて、優しくて。

まるで好きな人同士がするキスみたいで。

頭がおかしくなりそうだった。

「顔が赤いな」

「うるさい……見るな!」

思わず乱暴な口調になる。

その様子を見て、会長は愉快そうに目を細めた。

「その顔は俺の前だけにしろ」

胸が跳ねる。

「お前は俺のことだけ見てればいい」

支配的な言葉なのに、不思議と嫌じゃなかった。


唇が離れたあとも、そこだけ熱が残っていた。

指で触れれば確かめられそうなのに、そんなことをしたらより確かなものになる気がして、動けない。

(……なんだったんだ、今の)

頭がぐらぐらする。
心臓が、やけに真面目に仕事している。

罰のはずなのに、ひどくされるどころか、慰められたみたいで。

じわ、と胸の奥があたたかくなる。

冬の朝に差し込む日差しみたいな、頼りなくて、でも確かなぬくもり。

(……俺、嬉しいのか?)

そんな自分にさらに戸惑う。

危険に巻き込んだかもしれない罪悪感も、無断で能力を使った後ろめたさも、全部ちゃんとあるのに。

それでも。

「一人で背負うな」と言われたこと。
その言葉が、胸の奥に柔らかく沈んでいる。

乱暴で、強引だけど。
ちゃんと、俺を見ている目だった。

(……くそ、どうしたんだ、俺)

唇の熱が消えるのが、少し惜しい。

戸惑いと一緒に、じんわりと広がるあたたかさを抱えたまま、俺は赤くなった顔を隠すように俯いた。



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