悪役会計様に転生した俺は、生徒会長に媚び売って生き残る

桜城 寧

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第1部

30 空白

俺がこの世界が“ゲームの中”だと気づいてから、できることはすべてやってきた。

何度も、何度も夢に見る世界。
見覚えのある校舎、聞き覚えのある台詞、決められたストーリー。
まるで先の展開をなぞるように、未来が脳裏に流れ込んでくる。

子どもの頃は、ずっと孤独だった。

人との関わりなんてほとんどなく、光なんてどこにもない。息苦しい世界の中で、心はいつも空っぽだった。

それに追い打ちをかけるように、学園に入学する三年前から、ゲームの夢を見るようになり、時期が近づくにつれ、警鐘を鳴らすように、より夢が鮮明になった。

主人公と攻略対象。好感度に分岐。
そして――最悪の結末。

自分が辿る可能性のある、“悪役会計の断罪シーン”。

目が覚めるたび、汗で濡れた寝具と、早鐘を打つ心臓。
あれがただの夢ではないと、本能が理解していた。

だから俺は、感情を押し殺して生きてきた。

空っぽの心に蓋をして、余計な波風を立てないように。
選択を誤らないように。破滅に向かわないように。

意味なんて見いだせなくても、とにかく生き延びるために。

けれど――

学園に入ってから、少しずつ世界が変わった。

生徒会で気軽に話せる相手が増えた。
初めての“友達”という存在ができた。
義理とはいえ弟とも距離が縮まり、以前より自然に言葉を交わせるようになった。

そして。

家族同然に隣にいてくれる人がいる。
管理のために、近くで見守ってくれている存在もいる。

ひとりじゃない。

あの頃とは、違う。

胸の奥に、わずかだけれど確かな熱が灯っているのを感じる。

――だから、大丈夫だ。

最悪の未来は、回避できる。

どんなシナリオが待っていようと。
俺はもう、ただ流されるだけの“役”じゃない。

あとは、やるだけだ。






---



……今思えば、あれは甘い幻想だった。

努力すれば未来は変えられると。
選択を間違えなければ、破滅は回避できると。
ちゃんと備えて、ちゃんと距離を測って、ちゃんと感情を抑えていれば、生き残れると。

本気で、信じていた。

……甘かった。

こんなことになるなら。
こんなふうに、胸を抉られるくらい痛むなら。

最初から、何もしなければよかった。

誰とも関わらず。
誰の笑顔にも期待せず。
差し出された手も取らず。

ひとりで、冷たいまま、空っぽのまま、生きていればよかった。

そうすれば、失う怖さなんて知らなかった。
恐怖に、夜ごと息が詰まることもなかった。

関わったから、願ってしまった。

「大丈夫だ」なんて、何を根拠に言えたんだ。

ゲームの知識がある?
悪役のフラグを潰した?

笑わせる。

心がこんなにも揺らいでいる時点で、もうおしまいだ。

胸を押さえる。
鼓動が痛い。息が浅い。

全部、自分のせいだ。

希望なんて持ったから。
居場所があるなんて錯覚したから。

ひとりでいればよかった。

最初から誰にも近づかなければ、
誰かの名前を呼ぶことも、
誰かに名前を呼ばれることもなければ、

こんなにも苦しくはならなかった。

――もう遅い。

もう、遅すぎるんだ。

ぬくもりも、優しい視線も、全部知ってしまった。

知ってしまった心は、もう空っぽには戻れない。

いまさら「何もいらない」なんて顔をしても、
胸の奥では、失うことを恐れて震えている。

逃げ道はない。

未来にも、過去にも、
どこにも。


感想 6

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