悪役会計様に転生した俺は、生徒会長に媚び売って生き残る

桜城 寧

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第2部

6 風紀室

窓の外は、午後の光に満ちていた。校庭の桜はすでに葉桜に変わり、柔らかな緑が風に揺れている。

何も考えずに、風に吹かれている時間は心地いい。

教室のざわめきから少し距離を置いて、俺は頬杖をついたまま、ぼんやりと視線を落とした。

――そのときだ。

中庭の石畳の上に、見慣れた金色の髪が揺れるのが見えた。

「……会長に、エス?」

思わず小さく声が漏れる。

近寄りがたい空気をまといながらも、誰よりも堂々としている、レイン生徒会長。

その隣に立っているのは、ふわふわの白髪を纏ったエス。

二人は向かい合って、ずいぶんと近い距離で話し込んでいた。

しかも――

会長が、笑っている。

いつもの余裕ぶった微笑みではなく、どこか柔らかくて、打ち解けた顔。

エスもまた、にこやかに目を細めて応じている。

「……え?」

頭が、真っ白になる。

会長がエスと出会いイベントではないところで、偶然出会ってしまった?

俺の知らないところで。しかも、あんなに親しそうにして。

胸の奥がざわつく。
出会いのイベントを阻止できなかったことよりも。
いつどんな理由で出会ったのか、何を話しているのかがとてつもなく気になる。

誰とも馴れ合わず、近寄られるのを嫌がるような会長。
転校生のどんなところに興味を持っただろうか。

ただ、喉の奥に引っかかるような違和感だけが、じわじわと広がっていく。

昨日のイオのことだって、まだ片付いていないのに。
それきエスとも、ちゃんと声を掛けないまま、俺は逃げるみたいに帰ってしまった。

どうして、こんなことに――。

「……いや、違う。考えるな」

これ以上思考を巡らせたら、きっと収拾がつかなくなる。
それに、まだ断罪までにできることはたくさんある。

俺は無理やり視線を窓から引き剥がし、机の上の書類を掴んだ。

そうだ。風紀室に届け物があるんだった。

深い深呼吸をして、顔にあたる風に身を委ねながら、思考を切り替える。

いつもの仮面を顔に貼り付けて。


---

風紀室の扉をノックしてから、軽い調子で開ける。

「お届け物でーす」

中にいたのは、風紀委員長――キース一人だけだった。

風紀室に入ることは滅多にない。
室内は風紀委員で賑わっていると思ったが、1人しか姿が見えないことに、少し驚いた。

静まり返った室内。整然と並んだ棚。書類の山。
そして机の向こうから、冷たい視線。

「……何しに来た」

ぶっきらぼうな声が飛んでくる。

「いやだから、書類を――」

言いかけたところで、キースの眉がぴくりと動いた。

「なんだお前」

「え?」

「いつもの気味の悪い顔が、さらにおかしな顔になってるぞ」

反射的に頬を押さえる。

「ははっ、そんなわけないじゃんか~」

「自覚なしか。重症だな」

さらりと言い放たれて、ぐうの音も出ない。

「書類確認するから座って待ってろ」

顎で示された椅子に腰を下ろす。キースは書類に目を通しながら、手際よくページをめくっていく。

やがて、湯気の立つカップが目の前に置かれた。

「……え?」

「茶だ。黙って飲め」

「……ありがと」

香ばしい紅茶の匂いが、ふわりと立ちのぼる。

意外と優しいのか?

風紀委員長であるキースとは、公の場でしか顔を合わせることはない。

だが、俺の見た目や振る舞いからか、顔を合わせる度に厳しく注意されることが常だった。

湯気越しにキースを盗み見る。相変わらず怖い顔で鋭い目つき。無駄のない動きで書類を確認している。

「ねぇねぇ、風紀委員長って友達いるのー?」

気づけば、そんなことを口走っていた。

ペンが止まる。

「……は?」

「いや、だってさ。その感じで、友達いる想像つかなくって」

「友達なんて必要ない。そういうお前だって、いないだろ」

「いや、いるもん!」

声が裏返る。

「友達の一人やふた……ひ、ひとりいるし!」

言ってから、なぜか胸がちくりと痛んだ。

「そうか」

キースは淡々と書類を閉じる。

「じゃあ、友達と普段何するんだ?」

「え?」

考えたこと、なかった。
リアムとは最近友達になったばっかりで、この間やったことといえば。

「えーと……膝枕してあげたり、美味しい紅茶つくってあげたり……?」

必死に頭を回転させて出てきた答え。

そういえば、友達になってから、リアムがまた能力者の研究をすることがないように、どう楽しませるか、それしか考えていなかった。

普通の友達が何をするのか知らないけど、なんか違う気がすると、口に出してから初めて気づいた。

すかさず、キースが、はあ、と息をつく。

「それ、友達じゃなくて侍従って言うんだぞ」

「うるさいっ!これから仲良くなるんだよ!」

むきになって言い返すと、キースはふっと口元を緩めた。

「そうか。じゃあ、進展したら報告してくれよ」

ほんの少し、楽しそうに。

「まあ、期待はできないがな」

――笑った。

キースって、笑うんだ。

思わずじっと見つめてしまった。普段誰にも見せることのない柔らかい表情。春の陽光のようだった。

美形なんだから、いつもそういう顔してればいいのに。

「……何見てる」

「いや、別になんでもない」

これ以上見てたら絶対に文句を言われる。

「もう帰ってもいいかな~って」

「書類は確認した」

椅子にもたれながら、キースがじっとこちらを見る。

「さっきよりは、ましな顔になったな」

「え?」

「来たときよりはな」

確かに、自分の言いたいことを言えた。
遠慮なく突っ込まれて、遠慮なく言い返して。

そんな相手、なかなかいない。

「……どうも」

小さく呟いて立ち上がる。

扉を閉める直前、背後から低い声が届いた。

「無理に笑うな。似合わんぞ」

一瞬、心臓が跳ねた。

振り返る前に、扉を閉める。

廊下に出ると、さっきまで胸を占めていたもやもやが、少しだけ薄れていることに気づいた。

窓の外の景色は、変わらず穏やかだ。

けれど、心は――さっきよりも、少し晴れている。

その変化に、自分でも驚きながら。
俺は静かに息を吐いた。


感想 6

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みんなの感想(6件)

タナカ
2026.03.29 タナカ

気づいたら一気読みしてました‼️
裏ある系のチャラ男が好きすぎて、カイルに無事沼ってます本当に苦しいです
段々周りの人と関係が深まっていて嬉しいです
このまま気が抜ける人が出来たらいいなって思ってます
神作品をありがとうございます🥹🙏🏻💖

2026.04.01 桜城 寧

読んでいただきありがとうございます!!
最近忙しくて更新が出来ていないのですが、落ち着いたら更新していくので、引き続き楽しんで頂けたら嬉しいです!!

解除
めい
2026.02.23 めい

本っ当にどタイプですっっっ…
あまりにも主人公もストーリーもどタイプすぎて作者さん、いえ作者さまを崇めさせていただきます…
神様なんですか?ですよね??
天才です、天才すぎて語彙力消えましたっ!!
ほんとに僭越ながら全力で応援させていただきます…っっ!!!
世間は夏だとか言い張りますが、まだまだ寒い日もありますので、体調にお気をつけくださいっっ…!!
その中で少しずつでも更新して頂けますと私が長生きします…。
改めまして、影ながら応援してますっ!!

2026.02.23 桜城 寧

うわ〜!楽しんで頂けているようでこちらも感激です😭
可能な限り毎日更新できるよう頑張ります!!
ハッピーエンド目指して書いていくので、これからも見守っていただけたら嬉しいです!!

解除
yayuyodesu1101
2026.02.15 yayuyodesu1101

2回目のコメント失礼します。
うわぁ…ほんとにいい。最高。
特に今ある話の最後の2話はキュンとしました。
ゲーム編が始まりそうですね。これからの展開が気になります!!楽しみです〜!!!

2026.02.15 桜城 寧

うれしいご感想、ありがとうございます!!
ゲーム本編では新しい登場人物も出てくるので、ぜひお楽しみに!

解除

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