スパダリ社長の狼くん

soirée

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第五章

二十二話

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 安曇一家が訪れると、病室に俄かに生気が宿った。美桜の小さな体から明るい光が差し込むようにさえ思えた。


「東條さん。あんまりシュンに我儘言わないようにね」
 釘を刺した安曇に忍が瞬を見やる。瞬が慌てて首を振る。そんな話を安曇にした覚えはない。
「東條さんのことだから回りくどい言い方ばっかりして誤解させてるんじゃないかと思っただけ。……まぁ、今まで色々と自分のことは後回しにしてきたんだからこんな時くらい駄々こねたいのはわかるけどね」
 安曇が腕を組む。忍が沈黙を通すのを見下ろして意地の悪い笑みを浮かべた。
「東條さん。シュンを甘やかしてきたのはこんなことをするためなの? 最期に振り回してもいいようにって? 違うでしょ。何を綺麗に取り繕ってるの。諦めて本音を伝えろってオレは何回忠告したらいい? 東條さんの本当の顔を知ったらシュンはびっくりしちゃうかもしれないけど」
「裕也。戯言に付き合う気はない」
 忍の冷ややかな声色に、瞬が驚いたように二人を眺める。安曇と忍は穏やかな友人関係なのだと思っていたのに、それはまるで……。
 睨み合う二人の間で春香が呆れた声を出す。
「はーい。終了。二人とも変わってないわね……すぐ喧嘩腰になるのなんとかならない?」
 安曇が瞬を振り返る。
「この流れで聞いてごらん。この人こんな澄ました顔してるけど、腹の中は結構黒いんだよ。どうしてもその本音を引き摺り出したいならオレみたいに挑発して怒らせないとダメってこともある。いつまでも隠し通せるもんでもないのにねぇ……そうでしょ、東條さん」
 先ほどとは打って変わって穏やかな瞳で忍を見る安曇に、忍も苦笑する。
「敵わないな。……でも瞬にはそんな汚い僕は見せたくないんだ。それくらいの小さなプライドは誰だって持ってるだろう?」
「どうだろうねぇ……東條さんのそのプライドはエベレストもびっくりな高さでしょ? せめて富士山くらいにしといたらシュンも安心できるよって言ってるだけだよ」
安曇が呆れたように忍を見返した。瞬が徐に口を出す。
「……なぁ、聞きたい。お前の本音……っていうか……いろんなこと」
ぎょっとしたように忍が瞬を振り返る。赤銅色の瞳はまっすぐにその碧翠を射抜いていた。口籠った忍が、ため息をついた。
「……あとでね」


 他愛のない会話の中の忍と安曇の丁々発止のやり取りに、なるほど安曇と忍は喧嘩仲間に近いものなのだなと瞬が納得する。
 しばらくして美桜がぐずり出したのを、忍がまたすんなりと寝かしつけて春香に返す。
「随分長いことお邪魔しちゃってるわね。そろそろお暇するわ」
 春香が美桜を抱いたまま立ち上がる。そばのマザーズバッグを持ち上げながら、安曇は忍に悪戯っぽく言葉を投げた。

「意地を張り続けてる方が格好悪いってこともあるからね」

 一瞬絶句した忍は、苦笑いを浮かべながら瞬を振り向いた。その目に穏やかな色が戻り、瞬ときちんと向き合おうと言う意思が宿っているのを見返して、瞬が安堵したように忍が話し始めるのを待った。
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