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38話 なんでやねん
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俺は愛されてはいけない。
果たしてそう思うようになったのはいつからか。
この世界に転生してから?
主人公の妨害ばかりに心血を注ぐ外道キャラに転生したから?
多分、違うと思う。
恐らく恋愛というものに価値を見い出せず、恋愛する前から逃げたのは前世から。
俺がまだ灰葉瞬だった頃から、恋愛をしないと決めていた。
酷いふられ方をしたとか、モテないからとかそういう理由じゃない。
人並みにどんなものか興味はあったし、気さくに話かけてくれる女子もいた。
バレンタインにはいくつか義理チョコをクラスメイトの女子から分けてもらえるくらいには、まだまともだと思う。
けど、自分が誰かを好きになり、好きになってもらった姿を想像しては違和感を覚えた。
ファッションに気をつける自分。
プレゼントを本気で選ぶ自分。
色んな場所へ恋人を連れて行く自分。
同棲する自分。
抱きしめあう自分。
さらにその先すら想像して、俺はようやく気付いてしまった。
自分が誰かを幸せにできるはずがない、と。
別にカッコつけてるわけじゃない。
ようはネガティブなだけだ。ロクに将来のことも考えない自分が、他人を幸せにできるはずがないという考えが根付いていたのだ。
すぐに愛想を尽かれる。
怒られる。
笑われる。
そんな思いをするくらいだったら、最初から恋愛しない方がマシだと逃げた。
逃げてよかった。
おかげで俺は苦しまない。
しかし、転生してその気持ちに変わりがないにも関わらず、俺には婚約者ができた。
自分を好きだと言ってくれる従姉妹がいる。
ダメだ。これはダメだ。修正しないと。でもめんどくさい。
相反する感情がぶつかり合い、リリアの前で思わず本音が漏れた。
苛立ちに任せたただの感情でしかないそれが口から出た途端に俺は後悔する。
やってしまった、と。
最後は彼女のそばから逃げるように国王陛下の下へ行き、スムーズに婚約発表は終わった。
けれど僅かに生まれた彼女との歪は、直らないまま時間だけが進む。
特にリリアは王族で忙しい。様々な貴族が彼女へ挨拶する中、それを邪魔するわけにもいかず、俺は適当に時間を潰してからトイレへ行った。
本当に、何をやってるんだか……。
「ハァ……」
手を洗いながら思わずため息が漏れる。
全部自分のせいなのに婚約者に当たるなど、恥以外の何ものでもない。
ポケットからハンカチを取り出して水滴を拭きつつ、俺はこのあと彼女へなんと言って謝ろうかと考える。
しかし妙案は一切浮かんでこなかった。
「ここはやっぱり素直に謝るのが一番かな? 下手に策を弄しても意味ない気がする……」
そう言いながらトイレを出ると、ふいに、廊下の奥から男の声が聞こえた。
一気にそちらへ意識が持っていかれる。
「どうして僕の告白を受け入れてくれないんだ! 次期伯爵である僕なら、いくら公爵令嬢の君でも釣り合いがとれるだろう!? 何がダメだと言うんだ!」
これは……どうやら誰かとお取り込みらしい。
邪魔しちゃいけないな。すでに玉砕したあとだと思われるが、変に恨みは買いたくない。
俺はそっと気配を殺して踵を返した。
そのとき、
「どうしても何も、私はあなたに興味がないの。家格とか言われても婚約する気はないわ」
聞こえてきた声は……俺の知ってる人物のものだった。
「——セシリア?」
間違いない。
今の声は彼女のだ。まさかヒロインの告白現場に居合わせるなんて……。
でもよかった。彼女には主人公がどのヒロインを選ぶかわかるまでは恋人を作ってほしくない。
相手が彼女になる可能性だってあるし。
貴族子息の彼? には悪いが、告白が失敗してホッとした。
けど、ホッとしたのも束の間。
「くっ……そんなこと言われても僕は諦めないぞ! 何度だって君にアタックしてやる! いつか必ず、あなたの心を射止めてやるぞ!」
伯爵令息の彼は語気を強くしてそう宣言する。
完全にやる気を刺激されたらしい。諦めない宣言だ。困るな。
「あっそ。相手にしないからどうぞご勝手に」
「あ、待ってくれ! せめてもう少し話を……」
「「あ」」
立ち去ろうとするセシリア。
それを追いかける貴族子息。
そんな二人が廊下の奥からやって来て、先頭を歩くセシリアと俺の目がぶつかった。
そして何を考えたのか、セシリアが急いで俺のもとに駆け寄ると、なぜか腕を絡めて抱きついてくる。
はあぁああ——!? と心の中で絶叫。
目を見開くと、彼女はあろうことかさらなる衝撃をもたらした。
「ちょうどよかったわ。残念だけど、私にはもう彼がいるの。わかったら諦めてちょうだい」
と。
はあぁああ——!?
果たしてそう思うようになったのはいつからか。
この世界に転生してから?
主人公の妨害ばかりに心血を注ぐ外道キャラに転生したから?
多分、違うと思う。
恐らく恋愛というものに価値を見い出せず、恋愛する前から逃げたのは前世から。
俺がまだ灰葉瞬だった頃から、恋愛をしないと決めていた。
酷いふられ方をしたとか、モテないからとかそういう理由じゃない。
人並みにどんなものか興味はあったし、気さくに話かけてくれる女子もいた。
バレンタインにはいくつか義理チョコをクラスメイトの女子から分けてもらえるくらいには、まだまともだと思う。
けど、自分が誰かを好きになり、好きになってもらった姿を想像しては違和感を覚えた。
ファッションに気をつける自分。
プレゼントを本気で選ぶ自分。
色んな場所へ恋人を連れて行く自分。
同棲する自分。
抱きしめあう自分。
さらにその先すら想像して、俺はようやく気付いてしまった。
自分が誰かを幸せにできるはずがない、と。
別にカッコつけてるわけじゃない。
ようはネガティブなだけだ。ロクに将来のことも考えない自分が、他人を幸せにできるはずがないという考えが根付いていたのだ。
すぐに愛想を尽かれる。
怒られる。
笑われる。
そんな思いをするくらいだったら、最初から恋愛しない方がマシだと逃げた。
逃げてよかった。
おかげで俺は苦しまない。
しかし、転生してその気持ちに変わりがないにも関わらず、俺には婚約者ができた。
自分を好きだと言ってくれる従姉妹がいる。
ダメだ。これはダメだ。修正しないと。でもめんどくさい。
相反する感情がぶつかり合い、リリアの前で思わず本音が漏れた。
苛立ちに任せたただの感情でしかないそれが口から出た途端に俺は後悔する。
やってしまった、と。
最後は彼女のそばから逃げるように国王陛下の下へ行き、スムーズに婚約発表は終わった。
けれど僅かに生まれた彼女との歪は、直らないまま時間だけが進む。
特にリリアは王族で忙しい。様々な貴族が彼女へ挨拶する中、それを邪魔するわけにもいかず、俺は適当に時間を潰してからトイレへ行った。
本当に、何をやってるんだか……。
「ハァ……」
手を洗いながら思わずため息が漏れる。
全部自分のせいなのに婚約者に当たるなど、恥以外の何ものでもない。
ポケットからハンカチを取り出して水滴を拭きつつ、俺はこのあと彼女へなんと言って謝ろうかと考える。
しかし妙案は一切浮かんでこなかった。
「ここはやっぱり素直に謝るのが一番かな? 下手に策を弄しても意味ない気がする……」
そう言いながらトイレを出ると、ふいに、廊下の奥から男の声が聞こえた。
一気にそちらへ意識が持っていかれる。
「どうして僕の告白を受け入れてくれないんだ! 次期伯爵である僕なら、いくら公爵令嬢の君でも釣り合いがとれるだろう!? 何がダメだと言うんだ!」
これは……どうやら誰かとお取り込みらしい。
邪魔しちゃいけないな。すでに玉砕したあとだと思われるが、変に恨みは買いたくない。
俺はそっと気配を殺して踵を返した。
そのとき、
「どうしても何も、私はあなたに興味がないの。家格とか言われても婚約する気はないわ」
聞こえてきた声は……俺の知ってる人物のものだった。
「——セシリア?」
間違いない。
今の声は彼女のだ。まさかヒロインの告白現場に居合わせるなんて……。
でもよかった。彼女には主人公がどのヒロインを選ぶかわかるまでは恋人を作ってほしくない。
相手が彼女になる可能性だってあるし。
貴族子息の彼? には悪いが、告白が失敗してホッとした。
けど、ホッとしたのも束の間。
「くっ……そんなこと言われても僕は諦めないぞ! 何度だって君にアタックしてやる! いつか必ず、あなたの心を射止めてやるぞ!」
伯爵令息の彼は語気を強くしてそう宣言する。
完全にやる気を刺激されたらしい。諦めない宣言だ。困るな。
「あっそ。相手にしないからどうぞご勝手に」
「あ、待ってくれ! せめてもう少し話を……」
「「あ」」
立ち去ろうとするセシリア。
それを追いかける貴族子息。
そんな二人が廊下の奥からやって来て、先頭を歩くセシリアと俺の目がぶつかった。
そして何を考えたのか、セシリアが急いで俺のもとに駆け寄ると、なぜか腕を絡めて抱きついてくる。
はあぁああ——!? と心の中で絶叫。
目を見開くと、彼女はあろうことかさらなる衝撃をもたらした。
「ちょうどよかったわ。残念だけど、私にはもう彼がいるの。わかったら諦めてちょうだい」
と。
はあぁああ——!?
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