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第一章【俺もまだまだやれるもんだなぁ……と、思いたい】
事態が知らぬ間に進みすぎている
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庭に植えたキュウリがよく育ち、そろそろ食べ頃だなぁと思っていた。これが、朝の俺である。そして現在、時刻は午後17時。久方ぶりの王宮、謁見の間にて俺は冷や汗をダラダラと流しながら王様の言葉を待っていた。対して、向かいに座る王様は黙して語らずと言った具合だ。その隣に控える騎士団長と大臣が、一応は救世の英雄……の仲間である俺に向けるものでは無いと思える、ゴミを見るような目でこちらを見ている。正に地獄と言える状況であり、余りの居心地の悪さに今すぐ帰ってキュウリをどの様に食すかに思いを馳せたいと考えていると、遂に王様が口を開いた。
「久しいな、クロキよ。息災であったか?」
遂に現状が動く糸口が見えた、と思った俺は直ぐにそれに応える。
「はい、あの時頂いた報奨金のおかげで、悠々自適に快適な生活を送れています。ありがとうございます」
「フン、それは良かったのう腰巾着殿」
何とか王様との会話に集中し、存在を忘れようとしていた騎士団長が皮肉……否、直接的な悪口を放つ。元々強い英雄願望があった彼からすれば、実力があり更に魔王討伐後も王国に貢献していた我が幼馴染である白鳥 美咲はともかくとして、ギリギリのギリで足でまといでは無かった程度の俺が彼女と共に魔王討伐を行っただけで英雄となり、俺よりも強い自分が英雄になれなかった事を10年経っても根に持っているようだ。とはいえ、魔王が倒れるまではその配下が何度も王国を襲っており、その襲撃から民草と王家を守ったという点で、世間的には彼の方が身近な英雄だったとされていたりするのだが、本人は気づいていないのが残念である。
「団長、腐っても英雄様だぞ。口を慎み給え……事実であってもね」
メガネ巨乳の妙齢の美女……オマケにダークエルフとのハーフという属性過多な大臣がフォローになってないフォローで団長を諌めた。彼女もまた、俺を嫌っているのだが……何故だろうか。団長と違って全く分からないのだ。美咲とはベッタリ、と言ってもいい程仲良くしているのにも関わらず、初対面の時から俺に当たりが強い。
「大臣、口を慎むのは君もだ。これからするのは私から、つまりは我が国からの正式なお願いだ。今からお願いをする相手にその態度を続けるなら、団長共々追い出すぞ」
「……申し訳ございません、王よ。お許しください」
「うむ、謝る相手は私なのかと問いただしたいが、この二人のクロキ嫌いは根が深いと見える。クロキ、そなたには悪いがこのまま本題に入るぞ」
「ええまあ、この扱いは今に始まった事でもないので大丈夫ですよ」
「そうか、うむ。なら本題に入るが、魔王が復活したという噂が流れているのは知っておるな?その様な予兆は見られなかったゆえ、ただの噂に過ぎぬと考えておったのだが、噂が広まりすぎて多くの民が不安に思っておったのだ。そこで、シラトリに頼んで調査隊を組み、旧魔国領へと派遣したのだよ」
最近会ってない幼馴染は、知らない噂を元に知らない仕事をこなしているらしい。大変そうだなぁ、王国に残らなくて良かった。
「だが、その調査隊からの定時連絡が途絶え、行方不明になってしまったのだ」
更には知らぬ間に事件が起きていた。進みすぎだろ、事態。もっと辺境のド田舎と時間軸を合わせようぜ、スローライフ時間軸なら、まだ噂すら流れてない段階だぞ。
「……聞いておるのか、クロキ?」
おっと、現実逃避が過ぎた様だ。まず、普通に行方不明は心配だが、あの幼馴染が殺しても死なない様な奴だという事を俺は知っている。故に、心配し過ぎる必要は無い様に感じている。よって、現在の一番心配するべき点は……
「はい、聞いています。すいません、少し心配で……それで、私を呼んだのは調査隊の捜索隊を組ませる為ですか?それとも代わりに噂を調べる為でしょうか?」
俺に仕事が振られる事だ。全盛期には魔王退治にギリギリ貢献出来る実力があったので、そこらの兵士や傭兵よりはまだ強い自信があるが、それでも10年隠居していたのだ。もし本当に魔王の復活や、そう認識される程の新たな強い魔物の出現があった場合、そいつをトップにして魔族が再び人類と一戦交える準備を進めていてもおかしくはない。最悪の場合、旧魔国領に入った途端に滅茶苦茶襲われて死ぬだろう。しかし、そこは流石一国の主である。俺の劣化は既に考慮に入れていた様で、残念そうな顔をしながらも、俺の言葉を否定しつつ命令を下した。
「流石にそこまで頼もうとは思っていない。頼みたいのは『指南』だよ。どうやら、彼らは君たちと同じく魔法や魔族が存在しない世界から来たようなのだ。故に、魔国領までの道のりには案内や『対魔族の戦闘訓練』も含めて同行し、その先で死なぬ様に鍛えてやって欲しい」
「……それって、つまり」
「うむ、どうやら魔王の復活は本当だった様だ。つい先日、新たに英雄候補……『異世界からの来訪者』が現れたのだ」
……俺が異世界にて、今日まで何とかやってこれたのは、元の世界で読んでいたラノベのおかげである部分も多くある。今回もラノベ知識的に、優秀な人材を鍛えて先生と呼ばれたり……という流れを少しは想像した。だがしかし、まさかその優秀な人材枠が後輩転生者だとは思ってもみなかった。今まで読んだラノベにも無かった。……にしても本当に事態が進みすぎている。今からでも俺に合わせた時間軸にしてもらえないだろうか。そう、とりあえず皆でキュウリに思いを馳せようぜ。
「久しいな、クロキよ。息災であったか?」
遂に現状が動く糸口が見えた、と思った俺は直ぐにそれに応える。
「はい、あの時頂いた報奨金のおかげで、悠々自適に快適な生活を送れています。ありがとうございます」
「フン、それは良かったのう腰巾着殿」
何とか王様との会話に集中し、存在を忘れようとしていた騎士団長が皮肉……否、直接的な悪口を放つ。元々強い英雄願望があった彼からすれば、実力があり更に魔王討伐後も王国に貢献していた我が幼馴染である白鳥 美咲はともかくとして、ギリギリのギリで足でまといでは無かった程度の俺が彼女と共に魔王討伐を行っただけで英雄となり、俺よりも強い自分が英雄になれなかった事を10年経っても根に持っているようだ。とはいえ、魔王が倒れるまではその配下が何度も王国を襲っており、その襲撃から民草と王家を守ったという点で、世間的には彼の方が身近な英雄だったとされていたりするのだが、本人は気づいていないのが残念である。
「団長、腐っても英雄様だぞ。口を慎み給え……事実であってもね」
メガネ巨乳の妙齢の美女……オマケにダークエルフとのハーフという属性過多な大臣がフォローになってないフォローで団長を諌めた。彼女もまた、俺を嫌っているのだが……何故だろうか。団長と違って全く分からないのだ。美咲とはベッタリ、と言ってもいい程仲良くしているのにも関わらず、初対面の時から俺に当たりが強い。
「大臣、口を慎むのは君もだ。これからするのは私から、つまりは我が国からの正式なお願いだ。今からお願いをする相手にその態度を続けるなら、団長共々追い出すぞ」
「……申し訳ございません、王よ。お許しください」
「うむ、謝る相手は私なのかと問いただしたいが、この二人のクロキ嫌いは根が深いと見える。クロキ、そなたには悪いがこのまま本題に入るぞ」
「ええまあ、この扱いは今に始まった事でもないので大丈夫ですよ」
「そうか、うむ。なら本題に入るが、魔王が復活したという噂が流れているのは知っておるな?その様な予兆は見られなかったゆえ、ただの噂に過ぎぬと考えておったのだが、噂が広まりすぎて多くの民が不安に思っておったのだ。そこで、シラトリに頼んで調査隊を組み、旧魔国領へと派遣したのだよ」
最近会ってない幼馴染は、知らない噂を元に知らない仕事をこなしているらしい。大変そうだなぁ、王国に残らなくて良かった。
「だが、その調査隊からの定時連絡が途絶え、行方不明になってしまったのだ」
更には知らぬ間に事件が起きていた。進みすぎだろ、事態。もっと辺境のド田舎と時間軸を合わせようぜ、スローライフ時間軸なら、まだ噂すら流れてない段階だぞ。
「……聞いておるのか、クロキ?」
おっと、現実逃避が過ぎた様だ。まず、普通に行方不明は心配だが、あの幼馴染が殺しても死なない様な奴だという事を俺は知っている。故に、心配し過ぎる必要は無い様に感じている。よって、現在の一番心配するべき点は……
「はい、聞いています。すいません、少し心配で……それで、私を呼んだのは調査隊の捜索隊を組ませる為ですか?それとも代わりに噂を調べる為でしょうか?」
俺に仕事が振られる事だ。全盛期には魔王退治にギリギリ貢献出来る実力があったので、そこらの兵士や傭兵よりはまだ強い自信があるが、それでも10年隠居していたのだ。もし本当に魔王の復活や、そう認識される程の新たな強い魔物の出現があった場合、そいつをトップにして魔族が再び人類と一戦交える準備を進めていてもおかしくはない。最悪の場合、旧魔国領に入った途端に滅茶苦茶襲われて死ぬだろう。しかし、そこは流石一国の主である。俺の劣化は既に考慮に入れていた様で、残念そうな顔をしながらも、俺の言葉を否定しつつ命令を下した。
「流石にそこまで頼もうとは思っていない。頼みたいのは『指南』だよ。どうやら、彼らは君たちと同じく魔法や魔族が存在しない世界から来たようなのだ。故に、魔国領までの道のりには案内や『対魔族の戦闘訓練』も含めて同行し、その先で死なぬ様に鍛えてやって欲しい」
「……それって、つまり」
「うむ、どうやら魔王の復活は本当だった様だ。つい先日、新たに英雄候補……『異世界からの来訪者』が現れたのだ」
……俺が異世界にて、今日まで何とかやってこれたのは、元の世界で読んでいたラノベのおかげである部分も多くある。今回もラノベ知識的に、優秀な人材を鍛えて先生と呼ばれたり……という流れを少しは想像した。だがしかし、まさかその優秀な人材枠が後輩転生者だとは思ってもみなかった。今まで読んだラノベにも無かった。……にしても本当に事態が進みすぎている。今からでも俺に合わせた時間軸にしてもらえないだろうか。そう、とりあえず皆でキュウリに思いを馳せようぜ。
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