人喰い遊園地

井藤 美樹

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第一章 闇からの誘い

悪友

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 三十分程、巽が運転する愛車に乗り案内されたのは、普通のどこにでもある五階建ての、とても古そうなマンションだった。当然エレベーターも付いていない。

 階段を上っている今も、車内でも、どこに向かっているのか、巽は一切教えてくれなかった。

 巽のことは信用しているが、それでもこんな状況だ、不審感はどうしても募ってしまう。

 だからといって、ここから逃げ出すわけにはいかない。一人になるのが怖かったのもある。だがそれ以上に、今この場から逃げ出したらいけない。何故かそう思った。直感的に。

 勇也は今まで自分の直観を信じて動いてきた。だから不審に思いながらも、勇也は巽の後ろを黙ってついて行くことにした。

 どうやら、行き先は五階のようだ。マジ登ったよ。文句も言わずに。寝不足の体にはキツイよな。

「着いたぞ」

(ここに何があるんだ?)

 巽がドアをノックするより早くドアが開いた。

「ようこそ、おいで下さいました。巽様、勇也様」

 出て来たのは、日本人形のような可愛らしい容姿をした中学生ぐらいの少女だった。ドアの脇に立ち、頭を軽く下げてから巽と勇也を出迎える。

(何で、俺の名前知ってるんだ? 巽さんが話したのか。いや、電話の時話してなかった筈)

 商売柄か、つい癖で探るような目を少女に向けてしまう。

 少女は巽から渡された上着をハンガーに掛けると、自分の上着も掛けようと手を伸ばした。

 その時だ。

 少女と目が合った。

 硝子のように澄んだ目だ。吸い込まれそうになる。途端に、目に見えない力にがんじがらめにされたかのように、体が強ばった。勇也は少女から視線が外せない。焦る勇也。

 そんな勇也に、少女はにっこりと微笑む。途端に強張りが消えた。

「ほんとうに勘がいいですね、勇也様は。怖がる必要はありませんよ。にもにも。あれは、ここには入って来れませんから、ご安心下さい」

(あれ……?)

 常に付き纏っていた気配が、急に綺麗に消えた。

 少女は微笑みながら意味深なセリフを口にすると、呆然とする勇也の手から勝手に上着を取るとハンガーに掛けた。

 時間にしては数分。だが、やけに長く感じる。

 まだ少し呆然としていると、強い視線を感じた。見ていたのは巽だ。険しい表情で勇也と少女を凝視していた。

「……巽さん?」

 険しいのは警戒を含んでるからなのか。今まで向けられたことのないその表情に、勇也は強く不安を感じた。

 勇也と目が合うと、巽はぷいっと視線を逸らせた。巽らしくない態度だった。

(何だ?)

 戸惑う勇也。そんな勇也の様子に気付きながらも触れることなく、少女はにっこりと微笑んだ。

「さぁ、あるじがお待ちです。どうぞ」

 少女は半ば強引に巽と勇也を案内する。

 通されたのは書斎だろうか、一人掛けのソファーに、巽と同じぐらいの年の青年が座り優雅に本を読んでいた。彼が少女が言う主だろう。

 青年は巽と勇也が来たのに気付くと、本を閉じ、四人掛けのソファーに移動した。

 巽は勝手に座っている。慣れた様子に、巽と青年が親しい間柄なのだと勇也は思った。一人だけ立っているのも目立つので、勇也は巽の隣に腰を下ろす。

「災難だったね、勇也君。巽に変な案件を任されて」

 開口一番、青年は勇也の顔を見ながらそう告げた。

 この人も迷うことなく、自然と自分の名前を口にした。何故自分の名前を知っているのか訊きたかったが、訊くタイミングを完全に外してしまった。隣にいる巽のせいだ。

「あーーやっぱり、この案件はだったか~~?」

 苦虫を潰したような顔をしながら、巽は頭を抱えて唸っている。

「間違いないね。それも、かなり危ない案件になるかな。途中で手を退いても駄目だろうね。危ないな。特に勇也君が……」 

 男とはいえ、美形に真っ直ぐ見詰められて、勇也は少し顔を赤らめる。

(美形って、ほんと武器になるよな)

 現実逃避か、場違いなことを考えていたが、 最後に自分の名前が出た瞬間、強引に現実に引き戻された。

(……途中で手を退けないって、嘘だろ)

 新米の自分でも危ない案件だと把握している。だからこそ、巽にこの案件から手を退くよう進言した。巽が納得いくように、ある程度の証拠も用意した。

 案件を取り下げれば大丈夫だと、勇也は考えていた。関わらなければいい。そう思い込んでいた。

 なのに、青年は自分が危ないって断言する。退いても駄目だと無情にも告げた。そう断言されても……正直納得いかなくて、勇也は素直に受け入れるがことは到底出来なかった。

 しかし、目の前の青年はやけに自信気だ。

 そして書斎に案内した少女は、数分前、ドアの前で勇也に向かってこう告げていた。

は、ここには入って来れない」と。

っていったい……?)

 青年と少女は同じものを見ているのか。

 その考えが頭を過った瞬間、底知れぬ不安と恐怖が勇也を襲った。鳥肌が全身にざぁーと広がる。

(もしかしたら、ずっと自分が感じていた視線の正体がなのか……?)

 おそらく、目の前にいる青年はその答えを知っている。少女も。

 しかし、勇也にそれを確かめる勇気は、とてもじゃないがなかった。それよりも気になることがある。

「…………あの……巽さん。ここは一体いったいどこ何ですか? それに彼らは?」

 まずそこからだろう。勇也は戸惑いながらも尋ねる。いつもの陽気な表情は消え、その声も低くて固い。

「ああ。こいつは、俺の悪友で、柳井やないりょうだ。そして入口で会ったあの子は、こいつの仕事の助手をしているはなだ。たまに、仕事を手伝ってもらってる。のをな」

(あれやそっちって……さっきから、何を言ってるんだよ? 巽さん)

 自分にも分かるように説明して欲しいと、心から思う。だがその片隅で、聞きたくないと思う自分もいた。

 相反する気持ちを抱き、複雑な表情を見せる勇也を、柳井はじっと見詰め観察していた。


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