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第一章 闇からの誘い
人喰い遊園地
しおりを挟む「【人喰い遊園地】って、マスコミが面白おかしく付けた名前だったよな」
巽の台詞に、柳井は苦笑しながら軽く首を横に振る。
「僕はそう思わないけどね。……それに、僕たちの間で、桜ドリームパークのことを、専ら【人喰い遊園地】と呼んでるよ。マスコミが言い出す前から」
マスコミが揶揄してのは分かる。
分かるが、化け物相手の専門家が遊園地のことを、以前からそう呼んでいたことを知って、さすがの巽も勇也も顔が引きつる。背中のゾクゾクが止まらない。さっきから鳥肌が立ちっぱなしだ。
柳井の言葉に気を取られてて、気付くのが遅かった。今までおかしそうに笑っていた目とは全く違っていることに。
口元は笑みを浮かべたままなのに、目だけが刃物のように鋭く、嘘偽りを見逃さないような厳しさがあった。といって、ギラギラしたものじゃなく、まるで、深海の底にいるような静かな目だ。どこまでも澄んでいる。でも、どこまでも冷酷な不思議な目だった。
勇也はそんな目をした人を、今まで一度も会ったことがなかった。一般の人よりも、目を見て話す機会が多い仕事を生業にしているのにだ。
正直いうと興味を持った。純粋な興味だった。目の前の青年のことが無性に知りたくなった。
だが同時に、本能が警報を鳴らす。この青年は危険だと。
俺はどういう反応をしていいのか、自分のことなのに混乱した。初めてでなんだか新鮮だった。
そんな勇也の葛藤を、柳井は手に取るように理解出来た。
一般人である彼らが言う化け物、あやかしを相手にしている柳井にとって、人の感情を読み取るのはそう難しいことではなかったからだ。
自分で言うのもなんだが、この容姿は男女問わず人を惹き付ける。
しかし勇也は、自分の容姿に惹かれたのではない。内面とまでは言わないが、涼の中にある何かに興味を持ったようだ。巽もそうだった。自然とそう出来る人間はとても少ない。
二人目だ……
涼自身を見ようとしてくれたのは。二人目が親友の後輩で良かったと、柳井は心から思う。さすが、巽が信頼する人物だ。
ましてや、彼らには柔軟性がある。特に心が。精神といった方がいいかもしれない。
ここを訪れるまでに、彼は言い様のない恐怖を味わっただろう。
実際、勇也は見張られていた。いや、現在進行形で強く執着されている。
あれらにーー。
それはおそらく、小さい頃からだろう。そして彼自身、見ることは出来なくても、あれらの存在を敏感に感じ取っている。
そんな状況下に身を置きながら、恐怖に支配されず、自我を失わない人間。
こんな場所にいきなり連れて来られても、混乱せず、恐怖を感じても別のことを考えられる、常に心に余裕がある人間。
そして、あれらの気配を感じとる能力がある人間。
そんな人間は、あれらを異常に惹き付け引き寄せ、迷惑なことに愛される。猫のマタタビのように。溺愛、いや狂愛といった方がいいかもしれない。よく今まで無事でいたもんだ。心底、柳井は思う。
勇也が無事だった要因は、おそらく、彼自身の防衛反応が正常に働いていたからだろう。暗闇が苦手のようだし。
それに、あれらが互いに牽制し合っていたことも、良い方に作用したようだ。
ほんと、運が良かった。
しかし、あくまでそれは今までの話だ。今は、そんな悠長なことを言ってる時間は全くない。
なんせ、巽と勇也が関わってしまった案件は、非常に危険なものだったからだ。柳井自身、絶対に関わりたくない程にーー。
今まさに、その均衡が崩れようとしていた。
「【人喰い遊園地】の噂は、勿論把握してるよね」
柳井は早速本題に入る。把握していなければ、話が進まない。
「ああ。勇也が細かく調べてくれたからな。確か……五つ程噂があった筈だ。確かーー」
巽は報告書に貼付されていたのを思い出しながら話す。主にネットに書かれていた内容を纏めたものだ。
「そう。全部で五つ。一つ目は、【人喰い遊園地】は満月の夜に開園するって噂。二つ目が、開園時間は日の出が始まるまでの間。三つ目が、開園はピエロの挨拶から始まるって噂。そして四つ目が、来園した中で必ず行方不明者が数名出るっていう噂。最後が、特別なチケットがあれば、特別なショーに参加出来るっていう噂だったね」
途中で、柳井が巽の台詞を取る。
「……その通りだ。よく知ってるな。で、ズバリ訊くが、その噂は本当なのか?」
スラスラ出てくる台詞に勇也と巽は驚く。
実は、勇也も巽もその噂の真意が気になっていた。
事実なのか、どうなのかが。
ここまで来て、それを訊くのもどうかと思うが。少なくとも、四つ目と五つ目は裏がとれている。
それに……五つ目の噂が、記憶を失うことに繫がってると考えられる。
「さぁ、それはどうだろう。行ったことがないからね」
柳井は肯定しなかった。
「……だったら、柳井さん、行方不明者の人がどうなったか分かりますか?」
勇也は質問の方向性を変えてみた。柳井の目を真っ直ぐに見詰め、躊躇うことなく核心に迫る。
「さっき、僕は言ったよね。桜ドリームパークは【人喰い遊園地】だって」
一瞬、その台詞に、勇也は目の前が真っ暗になった。音が一瞬消えた。
ーー【人喰い遊園地】。
確かに、柳井は最初からそう言っていた。
つまり裏を返せば、行方不明者は全員死んでいると、目の前の青年は間接的に、だがきっぱりと断言したのだ。行ったことのない遊園地に関して。
勇也も巽も、行方不明者の生存率は正直いって低いと考えてはいた。でもここまで、はっきりとは断言出来なかった。
断言出来るってことは、勇也と巽が知らない情報を持っていることを意味している。だとしたら、自分に出来るのはたった一つだけだ。
「知ってることを教えてもらえませんか?」
そう、柳井に頼むだけだ。
そう口にしながらも、正直この時、勇也はこの場から逃げ出したかった。
何も聞かないで、全てを忘れたかった。
しかし、本能が逆らう。
知るべきだと訴える。
勇也は決めた。本能に従うことを。こういう場合は、本能に従う方が上手くいく。今までの経験上、それは明らかだった。それに、後々後悔したくないしな。
「これ以上知ると、引き返せなくなるよ。それでもいいのかい?」
今度は柳井が、勇也の目を真っ直ぐに見詰める。何かを確かめているようだった。
そして巽は、黙って勇也と柳井のやり取りを静かに見詰めていた。
「構いません。本音を言えば、逃げ出したい程怖いけど、俺は知るべきだと思います」
腹を決めた。勇也は目を逸らさずに、正直に答える。柳井に嘘や見栄は一切通用しないだろう。
「…………そうだね。確かに、君は知るべきだね」
少しの間の後、柳井は小さい声で承諾してくれた。
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