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第二章 開園
ウサギのレン太とピエロ
しおりを挟むこのまま何もなければ幸いだが、そうは問屋が卸さなかった。
『……私どもは、貴方たち人間と然程大差はありません。家族がいて、休日には遊園地に皆で遊びに来る。ただ人と違うのは、容姿と寿命。そして、主食だけです』
突然背後から声を掛けられた勇也たちは驚いた。今更遅いが、勇也と巽は反射的に間合いをとった。柳井と華も同じだ。勇也たちの間に緊張が走る。
記憶にない声。
さらりと恐ろしい台詞を放ったのはピエロの方か。
いつの間にか、ピエロとウサギのレン太が背後に立っていた。
声を掛けられるまで、全く気配を感じなかった。
勇也たちは気付く。
もし、ウサギのレン太とピエロが物理的に何か仕掛けてきたら、勇也たちでは到底防ぎ切れないと。その気になれば、意図も簡単に勇也を連れ去ることも出来る。彼らにとって朝飯前だろう。誰の目から見ても力の差は歴然だった。
ましてや、ここは彼らのホームグランド。緊張しない方が無理な話だ。
(堅苦しい喋り方だな。ピエロだろ)
聞き覚えのない声。だから、話し掛けたのはウサギのレン太じゃなくピエロの方だ。こちらも若い声だった。
しかし、桜ドリームパークのキャストである以上、当然ピエロもウサギのレン太も人間じゃない。
あやかしだ。
人ならず者だ。
声がいくら若くても、実際の年齢には関係ない。
あからさまに不躾な視線を向けているのに、何故かピエロとウサギのレン太は、不愉快に感じることなく、反対に嬉しそうに、真っ直ぐ勇也を見詰めている。
彼らの視線の先にいるのは勇也だけ。勇也以外目に入っていない。
あまりにもあからさまな態度に、正直勇也は困惑し戸惑う。
当然言葉にしなくても、あやかしたちの、勇也に対する執着を全員感じ取っていた。
当の勇也は警戒心が入り混じった難しい表情をしながら、ピエロとレン太の視線を受け止めるしかない。
そんな勇也に向かって、ピエロとウサギのレン太は頭を下げる。その後、
『そんなに、私の話し方は堅苦しいですか? 以後、気を付けます』とピエロが謝ってきた。
(えっ!? 俺、口に出してた?)
勇也は思わず心の中で突っ込んでしまう。
突然の謝罪に全員対処に困る。何とも言えない空気が、あやかしと勇也たちの間に流れた。そんな空気を一変したのは、やはりウサギのレン太だった。
『少し、失礼します。勇也様』
ウサギのレン太がピエロの腕を引っ張り少し離れる。
『何をする!?』
怒るピエロ。
『その話し方が既に堅いんだって。分かんないかな~~。話し方とキャラが全然合ってないんだよ。あれほど練習するように言った筈だよね。警戒させてどうすんの。怒られるよ。半殺しにされるよ』
淡々と砕けた口調で説教するウサギのレン太。
(あの~~聞こえてますけど)
さすがに、この展開は予想出来てなかった。柳井と華も少し呆れ気味だ。当然、勇也と巽も呆気にとられて傍観するしかない。勿論警戒は怠らないけど。
「あの~~柳井さん。あやかしって、基本マイペースなんですか?」
小さな声でボソッと訊いてみる。
「そうだね。基本、一番大事なのは自分だから」
『それは、人間の貴方がたも同じでは?』
しっかり聞こえていたようだ。厚化粧してても、不愉快に感じてるのは伝わるもんだ。喧嘩とまではいかないが、今度は険悪な雰囲気が漂い始めた。
(やばい)
焦りだす勇也。
そんな険悪な雰囲気を吹き飛ばしたのは、またしてもウサギのレン太だった。救世主は意外にも近くにいたようだ。
遊園地のキャストでありながら、ゲストの前で躊躇うことなくピエロを蹴り飛ばす。それもどうかと思うが。
(助かったけどさ……結構痛そう……)
今度は唖然と立ち尽くす勇也たち。そんな勇也たちの前で、
『お待ちしておりました!! 神崎勇也様とその御一行の方たちですね。桜ドリームパークにようこそ!! 今日は特別なお祭りだよ!! 一緒に楽しもうね!!』
(あっ、なかったことにした)
何もなかったかのように、ウサギのレン太が陽気に挨拶してきた。可愛いポーズをとるウサギのレン太。ピエロは放置だ。
今更、可愛いポーズをとっても……。呆気にとられる勇也と巽。思わず勇也の口元に笑みが浮かぶ。途端、華に脇腹を小突かれた。あっ、ごめん。
そんな二人を横目で見ながら、柳井が代わりに尋ねる。警戒心を露にした声で。始めから隠すつもりはないらしい。
「どうして、ここに?」
『勇也様は特別なゲストです。心からお楽しみ頂けるよう、特別なプログラムをご用意させて頂きました。案内は、私、道化とレン太が承ります』
復活したピエロ、道化が答える。
『宜しくね!! 勇也様』
決めポーズをするウサギのレン太。
(……特別なプログラム? お祭りと関係あるのか? そう言えば、あの時もそんなこと言ってたよな)
あやかしが用意した、特別プログラム。
勇也たち全員が、その言葉に眉をひそめ警戒する。当たり前だ。そんな勇也たちをよそに、
『『それでは、改めて。桜ドリームパークプレミアムツアーへようこそ!!!!』』
道化とウサギのレン太は声を揃えて、歓迎のポーズを決めながら言った。
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