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第三章 超ハードモードの人生に終止符を
貴方は許しはしない
しおりを挟むそこは、前に来た夢の世界にどことなく似ていた。
「ーーかなり、無茶をしたな。大丈夫か? マリエール」
殿下ではない男性の声が、苦笑混じりに声をかけてくる。
「…………乙女の寝顔を見るのはマナー違反ですよ、ゼリアス様」
悪態を吐きながら、なんとか上半身を起こそうとしたけど無理。目が回って、そのまま元の位置に戻る。肉体がなくても貧血って起こすのね。初めて知ったわ……
「無理をするな。あれだけの呪いを身に受けたのだ、浄化したとはいえ、ダメージがかなり残っているはずだ。魂でも」
無表情だが、その声は私を心配している気持ちが伝わってくる。私が今、魂の状態だから特にかもしれない。
「……上手くいきましたか?」
それが気掛かりだった。
大丈夫。魔法陣が消えるまで、確かに私はソフィアを掴んでいた。成功したと確信していても、はっきりとゼリアス様の口から聞かないと安心できなかった。
「ああ。マリエールのおかげで、あやつを無事確保することができた。心から礼を言う。カインとマリエールが望んだ通り、その寿命が尽きるまで、身を引き裂くほどの激痛を味わい続けながら生きていくだろう。光が届かない暗闇の中で」
本来、神に寿命なんて存在しない。信仰心がなくなり、消えていく神もいるけど、糞女神はその心配はしなくていいわ。愛が消えない限り生き続けるから。
「……ありがとうございます」
それしか、言葉が出てこなかった。胸に、熱いものが込み上げてくる。泣きそう。
「いや、礼はいい。こちらこそ、すまない。我ら神が犯した罪の尻拭いを、被害者にさせてしまった」
神の中で一番偉い創世神なのに、真摯に謝罪するゼリアス様の姿を見て、私は思う。
この神様なら世界は安心よね、と。
「謝らないでくださいませ、ゼリアス様。これは私が自分で選んで決めたことです。確実に、糞女神を仕留めることが目的でしたから。覚悟はしていました。……それで、私の体は?」
「大聖女の元にある」
大聖女の元に? 何故?
「とっくに、埋葬されたと思っていましたわ」
「死んでいないのに、埋葬されるわけなかろう」
えっ!? 死んでいない!?
「どういうことですか!?」
「大聖女に神託を下していたのだ。必ず助けよと」
「大聖女様が……? だからといって、あれほどの呪いを受けたら、大聖女でも、さすがに……」
死ぬでしょう。いくら、大聖女様が【蘇生魔法】を習得していても、幾重にも呪いを受けた私には【神聖魔法】は効かないはず。なのに何故?
「まぁ、普通なら、即死だろう。原型を留めずに、肉体は溶けてなくなっていた。忘れたか? マリエールは我の加護を受けているのだぞ。それが、呪いを中和したのだ。とはいえ、完全に復活するまでには、かなりの時間を有するだろう」
一年、二年、ううん、もっとかかるかもしれない輪ね。ここで、ぼーとしているのもいいんだけど、動けるなら動きたい。今は少し無理だけど。
「かなりの時間をですか……? では、その間、私は何をすれば宜しいのでしょうか? ……どうしましたか? ゼリアス様」
ゼリアス様は私の顔から視線を外さない。
「カインのことは訊かなくていいのか?」
その声音は苦痛と悲しみに溢れていた。
訊かれると思っていたわ。普通、一番に訊くよね。婚約者だし恋人だもの。でも私は訊かない。訊けないって言った方が近いかな。
でもね、訊いたところで、今の私には何もできないし。我ながら、冷めてるっていうか、冷たいよね。そんなの、自分が一番わかってる。そもそも、どんな顔で会えっていうのよ。
大切な恋人を騙して、一人、計画を実行した私をーー
殿下の目の前で消えてしまった私を、殿下は許しはしない。生きて欲しくて、私は殿下に新たな枷を着けてしまった。
「…………訊かなくても想像できますからね。……さぞかし、教会に迷惑をかけてるのではありませんか?」
反対にそう尋ねると、ゼリアス様は苦笑する。
「ずっと、教会に詰めている。王太子の仕事も、マリエールの側でしているな。あれから、誰とも言葉を交わしていない」
私が眠っている間も、殿下を見守ってくれていたようです。
やっばりね……私が生きていようが死んでいようが、そこに私の体があればそうなるよね。
「……そうですか……本当に、馬鹿ですね」
「馬鹿で悪かったな!!」
私の声に反応したのは、ゼリアス様ではなかった。
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