今度こそ絶対逃げ切ってやる〜今世は婚約破棄されなくても逃げますけどね〜

井藤 美樹

文字の大きさ
234 / 354
第三章 超ハードモードの人生に終止符を

貴方は許しはしない

しおりを挟む


 そこは、前に来た夢の世界にどことなく似ていた。

「ーーかなり、無茶をしたな。大丈夫か? マリエール」

 殿下ではない男性の声が、苦笑混じりに声をかけてくる。

「…………乙女の寝顔を見るのはマナー違反ですよ、ゼリアス様」

 悪態を吐きながら、なんとか上半身を起こそうとしたけど無理。目が回って、そのまま元の位置に戻る。肉体がなくても貧血って起こすのね。初めて知ったわ……

「無理をするな。あれだけの呪いを身に受けたのだ、浄化したとはいえ、ダメージがかなり残っているはずだ。魂でも」
 
 無表情だが、その声は私を心配している気持ちが伝わってくる。私が今、魂の状態だから特にかもしれない。

「……上手くいきましたか?」

 それが気掛かりだった。

 大丈夫。魔法陣が消えるまで、確かに私はソフィアを掴んでいた。成功したと確信していても、はっきりとゼリアス様の口から聞かないと安心できなかった。

「ああ。マリエールのおかげで、あやつを無事確保することができた。心から礼を言う。カインとマリエールが望んだ通り、その寿命が尽きるまで、身を引き裂くほどの激痛を味わい続けながら生きていくだろう。光が届かない暗闇の中で」

 本来、神に寿命なんて存在しない。信仰心がなくなり、消えていく神もいるけど、糞女神はその心配はしなくていいわ。愛が消えない限り生き続けるから。

「……ありがとうございます」

 それしか、言葉が出てこなかった。胸に、熱いものが込み上げてくる。泣きそう。

「いや、礼はいい。こちらこそ、すまない。我ら神が犯した罪の尻拭いを、被害者にさせてしまった」

 神の中で一番偉い創世神なのに、真摯に謝罪するゼリアス様の姿を見て、私は思う。

 この神様なら世界は安心よね、と。

「謝らないでくださいませ、ゼリアス様。これは私が自分で選んで決めたことです。確実に、糞女神を仕留めることが目的でしたから。覚悟はしていました。……それで、私の体は?」

「大聖女の元にある」

 大聖女の元に? 何故? 

「とっくに、埋葬されたと思っていましたわ」

「死んでいないのに、埋葬されるわけなかろう」

 えっ!? 死んでいない!?

「どういうことですか!?」

「大聖女に神託を下していたのだ。必ず助けよと」

「大聖女様が……? だからといって、あれほどの呪いを受けたら、大聖女でも、さすがに……」

 死ぬでしょう。いくら、大聖女様が【蘇生魔法】を習得していても、幾重にも呪いを受けた私には【神聖魔法】は効かないはず。なのに何故?

「まぁ、普通なら、即死だろう。原型を留めずに、肉体は溶けてなくなっていた。忘れたか? マリエールは我の加護を受けているのだぞ。それが、呪いを中和したのだ。とはいえ、完全に復活するまでには、かなりの時間を有するだろう」

 一年、二年、ううん、もっとかかるかもしれない輪ね。ここで、ぼーとしているのもいいんだけど、動けるなら動きたい。今は少し無理だけど。
 
「かなりの時間をですか……? では、その間、私は何をすれば宜しいのでしょうか? ……どうしましたか? ゼリアス様」

 ゼリアス様は私の顔から視線を外さない。

「カインのことは訊かなくていいのか?」

 その声音は苦痛と悲しみに溢れていた。

 訊かれると思っていたわ。普通、一番に訊くよね。婚約者だし恋人だもの。でも私は訊かない。訊けないって言った方が近いかな。

 でもね、訊いたところで、今の私には何もできないし。我ながら、冷めてるっていうか、冷たいよね。そんなの、自分が一番わかってる。そもそも、どんな顔で会えっていうのよ。

 大切な恋人を騙して、一人、計画を実行した私をーー

 殿下の目の前で消えてしまった私を、殿下は許しはしない。生きて欲しくて、私は殿下に新たな枷を着けてしまった。

「…………訊かなくても想像できますからね。……さぞかし、教会に迷惑をかけてるのではありませんか?」

 反対にそう尋ねると、ゼリアス様は苦笑する。

「ずっと、教会に詰めている。王太子の仕事も、マリエールの側でしているな。あれから、誰とも言葉を交わしていない」

 私が眠っている間も、殿下を見守ってくれていたようです。

 やっばりね……私が生きていようが死んでいようが、そこに私の体があればそうなるよね。

「……そうですか……本当に、馬鹿ですね」

「馬鹿で悪かったな!!」

 私の声に反応したのは、ゼリアス様ではなかった。

 
しおりを挟む
感想 326

あなたにおすすめの小説

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

酒の席での戯言ですのよ。

ぽんぽこ狸
恋愛
 成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。  何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。  そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星井ゆの花
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2025年10月25日、外編全17話投稿済み。第二部準備中です。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。 2020/9/19 第一章終了 続きが書け次第また連載再開します。 2021/2/14 第二章開幕 2021/2/28 完結

母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語 母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・? ※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています

悪役令嬢に仕立て上げられたので領地に引きこもります(長編版)

下菊みこと
恋愛
ギフトを駆使して領地経営! 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...