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成り立てほやほや王女殿下の初外交
05 許しませんわ
「子狼さん、私たちが近付くのを、お馬鹿さんたちに気付かれたくはありません。気配を消してくださる。ついでに、映像と音声の保存もお願い」
そう頼んだ途端、私たちの周りを空気の膜が覆った。認識阻害魔法ね。これ結構役に立つのよ。他者からは私たちの姿は見えているけど、脳がそれを認識していないってわけ。
映像を残すのは、万が一のためよ。下手な言い訳をされるのは嫌だからね。
「ありがとう、子狼さん」
私は屈むと、子狼さんの頭をよしよしと撫でて上げる。
やっと表に出て来てくれたのに、他の侍女や近衛騎士に邪魔されたくないじゃない。それに、その醜く歪んだ面を近くで拝みたいしね。当然、私が現れた時の驚愕の顔を見たいじゃない。もちろん、その後の……
「ミネリア王女殿下、顔が完全に悪役になってます」
ボソッと耳元でジュリアが注意する。
あっ、また地が。淑女の顔、淑女の顔。慌てて猫を何重にも被った。
それにしても、さすが、イシリス様の分霊体の子狼さんね。全く気付かれずに、警護中の近衛騎士の脇を通り抜けて行く。忙しなく動く侍女の姿も見掛ける。
この先の庭園ね……
私たちは庭園に足を踏み入れる。同時に、子狼さんは認識阻害魔法を解いた。
参加者たちは私の存在に気付いてはいない。気付いたのは後ろに控えていた近衛騎士と侍女だけ、慌てて止めようとするが、すでに時遅し。
「不味いわ!!」
甲高い女の金切り声が響いた。
主賓席に座る女が、侍女に器に入った紅茶を熱いままぶっ掛けていた。侍女は痛さに顔を歪めている。
「リアス!!」
ジュリアが慌てて駆け寄った。そして、その体を支え、私の元に連れて来る。
「…………ミネリア王女殿下」
弱々しい声で、リアスは私の名を呼んだ。私は小さく頷く。
「よく我慢しましたね、リアス。ジュリア、これでリアスの治療を」
小瓶をジュリアに渡し、後ろに下がらせた。
さぁ……喧嘩を買いに、わざわざ来てあげたわよ。
「ずいぶんと、私の侍女が世話になったみたいで、これが、エンドキサン王国のやり方ですの?」
かなり低い声で私は尋ねた。その声音に、周囲は凍り付く。
突然の私の登場に、お茶会に参加していた者たちは完全に顔色を失った。リアスに紅茶をぶっ掛けた奴と一緒に嘲笑してたのを、私にしっかりと見られているからね。言い訳できないわよ。
そんな中で、かろうじて、余裕をかましているのが、主賓席に座るエンドキサン王国の第一王女。ダラキューロ様が付け入る隙きと称した人物よ。
男兄弟の中で唯一の女子。かなり、溺愛されて育ったらしいわ。我儘で自己中、自分が一番だって思ってる。っていうか、一番にならないと許さないって感じ。リアスに妙な敵対心を持ってたらしいわ。まぁ、パーティーに出ればどうしても比較されるでしょうね。可哀想に。おっと、口元が緩みそうになるわ。気を付けないと。私は淑女。
「どうして、ミネリア王女殿下がこちらに? お呼びしていないのに」
マナー違反を問いたいわけ、あんたが。
平静を保っているように見せたいようだけど、声が裏返ってるわよ。
「散歩していたら、道に迷っただけですわ。それで、先ほどの私の質問に答えて頂いてませんね」
にっこりと微笑みながら、私は返答を促す。さっさと言え。
「……作法を教えていただけですわ。見知った者として」
作法ね……ただの、苛めでしょ。リアスを道下にして楽しんでいただけでしょうが!! あぁ!!
「エンドキサン王国の第一王女が、ベルケイド王国の侍女に対してですか? 体罰を与えてまで、指導を。そうそう、これまでも、度々指導をしてくれていたようですが、全て把握しておりますわ。ベルケイド王国から正式に抗議文を送らせてもらいますね」
楽しみにしててね。徹底的にやるわよ。
「抗議文って……大袈裟な」
第一王女がやや顔色を悪くしながら呟く。
ここまできても、まだ大丈夫って思ってるみたい。ほんと、お馬鹿さん。
「大袈裟ですか? まだ甘いと思いますが。……私付きの侍女を他国の王女が私的に使い、怒鳴り付け、やけどを負わせ皆で嘲笑する。それ以前に、私の侍女に対する度重なる苛めの数々、それが許されるとおおもいで? もしそう考えているのなら、甘いですわね。甘過ぎますわ。私は許しません。当然、ベルケイド国王陛下にも報告いたします。我が民を虐げる者を放置することはできませんので」
「…………この女のせいで、こんな状態になったのに」
やっぱり出してきたか。でも、そんなの関係ない。
「それは違いますわ。選択を間違えたのは、王族たちですわ。リアスではありません。貴女方も、これ以上選択を間違えないようにしてくださいませ」
すでに、じゅうぶん間違ってるけどね。
あら? 誰かが王太子を呼びに行ったようね、騒がしくなって来たから、ここいらで退散しますか。映像と音声はバッチリ撮れてるからね。
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