双子の妹の学費のために変態親父に売られそうになったので、友人と一緒に逃げたら幸せが待ってました

井藤 美樹

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では、最後に一度だけチャンスをあげますね


「屑の後始末と自分の執務もあるから、残念だけど私は同行出来ない。一応約束だから、帰りは馬車でゆっくりと帰ってくればいいよ。後、アイナにはこれ渡しておくね」

 そう言いながら手渡してくれたのは、魔石のペンダントだった。アルお兄様が「着けてあげる」と、微笑みながら背中に回り込む。ユニはそれを、無表情で見ていた。

「……これ?」

 直ぐに気付いたよ。この魔石には、結構な量の魔力が練り込まれていると。そして、その魔力が誰のものか。

「気付いた。さすが、アイナだね。私の魔力を練り込んであるから。まぁ、御守りだと思ってくれたらいい。それに、道標みちしるべになるからね」

 アルお兄様はとても良い笑顔だね。反対に、ユニは苦虫を噛み潰したような表情をしている。

(何で、そんな表情を? これ、危ない物なの? でも、アルお兄様がそんな物くれないよね)

道標みちしるべ?」

 不思議に思いながらも尋ねる。

「帰国の間は出来る限り、ユーニスに仕事を回すつもりはないけど、どうしてもって時に、連絡を取れるようにしとこうと思って。それに、アイナの身に危険が迫った時に、直ぐに駆け付けられるからね。いいかい、魔石が赤く光ったら、私かユーニスの名前を呼ぶんだよ」

 どうやら、新しいお兄様は過保護らしい。

 今までのことがあって、素直になり切れない自分が少し嫌になる。それでも、心がじんわりと温かくなる。嬉しいのに、過保護に慣れなくて反応に困った。

 表情は微妙でも、私には言葉がある。伝える方法がある。ちゃんと聞いてくれる。私は心を込めてお礼を言った。

「……ありがとうございます。とてもとても嬉しいです」

 目頭が熱くなる。鼻の奥がツーンとした。

「喜んでもらえて、私も嬉しいよ。……大丈夫、アイナの気持ちは伝わっているから、心配そうな顔をしないでいい」

 そう言いながら、アルお兄様は頭を撫でてくれた。

(そっか……アルお兄様も気付いてくれるんだね)  

 嬉しさが顔に出ていたのかな、それとも空気で伝わったのかな、ユニは始終不機嫌そうだった。そんなユニを見て、アルお兄様はニヤリと笑う。また、取っ組み合いの喧嘩に発展しそうになったよ。

(ほんと、仲良しだよね)

 言ったら怒られるかもしれないけどね。でもさ、本音をぶつけられる相手って最高だよね。信頼関係が築けてるってことでしょ。

 そうそう、まだ正式に婚約してないから、不本意だけど、ユニは私の専属護衛として帰国に同行することになった。

 出発の朝。

 いつも通りに皆で朝ご飯を食べてから、アルお兄様に見送られ、高級宿の前に停めていた馬車に乗ろうとした。

 まさにその時に、それは起きた――

「おい!!」

「待て!!」

 聞気覚えがある声が、私を引き止めた。

 最近、その声に聞いたわね。それに、元屑親達を乗せた護送車がこの高級宿の前に停まった時、目が合った気がしたの。

(やっぱり、見られていたのね)

 薄汚い小汚い格好をした屑兄二人が、私に突進して来た。だが、グリリアス王国第一王女になった私に近寄ることなど不可能だった。騎士に両肩を掴まれ地面に押し倒されている。

「何度も何度も追い払ったのに、また湧いてきたね。害虫はほんとしぶといな。成人前だから罪には問わなかったけど、これだと、考え直さないといけないな」

 アルお兄様が心底冷たく、ゴミや汚物を見るような目で、屑兄たちを見下ろしている。

(その様子だと、何回も突撃したようね。まぁ、二人にしたら良い両親だったってことか)

「行こう」

 ユニが私の肩を抱き、馬車に乗るよう促す。それは、アルお兄様もだった。

「害虫の駆除はきちんとしておくから、安心して」

(ほんと良い笑顔だね、アルお兄様。絶対、その頭には色々駆除方法が浮かんでるわね)

「ありがとうございます、アルお兄様。わざわざ、お忙しいアルお兄様の手を紛らわせる必要はありません。私が駆除致します」

 私はそう告げると、アルお兄様の隣に立った。反対側に、ユニが立つ。それだけで、とても心強い。それに、周囲は完全に私の味方だ。

 私は屑兄たちを見下ろしながら、出来る限り、毅然とした態度を取るように気を引き締めた。参考すべき人が隣にいるから大丈夫、出来るわ。

(だって私は、グリリアス王国の第一王女なんだから)

「……要件を簡潔に述べなさい」

 ずっと私は、今の屑兄たちのように彼らを見上げていた。今は、私が見下ろしている。

「父上と母上、屋敷の者を助けてくれ!! セリナも保護しろ!!」

 屑兄(一)が叫ぶ。

「何故?」

 私は心底、理由が分からなくて尋ねた。

「家族だろ!! 俺たちは血がつながってる家族じゃないか!!」

「お前がグリリアス王家の血を引いてるなら、俺達もだろ。特にセリナは、お前の双子の妹だろ!!」

 屑兄たちが、まるで私を無慈悲だと責め立てる。ほんと、おかしな話よね。

「瞳の色が違うという理由で、虐げられ、蔑まれ、謂れなき暴力を振るわれ続け、時には毒を盛られ、攻撃魔法の動く的にされ続けた、被害者である私が、何故、加害者に恫喝され恩情を与えなければならないのです。それに、貴方がたが薄気味悪いと嫌った目が、グリリアス王家特有のものだとしても、助けろと?」

 淡々と事実だけを伝える。

(自分たちがしたこと忘れたのかな? それとも、それ程酷いことをした自覚がないのかな? たぶん、自覚がないのね。だから、自分たちは被害者だと思ってる。馬鹿な話だわ。何処をどう見ても加害者なのに)

「家族だろ!! それに、お前にも悪いだろ!! セリナの物を盗ったりするから!!」

 屑兄(二)が怒鳴る。

(また、それか……馬鹿の一つ覚えのようにね)

「私は一度も盗ってはいません。反対は何度もありますけどね。そもそも、私が支給されるべきお金は全額セリナに流れていますし、私の部屋さえない状況で、何処に私物を置けるのですか?」

 少し考えれば、いや、考えなくても、普通ならおかしいと気付くことさえ、屑兄たちには気付かない。あまりにも盲目過ぎて、精神魔法を掛けられてる可能性があると示唆された。なので、検査したらしいけど、そんな痕跡は何処にもなかった。

 つまり、屑全員正気だったということ。

「……それは…………」

 屑兄たちは返答が出来ずに黙り込む。

「ほんとに、情けない。言葉に詰まるくらいなら、黙っていればよかったのに…………いいでしょう。家族ではありませんが、一応血は繋がっていますし、最後に一度だけチャンスをあげましょう」

 私の台詞に、屑兄たちは希望を見い出せたと思ったのか、顔がパッと明るくなった。

 ユニは顔色を変えた。アルお兄様は、黙って私を見下ろしている。

 突然始まった私たちのやり取りをブーイングしながら見ていた国民たちは、口を閉じ、今はただただ成り行きをうかがっている。

 それらを一切無視し、私は静かに口を開く。

「一つ質問をします。とても簡単な質問です。家族なら、容易に答えられますよ。それに正解したら、グリリアス王国王太子殿下に、減刑を打診致しましょう」

 そう告げると、私は隣に立つアルお兄様を見上げた。彼は小さく頷く。ユニは物凄く不満気だ。それでも、黙って私を見守ってくれる。

「「…………分かった」」

 屑兄たちは若干顔を青くしながら頷く。

(ほんとに、愚かね。今からする質問に詰まったり、答えられなかったら、完全に詰むのに)

 そんな事を思いながら、私は屑兄たちに質問する。

「では、貴方たちに問います――」

 

 
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